Fragment of the planet   作:えっこ

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ヴェールの瞬きに安堵して笑み

鳥のさえずりを聞きながら卵をかき混ぜた。少し小さくあくびをして、光が漏れ始める朝に目を細める。

 

ベッドで唸りながら身じろぎをした彼に声をかける。

「カカシサマ、朝ですよ」

私の声に、返事をしてゆっくり身体を起こす。少しねぼけた瞳に笑む。こんな顔はあまり見れない。早起きは三文の得だ

 

「おはようございます」

 

私がキッチンでご飯を作る様子に瞠目していた。その反応に嬉しくなり「起きれました」小首を傾げてくすぐったい気持ちで笑った。私の表情を見てカカシサマは寝ぼけた顔で黙って「うん、イイネ」親指を向けた。

 

今度は反対側に首を傾げて何がいいんだろうと、考えた。何にお気に召されたかわからないけれど、喜んでるのでよかった。

 

幽霊は数日寝なくても大丈夫。

だけれども、人の生活と同じように一日にちゃんと寝る習慣をつけると朝起きれるようで。わたしは昼前まで寝てしまい、朝 里のために働いているカカシサマの為に朝ご飯を作って差し上げられない事に悔しさを感じていたが。遂に起きれました。

 

 

「カカシサマ、お弁当とかいかがですか」

私が作った、鮭とご飯とみそ汁の朝ご飯を食べながらそっと聞いてみるといいねそういってとても嬉しそうに笑ってくださったので、私は顔を綻ばせ朝早くに作ったお弁当箱を広げ彼に見せた。

言葉を失い、うっうっ、お昼ご飯まで作ってくれるなんて俺感激ダヨ。と、泣いたふりをみせた。

大げさな、そう言って苦笑いをする。嬉しそうに朝ご飯を頬張る姿を見て笑ったが、突然重要な事を思い出した。

意を決して握っていたお弁当を少し指に力を入れて口を開いた。

 

「あの——」

「先輩入りますよ」

 

突然開かれたドアに私たちは驚いて顔をそちらに向ける。そこにはカカシサマがいつも着ている格好と同じものを着ている方が立っていた。

 

突然の来訪者に私は驚きすぎて声も出なかった

だ、だれ?

勝手に入って来た?

 

私が驚いている様子を見て、カカシサマは彼を親指でさして「いちか、あれテンゾウ、俺のこーはい」簡単に説明してくれた。

 

テンゾウさん。

私は脳内で彼の名を反芻させる。玄関に立っていた彼は、こんな時間に彼の部屋にいるわたしをみて、その手にもっているお弁当をみて、そのお弁当を見せているカカシサマを見てすぐさま何か答えを導きだして固まってしまった。

 

「お、お邪魔しました。」

そう言ってすぐに踵を返そうとした彼に「テンゾウ」カカシサマは困ったように声をかけ眉を八の字にさせた。テンゾウさんは少し顔を赤いのやら青いのやら「すいません、なんかお邪魔したみたいで」

優しそうな、人当たりの良さそうな。猫目の彼をぽかんと見つめた。

 

「お前も食って来なさいよ、まだ出れないからさ」

同じ服装からきっとテンゾウさんも同じ忍というものなのだろう。制服みたいなものだと、仮定してみた。

 

後輩というけれども家に自由に入れる仲を見ると恐らくかなり親しい仲なのではないかな。

テンゾウさんをぼうと見ていると

「急で悪いんだけど、用意できるかな?」そうカカシサマに声をかけられ慌てて今用意しますとみそ汁を少しだけでも温めようとコンロに火をつける。

 

「え、え!?そんな悪いですよ」ばつが悪そうに、一歩下がった彼に「お和食嫌いですか?パンも一応もありますが」腕まくりをして、首を傾げ聞いてみる。

彼は私を見ると固まってしまって、視線を逸らしながら「わ、和食でお願いします」顔を真っ赤にさせた。

人様の家で突然朝ご飯になるとは思っていなかったのかな。突然の赤面に思わず苦笑いをした

 

先ほど焼いた自分の分の鮭と野菜を皿に盛りつけてご飯とお味噌汁をなれた手つきで差し出す。

「どうぞ、召し上がってください」里を守りに行く正義の為の朝ご飯。私はなんだかまるで国の偉い人の為に雇われた専属シェフのような気持ちでご飯を出した。

 

「い、いただきます」

彼は頬を染めながらご飯を口にする。美味しいですか?恐る恐る訪ねてみるととても美味しいですと優しい笑顔を向けてくれた。その笑顔にほっと安堵して私は笑顔を返した。

 

「俺の妻、美味しいご飯でショ」

彼の冗談に反論するも前に少し食い気味で「とても美味しいです」と返事を返してくれた。妻だなんて冗談本当に信じてしまっているので私はカカシサマをじっと見つめた。

カカシサマは彼を困ったように見ていた。カカシサマもまさか妻だなんて信じると思っていなかったのだろう。

 

 

「カカシサマいつ結婚なさったのですか」

弁解しない彼に呆れて口にするとカカシサマとテンゾウさんも笑顔を消して私を見やる。

「結婚願望無いの?いちかは」

「それどころじゃないというのが、本音です」

 

私たちの会話を聞いてテンゾウさんは箸をぽろりと落として私とカカシサマを交互に見て、冷や汗をたらりと流していた。

驚いている彼に私たちは苦笑いを零す

「時間は、大丈夫ですか?」時計を見やり彼に声をかけると本当だ。そう言って徐に立ち上がり着替えをし始める。

 

ようやく我に返ったテンゾウさんはわけがわからないといった表情でご飯を進めていた。あまりにも理不尽な姿に思わず同情した。私はカカシサマが食べた食器をシンクに置いて、先ほど着ていた彼の寝間着と自分の服を洗濯機に入れてお洗濯を始めた。

 

