布団に入って寝たのは久しぶりだった。そして久しぶりに夢を見た。
顔がよく見えない誰かに私は怒鳴られ、怒声に怯えるように視線を逸らし逃げ出そうとしたとき目が覚めた。
久方ぶりの睡眠は、思ったより心地の悪いものだった。
机にメモとお金と鍵がおいてある。
寝ぼけた頭でそれを取り、綴られた文字を目で追う。どうやら朝早くから任務で出かけたらしい。
ベッドの傍に置いてある時計を見ると昼前を回っていた。こんなに寝ればそりゃ嫌な夢のひとつやふたつ見る物だと理解し、覚醒していないこの頭をどうにかしようと洗面所に向かった。
カカシサマの家には小さな簡易のお風呂と洗面所がある。このおうちは本当に、仕事する方たちの為の簡単に生活ができる為のおうちだとおもう。
私は、おなかは空き辛く寝なくても大丈夫なようだ。
人は一日必ず寝る。
しかし私は、何日か寝なくても大丈夫のようだ。何日かすると一日の終わりのように一応眠くなるのだ。
霊でも、眠くはなるものだとおもうと少し新しい発見だった。
朝ご飯さえ作れなかった事を悔しく思う。冷蔵庫に入っていた、書き置き付きのご飯を引っ張りだしてきてお箸を両手ではさみ、いただきます。
おなかは空かなくても、せっかく用意してくれたものを粗末にするのはよくないしせっかくのご好意受け取ろう。おなかはすかないけど食べたいしね。
明日はご飯を作って見送らねば。
昨日は山のように買い物をしたおかげで食材にはこまっていなかったので買い物に出る必要は無かった。
お掃除でもしようかな。少し埃っぽい部屋を見渡し、窓を大きくあけた。
「わあ」
里の光景が私の目の前いっぱいに広がって、心が浮きだつ。昨日はゆっくりここから景色をみている暇がなかったのでこの景色に瞠目した。
一望、とは言えず。ただ、下から里を見ていた私にとっては新鮮極まりないもので。
「気に入っちゃった」
生活感漂う、寝て食べる働き者の為の部屋の唯一の特等席だった。
「あっ」
思わず外に夢中で覗き込もうと乗り出した手が、窓枠付近の時計に触れて落ちてしまう。
床に落ちたのを拾い、ほっと胸を撫で下ろした
反対側の窓の外へと落ちなくてよかったと安堵の溜め息を吐いた
時計の元にあった場所に置くと隣に写真がある。写真は2枚あって、4人ずつ写っているけども同じ人物はカカシサマだけ。今の姿のカカシサマの傍に3人の小さな子たち。
カカシサマすごく嬉しそう。
なのに傍にいる男の子2人はなんだか楽しくなさそう。真ん中に写っている可愛らしい女の子はカカシサマ同様嬉しそう。
隣の写真にはゴーグルをした男の子と幼いカカシサマそして、ピースサインをした女の子に優しそうな方が男の子たちの頭をなでている。
2つの写真どちらもみんな、幸せそうだった。
このどなたかが私に似ているとカカシサマは言っていた気がする。
私は違和感を覚えた。
なんとなく、全員見覚えがある気がした。私はこの部屋に来てこの写真をすぐに見たのだろうか。
この写真をずっと前に見た事があるのだろうか
彼らを知っているのだろうか
知っていたとしても、彼が幼少期の頃なんて私はいくつなのだろうか。
結論づけるにはあまりにも情報が不確かで脆く、確証がない
これは彼にとって大切な人なのだろう。そう確定づけるほうが今は答えに近い気がした。
写真の隣に置いてある謎のタイトルの本は、見なかった事にしようと振り返った。
足元に転がっていた昨日買った本も同じタイトルで私は何も言わず、何も考えずそっと本を立てかけた。
ゴミをまとめあげ、「こんなものですかね」綺麗になった部屋を見渡し満足げに息を吐いた。
