Fragment of the planet   作:えっこ

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かすったゆびさき

 

 

 

昼前だというのに木が覆い被さるように茂り、辺りは真っ暗だった。森の中は里よりも空気が澄んでいた。新緑の匂いが心地よい。

 

 

私達は一族の集落がある森奥に向かっていた。

傾斜の坂道を黙々と上り、私の大きな息づかいが森の中こだまする。

カカシさんは流石身体を鍛えているだけあって息はあがっていない。

退院後だとは思えない体力だ。多分入院中にこっそり毎日欠かさない筋トレをしていたに違いない

 

 

どれくらい歩いただろうか。後ろをそっと振り返ると里が小さく見えた。

自分が里を遠くから見下ろす事は今までに無い経験だった。夏祭りの日に少し里を出たけど自分の足で離れた事は無い。

出発時に大きく「あ」「ん」と書かれた扉を初めてくぐったのは不思議な気持ちだった。

 

 

「疲れた?」

 

カカシさんに声をかけられ、我に返りゆっくりと小さく首を振った。

猫は随分前に行ってしまったようで慌てて止めていた足を動かす。少し息が上がっていたが休憩するほどのものではない。

 

少し疲れ始めていた自分に鞭を打ってからだを動かす。あまり普段外に出なかった事を後悔した。

ナルト君に苦無の使い方を教わるならば体力と筋力をつけておきたいと思っていたから今回の山登りはいい訓練になりそうだった。

忍術を教わるわけではないけど何事も備えあれば憂い無し。自分にできることは先に準備しておくべきだと思った

しかし、急傾斜で登りづらいといったらなんの。息も大きく上がってきてた。

わたしの前を歩く猫は足軽に進む様子を見て感心した。

 

「しらたまは毎日ここを通って里に来ているの?」

「そうでやんす、慣れたものっす」

 

こんな小さな身体で余裕に歩く姿はなんとしっかりしたものか。

私の筋力と体力は猫以下だと断言できる。自分でそう考えて落ちこんでしまった

 

「凄いね、しらたま」

私が褒めると猫は得意げな顔で「おいらも猫又一族の一員ですから」上機嫌に答えた。

 

猫又一族の一員だから凄いなのかはよくわからなかったが機嫌がよくなった様子を見て小さく笑った。

 

思えば私は猫又一族の他の猫を知らない。

これから会う長様の事も知らない。

 

以前、例の男が拘束された直後の時、しらたまに男の事情を聞いた際に「どこまで話していいかわからないから長様に聞いてくる」と言った。

結局長様は里になかなか降りない方らしくこうして私達が赴いている。

なかなか里に降りてこない。

人里から離れて暮らしている。

それしか知らなかった。

 

「長様はどんな方?」

「会えばわかるっすよ」

しらたまは答えをくれなかった。

いじわるだと思って猫の背中をそっと睨み、会った事のない長様の事をあれやこれやと想像しながら歩いていた。

 

威厳ありながら里の者を想う優しい火影様をぼんやり思い出してみる。そういう方なのだろうか。

そもそも長様は人間なんだろうか、猫なんだろうか。

猫又一族に人間はいるのだろうか。

答えが見つかるどころか疑問がどんどん増えてきてしまい身体だけでなく頭まで疲れてきてしまった。

 

 

休憩したいと言うか迷っていると、猫は突然小さなお社の前で足を止めて辺りを見渡した。

私達以外に誰かいないか確認しているようだった。この時間に山の奥にいるのはわたしたちだけだった

 

猫はゆっくりとお社の傍にある3番目の木の間にしっぽを向けた。何かをしようとしているようでその様子をじっと見守る。

2つ連なるしっぽを交互に動かしノックするように宙を叩いた。

しっぽの先がぼんやり光りはじめたのを見て驚きで声を失う。

不思議な光景だった。

2つのしっぽがある事でさえ驚きなのに、それが光るだなんて。

 

光が消えたしっぽを揺らしながら、しらたま木の間に身を滑らせた。どこかに繋がるトンネルをくぐるように身を屈ませて、猫は姿が見えなくなってしまった。

 

「え、!?」

「消えた…?」

 

突然消えてしまった猫に2人で目を丸くする。

各々木を触って確認したり、裏側に回り込んでみたりもしたが猫はいなくなっていた

突然いなくなった木の間の場所をじっと見つめた。

 

「どうやら…どこかに繋がっているらしいね」

 

カカシさんの言葉に、信じられなかったが頷くしかなかった。

ひっそりとたつお社の近くのたった一本の木の間がどこかに通じているだなんて誰が思うだろうか。

一族の謎のままである理由を察した

 

消えてしまった猫を追いかけなければならない。

半信半疑で木の間をじっと見つめて猫の真似をして木の間を普通に通り抜けてようとした。

しかしどこかに通じるわけではなく、お社の近くの木の間をただ通り過ぎただけだった。すごく滑稽な自分の姿を想像して落胆した

 

何処行っちゃったんだろう。

 

困り果ててカカシさんを見ると、屈んで猫が通った道を見ていた。

静かに黙考する姿をじっと見つめる。

悩む横顔は綺麗で思わず見とれてしまった。

 

「きっと猫の高さだけ通じる道だ」

 

深く黙考した後に彼は私を見上げて言った。

場違いな事を考えたのを見透かされるような気がしてどぎまぎした。

「猫の、高さ?」

彼の言った言葉に目をぱちくりとさせた。

 

しらたまが通った小さな道にカカシさんが手を伸ばすと、木の間の先に彼の手は見えない。その光景はしらたまが突然姿を消した時と同じもので見えないトンネルがあるみたいな感じだった

 

なるほど、しらたまの高さのトンネルがどこかに通じているんだ。

だから人間の私が普通に通ってもどこにも通じなかったのか

 

地に膝と手をついて身を小さくして進んだ。

端からトンネルをくぐる猫を見ている時は消えてしまったとはっきり感じたのだが、自分がトンネルをくぐってみても特に変わりは無く森のなかを四肢で歩いていた。

 