カカシサマは、食べ終わったテンゾウさんと玄関に並び行ってくるねと私に振り返った

「いってらっしゃい」笑顔で彼を見送った。テンゾウさんにも微笑むと彼は終止納得のいかないような顔をしていた

 

「あ、カカシサマお弁当です」

「ありがとね、」

 

今日もがんばってください、そう言った私をテンゾウさんは目を見開きわたしたちを交互に見比べて「本当に結婚してないのですか、」凄く複雑そうな瞳をぶつけられ、私が苦笑いをした。

 

カカシサマに首根っこを掴まれてそのまま部屋を出て行ってしまった。

 

米粒ひとつも残さない綺麗な食器を2つ片付けて微笑んだ。

 

部屋を開けて空気の入れ替えをした。お洗濯日和になりそうで笑む。

 

 

食器洗いを終えて息を吐く。二人とも綺麗に食べてくれたので作りがいがある。暫くしたら洗濯機が私を呼ぶであろう。

それまで、少し外を眺める。

見慣れてきた里を見て肩の力を抜きゆっくり息をする。見慣れた景色は飽きる事なく私の心を満たしてくれていた。

 

このお家にきて何日か経ったけれども色々な事があった。慌ただしく毎日を送っていると一日が早くてあっという間に過ぎてしまう。その一日が前の私には考えられないほど充実していて、いとおしくなる。

 

「ん、?」

屋根の上をひょいひょいと飛んでいる、見覚えのある黄金の瞳に、2つのしっぽ。

あれは、

 

「しらたまー!」私が窓から身を乗り出し声をかけると耳をぴくりと反応させてこちらに気がついた。

「いちかの姉御!」

嬉しそうに軽やかなステップでこちらにやってくる猫に私は笑顔がこぼれる

 

「こんなとこにいたのですね、」

しらたまは窓辺に器用に降りて来て、私に会うととても嬉しそうな声で鳴いた。私のうしろのカカシサマの部屋を見て、

「なるほど結界を張っていましたか。道理で」そう言ってしらたまは不機嫌そうにシッポを揺らした。

結界?彼の部屋を見渡すもいつもと同じ光景で首を傾げる。

ぜんぜんわからない

 

 

「この前は、誘ってくれたのにごめんなさい」

「いいってことですよ、皆も出迎えてくれると思うので来たくなったら言ってくださいな」

 

感謝をして、笑んだ。猫と話すのってこんなにいやされたものだっけ。その事実さえ、非日常的なんだけれども、心底幸せをかみしめながら拳を握った。拳をやわく解いて優しく撫でると嬉しそうに鳴いた。

 

「ねえ、色々聞きたいことがあるんだけれど教えてもらってもいい?」

「お易い御用ですよっ姉御」

 

この前は昔の事を聞ける折角のチャンスだったので、心底あのチャンスを後悔した。したのだけれどもついていく事はできなかったので、仕方ないと自分に言い聞かせていた。

 

しかしまた訪れた好機に胸が高揚する。落ち着け、落ち着くんだわたし。大きく息をすってからゆっくりはき、黒猫をじっと見据えた。

わたしの迷う紅い瞳を、猫は黄金色の瞳で見つめ返す

 

「あなたは私の生きていた頃の、友達なの?」

 

この懐かしい感覚は、頭で考えるよりもはっきりしていて。この猫ちゃんは恐らく古くからの私のお友達だ。

証拠はないが確信がある。

猫は、黄金色の瞳に私の姿を写す。紅い瞳が猫の人の中で揺れる。

 

「残念ながらおいらはその後」

猫は残念そうに呟いて、視線を少し逸らした。もしも生きていた時の事を知っていたら、色々とちぐはぐに思い出している記憶を確認したかったのだけれど。生きている頃の記憶を知らないのでは仕方が無い。質問を変えよう

 

「私が視えたり視え無かったりするのはどうして?」

駄菓子屋で出会った少年、カカシサマの生徒さんに、今朝のテンゾウさん。皆、私を視ているのだ。一人で噴水広場にいたときは誰も私に気づかなかったというのに、ここ最近しっかり視られている。

その感覚は本当に幽霊なのかと自分を疑ってしまうほどだった。まあ、紛れも無い幽霊なのだけれど。

私の真剣な瞳をしっかりと受け止めた猫は暫く考えた後に、しっぽをゆっくりと揺らして、鳴いてみせた。

 

「うわさをされたり、人として気づいてもらえると視えるようになるんだと思いやすよ」

 

猫は得意げに答えてみせた。

噂をされたり、気づいてもらえるようになると?思いも寄らぬ答えに少し言葉を失う。

そうだ、視えている彼らが私に気づく前には、傍に居た人誰かしら私に気づいていた。

駄菓子屋の少年は、おばーちゃんが私に声を掛けてくださって少年が私に気づいた。

カカシサマの生徒さんは、カカシサマが言葉を濁し誰かいるのか?そう思って私を視ようとしたからだ。気づこうとしたのだ。

テンゾウさんが部屋に入って来たときに、カカシサマは私に彼を紹介してくれた。その言葉で、テンゾウさんは私を認識した。

そういうことなのだろう。

 

「でも、おばーちゃんやカカシサマは?」

カカシサマは声もかけていないのに、私をしっかりと視ていた。おばーちゃんだって私の気配に気づき声をかけてくれた。火影様は私の気配はわかっていながらも、視え無かった。

猫はしっぽを地面に叩き付けて、暫く思考した後に私と目を合わせた。

 

「アイツは、わかりませんが そのご老人は死期が迫っていたのでは」

アイツ呼ばわりに苦笑いをして、あのおばーちゃんは入院予定前だった。たしかに死期が迫っていた可能性がある。わたしは慎重に頷いた。

 

「死期が近くなると視える者も増えます。」

なるほど。すごく深くなっとくしたような気がした

幽霊は死の存在。その存在は、死に近くなった者こそ視えやすくなる。たしかに、そう聞くと可笑しい話ではないかも。

視え無くなったのは、恐らく死期が遠のいたからだ。あの時は寂しかったけれども、視え無くなったということはおばーちゃんがこれからまだ生きてくれると思うと嬉しかった。

 