彼がかえってきたらゴミの出す場所を聞いておこう。彼がどの日に任務にいってもちゃんとゴミ出せるように場所をきいておかないとならないな。
私がゴミ出しに出たところを誰かに見つかったらゴミが浮いている怪奇現象に見られてしまうかもしれない。
人がいないのを十分確認してから、出そう
思ったより早く終わったな。時間を見てから空を見た。
すこし夕焼けがかった空に私はあの駄菓子屋を思い出す。
鍵ももらったことだし、あの優しそうなおばあちゃんの顔を見に出かけようかな。
鍵をかけて、真っ暗になる前に駆け足であの場所へと向かう。
哀愁漂うお店を視界に入れて自然とほっとした。さほど遠くない所から子供たちの声が聞こえてくる。
その声に深く安堵しながらお店をくぐる「こんにちは~」小声でそっと呟いて足をお店に踏み入れる。
カビくさい、暗くなった店に紅く染まった空の色がにじむ。綺麗な、哀愁ただよう駄菓子屋はやはりわたしのお気に入りスポットだった。
店内をぐるりと見渡しなんだか見覚えのあるおかしに一人笑う。ここに来た事が無い筈なのに懐かしく思う。駄菓子屋というのは不思議な気持ちにさせる場所だった
「いらっしゃい」
おばあちゃんは私を見て優しく笑んだ私は自分にかけられた言葉だと解釈するまでしばらく時間がかかった
「昨日も来てくれた子だね、いらっしゃい」
私は声を失う他無かった。
周りを見渡すも私だけしかここにいなくて。
ただただ驚くしかなかった
彼のほかにも、視える方がいた
私は思わず頬を染めて姿勢を正した
「は、はじめまして」
「ええ、はじめまして」
私が緊張した様子で挨拶をも彼女の雰囲気にとけ込む。その雰囲気に安堵した
「あなたみたいな大きい子めずらしいわ」私は歳よりも若い容姿だと認めている。
カカシサマにだって幼女と見間違われる程の幼さっぷりだ。気にしている。自分で言っといてなんだが、落ち込んでいる。
幼女と間違えられてもおかしくないのに、この方は私を瞬時に成人していると判断した。
「よく、わかりましたね」自分で言うのも悲しいが間違えられて当然。と思っている
「本物が毎日くるから、一目で大人か子供か、わかるわ」
なるほど。
毎日いろんな幼い子達を見れば一目瞭然というわけか。プロというわけね。
「何か欲しい物があったら、ひとつ差し上げる」
「え」
私は思わず声を荒げだ、だめです悪いです。断ったがいたずらな顔したおばあちゃんが優しい音色で
「明日もきてくれるんだったら、だけどね」私を誘った。
私は頬が紅くなるのを感じつつ、「も、もちろん来ます」照れくささを感じつつも声を張り上げた。わたしの様子をうなずきながら優しく見守ってくれて私はここにきて何度目かなる安堵の溜め息を吐いた。
「すてきな場所ですね」
私は夕焼けがにじみだしている窓を見た。店内が紅く染まりとても綺麗な場所なのだ。
遠くから聞こえる子供達の優しい笑い声。かすかに聞こえる煩わしいあの蝉の声でさえも優しいオルゴールのような、そんな落ち着く場所だった。
「そんなこというのあなたが初めてだわ」少し瞠目したあとに嬉しそうに破顔した。
「でもね、そう長くは続かないわ」
声のトーンを落とした彼女を目にやると窓の外の夕暮れを見ていた。遠くを見つめる彼女の表情は寂しそうで私は何か声をかけようと迷った挙げ句手元にあったガムを手に取った
「これを、ください」彼女は窓から目を離し笑顔を私に向けた。
帰宅し窓際に腰掛け、買ったばかりのガムを唇ではさみその輪っかに息を吹き込む。
情けない高い音が空に溶けてなんだかさびしかった。あの、寂しそうな表情をする彼女がなんだか寂しかった。
「おかえりなさい」