森のなかを赤子のように四つん這いになりハイハイをして進んでいるだけのように思えてきた。悲惨な姿で森のなかを歩いているだけなのではないかとどんどん不安になっていく。

後ろをこっそり振り返ると目が合ったカカシさんはいつものように目尻を下げて笑いかけてきた。その笑顔に後押しされるように私は手と足を動かした

 

暫くして連なった木々達が一空間を避けるように生えている広間に出た。

広間の前に黒猫がお利口におすわりをしてこちらを見ている。その空間は目映く光が落ちていた

暗い森の中でしらたまを見つけられなかったらと不安におもっていたので明るくなったことにより黒猫を確認できてほっとする。あの子は真っ暗の場所に居ると全く見えない

猫は私を見上げてにんまり笑った

 

「おいでませ、いちかの姉御」

猫が深々とお辞儀して目を見開く。近づこうとした際に、大きな木が目に入り足を止めた。ひときわ大きな木を見上げて感嘆の息を漏らす。

明るい場所だとは思っていたが、木々たちの間から漏れる光が秋の日差しを落とし幻想的だった。光に当たる葉が綺麗に光っている。煌びやかなその光景に目を奪われた

 

「ここが、猫又一族の集落…」

私の後ろにいたカカシさんが追いつき驚いたように声を漏らした。

「思っていたより幻想的で凄く綺麗」

彼の言葉につられるように私も感嘆の息を漏らした。

 

初めて猫と会った頃に集落に来ないかと誘われた時、もっと裏路地に住む野良猫をイメージしていたんだけど全く違う環境だった。

もっと明るくて、幻想的で、綺麗な場所だった

 

「自慢の集落っすよ」

黒猫は光の中得意げに笑った

 

 

見えないドアのようなものを猫又一族がもつ2つのしっぽで叩いて入るこの集落は、恐らく猫又一族以外は入れないのだろう。

 

辺りを見渡すと私達を遠巻きに見つめる猫たちの姿があった。2つのしっぽを持つ猫たちが猫又一族の一員であることは明白だった。

どこをみても沢山の猫たちがひそひそと囁き合って私とカカシさんを凝視している。あちらこちらと私の名が聞こえてきた

 

 

なんとも居心地悪かった。

先日は病室で3人の目に覗きこまれただったが、もっともっと多い。

綺羅びやかに光の具合で宝石のように光る不思議な猫の瞳で見つめられるのも、初めての経験だ

居心地悪さに、身じろいだ。

 

「おいらといるから一族でいちかは有名人でやんす」

しらたまは私の足に擦り寄ってきた。暖かな体温に一瞬安堵した。

 

私は遠巻きに誰かにひそひそと影で何かを言われた経験もない。

 

そもそも、視られる機会が少ないからだ。

 

猫たちは私がはっきり見えているらしい。

動物は幽霊がはっきり視えるのね

居心地悪さに眉を顰めると頭上からカカシさんの視線に気づき表情を取り繕った。不安な顔ばかりしていたら心配させてしまう

 

 

 

「いちか」

 

不意に凛とした綺麗な声が私の名を呼んで驚いた。ひそひそと私の名を呼ぶ声ではなくはっきり私を呼んだ。

その声の主を探すと一歩一歩としなやかな足取りでこちらに向かっていくる、綺麗な毛並みを持つ白い猫だった。

森の中に住んでいるのに土気も無くまるで家で飼っている飼猫のように綺麗だ。

白い毛が反射して銀色にみえてとても綺麗

 

このこもしらたまのように普通に私に話しかけてきた。猫又一族は、しゃべる種族なのかな?周りにいる猫たちも私の名を囁き合っているのを見る限り同様に喋れるのだろう。

白猫の瞳は白猫特有のオッドアイで本当に綺麗だった。その瞳が私を映しながら、揺れる

 

「無事だったのね、元気そうで何よりよ」

 

はじめましてと言える雰囲気ではなく「…こんにちは」小さく会釈した。

「しらたまの言うとおり、忘れてるのね」

猫は少しさびしそうに憂いた表情をした後にすぐに表情を変えた。その表情に胸がちくりと傷んだ。

 

「私は、あなたの友人よ」

 

猫の口から飛び出してきた友人という言葉に目を丸くする。

…私の友人は猫と幽霊ばかりだな。

 

 

人間相手には「カカシさんの従姉妹」と言えばたいてい話しはわかってはくれるが、猫と幽霊相手にはそうはいかない。

私の事を知っている者達が多いので何と言えばいいかいまだわからなかった。

とても厄介なのは初めましてと素直に言えば彼女たちは傷ついてしまう事だ。

 

綺麗なオッドアイを覗き込みながら自分の中の記憶を探るが何も思い出さなかった。傷つけずに再会は果たされない事に歯がゆさを感じる

 

「…お名前は?」

不本意だが、事情を知る唯一の存在だと甘えて率直に聞く。

人間には迂闊に甘える事はできない。

 

「あんこよ」

「あ、あんこ?」

 

猫は白い毛並みをものともしない名前を堂々と口にした。

白い毛並みが光を反射して輝いている。

しらたまに、あんこ。

黒猫と白猫を交互に見て大きくため息を吐いた。

 

「本当にあなた達は姿に似合わない名前ね。」 私は猫相手だと素直に想っていることを口にできるらしい。初対面で彼女にはっきりと告げた。

白猫は瞳を歪め私をジト目で睨んだ。

 

「あなたがつけたのよ」

不機嫌そうな声に目をぱちくりとさせる。

 

「あんこちゃんの名も私がつけたの?」

自分の心理が理解できないとはっきり思った。「そうよ。それからあんこと呼んで」彼女はまだ不機嫌な声を出していた。

気品あふれる物言いに驚きながらも、きっと気に入っている名なのだと察した。

「文句なら自分に言いなさい」彼女の凛とした声に、頷いた。既に言ったわ。

 