「あとは、感じるけど視えない人だっています。」

それに当てはまるのが恐らく火影様なのだろう。自然と気づく人たちというものは、感じやすい人、死期が近い人か。

 

そして、それらとは全く関係のない他の人でも、誰か私に話しかけてくれるとそこに私がいると認識すると、気づき確認される。

ようやく解けた謎に感嘆の息を漏らす。

 

「ありがとう!しらたま物知りね」

「なんのなんの」

得意げに呟く猫に私は微笑む。恐らくしらたまの知っている私は既に死んでいた訳なので、私の境遇状況について詳しいのだろう。こんなにも心強い友がこんなに近くにいたとは驚いた。

暫くして洗濯機の音が部屋に響き、徐に立ち上がる。洗濯物を窓辺に干すと猫は家に入ってきた。

「アイツのにおいがぷんぷんしやすぜ」

いやそうに呟くもわたしの匂いが混ざっているからまだマシだと、恐る恐る足を踏み入れて床に寝転ぶ。その様子に笑んだ。

 

私に出会ってからどんだけ探したか猫の長い話が始まった。その話を洗濯物を干しながら聞く。

カカシサマが張ったという結界の所為で今まで私を見つけられなかったのだと悔しそうにしていた。あちこち歩いては、屋根を歩き、子供に遊ばれボロボロの毎日だったらしい。

そんな猫に思わず同情して牛乳を差し出すととても嬉しそうにたいらげた。

 

もうひとつ気になっている事があった。

私たちはどうやって出会っただとか、どんな仲だったのか。しらたま本人に興味が出て来た証拠だ。どきどきとする胸を押さえて口を開こうとした。

 

 

コンコン。

扉が突然叩かれた。

聞き覚えの無いノックに私は身を固くした。郵便物は時々窓から小鳥が持ってくる。あまりにもかわいすぎて最初戸惑ったのも懐かしい。

この家を誰かノックしてきたりすることは無かった。

私はどうするか迷ってじっと息を殺して扉を見つめた。

 

だれなのだろう。

身を固くした。

 

 

扉の向こうから「テンゾウです。」と控えめに聞こえた声に慌てて玄関に向かう。

知っている声と朝覚えたばかりの名に安心して扉を少しだけ開ける。そこには、朝と同じ人が立っていて、微笑む。彼も少し笑顔を浮かべてくれた。

 

「お仕事終わったんですか?」

「ええ、はい。」

私はもう少し玄関を開けて彼と対面する。改めて彼の顔を拝見すると、少し疲れれたいた。お仕事がんばってるんだなあ

 

 

「今朝、ごちそうになったのにバタバタしてお礼も言えず」

「いえいえ、とんでもありません。おつとめ、ご苦労様です」

作ったのは私だが、食費はカカシサマ持ちだ。私が偉い顔できるわけではない。それに、今日のお仕事に少しでも貢献できたのかと思うとほんの少しだけ誇らしい。

 

おつとめ、ご苦労様。

その言葉はカカシサマも頬をそめて喜ぶ言葉。私がテンゾウさんにそう言うと、彼は頬を染めてかれは照れくさそうに笑った。やはり、同じ様子に笑った。

 

「では、自分はこれで」

彼は後ろを振り返って帰ろうとする。驚いた。

わざわざそれをいいにだけ来たのかな?律儀な人。こんな丁寧な人がいるなんて世の中捨てたもんじゃないと思う。

わざわざありがとうございます、そう言ってお辞儀をしようとするとふと、彼の服のほつれが目に入る。

 

「テンゾウさん。穴が、」 そう言うと彼は自分のベストを見た。ジッパーが真ん中あたりで浮いてしまって服とくっついていない。少しだけ空いてしまった穴に、彼は恥ずかしそうにして照れて笑った。 このまま帰るのも恥ずかしいでろうに。これくらいの穴なら直せそうだった。

 

「よければ直しましょうか。」

善意の気持ちで言った。彼はとても驚いて「いえ、そんな」恐縮しきってしまった。あまり無理強いは好きではなかったけれど時間はさほど取らない自信があったので「 すぐですからよかったら」扉を開けてかれを招き入れようとした。

ばつが悪そうに申し訳ありませんとお辞儀をして部屋に足を踏み入れた。挨拶だけで帰られるよりは気分がいい。たしか簡単ソーイングセットがあったはずと記憶の隅にあった記憶を取り出す。

 

窓の端に座っていた黒猫が一声鳴いた。その声につられてかぶりを上げた。

 

「かえるの?」私の問いに低い声で鳴いた。2つのしっぽをちらつかせて窓から出て行った。その猫を追いかけるように窓から身を乗り出して「またおいで」そう言うと猫は振り返って嬉しそうに鳴いた。

また明日来てくれるといいな淡い期待をしてそのうしろ姿を見つめた

 

「野良猫ですか?」テンゾウさんはベストを脱ぎながら言った。猫に声をかけている姿をどう思われているか考えると恥ずかしくなり濁して窓から身体を離した。

見覚えのあるソーイングセットが、私の手に収まって一安心する。見つかってよかった、よくやった私の記憶。

小さな袋から小さな針を取り出して座って糸を通す。頑丈につけたいから二重の糸で縫おう。

 

「今朝は、とんだ勘違いをすみませんでした」

突然話しかけられ、頭をあげた。 かんちがい。それは、テンゾウさんが私たちの事を夫婦だと勘違いしてしまった事だろう。思わず苦笑した。

「いえ、あれはどう考えてもカカシサマの冗談が過ぎていたと思いますので…」カカシサマの冗談は思わず最近は呆れ返ってしまう。真顔で言ったり、笑顔で言ったりするので時々冗談に聞こえないときがあるから困る。

 

