きゃああああああああああああああ
私の悲痛な叫びが建物中に響き渡り、反響する。
私は、風呂の中で突然の来訪者に応戦するも、苦戦をしていた。お風呂場の片隅でかさかさと動いている来訪者に、思わず身震いをする。
や、やめて、おねがい、帰って。
懇願するように見つめてもまた素早く逃げるだけの奴に私は身を固くし、動けなくなっていた。
どうするの、この状況。
びくびくと怯えながらシャワーを止める事しかできなかった。
どうするの。
頭がパニックになってとにかく奴との距離を遠ざける他しかなかった。しかし小さな風呂場ではたいした距離もできないまま悪戦苦闘。裸で奴から逃げるこの滑稽面。わたしの記憶がある中ではワースト5に入るほどの最悪の状況だった。
そうなのです、あの、速くて気持ち悪い、ゴ、、奴がでました。
「どしたの」
突然風呂場にひょこりと顔を出した更なる来訪者に私は叫び声を上げた。私の叫び声に、先客はかさかさと逃げ惑う。その姿を視界に移すだけで頭はパニックになって、声にならない叫びを上げていた。
いま、カカシサマと、奴の板挟みになっていまして、とても頭が混乱しています。パニックになりながらも身体をよじって身体を隠していた。反射ってすごいとおもう。
カカシサマ、何故勝手にドアあけてくれちゃってるんですか
私と奴を確認すると彼はすべてを察し、ずかずかと風呂場に入ってきてお風呂洗剤を手にした。
思わず彼のうしろに隠れてせまいお風呂場での洗浄、、いや戦場を見届けた。彼がさっと一拭きスプレーをすると一撃で奴は動かなくなった。あっけない最後だった。
あれほど私を弄んでおきながらあっけなく彼は命を亡くした。その亡骸は、彼の腕からそっと様子を見ようと頭半分だけでも出した私の瞳にしかと焼き付けた。
お、恐ろしい。
彼の服をぎゅっと力強く。とても力強く。握った。
一件落着。そういっていつもと変わらぬ口調で何事も無かったかのように風呂場を後にしようとした彼を思わず止める。彼は振り返らず、そのまま止まる
「カカシサマのばばば馬鹿野郎です!」
「あら?バカ野郎呼ばわりされるとは」
「アレどうにかしてください!なんで風呂場に入ってきたんですか!なんでゴ、、出るんですか!なんでこのおうちのお風呂こんなに狭いんですか!」
「ハイハイ、落ち着いて」
彼は処理をする為に一旦風呂場を出て行こうとする。私もそれに大いに賛成なはずなのに。手はしっかりと彼の服の裾を握っていた。
彼は律儀に振り返ろうとはしなかった事がせめてもの救いだ。「手、離してくれる?」私は大いにその願いを叶えてやりたいものなのだが。わたしの手は反対にぎゅ、と彼を離さなかった。
幾度か時間が過ぎて
「あのね、手離してくれる?」
彼は同じ言葉を繰り返した。彼の言葉に促されながら答えた。
「...う、うごけません」
やっとの事でか細い声で弱々しく呟いた。突然の2人の来訪者に私はすっかり心身共に緊張しきって、身体が動かせなくなっていた。
カカシサマは私がうしろから握っているその手を離そうとはせず、小さく溜め息を吐いてそのままゆっくり風呂場を出て行こうとした。わたしもそれについていく形で風呂場を後にする。
彼は背中を向けたままバスタオルをそっと後ろ手で差し出してくれてそのごわごわしたタオルを受け取り彼からようやく手を離した。
手を離すと彼はキッチンに向かいビニール袋を取った。「服、着ちゃいなよ」そういって私の瞳と絡ませた後に、横をすり抜けて風呂場にまた向かう。私はタオルを持って呆然としていた。
私は一糸まとわぬ姿にようやく状況を把握して、駆け足で服を取りに戻る。
彼はキッチンからこちらに戻ってくる時、背中は向けていなかった。
つまり、つまり。
わたしはもう。
どうしたらいいか分からない程に混乱しきっていて半泣き状態になっていた
彼が戻ってくる前にすぐ傍にあった当初からずっと着ているワンピースに袖を通し、部屋の片隅に正座をして混乱する頭を落ち着かせようと試みた。
奴が出て、カカシサマが入ってきて、倒して、処理した。
最初に裸まず見られて、奴を倒して、呆然とタオルを持った私の裸をまた見られた。