突然の白猫の登場に驚きながらも、すぐに打ち解けられた。白猫の言うとおり、きっと私が名をつけた存在だと思った。

しらたまと同じように心を許す友人の一人だろう。懐かしい気持ちを胸に抱きながら確信していた。

 

 

「長はあちらにいるわ。」

 

猫は小さな前足で、木で連なったトンネルを指差した。

…またこれは素敵な、小さな道ですこと。

猫しか通らないという前提で作られた道にため息を吐いた。辺りを見渡すかぎり猫以外は見当たらなく、人間はいないらしい。

 

「狭い道だからあなたは通れないかもね。」

あんこと名乗った白猫はカカシさんを見た。さっきの道以上に狭い道らしいので彼は大人しくこの場で待つことになった。

彼がこの先ついてこれないという不安と、ここまで傍にいてくれた事を感謝を心のうちに秘めた。

 

「行っておいで」

無理についてこようともせずに、私の背中をやわく押す。

私の記憶を探すといった時から彼は私の背中を押してくれる。

たまに道を示して迷わせないでくれる。

 

いま、逃げ出したくなる私の背中を押して、背中の道を消した。

彼の言葉に慎重に頷いた。

 

 

 

「ねえ、あなた」

白猫のあんこは一人の男性、カカシを見上げた。黒猫に励まされている少女を見つめるのをやめて彼は呼ばれた主に振り返る。目線がとても低いので、腰を落として少しでも近くに寄ろうと努める。

「名前を聞いていなかったわ」白猫の気品溢れる声を耳に届け頷く。「はたけカカシだ」自分の名を隠す事なく言った。彼の瞳は鋭く光っていた。

彼の名を聞いた白猫は左右違う色の瞳を見開き驚いていた。その反応をじっとカカシは見つめていた。

「あなたの異名はこちらまで届いているわよ」

「ハハッ、これはお恥ずかしい」

2人は言葉を無くし、お互いの瞳をのぞきこんでいた。暫くして白猫は大きく溜め息を吐いた

 

「これは、偶然だったのかしらね」

 

白猫の言葉を彼は耳に届け、目を見開き息をのむ。意を決してトンネルに向かう彼女に視線を戻し、拳を握った

 

 

 

 

 

広場を離れると、また暗く茂った森の中を歩いていた。先程よりももっと狭い道を窮屈に感じながら進む。私の身体の間をすいすいと2匹の猫が進んでいくのをみて苦く笑った。私も猫だったらきっとこの道を通るのは容易いだろう。

 

私がこんなに狭く感じるのならば男女の体格の差を考えて彼は絶対に通れないだろう

少しでも一緒にいてくれたら心強かったのに、とこっそり思うがわがままは言えない。弱気になった心を叱咤して前を見据えた

 

 

膝と手のひらが土だらけになって、少し赤くなってきた頃に先程よりは小さいが大きな広場に出た。先ほどの木よりももっと大きい木がこの空間を隠すように伸びていて、先ほどの広間より薄暗い。

日の光が微かに入ってくるだけでよく見えない。昼間だとは思えない明るさだった。

 

ぼんやり、その広場に大きな置物が置いてあった。

毛むくじゃらで高さは2メートルはあるだろうか。何に使うんだろうかとぼんやりそれを見つめる。

 

「長、いちかが来ましたよ」

白猫がその毛むくじゃらに声をかけて私は目を見張った。

辺りを見渡しても他に猫はいなくて、あるものは目の前の大きな毛むくじゃらが「遅かったな」のっそり動いた。

少し薄い黄みがかった茶色の毛の猫がそこにいた。白とまだら模様がある。光が反射すると毛先が白く色が変わって、とても綺麗だった。

 

こ、この大きすぎるぬいぐるみみたいなのが長様?

驚きすぎて声を失っていた。

 

初めて長様を拝見して、なかなか里から下りないとしらたまが言った理由がわかった。

なんとおおきい…

 

大きな瞳が呆けた私を捕らえた。

その瞳はいつもそばに居てくれるあの人が隠しているもう一つの瞳とおなじもの。私を見てその瞳が垂れ下がった。その瞳は思い浮かべていた人ととてもよく重なる。

瞳に目を奪われ呆けていたことに気がついて慌てて頭を下げた

 

「お初目におかかりします、長様」

驚きすぎて挨拶をし忘れたなんてうっかりもいいところ。慌てて挨拶をしたが、何も言わない長様をそっと盗み見ると先ほどの優しい表情はなく不機嫌に表情を変えられていた。

 

「随分時間がかかったな」

「すみません、こちらの諸事情で予定が遅くなってしまい」

 

カカシさんが入院したのは誤算だった。しかしそれをわざわざ長様に告げる事でもない。これはこちらの都合であって言ったとしても意味を持たない。ならば黙っていたほうが賢明だ

深々と頭を下げ謝ると更に長様は不機嫌になっていく。

長様の表情を見ながら、猫と一緒に私顔を青ざめた。

 

 

「それで、ここに来た理由は何だったか」 本当に忘れているらしく大きな瞳が記憶を探るように泳いだ。

「男の事についてでやんすよ、長様」

しらたまが小さな手を上げて伝える。しらたまの声を耳に届け「ああ、そうだそうだ」思い出した様子だった。…マイペースなのかしら

 

10年前にしらたまを襲った後に猫又一族の誰かに襲われたあの男。先日捕虜になった話は聞いている様子だった。

 

「男を襲った一族の猫さんに少しだけでもお話を聞きたいと思って伺いました」

尚不機嫌そうに私を見る長様にたじたじになりながらしっかりとここに来た理由を告げた。

長様は大きな瞳で私をじっと見据える。人の瞳より何倍も大きくて、見ているだけで吸い込まれてしまいそうだった。綺麗な朱色は私を飲み込んでしまいそうでその真っ直ぐな瞳を、思わず視線を逸らしてしまう

 