「お二人とも、本当にご夫婦みたいでつい信じてしまいました」

ぷすり。私は軽く指を指してしまって小さく息が詰まった。

そ、そうですか?私は頬を染めてしまった。ご夫婦みたいと言われて照れない訳は無かった。

少しの沈黙が降りて、口を開くのを憚れた。先ほど刺した傷が微かに痛み始めてきた

 

「カカシサマからお話は聞きましたでしょうか」

わたしが、幽霊でカカシサマに監視目的として此処に置いてもらっている事。その事をテンゾウさんに話しているのか。そう聞いた。

視線を下げ「にわかに信じがたいですが」小さく口にした。

 

「ご夫婦だなんてそういう素敵なものには程遠いですよ」

自嘲を含めて言った。

思わず夫婦なんて言われて喜んでしまった自分を戒めるために、そういう綺麗な素敵な関係には程遠すぎると自分だと再確認するように、彼に言った。テンゾウさんは、目を伏せた。

 

朝はカカシサマが私に声をかけてくれたからテンゾウさんに気づいてもらえて、視えたんだ。

一人ではなかなか気づいてもらえない異端者に私は苦笑せざるを得ない。

 

「終わりました、どうぞ」

針をちまちまと動かしてようやく完成した。ぽっかり空いてしまっていた穴は塞がれ、しっかりとチャックがくっついていた。他もほつれがないか確認したが、大丈夫そうだった。

嬉しそうにお礼を言って、ベストを着た。彼は塞がった穴に安堵していた。

 

「あの、これのお礼といってはなんですが何かあれば手伝わせて下さい」

おずおずと言ってくれたテンゾウさんに驚いた。そんな。私は恐縮してしまって短く答えた。

それに、手伝いの手伝いだなんて。

 

「ごちそうにもなりましたし、何かがあれば、ですけど」

少し困ったように笑った彼に、何か手伝いたいとカカシサマに以前申した自分と重なった。腕を組んで考えた。そういえば、冷蔵庫は野菜がそろそろなくなりそうだった。それに、しらたまに人に気づいてもらえるコツというか。そういうものを教えてもらったけれども一人で買い物はまだ慣れないし、不安だ。今までは人に気づいてもらえない私は、カカシサマと一緒に行ったり買って来てくださったりした。

 

「買い物につき合って頂いてもいいですか?」

少し明るくなった表情でもちろんです、と嬉しそうに笑った。私としても凄く助かる。つられて笑った。

そうか、今まで気がついてもらえなかったのは私が話しかけようとしなかったのか。お買い物でも、あの噴水広場でも。

カカシサマたちがきっかけになって私と話している姿を見て「ああ、気づかそこにいたのね。」と錯覚する、というわけなのね。そして、もう居るとわかっている方にはいとも簡単に普通に視えているのだ。ごく一部に視え無くなる人もいる。そういう事だろう

不思議な体質、心の中で呟いた

 

 

 

店が並ぶ商店街に繰り出し、欲しい野菜を口にして店主さんに声をかけた。いつも店主さんには気づいて貰えないが、気づいてくれてあいよ!とトマトを袋に入れてくれた。

しらたまの言う通りだった。

 

 

買った野菜を両手に持ってくれた。私も持つと言ったが、男の役目ですよ。持とうとした私の手は空を切った。頼もしく笑う彼に、男の方だと痛感して少し恥ずかしくなる。

 

「テンゾウさんはお和食、お好きですか?」

頬が熱くなったような気がして、ごまかすように話しかけた。私の問いににこやかに頷く

「今朝のご飯はとても美味しかったです」思いもよらぬところで褒められてしまって少し視線を逸らした。わたしの作ったご飯が人に喜ばれるとこんなにも嬉しい事なのか。

 

そっと、視線を上げて「夕飯もご一緒しますか?」聞いてみた。彼は、私の小さな身長から見える(恥ずかしさで)揺れた瞳に思わず言葉をなくす。「...悪いですよ」弱々しく呟く彼にそこまでいやがっていないことに安心する。

 

「カカシサマも喜ぶんじゃないでしょうか。」

あの部屋で三人食卓を囲むのが今から楽しみでカカシサマではなく私が喜んでいる。その様子に気づいたテンゾウさんは眉を八の字にして「何から何まで」今夜の誘いを受けてくれたようだった。

 

 

「お仕事は大丈夫ですか?」今朝のように早い時間から明日もあるのだろうか。そう思って聞くと夜遅くからある事を聞いて驚いた。「大変ですね」気の効いた言葉が出ず、ありきたりな感想を述べてしまった。

彼は仕方ないですねと苦く笑った。

 

「お仕事あるのに、来て頂いて平気ですか?」

自分から誘っておいて不安になってしまう。本当は家に帰ってゆっくりしたいのではないか。誘わない方がよかったのだろうか、そう不安げに見上げると彼は面喰らって少し視線を逸らした。耳が少し紅い。

 

「美味しい夕ご飯の為なら喜んでいきますよ」

屈託なく笑ってくれて、安心した。が、少しプレッシャーがかかる。「美味しいもの、だといいんですけど」これから本日2回目の出勤を前にする方のご飯、手は抜けないと拳を握る。

 

「そんな、とてもご飯美味しかったですよ、!」

突然の大きな声に私は目を丸くさせた。「ほんと先輩がうらやましいです」続けて悔しそうに言う彼に驚いて声も出なかった。

うらやましい、そんな言葉を言ってもらえるなんて嬉しくて。彼の言葉を脳裏に反芻させて視線を下げる。きっと私の頬はいつもより紅い。

 

「す、すみません、」

突然の大きな声に彼は照れくさそうに小さく言って。

「い、いえ」

私の返事も思いも寄らぬ言葉に驚いてしまい、小さく言った。

 

 

 

 