ご要望通りなすのみそ汁を作り、外を見上げながら今日の事、夜空を見ながら考えているとカカシサマがかえってきた。
私の事を視線に捉えると目を細めただいま、そう笑った。窓際から離れ簡易キッチンに足を向け夕飯を温めなおす
「おなか空いちゃったよ」そういって着替え始めたカカシサマを見ないように背を向けた。
「毎日熱いですからね、今日はさっぱりにしました」
「いいね~もう暑くて仕方ないよ」
「お国のお守り、ご苦労様です」
「いや、ハハッ。」
その笑いはあまり見た事がないもので。どうやら少し照れているようだった
嬉しいのか表情を崩さず箸を手にとりいただきます、と告げてからご飯を平らげる。
「私もご一緒しても?」
「待ってたの?食べててよかったのに」
私はお箸を手に取りいただきます、手を合わせて一緒にご飯を食べた。
「そういえば部屋綺麗だね」
カカシサマは感心するように周りを見渡した。
「すごくがんばりました」
私は達成感を思い出し、なんともまたすっきりした気持ちになる。
よくやったね。そういって優しく笑った彼にへへへ、と照れてみせた。我ながらがんばったのだ。褒められて悪い気はしない。油断を見せた照れ笑いにカカシサマは箸を落とした
「どうかしました?」私はそう告げるも何事もなかったかのように箸を拾い上げ食事を続けた。
「(彼女の張りつめた緊張の糸が少し緩んだな。)」
カカシサマはそっと微笑んだ。
「なにか、いいことでもあった?」
彼の言葉に茄子のみそ汁をすすってからきょとんとした。
「どうしてそう思われるのですか?」カカシサマは緩く笑って、窓際に置いてあるいくつかのガムを指差した。
ああ、そうでした。
「はい、」脳裏で寂しく笑うおばあちゃんを思い出して思わずつられて寂しく笑みを返した。その様子にカカシサマは不思議そうにしていた。
今日駄菓子屋で出会ったおばあちゃんの話を始めた頃には食事は終わっていた。私は話しながら、ガムをまたひとつ手にとり夜空を眺めていた。
「なんだか、寂しそうにしていたのが気になってしまって」私の声のトーンと、先ほどの私の笑顔とつながってカカシサマは納得したみたいで。
「どうするの?」
彼は私の手からガムを取り、音を奏でた。本当は隣をすごく見たいんだけれども見せたくないというのなら私はプライバシーを守り振り向かない。
ガムを一緒に鳴らし、綺麗な夜空を見上げた。
こんなに里が明るくても夜空は光を失わずとっても綺麗だった。
風が私たちを撫でると、
「どう、したいの?」
彼の優しい言葉に、息をのんだ。
私は思わず夜空から彼に視線を移す。かえってからずっと後悔していた事に初めて気がついた。
悲しそうな瞳に、自分が何もできなかったことに。
その顔を見たくなくて、わたしは最初から
「どうにか、したいみたいです」
心は決まっていたらしい。
「こんにちは」
私は翌日、駄菓子屋に顔を出した。
太陽が真上に登った頃に見る駄菓子屋の風景は明るい外とは別世界で真っ暗で、涼しく静まり返ったところ。
そこに子供達が溢れかえって、おばあちゃんは嬉しそうに笑っていた。
「あらいらっしゃい」子供達の輪の中優しい笑顔で出迎えてくれた。
「ばーちゃん、この人だれ?」
そう言った小さな男の子は確実に私を指差した。
突然確認された私は目を見張り少年を見た。
また、視えてる。
「ばーちゃんの友達じゃよ」
何がなんだかわからないほど頭が混乱していたがかろうじて、男の子達によろしくね、と答えた。
子供達は元気よく挨拶をして元気よく外に遊びにいった。にぎやかだった店の中は一気に静まりかえった。
だんだん、視え始めているということ?それとも、おばあちゃんのおかげ?