「何を聞く」

「どうして襲ったのかと」

「何故、聞く」

 

長様は威厳ある声で鋭く聞いた。長様の問いかけを聞き友人のしらたまを視界に入れて押し黙った。

しらたまと初めて会った時に100年前に猫又一族が里を襲ったとカカシさんは言った。

初めはこんなかわいい普通の猫がそんな恐ろしい事をするのかと驚いたが、仲良くなった今でもその昔話は信じられない。

私の友人のしらたまの一族がそんなことをするとは思えない。

 

私達がこの集落に足を踏み入れた時も猫は私達を襲うこと無く見る限りでは怯えて囁き合っていた。獰猛な猫だとは思えなかった

 

「昔話と同じように凶暴な一族だとは思えないから」

だから、男を襲った理由が知りたい

長様の大きな瞳に負けずに、まっすぐと見つめてはっきりと答えた。探るように猫は私の小さな瞳を見つめた。「違うな」長様の冷たい声が木に反響する

 

 

「お前は自分の事を知りに此処まで来たんだろ」

 

長様は嘲笑うかのように言葉を吐いた。

私がこの場に自分が何者かを探しに来ていたのは知っていたようだ。挑発に似た言葉に思わずむっとしてしまいにらみあげて声を張り上げた

 

「そうです、凶暴ではない猫又一族と私の関係を知りに来ました」

 

 

たしかに、ここへ私を探しに来た。

しかし、猫又一族の事も知りに来た。ただ単純に私という答えを探しに来たわけではない。

長様が「お前自身だけ知りたいだけだろう」と言っている心が見えてカチンときてしまいあえて全て知りたいと伝えるべく先ほどの問の答えの一つである「凶暴ではない、」を強調した。

私は、本当に猫又一族を知りたいと思っているのに。

 

睨む私を見て長様は一瞬表情を崩した。その表情に私は目を見開いた。

 

「知らん」

長様は私から視線を逸らしてしまった。

「へ、」

はっきりと知らないといった長様に私は素っ頓狂な声が出てしまった。

 

「その猫の事もお前の事も儂はよく知らん。そこの黒猫と仲良くやっているようだが一族には関係の無い話しだ。」

 

思いもよらぬ言葉に声を失った。

私の事はともかく、その男を襲った猫の事を知らない?

一族には関係の無い話?

答えを持っているとばかり思っていた主に見放され私は答えをすっかり無くしてしまった。驚いて何も言えないでいると、大きな瞳と目が合って我にかえる。

 

…あ。

その時、長様の瞳を見て確信して現実に引き戻り頭をフル回転させた。

知らないと言うならば質問の趣旨を変えよう

 

「では、猫又一族がここにひっそり住む理由をお聞かせください」

「ならん。お前に話す理由が無い。」

 

 

「人間のお前らに話す理由などない」

 

はっきり長様はそう言って背中を向けてしまった。

あの大きな瞳は見えなくなってしまいこれ以上は無駄だと理解して「、ありがとうございました」一度お辞儀をした。

心配そうに見上げる2匹の猫に苦く笑って、私達は来た道を戻ることになった。

 

 

 

カカシさんが待っている広場まで戻った。彼は私の顔を見るなり眉を下げて笑った。きっと察したのだろう

「何も、知らないそうです」

「そうか、仕方ないね」

私の言った言葉に驚きもせずに、落胆した私の肩を叩いた。

 

「姉さん、すいやせんでした」

しらたまは私の足元で小さくなって謝った。膝を折って猫と視線を揃える。

黒猫も長様が何も知らないというとは思っても見なかったのだろう。だからこうして謝ってくれている。

 

「わざわざ長様にあわせてくれてありがとう」

礼を述べると猫は瞳を曇らせて申し訳無さそうにしていた。友達にこんな顔をさせてしまった事に心苦しくなる。

 

「せめて、送っていくでやんす!」

確かにしらたまがここまで機会を設けてくれたのは確かだけど責任はないのに。意気込んだその顔に苦く笑いながら、しらたまの気が済むようにしてあげようと思い頷いた。

 

黒猫が出口に向かう姿を見て、振り返った。沢山の猫が驚いてしっぽを逆立てたのを見て、私が視えている事を再確認する。お騒がせしたことを詫びて一礼する。

私の下げた視界に、白猫が入ってきた。

 

「私も久しぶりに里に行ってみようかしら」

艶のある声で上機嫌に答えた。あんこの言葉に目を丸くする。

「あんこも里に降りたことがあるの?」

里で他の猫に出会った事がなかったし里に降りる猫はしらたまだけだと思っていた。あんこは上機嫌にないてしらたまの後ろを優雅な足取りでついていった。

 

「さ、俺達も帰ろうか」

私はカカシさんを見上げて黙りこむ。結局ここまでついてきてもらったのに話しを聞き出せ無かったことを申し訳なく思う。

私が謝罪する前に彼は私の頭をぽんぽんと優しく叩いた。そのまま彼はしらたまの後を追って背中を見せてしまい謝るタイミングを逃してしまい優しく叩かれた頭を自分の手で触れる。彼の優しさにまた触れて、眉を下げた

 

 

 

 

 

 

猫しか通れない不思議なトンネルをくぐり、森を下っているうちに少しずつ夕暮れが木々を紅く照らしていた。もう夕刻なのかと空を仰ぎ見る

夕方に帰れると思っていたので、正直驚いていた。慣れない道に時間を要したのは否めない。彼は明日から任務なのだろうか、身体は大丈夫なのかこっそり顔を盗み見た。半分隠された顔は何を考えているかわからなかった

 

急斜面を登るのは大変だけど、降りるのも大変なのを深く理解した

滑ってしまったらどうなってしまうのか。崖に近い高さに足が少しすくんだ。来るときは前ばかり見ていたので、こんなに高いなんて知らなかった。吸い込まれてしまいそうな高さに息をのみ捕まっていた木にしがみつく

 