理解をしたくなく、思考するのを止め私は呆然と床を見続けるしか他無かった。何故、動かなかった私の身体。いや、もっと恥ずるべきところはある。
怖いとかいって裾を引っ張ってしまった
こども、みたいに。
幾分そうしていただろうか。彼が処理を終え部屋に戻ってきて、私の視線と合う。私の怯えたような瞳に、頭を掻いた。
わたしは震える拳を握り「み、みましたよね」わなわなと震えながらそう口にした。
あー。そういって視線を逸らされた。その言葉だけで十分で。顔面蒼白になる。
もうなんと言っていいやら。
お互い2人そう思っていた。何か言葉にすれば私が興奮する。そうお互いわかりきっていた。
彼は居たたまれない空気にたじろぎながら冷蔵庫を開けて私が朝作っておいた麦茶を取り出し飲んでいた。
「もう、お風呂なんて入りません…」
ようやく出てきた消え入りそうな言葉は風呂嫌いだと勘違いされても良いものだった。
彼は眉を八の字にさせて「悪かったっよ」そういって麦茶を差し出してくる。それを震える手で受け取る。
彼は、勝手に入ってきた事以外特に悪い事はしていないのだ。彼すべてに責任があるわけではない。寧ろ悪い事だなんて、ほとんどない。助けてくれたのだ。
そうはわかっていてもこの恥ずかしい逃げて隠れたいこの気持ちをどこにぶつけるかはこの人にしかいないのだ。
しかし、口を結び言葉を飲み込む。彼にすべての非があるわけではないし、私も居候の身。仕様がないのだ、この家が悪い。と人様のおうちの所為にした。
力なく立ち上がり、麦茶を机の上に置いてわたしは拳を作って玄関に向かう。
「カカシサマ、助けていただいた事感謝致しますが今夜は外で寝かせて頂きます」
私はそう言って彼の家から飛び出そうとした。が、私の行動よりも先に彼の動きの方が早く「だーめ」私は家から飛び出す事はかなわなかった。私が手にかけたドアノブに彼も手を重ね開こうとしたドアは動かなくなってしまった。
「こんな夜遅くに女の子一人で歩いたら危ないでショ」
そう諭すような口調に私はどんどん居たたまれない気持ちになっていく。恥ずかしさで涙が滲みだす。
「私は他の人には見えないので危険も何も無いです」自分でそう口にして傷つく。視てくれる貴重な存在のカカシサマに、見てくれなくていいとこまで見られた。
「...頭、冷やしてきます」小さな声で懇願するように言うと、流石に手を離してくれた。
触れられた手は生温くて
夏にはすこし、いらない体温だった。
外に出ると、途方も無く真っ暗な道を見て思わず駆け出した。行く当ても無く、ただ走った。
足を動かし居たたまれない気持ちを吹き飛ばす。よく、本で見た気がする。
同棲中のカップルもしくは家族と喧嘩したときに一つの部屋にいると気まずいから2つ部屋はもっとけ。という内容だった。同棲でも家族でもないが全くその通りだった。現に私は逃げ出した
じっとりとした夏の夜の風がわたしの頬を撫でる。星瞬く夜空を今日は眺める気持ちになれなくて、女としての自分が恥ずかしくなって逃げ出した。女の人と同居していればこんな恥ずかしいことはなかったのだろうか。いや、他のトラブルがまた付き纏う事になったかもしれない。でも、もう少し難しくない生活ができた筈だと思った。
息が切れて、私は項垂れて、膝に手をついた。体力、全然ないな。
カカシサマの家からそう離れていないところまで来て苦笑いした。とぼとぼ力なく歩いて、ベンチに腰掛ける。先ほどの出来事を思い出して羞恥心に膝をかかえた。
大人の、彼の対応にもっと恥ずかしくなる
「あねご!」
突如暗闇から現れた黒猫に私は肩を揺らす。黄金の瞳が紅の私の瞳を合う。こないだの喋る猫ちゃんだった。
「久しぶり、だね?」
「いやあ、探したんですがなかなか見つからなくて」ようやく見つかりました。猫は調子の良い声で私に近づき足下に寄り私の足にじゃれつく。しゃべっても本当に猫なんだな。わたしは、猫の頭を軽く撫でてやった。
「やや!姉さん泣いてたんですか」猫は私の涙の跡に気がつき驚く。羞恥心で泣いていた事を知られたくなく私はたいした事じゃないと微笑むと猫は難しい表情をする。
その表情に、猫でもこんな顔するんだ。とすこし驚いた。