部屋にたどり着いて、彼は荷物を置く。床に置いた際にけっこうずっしりとした音に驚いて不安げに見る。視線に気がついた彼はへっちゃらですよと頼もしく笑った。

カカシサマも難なく持ってしまって私がいかに非力な女だと再確認する。テンゾウさんもカカシサマも嫌な顔一つせず持ってくれて優しいひとだ

 

お礼を言って、冷蔵庫に野菜をしまう。しまってから麦茶を取り出して、小さな机を前にして床に座っていた彼に差し出す。流れた汗を拭っていた彼は、それをありがたそうに受け取った。クーラーのスイッチをあの無くした時から場所を決めた。その場所にあったリモコンを取ってスイッチを入れてから洗濯物を取り入れる。

 

夕日が、洗濯物を赤く染めていた。少し紫がかっている里の光景に思わず手を止める。

空が紫で、オレンジで、赤くて、息をするのを少し忘れる。

その下に皆寂しそうに別れているおなじみの光景に笑む。

噴水広場で何度も見た光景は、ここにいてもさほど変わらない。

 

「綺麗ですね」

麦茶を手にし、私の隣に並んだ彼に驚いて肩を揺らした。私とおなじ光景を見て目を輝かせていた。その姿に私は何も言わず、もう一度視線を下げた。

以前見たものより、人は小さくなってわかりづらい。

それでも里が、寂しく見えて「またあした」そう言っている気がした。

 

 

「いつも、羨ましく思っていました」

私は、夕焼けに思わず口を開いた。

カカシサマの後輩さん。それだけで警戒を解いてしまうのは少し無防備な気がしたけれど。思わず、夕焼けに口を開いたのだ。

 

「またあした、そう寂しそうにする暖かい口約束が」

 

いつも、羨ましかった。皆の優しい笑顔に妬む事無く怨霊にならずに済んだのかもしれない。

嫉妬等の羨ましいではなく、あこがれによく似た羨望だった。

 

 

「僕も小さい頃は夕方にまたねと言うのが寂しかったです」

頼もしい彼に似合わない言葉に少し驚く。

「いまでは、簡単にできない口約束になりましたけどね」寂しそうに笑う彼の横顔にひっかかりを感じる。

明日を約束できないとはどういうことなのだろう。

 

「でも、いちかさんと、明日を約束したいです。」

息を飲んだ。カカシサマや、その後輩のテンゾウさん。その方々がお国を守っているシノビという組織に入っている事しか知らず仕事内容は知らない。

彼の重たい言葉に少し感づいてしまったような気がした。命をかけて守っている。

明日さえ約束できずに。

その仮説に、私は今言われた言葉がどれだけ重たくしっかりとした約束なのか驚いてしまった。

少し、竦んだ。

だけれど、カカシサマの力になりたい。その後輩さんにも、がんばって欲しい。そして、私の小さな寂しさを振り払おうと、羨ましがっていた口約束を彼はしようとしてくれている。わたしのちっぽけな小さな寂しさの為に彼にとって難しい約束をしてくれようとしている。

 

「やさしいひと」

そう言って少し涙を目に溜めて、彼を見上げた。彼は、夕日に照らされて赤くなっていた。その赤さが私の所為だとは気づかず、お礼を述べて笑んだ。笑った時に、涙がひとしずくだけ落ちた。

カカシサマの後輩さんは、とても優しい方でした。

 

 

「わたし、この景色が凄く好きで」

目の前に広がる赤く染まった光景に手を広げて「この里の事好きです」少ししか触れ合っていない人たちやこの光景含めてそう言った。

言ってから里を守る人だと言う事を思い出して「な、なにも知らないですけどねこの里のこと」思わず知ったような口をきいたことを訂正し直した。テンゾウさんは優しく微笑み「そう言ってくださると、僕たちも守っている甲斐があります」そう笑ってくれた。その優しい笑みに何もできず「おつとめ、ご苦労様です、」苦し紛れに言った言葉に「いえいえ」彼は笑んだ。

 

 

 

外が暗くなってきて相手の顔も見辛くなってきたので、電気をつけた。

明るくなった部屋は、時計を明るく照らしてカカシサマがぼちぼち帰ってくる時刻を知らせてくれた。私はご飯を作るのが遅いので、そろそろ手をつけないと間に合わなくなってしまう。

 

「少し時間かかってしまいますがゆっくりしていて下さいね」

エプロンに手をかけ、縛りながら声を掛けると彼はぼんやりと私を見つめていたので不思議に思って手を止めてかれを見つめ返す

「どうかしました?」私の顔に何かついているだろうか。あまりにもじっと見られたので聞き返すと、我に返った様子で照れた様子で慌て始めた。その様子に首を傾げる。

なんでもないと、慌て始めた彼にますます首を傾げたが、教えてくれる様子は無かった

 

「僕も手伝いますよ」

そう言ってくれたのはとても嬉しいが、この狭いキッチンに2人立つのは少し厳しい。しかし彼の善意をお断りするのも申し訳ない。私は云々と呻く。

「じゃあ、まず、今日の献立を決めましょうか」

私は指をひとつ立てて提案した。冷蔵庫をのぞくと、茄子やオクラ等の夏野菜がある。

「何がたべたいですか?」できれば美味しいものを二人に食べさせてあげたい。

 

 

「先輩和食好きですから、和食ですかね」

「テンゾウさんは何が食べたいですか?」

 

まっすぐそう聞くと、彼は私をじっと見てそれから真剣に考えた。

「いつも冷たいものや麺ばかりなのでしっかり食べたいですね」具体的な答えで安堵する。

やはり和食でがっつり食べれるものを作ろう。今日買って来た野菜を冷蔵庫から出す。

 

野菜の肉巻きと、筑前煮と、なすのみそ汁、かな。

なすのみそ汁は3日~4日おきにだしてあげるとカカシサマはとても嬉しそうにしてくれる。好きなものも毎日食べると飽きてしまうし、ほどよい頃合いで出してあげると喜んでいる。

 