大きな手のひらが目の前に差し出されて、声を失った。催促するように僅かに前に差し出されたカカシさんの手のひらを申し訳なく手に取り、その手に引かれながら森を下っていった

少しおおきな体温に視線を逸らした

 

 

「あれ?里が明るいでやんすね」

紫と朱色が混ざった空の下、ぼんやりと明るい里が見えてきて私達は足を止めた。いつもより明るいその光景は見覚えがあるが、首をひねった。その記憶はたしか入院する前の夏祭りの灯り。

たくさんの提灯を見て、カカシさんはああ、と呟いた

 

「秋祭りだね」

 

秋祭りなんてものがあるのか。お、まつり。その響きに喉をごくりと鳴らした。

夏祭りはテンゾウさんとわずかだけど楽しんだ。その後とんでもない一日だったが彼と楽しんだ夏祭りを思い出して少し指先を冷たくさせながら頬を染めた。

 

「ねえ、いちか」

彼の低くて優しい声に顔を上げた。恥ずかしい事を考えていたので肩思いっきり跳ねさせて勢いよく頭を上げた。片目だけしか殆ど見えていないというのにそれだけで伝わる優しさって凄い。優しく下げた瞳を見つめ返す

 

「退院お祝い兼ねて俺に付き合ってよ」

 

彼の甘い誘惑に私は目を輝かせて「や、やきそばにわたあめに」小さくつぶやくと私の足元にいた黒猫は「お好み焼きっす!」小さな手を上げて主張してくる。沢山歩いておひるもたべていないので途端にお腹が空いて来た。夏祭りの屋台を思い出して、微笑む。すごく、たのしみだ。足下にいた黒猫もご機嫌と足取りが軽く早足になっている。白猫は黒猫の様子を見て大きく溜め息を吐いた

「うん、決定だね」

私達の様子を優しい瞳がみまもった

 

 

里の扉をくぐると、少し涼しい気候が私達の間をすり抜けた。

昼前に出発した時に頭上に並ぶ提灯があったか思い出してみたが、それどころじゃなかったので気づかなかったのかも。

まだ真っ暗にならない曖昧な空にぼんやり灯る光がとても綺麗だった。

 

この前の夏祭りの時よりも人は少なかった。お祭りが始まるにはまだ早い時間帯らしい。屋台も開いているところもあれば開いていないところもある。賑わい始まる前のお祭りを初めて見て興奮を隠せない。人生二度目となる夏祭りに心はしゃいでいると猫たちが我先にと走って行ってしまった。お金を持っているのは私達だ。屋台をあらかた見れば戻ってくるだろう

 

小さな後ろ姿を目で追っていると、手のひらを差し出された。

手のひらを見つめて目をぱちくりとさせる。先ほどの危ない道で差し出された手のひらと変わらない。ただ、どういう心理で差し出してきたかわからない。

黙って見つめていると、夏祭りの日と重なっていく。テンゾウさんに差し出されたてのひらを。

 

「…私って、頼りないのですか?」

すぐ誰かに手を差し出される程迷子になるものだとおもわれているのだろうか。先ほども助かったが、頼りないからこそ差し出されたのだと今理解して落ち込んでいく。

 

彼の手をじっと見つめたまま差し出された意図を考えているとおかしそうに彼は笑った。

「違う違う」上機嫌に笑う彼を見つめる。すこし楽しそうな姿に安心する。

 

 

「俺が、繋ぎたいからだよ」

彼の言葉に声を詰まらせて手のひらを見つめて黙考した。下心があるならば、答えられない気持ちに甘えるわけにはいかないから

 

 

黙考し続けじっと黙って見つめていると突然背中を誰かに押されてよろめいた。

結構おもいっきりぶつかってきた所為で手のひらを押し返すどころか彼の胸の中に飛び込んでしまった。

 

「(う、わ…)」

久しぶりに感じた温かい体温に驚いて身を固くした。

告白された日ぶりの体温に心臓はどんどん早くなっていく。

(こ、告白って!)思い出さなくて良い情報もどんどん思い出されて行き体温がどんどん上昇していく

居たたまれない心音に慌てている中、衣服から漂う彼の部屋の匂いに安堵していく。こんな状況で安心している自分が信じられない

固くしっかりとした胸板に思わず手をついてしまった事を深く後悔しながら、謝りながら彼を見上げた。

 

カカシさんは私を跳ね除けた男の人を無表情でじっと見つめていた。

その冷酷な冷たい瞳に驚いて声を失った。私といるときでは絶対に見ない瞳だ。

 

おこ、っているの?

戸惑いながら見つめていると私の視線に気がついた彼は視線を交えてにっこりと優しく笑った。この優しい瞳で見つめて貰える私にとって先ほどの冷たさに驚きを隠せなかった。

 

きっと私が跳ね飛ばされて怒ってくれてる。その事実に嬉しくなってはにかんで笑うと今度は彼が面食らう番だった。

本当は彼の手を跳ね除けなければならないものなのかもしれない。

でも、差し出された手に敬愛を込めて、自分の手を伸ばした

 

「行きましょう、カカシさん」

手に優しく触れると彼は視線を逸らして口布を少し引き上げた。

私の為に誰かを怒ってくれる事が嬉しい。

ぶつかったあの人が私を視えていたかなんて定かではない。それなのに怒ってくれる

 

温かい温度に安堵してゆっくり息を吐いた。

この体温に私はいつも励まされたり助けてもらったりしている。

感謝の意を込めて握りしめた

 

触れて安堵する大きなて。

不思議と恥ずかしさはなくて、やっぱりお父さんのような手みたいだなと思ってしまったのは内緒だ。

 

 

 

黒猫があれやこれやと食べたい物を口々にしながら私達を誘導した。

白猫も黒猫の話す合間から自分の食べたいものを並べていく。息の合ったテンポがおかしくて笑ってしまった

猫は人間の食べ物あまり食べちゃいけないと諭すと猫2匹は胸を張って猫又一族だから大丈夫だと断言した。

何が大丈夫なのか私はさっぱりわからなかった…

 