「アイツですか?」
その黄金の瞳に私は居竦んだ。
「あいつは最近のお友達でやんすか?」アイツ。「カカシサマ?」この前じっと見つめられ気まずそうにしていた猫を思い出して、きっと気に入らなかったんだろうなと察した。
「お世話になっている人だよ」猫は不機嫌そうに鳴いてみせた。
「姉御を泣かせるなんてどうせろくな奴じゃないにゃ」猫ちゃんはぷんぷんと怒りだしてベンチに飛び上り、私の傍によってきた。
心配されてるのかしら。
なんだか可笑しくて笑った。
「な、なに笑ってるんですか」
「にゃ、って言ってかわいいなって思って」
猫ちゃんを撫でると気持ち良さそうに目を閉じ、猫ですからねそうしれっと言ってみせた。
「そもそも様ってなんですの」
猫はシッポを地面に叩き付けて私にそう問いかけた。「えと、敬意のつもりだけど。」わたしは頭を悩ませてそう答えた。猫は心底呆れたような顔をして私の隣で腰を下ろした。
「いちかは、神をなんと呼びやすか?」
かみ、?私は唐突の質問に目をぱちくりとさせ、様々な言葉を思い浮かべる
「かみ、さま?」よく絵本だとか神話とかに出てくるあの神様だよね。猫は呆れたような顔で私を見た
「姉御はそういう敬意と一緒でやんすか?」
人間はわからないでやんす。
そう言って、丸くなってしまった猫。その猫をぱちくりと見つめうなってみた。
お前は神様のような敬意を持ってそいつの事を様と呼んでいるのか、と聞いているのだろう。たしかに私をあの場から救ったのは彼で、感謝はしているけれどもそういう崇拝の気持ちは確かにない。そう思うと、神様のように様づけをするのはおかしいことなのかもしれない
「あ、れ?」
私は猫を撫でているときにしっぽに気がつく。
2つある。
おそるおそる触れてみて、「めずらしい、ね」恐る恐る言った。私の手をするりと抜けて猫は、膝の上に乗る。
「このへんじゃそう珍しくはないですよ」
猫は器用に二本を揺らしてみせた。すごい2本のシッポが揺れてる。かわいさ2倍だ。その揺れるシッポを見て、この前から気になっていた事を口にした。
「猫ちゃんは、わたしの昔の事を知っているんだよね?」
先日会ったときに、忘れてしまったのか。そう言ったのだこの猫は。その言葉を聞いて今持っている記憶以前の私を知っていると確信していた。猫ちゃんは耳をぴくりとさせて私を見上げる
「ええ、よく知ってるでやんす」
猫ちゃんの言葉に私は思わず自分の手を握り合わせた。
す、すごい!遂に見つけた私の事を知っている人。、、人なのか?いや、猫だ。
「いろいろ、教えて欲しいんだけど」おそるおそる聞いてみた。猫は自分の手を口元にあてて考えていた。そのポーズ、とても可愛らしい。
「いいでやんすよ」
猫は目を閉じて鳴いてみせた。笑ってるような顔がなんともかわいい。確かな答えに近づいている気がして私は胸が高揚する。
「と、まず、おいらのナマエはしらたまと申しやす。」
突然の名前に私は言葉を一瞬失った。しら、たま?私はおそるおそる口にすると黒猫は鳴いてみせた。
黒猫なのに、しらたま?そう聞くと猫は不機嫌そうに顔を歪ませ「姉御がつけてくれたでやんすよ」そう言ったので驚愕した。センスないなあ私
「ここではなんですからうちに来てくださいよ」
猫は私の膝から降りて暗闇の方に足を向けて、振り返った。
「近いの?」そう聞くと首を振った。森の方に、猫の集いがあってそこでみんなでひっそり暮らしている。里で住む達とは繋がりがあるらしいが仲間ではないらしい。
「そんな泣かす男と一緒にいないで、私たちと住みやしょ」
しらたまちゃんのご好意を受けるべきなのか少し考えてみた。確かに、彼に結果的に泣かされたのは間違いないのだけれどご恩を仇で返すようなこの別れは本当にいいのだろうか。
里から勝手に出た場合彼は火影様から受けている任命監視をするのが面倒になるのではないだろうか。それに、黙って出るのは、憚れる
協力すると言って、必要なものを揃えてくれた。家を分け与えてくれた。
2人で住むには狭すぎる家に、彼は一言だって不満を言った事が無い。
厄介者を拾った筈なのに、何も文句を言わずわたしの少しの感謝の意味を込めたご飯を食べて笑って。わたしたちは2人お互い理解し合ってあの家にいる。