「みそ汁なら僕でも作れますよ」そう言ってくれて助かった。

では、お出汁を取るころから始めようとし、水を沸かしてもらい沸騰してからこんもりと鰹節を入れようとするとぎょっとされた。

「僕、いつも昆布で出汁取ってるので、鰹節ってこんなに入れるんですね」と驚く彼に笑って、私が逆に鰹節からしか取った事がないです。そう言った。料理一つでたくさんの方法が、また面白い。

茄子をあらかじめ切っておいて、出汁がとれた頃に茄子を入れてお味噌を出す

 

「テンゾウさん、みそは何色派ですか?」

「僕は白ですね」

「カカシサマと一緒なのですね」

 

朝もさっきも、部屋に躊躇せず入る様子を見てきっとテンゾウさんはよくカカシサマのおうちに来られ事を確信していた。朝も何のノックも無しに入ってきたし、きっと仲がいいのだろう。

 

筑前煮もできて、次は肉巻きを作る作業に映る。買って来た野菜を小さく切ってそれを肉で巻いて、小麦粉をつけるとカリッとして美味しい。

たしか小麦粉は頭上にある棚の奥の方にあった気がする。

必死にてを伸ばしてようやく届く場所に棚がある。それのもっと奥。

冷や汗を垂らしてたなの奥を見つめる。

ジャンプして届くかな。

真剣に考えていると、隣から思い切り吹き出す音が。

 

その音につられて視線を向けると、テンゾウさんが可笑しそうに肩を揺らしていた。「わ、笑いましたね」きっと私が身長低くてとれない様子を見られていたんだ。途端に恥ずかしくなり睨みつける。

テンゾウさんは謝りながら私が探していた小麦粉は自分が取ると言った。私は不服な気持ちでオネガイシマスと言った。

 

奥の方にてをやって手探りで探し当てている様子を横でじっと見る。もう少し右の方かもです、そう言って私も右の方に移動して、彼の肩とぶつかる。テンゾウさんは、暖かくなった左腕に少し頬染めた。そんな様子には全く気づかない私は彼が探し当てている小麦粉をじっと待っている。

 

「あっ」

彼の突然の切羽詰まった声につられて頭上を見上げる。上棚の奥に普段使わない皿が何枚かあって、小麦粉がその間に挟まっていたようで。小麦粉を引っ張った際に皿が崩れ私めがけて落ちて来た。

一瞬理解するのが遅れ、迫りくる鈍器に思わず目を固くつぶり、衝撃に備えた。

ぐい、と誰かに引っ張られた。

驚き目を開けてしまっても焦点が定まらず目の前にあるものがわからなかった。しかし、暖かい事だけわかる。

しばらくしても衝撃がやってこず、恐る恐る状況を把握しようと視線を彷徨わせる。

私はかばうように引き寄せられ彼の肩口に収まっていた。

近い距離に私は頭がショートする。

 

(え、ええええ)

一瞬頭の中でパニックになった。

テンゾウさんの右手は小麦粉を持って私をかばうように私を抱き、左手には落ちてこようとしたお皿がしっかり掴まれていた。

皿が落ちて来て、私をかばう為に抱きしめられるような格好に、暖かさに心臓が破裂しそうだった。

少し土の匂いをさせる彼に息がうまくできず、身を固くした。

 

テンゾウさんはほっと安堵した溜め息を吐いて、自分の手の中にいる私を見た。

「もう、大丈夫ですよ」にっこり笑った彼に私は小さな声で視線を逸らしながらお礼を述べた。

私の様子に少し固まり、自分たちの状況をやっと理解したテンゾウさんは顔を真っ赤にさせて右手に小麦粉。左手にお皿をもって思わずてを上げた。

解放された私は少し居たたまれない気持ちで離れる。

 

「す、すみません思わず」

思わず。

その続きが。

その謝っている理由に更に恥ずかしくなり、首を振るのがやっとだった。微妙な空気が流れた。

小麦粉もとれたし、お皿も割れなかった。助かった。「ありがとうございます」お礼を述べると眉を八の字にさせて笑った。

しかし、手早い救出だった。皿が落ちてくるまでまるで長い時間があったかのような流れだった。落ちて、私を引っ張って、皿も割らず掴んだ。一瞬ってこんなに長かったかな?頭を抱えた

 

「テンゾウさん、火!火!」

頭を抱えているとみそ汁を煮立たせてしまった。私たちは慌てた様子で、火を一度止める。それから目を合わせて、苦く笑った。

 

 

 

「テンゾウさんの好きな食べ物ってなんですか?」

「クルミです」

思いも寄らぬ言葉に私は驚いて、一瞬動きを止めてしまった。

「く、クルミですか?」ええ、クルミです。いい笑顔で言い切った。

く、るみ。料理名が出てくると思ったら思いも寄らぬ食材名だったので驚いてしまった。クルミの料理は何かあったかな。思想を巡らせて、くるみ料理を思考するが頭の中ですぐに出てこなかった。

 

「いちかさんの好きな食べ物はなんですか?」

「卵料理が好きですね〜あと甘いもの」

 

そんな他愛の無い話をしていると、玄関が開いた。その音に驚いて振り返った。帰って来たこの家の主は私とテンゾウさんの姿を見て少し目を見開く。

「テンゾー?なんでいるの」不思議そうな顔をしていた彼に「おかえりなさい、カカシサマ」言葉をかける。脱いだ靴を置いて、私を見て優しく笑んだ。

「お邪魔してます」フライパンで肉巻きを転がしながらテンゾウさんが振り返ってそう自分の先輩に言った。

 

状況が読めていないカカシサマはとりあえず着替えようと思ったのか何も言わず服を着替え始めた。ご飯は既に炊いてあり、すべての料理を皿に盛りつけカカシサマとテンゾウさんがすぐ食べられる状況を作る。テンゾウさんも手伝ってくれていつもより早く準備が整った。

 

 