お祭りがやっている道からちょっと離れた階段に座り、買ってきたものを並べた。

やきそばを3つ買って、リンゴ飴を1つ。綿菓子や、片手で食べられるお好み焼きも買ってもらった。

 

お財布からお金を出してもらう度に申し訳なさそうにすると、にっこり笑った。きにするなって言いたいんだろう

 

払って貰ってばかりなような気がしてこれは本当にお祝いになっているのか不安になる。

お金を払い終えて彼の空いた手のひらをそっと握り返すと彼は優しい笑みで「十分だよ」と笑った。ご機嫌な理由がわからず首を傾げた。が。

 

恥ずかしげもなく自然と手をつないだ事に今更気がついて恥ずかしさで手を離そうとした。わたしの心理を意図も簡単に読み取った彼はわたしの手のひらを強く握り返した。

 

秋なのに、とても熱い。

手を繋いだことを後悔し始めていた

 

 

 

 

聞き覚えのある声がカカシさんの名を呼んだ事に気がついて頭を上げると、見知った顔ぶれがいた。

サクラちゃんと、ナルト君とサイ君はカカシさんを見て目を丸くした。

彼が油断した隙に手のひらから逃げた。みんなに何を言われるかだいたい予想はつくからだ。こっそり見上げると楽しそうに目を細くしてる姿を見て頬を染めて逸らした。

うぅ、余裕なんですね!

 

 

テンゾウさん、と思わずいつも呼んでいる名を呼びそうになるのを堪えて彼らが呼んでいる名で呼ぶ

「ヤマトさん」私が久しぶりにその名を呼ぶと少し照れくさそうに視線を逸らした。

 

私の存在に気がついた皆が視線を揃えて、覗き込んできた。

先ほどまでいた場所とは違う世界のように感じて思わず笑ってしまった。なんて、安心する温度なんだろうか

 

「先生、いつ退院したの?」

「今朝だよ」

「もう病院住んだら?」

「ナルトひどい」

 

いつかの病室で見たようなやりとりを3人が話している姿に私とサイ君は目を合わせて笑った。

 

「いちかさんが来るなら着付けしてあげたのに」

そう言ったサクラちゃんは髪色に似合う紅い色の浴衣を着ていた。お祭りがあったという事さえしらなかったし、知っていても今日は用事があったのでお願いはできなかっただろう。

 

「また今度お願いしたいな」

「もうお祭りは無いですよ」

「え!沢山食べておかなきゃ」

屋台に視線を走らせて、買い残した物はないか確認するとサクラちゃんは大きく溜め息を吐いた。うう、お前お洒落よりメシかよって思われてるに違いない。

 

「浴衣は来てこなかったんですか?」いつの間にか私を覗き込んで来ヤマトさんに驚く。サクラちゃんは何故かよそよそしく、気を遣って傍を離れて行く。わかりやすい態度に苦く笑った

 

「もう、秋になるから着れないですね」彼の世間話に当たり障りの無い答えを彼に投げかけた。

その言葉を聞いて彼は残念そうに溜め息を吐く。

 

「じゃあ、来年見せて下さいね」

 

真剣に私を見つめている彼に驚いて、何も言えず黙ってしまった。

 

はい、と言えなかったのは自分が来年までここにいるか定かでなかった。

楽しそうに話こんでいる皆の姿を見て言葉を失う。

自分のしめていた蓋が開きそうになり、思わず抱えていた綿飴をぎゅっと抱きしめる。

 

 

目線を合わせて、怒ったり楽しそうにしたり当たり前に話している彼ら。そこに混ぜてもらえて同じ事を共有していたワタシが、いなくなったら。

 

さび、しい。

 

 

蓋を閉めれなかった私は、心の中で気づいた言葉を浮かべてしまった。知らないうちに自分の瞳から涙がこぼれていた。しまったと思った時には時は既に遅し。隣にいたヤマトさんはこれでもかと目を見開いて私のながれる涙を見つめていた。

 

「…すみません」

すぐにぬぐって涙を隠した。言い訳を考える前に、突然泣いた事を詫びた。

テンゾウさんは何も言わず私の涙を視線で追っていく。

すっかり私の心は混乱していた。自分の境遇に寂しいと嘆いてしまい、こんなに楽しい時間に何をしているのだろうかと頭を抱えたくなる

 

 

気まずそうに視線を逸らしている彼を見て、責任感が強い彼が自分を責めない事を祈った。

何か言いたいのに私の混乱した気持ちが溢れてしまいそうで何も言えず、蓋をするように口を閉ざした。

 

明日を約束できない彼なら、きっと私の気持ちに気がつくのはいとも簡単だろう。

自分が明日いなくなってしまう不安、それはこの人だって持っている。

 

「来年が無理なら」

重たい沈黙を破ったのは、不安げに眉を顰めたヤマトさんだった

 

「また近いうちに、どこかにいきましょう」

 

責任感が強くて、同じ気持ちを持つ彼にこう言わせてしまっているのに罪悪感を得た。私が泣いて気を遣ってくれている。その為に近い約束をまた、私にしようとしてくれている。

覗いてしまった蓋の中身の感情を知ってしまい、混乱していた。難しい約束を私とするくらいなら遠慮して首を振るであろう事に、うなずいた。

 

「行きましょうね」

私を元気出そうとして誘ってくれたと思うから、今はその優しさを快く受けたいと思った。前に感じた彼の違和感は自分の勘違いだったと強く願い、そう思う事にした。

 

 

「ねーちゃん」

ナルト君が破顔しながら私の元に寄ってきた姿に目を丸くして、自分の口元が緩んでいくのがわかった。少し笑んだ事によって蓋がきつくしめられたのを感じた。すこし、落ち着いたみたい

涙のあとが残っていないか不安に思ったが何も気づいていない様子から、心配はなさそうだった

 