光る黄金の瞳を覗き込んだ
「ごめん、わたし、行かない」
きっと、住むのが難しい事だってある。それでも、わたしにひとつの家を貸し与えてくれた彼に感謝を返しきっていないのに出て行くのはまずい。
猫は「泣かされても?」そう追い立てるように聞いた。「うん、泣いちゃっても」勝手に泣いたのだけれど。と長く笑う。
突然、目の前に風が現れて、わたしの髪を揺らした。
「うちの子、誑かさないでくれる」
私の目の前に、カカシサマが突然現れ猫から守るように立ちふさがった。彼は突然過ぎていつも戸惑う。
心配してきてくれたのだろうか。私はそう簡単に視られないから大丈夫だと言っているのに。すっかり頭は冷やし切っていた。額に汗ながす姿を見て流石に申し訳なかったと反省をした。
猫は不機嫌そうに鳴いてみせた。
「たぶらかすとは、失礼な。」猫は器用に2つのしっぽを揺らしてカカシサマにつんとした態度をとった。本当に嫌いなんだな、この人のこと。私は苦笑いを零した。
「100年前、里を襲った二股猫がこの子に何のようだ?」
カカシサマの言葉に驚いてしらたまを見る。「昔の事でやんす。おいらは知らない」猫はつんとそっぽを向いてみせた。
里を、襲った猫?私は信じられない目でしらたまを見る。
しらたまは、私を見て「姉御、また会いやしょ」そう言って踵を返した。猫は、カカシサマの事をあまりよくは思っていなかったけれど、里を襲った一族なのかよくわからないけれど、泣いている私を心配してくれて。そして、一緒に住もうと言ってくれた。それって凄いことだ。
「ありがとう!、またね」
大きく返事をすると猫はひとつ鳴いて、暗闇に溶けていった。きっと多分あの子とはずっと一緒にいたような気がする。その感覚を身体で感じて、少し笑んだ。
昔の事、聞けなかったな。少し項垂れた。
「仲良くなったんだね?」
「ハイ、仲良くしてもらいました」
わたしは、懐かしいような気持ちにどこかくすぐったくなってくすり、と笑った。
「頭は、冷えた?」
彼は私にそっと声をかけた。走って、猫に話を聞いてもらって「はい、」あんなに自分が慌てていたのがバカらしくなってしまうほど頭はとうに冷めていた。
帰りましょうか、そう言って私は帰路につこうとした。
だが。私の身体はつんのめって前に進めなかった。うしろをゆっくり振り返ると私の手首を引っぱる彼の姿があった。
「あのさ」
彼の緊張感持った言葉に緊張した。何をいわれるのだろうか、もう住むなと言われるのだろうが。あり得る。ご恩も返していないのに。私は冷や汗をかいた。
覚悟を決めて目を強く瞑った
「言いたい事あるんでしょ」
彼の唐突の言葉に私は息をするのを一瞬忘れそうになった。「言いたい事、ですか?」私は恐る恐ると口にして自分の胸の前で手を握った。
「これから一緒に住むなら、我慢はよくないと思ってね」
突然の言葉に驚きつつ、彼の言葉に一理あると思った。これからどれくらいになるかわからないけれども万が一長期一緒になると考えると我慢ばかりさせられてたらお互い不満が募るだけだ
「でも、これを言ってしまうと私の女としてのプライドがズタズタに、、」
苦笑いをして、今回の件だけでもできるならば黙ってしまいたい私に彼は容赦なくそれを許さないとでもいうように
「大丈夫、受け入れるから」
自信満々に答えた。
そんなことを言われてしまって私は言葉を失い、もうどうにでもなれという気持ちで口にした
ま、まずですね。
うんうん。
そんな始まり方で周りから見たら滑稽な姿だとは思ったけれども緊張してそれどころではなかった。
助けてもらっておいて、こんな事言うのも厚かましいのですが。私は言葉を濁して話辛い事を示唆させると。
いいよ、言っちゃって。彼は手を広げて待っているので(実際手は広げていないのだけれども。)私は拳を握って口にした。
「レディーの風呂場に入るだなんて紳士としてどうかと、思いますよ?」
彼は、うんうん、そうだね。とまるで他人事のように言うもんだから拍子抜けしてそのまま続けた。
「それとも、幽霊だから風呂に入って来たのかななんて考えたりしてしまって。」