私はおそるおそる彼女を見ると視線を合わせてゆっくり笑んだ。その笑みに動揺した心が落ち着いてきた。
「よかったら、お昼ご飯一緒にいかがですか」
お弁当を取り出すと彼女は瞠目して、それから照れて笑った。
「悪いわ、そんな」
まるで昨日の私のような反応に自然と顔が笑んだ。
「おはなし相手になってくれたら、ですけどね」
悪戯に微笑むと、嬉しそうに優しく頷いてくれた。
私が視える事に関して不確かすぎてまだ断定できない。
もう少し周りの様子を見てみよう
「こんな年寄り相手にあなたも変わってるわ」
お弁当を広げると興味ありげに私の顔を見ていた。
「お昼を一緒にする友達がいなくて」自分で言っていて悲しくなってきた。ごまかすようにから笑いをすると
「じゃあ私は第一号かしら」不適な笑みに私は大きく頷いてそれから照れ笑いをした。こんなくすぐったい気持ちは久しぶりのような気がした。
一瞬何かの記憶とかぶった。
唐突の事に声を失った。
「一緒にずっと食べたいんだけどね」私の手作り卵焼きをほおばると破顔し、ほっぺたに手を添える。
「そう私もながくはないのよ」昨日の言葉とダブる。昨日何度も思い出した悲しそうな顔を脳裏に反芻させた
「どこか、悪いんですか?」
ようやく、朝から考えていた言葉を口にした。おばあちゃんは、悲しそうに笑って「来週入院でね。」ぽつりと零した。そしてやっと昨日何度も思い出したあの寂しそうな顔の理由と繋がった気がした。
「あまり成功率が高くない手術でね、柄にも無く弱気になってしまって」押し寄せてくる死に今更怖じ気づくなんてね、そういった彼女は手が少し震えていた。
私は思わずその手を力強く握り
「だ、だめです!」
いつになく声を荒げた。
「お医者さんを、自分を信じてください!わたしが、子供達が待ってますから!!」
わたしの言葉に彼女は目を見開いて、口をふるわせ涙を流した。
「ありがとう」
心からの感謝が彼女からこぼれた
わたしの作った手料理を次々に平らげごちそうさま、と優しく笑った。
それから私は次の週、病院に通い毎日看病しにいった。彼女は不安そうに毎日ベッドに寝ていたが私がくると破顔して重たいからだを起こして会話に花を咲かせた。
毎晩カカシサマにその方とのお話を報告して心から笑うと、彼も嬉しそうに笑って、私の作るご飯をおいしそうにたべてくれた。
数日後、難しい手術が成功した。
私に気がついて身体を起こしてくれたおばあちゃんに近寄り激励の言葉をかけた。
よかった、本当に成功してよかった。私が喜んでいる一方彼女はなんだか浮かない顔をしていた。
そして私はある、事に気がつく。
「ごめんなさいね、あなたがいるのわかってるんだけど、」
「もう見えないみたい」
彼女はもう私を視ていなかった。
視えていた人が視え無くなるのは予想に反した事実で。
頭が混乱して、動けなくなった。
油断していた。
その言葉がぴったり当てはまった。
安心しきったところに現実を突きつけられて
私は、ただの幽霊だったということを今更思い出した。
彼女は悲しそうにわたしのいる辺りを見ていた。顔色がよくなった彼女の顔を見て私は、笑ってみせた。
「何か、したかったから」これでいいの。私は泣き出しそうになるのを堪えて彼女の手を握った。
感覚に気がつきおばあちゃんは私の手を引き寄せて「ありがとう」そういって大事そうに私の手を包み込んで、まるでお祈りをするみたいに。
私の手にやさしく、涙を落とした。
私は、以前ずっと離れられなかった噴水広場に来ていた。
紅い雲の下、寂しそうに別れを惜しんで「また明日」そう約束する人、行き交う人たちを見て、ほくそ笑んだ。
私が遠くをぼんやりと見つめていると近づく足音が耳にこだましてゆっくり視線を向ける。
読み取れない表情で近づくカカシサマに苦笑いを零す。
「今日は、お早いお帰りで」カカシサマは暗くなってからのお帰りの筈だったので、それまではここで時間をつぶそうとしていた。
彼は何も言わず私の傍に近寄ってきた。わたしに近寄ってきてくれる、たったそれだけの事が今は優しくて嬉しい真実で。
涙腺が緩くなる。
ご飯、作らなきゃですね。