「来週は、ラーメン食べたい」

突然の食べたいという言葉に目を見開く。お祭りに来ているのに彼の頭の中はラーメンなのか。

そういえば、ナルト君と約束した日はちょうど一週間後だ。朝あんなに寂しそうに私と別れたくせに今はにこにこと笑ってる。コロコロ変わる表情が可愛らしくて小さく笑う。

 

「まだまだ先の話だよ」

諭しても、効果はない様で鼻歌を歌っている。買ってもらった綿菓子をつまみぐいされて、どんどん消えていく綿菓子を見つめながら、笑った。笑っている自分に少し安心した。

 

 

猫たちにやきそばを半分ずつに分けてあげて地面に置いてやると、二匹は仲良く肩を並べて食べ始めた。可愛らしいしっぽが4つうねうねと動いているのを見るとおかしくてその様子を暫く眺めていた。

 

4つのしっぽを持つ猫又一族の集落から結局答えは導き出せなかった。

「カカシさん」

私が神妙な声で呼ぶと彼は食べようとするのをやめて私に向き直った。

彼の瞳を見つめて、私はゆっくり口を開いた

 

 

「どうして、猫又一族は私に嘘をついたのでしょうか」

 

私の言葉に足元にいた猫たちは食べるのをやめて振り返った。猫たちの表情は驚いていた様子で、苦く笑った。さすがに、私でも長様が嘘をついていたのはわかった。

 

 

元々集落に来る事情を長様は知っていた筈だ。

しらたまに事情を聞こうとしたら、長様に聞いてくると言って答えなかった。だから長様ならば話せる事柄であり、それを話してもらう為に今日は赴いた。

 

「知らない、というのはおかしいんです」

「どうしてそう思うんでやんすか?」

 

黒猫は全て食事を平らげて私の足元にやってきた。口元についたソースに苦笑いして持ってきたティッシュで拭ってやると大人しくされるがままにされていた。

 

私達は人間だ。人里から離れるように暮らす猫が知らないと言う為にわざわざ人間を簡単に招き入れる筈がない。確認もしたが、住む理由さえ話さないという癖に簡単に招き入れた

 

「どう考えても猫又一族にとって不利益な筈なのに私達を招き知らないと言った。」

「君と関係のある話だから集落に招いた。そう考えるのが妥当だよね」

 

彼の言葉に慎重にうなずいた。

口元のソースを拭った猫は不安げに私を見つめ返していた。

長様が私に嘘をついた理由を考えるとしたら一つの推測が頭をかすめていた

不安げな瞳をした猫たちを覗き込んだ

 

「私、長様を確実に怒らせたよ、ね?」

「「……」」

 

しらたまとあんこは困ったように顔を見合わせていた。彼らの無言に確信しため息を吐いた。私がぼやぼやとして挨拶をしなかった所為で機嫌を損ねたのだろう

 

「気にする事ないでやんす姉御!」

「ええ、少し気難しい方なの」

 

2匹に励まされて私はもう一度ため息を吐いた。気難しいなら尚更そんな些細な事で怒る可能性は高い。

原因は私であったのは間違いない。

そのことを深く反省して彼に頭を下げた

 

「ごめんなさい、退院後のお休み潰してまで来てくれたのに」

私の謝罪に彼は肩をすくんでみせた。

頭を優しく撫でて「美味しいもの食べて気を紛らわそうネ」その言葉に、気づいた。

 

退院後のお祝いだなんて言ったけど、元気がない私の為に誘ってくれたのかもしれない

撫でる大きな手と、優しい慈愛めいた瞳に鼻の奥をつんとさせながらしっかりと頷いた

 

「ゆっくり考えていけばいいさ」

優しく私を許してくれた。

彼が指ししめしてくれた道は今辿った。その道からそれずに、続く道を自分で考えればいい。

それがゆっくりでもいいとわかって、小さく頷いた。

 

 

 

「これからどうするんですか?」

ヤマトさんが私の顔を覗き込んで聞いた。彼の言葉を聞いて視線を下げ今日のことを思い出す。

 

 

「もう一度、会いに行きます!」

知らないと背中を向けた長様のことを思い出して手のひらをぎゅっと握った 「関係ないなんてあり得ない!」

 

突然大きな声を出した私の声に猫達は驚いて尻尾を立てた。猫だけでなく皆驚いていた。子供のように背中を向けた長様を思い出してつい声を荒げてしまった。

気が難しい方の所為で遥々行って何も手に入れてこれなかったことが悲しみから今になって悔しさに変わっていく。

 

私を心配そうに見上げる猫達から視線をわずかに逸らす。

 

猫達は何かを知っているに違いない。

だけど黒猫が前に言った通り、どこまで話していいかわからないのだろう。

 

話せない事情がある。

責めるのは勿論ご法度で彼らの意思を尊重すべきだ。あの気難しい長様の一族だということに大変だと同情さえしてしまう

 

「 今日、言いたくないなら明日言いたくなるかもしれない」

 

私の言葉に猫達は目を丸くした。やっと見つけた手がかりの1つ。私が怒らせて今日は失敗したけど、明日なら気が変わって話してくれるかもしれない。それを毎日続ければそのうち話してくれるかもしれない。今日は大した情報を得られない事にカカシさんに罪悪感を得ていた。

 

「また明日行くつもりでやんすか?」

不安げな声に頷いてみせた。「一人で行きます!」道は大体覚えたし、一人でいけると思う。カカシさんにいつまでも迷惑をかけていられない。「いちかさん、落ち着いて下さい」困っているヤマトさんに首を振る。「いいえ、可能性をつぶす訳にはいきません」私の意固地な姿を見てサクラちゃんは大きく溜め息を吐いた。

 

「ダメよ」

 

凛とした気品溢れる声がその場に響いた。白猫のあんこの声が、先ほどよりも低く真剣だった。彼女の厳しい口調に口を噤んだ。彼女の叱咤は何故か条件反射に黙ってしまっていた。

 