私は自分が女性として見られていないのだろうか、とまで考えた事を伝えると彼は黙った。
「たしかに、幽霊なんですが。見られたのは初めてでして」
記憶がある前は知らないのだけれども、いまある記憶の中では初めての出来事で。初めてでテンパってしまったのです。と、伝えたかったのだ。
ごにょごにょと小さな声でやっと告げて私はしたを向いた。
少し、居心地わるそうにしたカカシサマは頭を掻いた。
「あまり、触れない方がいいかなと思って」
私の裸体を見てしまったことについてだろあ。歯切れ悪そうに答えた彼は頬を染めて明後日の方を向いていた。私もつられて赤くなる。それから二人で黙ってしまって私は居たたまれない気持ちになる。
「どうしたらよかった?」
彼はまだ言いたくない気持ちにずかずかと入ってくるもんだから私は視線を逸らして参っていた。
「責任取るとか言えば良かったかな?」
「な、なな何を言ってるんですか」
私は咳払いをして彼を真っ赤な顔でにらむ。私の顔を見てカカシサマは少し楽しそうにする。
ずるい。
私は拳を握ってかれを負けじとにらみ返す。「からかわないでください」私の消え入りそうな声にカカシサマは流石に黙った。
どうしてほしかった。
そんなこた私に聞かれましても。
「見てしまって、ごめんだとか。せめてそう言って頂ければ…」
「俺、一応謝ったよ?」
そ、そうでしたっけ?!謝られた記憶がない私。それほどに混乱していたか。いや、しっかりちゃんと謝られていないというか。
彼は私をじっと見つめて。その視線に耐えきれなく私は言葉をのどの奥でなんとか止めようとするが、勇気を振り絞って息を吐いた。
「少し、大人過ぎる反応に乙女心は傷つきました、よ?」
恥ずかしさで潤んだ瞳で彼を困ったように見上げると彼は少したじろいでうしろを向いた。
反応して欲しかった訳ではない。でも、なかった事にできるほど私は経験が浅い。何せ見られたのは初めてだ
やっとの気持ちで、女のプライドをズタズタにしながら言葉を吐いた。
彼の顔を覗き込んで見ると真っ赤で「ちょ、タンマ」顔を手で覆っている彼を見て私は思わず赤面してしまう。
「そういうこと、ね」ぼそりと彼は呟いた。
そういうことなのです。
彼の慌てない大人過ぎる対応に私は一人で慌て子供のように感じ、不貞腐れていただけなのです。
でも、慌てて欲しかったとかごめんと言って欲しかったわけではないのだけれど、その話に触れられず大人すぎる対応に一人でのたうち回り恥ずかしさで逃げて来たのです。
本当はばれたくなかった。自分が記憶が無いにしても男耐性が無さすぎる子供っぽい自分を暴露してしまうことになり、子供っぽく純情な自分を自分から言うのはあまりにも恥ずかしすぎる。
不貞腐れていたその事実でさえも恥ずかしいのに。
彼は思いっきり吹き出して肩をふるわせた。その反応に驚いておこった。「ひ、ひどい」私はわなわなと震えて今度こそそっぽを向いた。
ひときしり笑うと、彼は私のうしろから顔だけにょきっと出して「どうしてほしいの?」また同じ質問に私はたじろぎそっぽを向いた。その答えがなくて困ってるのにわざと聞いてきた。
「も、もう放っておいてください私にもわかりません」
「構って欲しいの?突き放して欲しいの?」
そう言われて私は本当に何も声が出なかった。
今度こそ私はうる目になりながら彼をにらんで「もう、いじめないでください」おこった。
彼は一瞬言葉をつまらせたあとに顔を逸らした後、暫くしてから彼はすごく楽しそうに笑って私の羞恥心でこぼれた涙を拾う
「いちか、キミってからかうの凄く楽しいね」
少しでもこの人に受け入れてもらおうなんて思ったのが間違いだった。私はせっかくの勇気をポケットにしまってもう言うもんかと心に留める。
優しく笑った彼と目が合う。
「いちかがどんどん心を許してくれて嬉しいよ」
また、あの優しい瞳に私は身を竦めて戸惑ってしまう。
「話してくれて、ありがとネ」
「…ハイ」
「勝手に、お風呂に入ってごめんね」
「…はい、私こそ助けて頂いたのに申し訳アリマセン」
私たちはそっと苦く笑って、肩を並べて帰りを歩いた。左肩がすこし暖かくてその暖かさに安堵した