言葉とは裏腹に身体が動かない。
私は唇を噛んで視線を下げた。
「どうしたの」
そういってかれは暖かい手のひらを私の頭にのせて優しくなでた。
その暖かさに思わず涙を流し、その大きな手のひらに身を委ねた。
「私の事、視え無くなっちゃったみたいで」
震える声で告げると撫でる手が止まった。そう。悲しそうに言って私を優しく撫でた。
「キミは、何かしたいと言って動き、成し遂げ結果を出せている。喜ばしい事だよ」
褒められ、私は頷いた。
喜ばしいこと。
私のように彷徨う事無く、まだこの世で生きていられる。
すごく嬉しい事なのに。
私は下を向いて嗚咽を漏らした。
「わたし、」
震える声で言葉を紡ごうとすると、止めどなく涙が溢れ声が更に揺れる。
「うれしいけど、かなしい」
私は先ほど合わない瞳に、怖じ気づいた
「喜ばしい事なのに、もう目を見てくれないと思うと」
声が届かないことに、震えた。
「もうはなせないと思うと」
「すごく、寂しいんです」
私の涙は大粒となって、地面を濡らした。その涙が次から次へと追うように地面を濡らしていく
初めてできた歳のはなれたお友達。
命が助かって喜ばしい出来事なのに、もう私を視てくれないと思うと裏切られたような気持ちになった。
友達に、裏切られたなんて思う自分が悲しく、そしてこの私の身体を疎み、そんな自分が卑しい。
話をしてくれないと思うだけで、私はこんなに我が儘で子供になってしまう事が、恥ずかしい。
私の素直な気持ちを彼は目を瞑って、聞いていた。彼の瞳の裏には、なにかが映っているのだろうか。
「そうだね」
彼は私の頬を優しく包んで目の前にたった。自然と上を向かされて、彼の小さな瞳と目が合う。
彼の大きくて長い指が、わたしの涙を器用に拾った
優しい瞳にざわついていた胸が落ち着きを取り戻す
代わりに、すこし早くなる。
「キミは何も間違っちゃいない」
おばあさんを救った事や君自身寂しいと思う事は、何も間違っちゃいない。包んだ手のひらが私の頭を撫でる。その優しさに身を委ねほっと安堵する。心地よい暖かさだった。
「寂しいと思う事を否定しなくていいんだ」
彼は優しく私自身が否定した感情を肯定した。
ううん、我が儘で子供みたいな私の感情を認めろ、と言ったのだろう。
「その感情があるから人は強くなれるんだ」
優しく私の頭を撫でていた手が、ぽんぽんと跳ねて。私を励ます。
その優しさに私は何度も安堵して、瞬きを数回して、大粒の涙を落とした。
認めたくない自分の感情をこの人に許されたような気がして。彼の言葉を受け入れて自分の汚い感情を受け入れてみようと思った。
「つよく、なりたいです」
泣いても寂しがっても現実は変わっていないのに強くなれるものなのか。
彼は自信たっぷりに「なれるよ。」優しく笑ったのだ。
その笑顔に私は涙を流して、願った。子供のような気持ちを抱えている自分よりもっとつよくなりたいと想った。
彼は、私の涙を何度も拾い上げて。その様子に少し笑った。
わたしが笑うと安堵したように彼も笑う。落ち着きを取り戻した心で病院を振り返る。
さびしい、そう思っているのはきっと私だけじゃない。
そう思ってみたらなんだか救われた気がして涙を拭い彼を見上げた。
彼は満足そうに笑って「かえろ」少し前を歩いた。そのうしろを追ってぽっかり空いた心の中は、わずかに暖くなっていた。
「こんにちは」
少し、カビ臭くて暗い店内にそっと足を踏み入れそっと呟いた。
おばあちゃんは、私の声に気づかず窓の外を優しく見つめてお茶をすすっていた。
少し感じた寂しさに苦笑いをして、店内をのぞく。
店内は誰もいなくて落ち着いていた。外からの暑い日差しは店内まで届いて、彼女の傍に涼しそうに扇風機がまわっていた。
わたしは、元気そうにしているおばあちゃんの様子を見て安堵しきびすを返してかえろうとした。
「また、いらっしゃい」
彼女は決してわたしの事を見てはいなかったけれど、こちらを向いてそう答えた。
見えなくても、わたしたちはちゃんと友達だった。
「はい!」
彼女に声が聞こえないとわかっていても、大きな声で元気よく返事をかえした。