「テンゾウさん、手伝って頂いてありがとうございました」

心からそう告げると、優しい笑みで私に振り返る。狭いキッチンでも2人立てるのだと新しい発見があった。それに、助けて頂いたし。何から何までお世話になったのは私だったかもしれない。優しい笑みと絡んでお互いゆっくり笑んだ。

 

「なんかさ、君たち仲良くない?」

驚いて「そうですか?嬉しいですね」素直な言葉を口にするとテンゾウさんも良かった良かったと頭を掻いて笑んだ。

わたしたちの様子をじっと真顔で見つめているカカシサマ。私もテンゾウさんも穴があくのではないかと思ってしまうほどだった。

 

 

 

「君たち、俺が居ない間に何かあった?」

「「え??!!」」

 

 

思わず私たち二人で反応してしまった。

突然の言葉に私たちは驚かざるを得ないのだ。

何かあったかなんて。

思わず先ほどの温い温度に赤面してしまった。これでは、何かあったといったようなものだ。

「特にこれといった事はありませんでしたよ」テンゾウさんは冷や汗を垂らしながら笑み「カカシサマ、ご飯に致しましょう」私は箸を差し出しながら笑んだ。微妙な空気にわたしたち全員居たたまれない気持ちになった。

 

 

 

今日の夕食は手伝ってくれたおかげで、間に合う事ができて一安心だった。恐らく手伝ってくれていなければ、間に合っていなかったかもしれない。少しハプニングがあって驚いたものの、あれもテンゾウさんがいなかったらと思うとぞっとする。

明日を簡単に約束できない身、瞬時に皿から身を庇えたテンゾウさんに不思議な気持ちが募る。

 

 

「シノビというのは、どんな集まりなんですか?」

テンゾウさんと出会って少しずつ感じる違和感。

そして、後輩という存在が現れシノビというものが漠然としたものから、本当に存在するというのはわかった。けど、まだ曖昧で理解していない。

つまり、興味がある。その言葉に尽きた。

 

「特殊な技を使って依頼をこなしたり、里を守ったりするよ」

彼の言葉を聞いても、まだ漠然としたもので頭を悩ませる。「技というのは」何なのだろうか。想像がつかない言葉に頭を更に悩ませる。カカシサマは私の様子に、暫く黙って見ていた。

見せた方が早いかな。そう呟いた

 

「こんなかんじ」

突如、煙と共に現れたもう一人のカカシサマに私は箸を落とした。

「わかった?」もう一人のカカシサマに話しかけられ私は頭がショートする。本日2回目だ。

カカシサマが、2人いる、!

 

「か、カカシサマが二人いる、!」

脳裏で反芻させた言葉をついに口を開いていった。すごく間抜け面だったと思う。私の反応にカカシサマとテンゾウさんは苦く笑った。

スコグ頭の悪い子がいうような言葉を言った気がした私は、少し恥ずかしくなって黙った

 

2人になれる超人的な技。私は記憶を辿る。2人になれる技、シノビという組織。私は一つのはっきりとした答えにたどり着いて言葉を失った

 

「もしかして、忍者の事なのですか?!シノビって!」

私は落ちた箸も拾わず、食事する事も忘れただただ驚く事しかできなかった。「そうだよ」あっけらかん肯定され言葉を失い項垂れた。

そういえば忍者っぽい格好していたかもこの方達。

 

「か、勘違いしていました、!」

気づかなかった自分が恥ずかしくなった。

シノビという集まりがあってそこに集ってみんなで作戦会議をしてお国を守るとかそういう方たちだと思っていて、いわばグループ名だと思っていました。あまりの的が外れていた答えに愕然とする。

 

「テンゾウさんも、忍者なのですか?」そう、恐る恐る聞くと彼はにっこり笑って同じように手を動かし煙と共に2人現れた。て、テンゾウさんまで2人。キャパシティを超えた私の脳はうまく動かなくなっていた。

4人に囲まれ私は忙しく視線を彷徨わせ、ぐるぐると頭が煮えたぎったようにヒートしていく。

 

 

「あ、あの、ご、ごはんもう2つご用意した方がいいのでしょうか」

「いりませんいりません」

「面白い反応をありがとう」

 

 

 

いつの間にかいなくなった2人の姿に驚いて元通りの3人の食卓にほっと安堵の息を吐いた。

瞬時に身体が動いた理由、明日を約束できない理由がやっと繋がった気がして、すっきりすると共に胸の内で不安ができてしまった。

怪我が伴う危険な仕事をしている人たち。そんな方達だったとは思っても居なかった。

 

2人はごちそうさまと言って食器を片付け始めた。落とした箸の事をようやく思い出して、替えの箸を用意して食事を再開させる。一人の食卓になってしまった。

シンクに向かった2人は私のうしろの方で任務がどうとか話をしている。

危険な、死を隣合わせた仕事だったなんて。そんな方の家にいて、私はのうのうと家事をやっていたなんて。自分の能天気さに呆れてしまいそうだった

おかずがほとんどなかった。よく食べてくれたようなのでほっと安心した。

 

 

「うちの新妻みたいな同居人いいでショ」

「カカシ先輩本気で羨ましいです」

「あのエプロンいいよね」

「思わず声も出ませんでした」

そんな会話がされているとは気づかず。

 

 

私が食事を終わりシンクに食器を持っていこうとすると、テンゾウさんが「ではそろそろ」と玄関に向かった。シンクに食器を慌てておいて彼を見送る。

 

「テンゾウさん、今日はありがとうございました。」私の言葉に首をふって、こちらこそご飯美味しかったですと屈託なく笑った。

その笑顔に心が温かくなり「朝、一緒の時間がありましたらその時はぜひ朝ご飯を。」私も笑い返した。

彼は礼を述べてそれから黙った。

黙って、私を見ているものだから、不思議に思って視線を合わせる。

 

「明日は無理ですが、またいつか」

恐らく夕方の口約束の事だろう。私は思わず綻んで大きく返事をした。

ぱたんとしまった玄関をじっと見つめた。カカシサマ以外とあんなに長く一緒にいて話をしたのは初めてだったな。彼が先ほどまでいた場所を見つめていた。

 