猫の言葉に続くようにカカシさんが「ダメだよ」私の提案を否定されしょげて視線を落とす。

 

「あの森を一人で行くなんて危険すぎる、せめて俺かヤマトが一緒に行く」

「森はこの里の人間じゃない奴だっている。」

「アナタはこの間会った事忘れたの」

「そうよ、いちかさんこの間まで入院していたのよ、誰に狙われてたっておかしくない」

 

皆に怒られてしまい、自分がどんどん小さくなっていくのがわかる。たしかにこの前の事があって一人で行くと言ったのは無謀だったかもしれない。私が何も言わなければ確認されないのだから大丈夫という根拠はあったのだがみんなの気迫に負けて黙っていた

 

「俺も行く」

ナルト君が真剣な瞳で私を見ていた。真剣で真っすぐな蒼い瞳に驚く。私を助けてくれたとき励ましてくれたときのように揺るがず、きれいで目が離せない。「ねーちゃんは俺が守る」カカシさんに振り返って宣言するように言った。そんなナルト君をカカシ先生はじっと見つめていた。

 

白猫が大きく溜め息を吐く。「みんな落ち着くでやんす…」黒猫は遠慮がちに言った。

「そんな多くの人に知られて良い里ではないのですよ」

呆れつつもどこか嬉しそうな表情のあんこに気づいた。私を見て、くすくすと笑うので首を傾げた

 

「長にも時間が必要よ、頃合いも見てまた誘うわ」

毎日長様に会いに行ってしまったら、更に迷惑に感じてもっと口を割らないかもしれないわよ。脅すような白猫の口ぶりに冷や汗を垂らす。それは、とてもよくない!白猫に諭されて大人しく頷いた。

結局また次の機会になってしまったが、次回があるという希望に賭けるしかない。

 

「焦らなくて大丈夫だ!」

ナルト君が思いっきり私の背中を叩いた。強く背中を叩かれた初めての痛みに言葉を失う。い、痛い…!

「私たちもサポートします」

サクラちゃんの頼もしい握りこぶしに驚く。そう言えば、ナルト君の家にお泊まりした時にサクラちゃんはすごいパンチだと聞いたのを思い出しつつ笑った。

心配してくれる皆に気がついて先ほど開けた蓋が閉まった事を確認した。心配してくれる人がいる、手伝ってくれる彼らがいる。それがとてもうれしくて、破顔した。

私の幸せそうな顔を見て、しらたまとあんこは機嫌良さげに鳴いた

 

 

 

 

 

 

猫はふたつのしっぽを揺らして森にしなやかに歩いて行った。その後ろを黒猫がおいかけて、わたしたちを振り返って猫らしい声で一声なくと暗闇に溶けた。

 

「では僕らはこれで」

「また出かけましょ」

「おやすみなさい」

「またな~」

彼らの後ろ姿を見送って袋につまった綿あめをつまんで口に運ぶ。舌の上で溶けていく甘みのおかげで機嫌が良くなっていくのが自分でもわかる。現金だなと思っていると同じことを考えてるような瞳とぶつかる

 

「美味しい?」

 

眉を八の字にさせながら頷いた。いま、わたしのことこどもあつかいしたな。

 

まるで父親のような彼を見つめると、彼は目を見開いたあとに優しく目だけで笑ってどうかした、低い優しい声が心地よさをを感じた。驚くのも笑うのも全く微動だにせずわたしから目を離さない。

 

「ありがとう、カカシさん」

カカシさんは、くすりと笑って私の頭を撫でる「もういいってば」

 

今日だって、ずっとわたしを気にかけてくれていた。

今日はありがとうと何度も言った言葉を唇噛んでしまいこんだ。

 

たりない。

 

ありがとうって言葉だけじゃ全然足りない。優しく、いつも見つめてくれるその瞳を覗き込んだ

 

「何か…欲しいものはありませんか」

私の言葉に彼は何度か瞬きをして眉を下げて困っていた。唐突にいわれて驚いているようだった

「唐突だね。」困った表情を見つめながらそっと思う

 

わたしもあなたの力になりたい。

いつも助けられたばかりで、歯がゆさを感じていた。私は初めて彼に一歩詰め寄ろうとしていた

いつものお礼がしたい、その一心で。

 

私の真剣な瞳に彼は本当に困って見せて私から視線を逸らした。

彼がそのとき、欲しいものは目の前にあるなんて言える状況じゃないと気まずく視線を逸らした事なんて私は知らなかった。

 

 

逸らした彼の眼は次第に遠くを見つめていく。

その瞳は徐々に悲しげに揺れ始める。見た事の無い瞳に、息をのんだ。言葉を失った。

何を考えているかわかりづらく、ポーかフェイスお得意の彼が瞳を揺らすだなんて思いもしなかった

 

いつも優しげに私を見守ってくれる瞳じゃないもので、わたしではないなにかを見つめていた。

はじめてみる、姿だった。声をかけることさえ憚れた。

お祭りの提灯に紅くともされている彼の横顔は、いつものとおり何を考えているかわからなかった。それでも、瞳は悲しげで何か悲しい事を思い出しているようだった。

 

声をかけるか迷っていると彼は我に返ったようで私を見つめゆっくり落ち着いた声で

「何もいらないよ。」

優しく答えた。

 

いつもと何も変わらない彼の受け答えのはずなのに、私はやっとのことで頷いた。

視線を逸らしてしまった。

いらないという言葉が、歩み寄った私には拒絶の言葉に聞こえてしまう

 

彼の踏み入ってはいけない領域を肌で知ってしまい、恥ずかしさで顔をあげられずにいた。

私の知らない彼がいるのは当たり前のはずなのに。一緒にいても、知らない顔があるなんて当たり前なのに驕っていた自分に恥ずかしさが募る。

 

それを寂しさだと知らずに私は頭を混乱させた。なにも言えずに綿菓子を口に押し込んだ。舌の上で広がる甘みがわたしをからかった。

 

 

 

160525

 

 

 

 

 

 

 

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