「いちか、お弁当ごちそうさま」

 

彼の声に我に返り、シンクに向かう。「いかがでした?」そう聞くと嬉しそうに笑った。

「美味しかったよ、」その笑顔に良かったと笑う。2人においしかったと言われて大満足だ。

弁当がシンクに置かれ、溜まった食器達に腕まくりをしてみせた。早いうちに片付けてしまおう。スポンジに洗剤をつけて、蛇口をひねる。

綺麗さっぱりに食べてもらった食器を洗うのは快感だ。しかし、作るのは大変、食べるのは一瞬とはよく的を得た言葉だと思った。

 

お皿を洗っていると、カカシサマは私のうしろに立った。

いつも私がお皿を洗っているときは小さな机を前にして床に座ったり、ベッドに腰掛けたりして本を読んだり考えに腑けている事が多いのに。

ゆっくり振り返った。彼の視線からは何を訴えたいか読み取るには不可能だった。何を考えているかなんてもってのほかだ。

 

 

「ねえ、2人で何かあったの?」

私の髪の毛をやわく引っ張って、私に聞いて来た。その仕草は何も知らないでいるのが不満だと訴えて来る子供の様でおかしくて笑った。

「何も無いですよ」

ただ、助けてもらっただけですよ。そう言えばいいのに、なんとなく言えない。まるで悪い事をしたような気分だ。そう家主がいない間に、悪い事をしてしまった気持ちだ。

 

「俺に言えないの?」

 

有無を言わせない言葉に私は身を固くした。お、怒ってる?そっと振り返ってカカシサマを見た。

カカシサマは、特に表情を変えず普段通りだった。しかし、なんとなく怒っている気がした。これは、まずい。私は直感的に人を怒らせてしまったと思った。

 

「物が落ちて来て、助けてもらいました!」

私は顔面蒼白し、素直に言ってしまった。言ってしまってから、たったそれだけの事だったのだと自分でも理解した。かくしていたのは、多分照れくさいあの感情を思い出すのを憚れたのだ。

きょとんとしてから「それだけ?」と聞いて来た。

そう、それだけなのです。頭を大きく振って頷いた。とにかく機嫌を損ねてしまった彼をどうやって機嫌を直してもらおうか考えていた。

彼に隠し事はできない。そう思った。

 

「ふーん?」

彼は私の表情を探るようになめるように見る。居たたまれない気持ちで視線を逸らした。無言で彼の穴が空くのではないか攻撃を黙って受ける。冷や汗がたらりと落ちて、視線を下の方にあちこちと彷徨わせた。

それにしたって、近いですカカシサマ。

思わず心臓が変な風に動きそうになるのをどうにかして止めようかと思ったがそんな願いはかなわず。

暫くしてから彼はようやく離れて「ま、いっか」あっけらかんと言葉を吐いた。彼が質問する相手を変えようと結論に至った事は私はしらず、いいの、?率直に思った。

 

解放された私は安堵して、シンクに向き直りお皿洗いの続きを始めた。謎の質問からは解放されたのだけれど、私の髪はまだ捕まっていた。やわく引っ張られる髪に先ほどの構って欲しいという子供のような空気ではなく、優しい空気に変わっていて私は安堵した。

そういえばさ。

皿を洗い終えるとカカシサマがふと言葉を口し、カカシサマと目を合わせて言葉を待つ。

 

「朝、何かいいかけたよね?」私をまっすぐ見て言った。

目をぱちくりとさせて思考をめぐらせる。

朝?

12時間以上前の事を思い出す。思考をめぐらす私を助けるように、「テンゾウがくる前にさ」彼は言葉をまた吐き出す。

思い出した。突然思い出した重要な事に私は息を飲む。

そうだ、彼に言おうと思っていた事があったんだ。テンゾウさんといたからすっかり忘れていた。

 

「あの、」そう言葉にしてから、私は言いづらそうにした

。心の準備ができていない状態で口にしてしまって後悔して、口を閉じた。

言ってしまっていいのだろうか。

 

恐る恐る彼を見上げる。

視線が合うと「ん?」優しげに微笑み、髪の毛を優しく撫でられた。

励ましてもらったような気持ちになって言葉を口にした。手をぎゅっと握った。

 

 

「かかし、さんって呼んでもいいですか?」

 

しらたまに、様はおかしいと言われてからずっと言おうとしていた言葉だった。

ずっと、言うか迷っていたけれど朝はなんとなく言えそうな気がして。

その私の小さな勇気を彼は時計が一周回っても覚えていてくれた。

 

少し驚いて「いーよ、いちか」優しく笑んだ彼にわたしもつられて安堵して笑った。

 

 

彼は私をいちかと呼んでくれることが多くなった。

前まではずっときみ、だったのに。そうして少しずつお互いを近づけていってるのならば、このあたたかい家族みたいな空気にわたしは気を許され始めているのです。カカシさん、少し近づいたような気持ちに照れて笑った。

 

「ありがと、かかしさん」

 

照れて笑うと彼は少し視線を逸らして顔に手を当てた。その様子に首を傾げて彼の顔色を伺おうとするけれども、ほとんど隠れてしまっている顔色からは何も伺えなかった。

 

「敬語、無い方が好き」

彼は率直な意見を私に述べて来た。やっと、様から抜け出したところなのに。「これはもう今更治せませんので」彼とくだけた話方なんてまだしようとは思えない。それに、彼は私の恩人だ。敬意を持って接したい。という心の表れが、このしゃべり方なんじゃないかなと思っている。

不服そうにしている彼を見て少し笑んだ。

 

「もう少し、仲良くなってからですね」

「うん、そーして」

優しい空気に私はそっと微笑みかけると、彼も優しい笑みで返してくれた

このあたたかな空気に、私は許され始めている。それが嬉しくてまた笑った

 

 

 

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