Fragment of the planet   作:えっこ

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惑わす甘い混沌

 

晩御飯の後片付けをして、明日の準備に取りかかる。

「明日もお弁当いりますか?」片付けたばかりのお弁当箱を棚にしまい、明日のおかずはどうしようかなと考えながら聞くと、本を読んでいたカカシさ、ま、んんっ、カカシさんはわたしの声に本から目を離し、頭をあげた

 

 

「ああ、明日非番でね」

弁当はいいや。そう言った彼の言葉に驚く。非番ということはおやすみ。

…おやすみ、貰えるんだ。

カカシさんもテンゾウさんも朝に行ったと思うと次は夜からお仕事なんていつもなので、相当忙しいと理解してた。

 

久しぶりにもらえたおやすみ、よかったですねと微笑む。まあね、なんて言って小さく息を吐いていた。久しぶりのお休みをどう思っているかまでは彼からは読み取れない。お休みかあ。「なにをなさるんですか?」もしも私が働いていて久しぶりの休日があったらなにするかな。腕を組んで考えて考えて、出た答えは、ゆっくり寝る、だった。

彼があまり寝ていない様子を見る限りゆっくり寝るのではないかな。そう思っていた私は不意をつかれた。

 

「一緒にデートでもする?」

 

突然の言葉に 思わず咳き込んだ。つばが変なところに入って苦しい。

私が苦しそうに咳をしていると流石に驚いて大丈夫?なんて言って表情が全然わからない。真顔だった。一人で取り乱した事に恥ずかしく思い私は咳払いをして気を取り直す

 

「…私よりも素敵な方とご一緒に行ってきてください」

からかわれた。その事実に気を取り直して私も当たり障りの無い言葉を並べてなんとかカカシさんの冗談を真面目に返した。

この人の言動はほとんど冗談と思ったほうがいい。彼と何週間一緒にいたけど、ここ最近そう自分で納得したところだ。

 

「僕にとって君は素敵な子なんだけだね」

 

冗談とも分かりづらい言葉を彼は言って私は思わず身を硬くする。相変わらず真顔でじっと私を見据えていた。 なんと反応したらいいかわからない私は結局「はは、」と乾いた笑みを浮かべた。彼もつられて似たように笑った。

彼の冗談は身がもたない。冗談とわかっていても、思わず照れずにはいられなかった。視線を逸らして頬を染めてしまった。ばっちりその照れた顔を彼はしっかりと見届けて

 

「かわいーね、その反応。」

 

私をからかうのだ。からかわれた。その事実にまたもペースは乱される。せめてもの反抗で機嫌を損ねた振りをしてそっぽをむいた。紅くなったほおが恥ずかしい 。そんな私の気持ちを見据えては肩を揺らしていた。大人の余裕に私は振りではなく、本当に機嫌を損ねた。

 

「またからかってますね、いい加減にその性癖治したらいかがですか」

「性癖じゃないから、これおじさんの楽しみだから」

「付き合ってられません。」

 

自分の布団を床にしいてさっさと眠りに落ちることにした。 こうなったらふて寝だ。赤くなった頬を布団で隠していると、思いっきり噴き出した音が聞こえた。まだ笑ってる。

私はしっかりと目を閉じて平常心を装っているといつの間にか睡魔に身を委ねていた。今日は、朝からしっかり動いてあちらこちらと歩き回って限界が超えていた。突然の睡魔は簡単に私を夢の中へ誘った

 

 

 

「んでさ、いちか。いちか?もう寝たの?」

驚き困っている彼のさびしいこえが部屋にひとり響いた。そっと私の傍までやってきて、布団をゆっくりと捲ると、すっかり寝入ってる私を見てやれやれとため息を吐いて優しく笑んだ。

じっと私を見据えた後に優しく指で私の頬をそっと撫ぜた

 

 

 

 

鳥のさえずりが私の鼓膜を揺らして目をそっと開けた。眩しい光に目を細める。のっそりと起き上がり、窓をぼんやり見て朝を確認する。早起きができるようになってからは習慣が身に付いたようで自然と朝に目が覚めるようになっていた。この家に来た当初はお昼前に起きていたのが習慣だった。

覚醒してない頭で今日のやる事を確認する。ぼんやりと遠くを見つめ、鳥が楽しそうに後を追って羽ばたいている姿をぼんやり見る。

 

「 おはよ、いちか。」

 

声につられて頭をあげた。ぼさぼさになった髪の毛の間から彼が悠々と珈琲を飲みながら私をベッドに腰掛けながら見下ろしている彼を見上げた。

目が覚めた。

一応、朝彼を見送る際は私の方が先に起きていたし、以前は私が寝ているときに彼は出かけていたので寝ぼけた姿は見られた事は無かった。よ、よだれ。ついてないだろうか。髪の毛、ぼさぼさだ。

視線を逸らしながら早足に洗面所へ駆けていった。

 

髪を耳のうしろで束ね、横に流す。髪の毛が長いので頭上に束ねると下ろした髪が首筋にかぶさって暑いのだ。横で束ねた方が涼しい。以前お買い物で揃えて頂いた簡単なTシャツと短いパンツをはいて、上からエプロンをする。このエプロンも、彼に買って頂いた。エプロンいるよね、そう言って有無を言わせず青いチェック柄のを勝手に買って頂いたというのが正しい言葉だろう。

 

「それで、今日はどうなさるんですか?」

エプロンを縛りながらベッドに腰掛けたカカシさんに声をかける。先ほどの出来事はなかったかのように努めて声をかける。いつも通りの私の姿にカカシさんはまたもや「おはよう」と言った。私の事を辱めているのか、ただ単純に返事を返さなかったからそう言っているのか意図は読み取れなかったが「オハヨウゴザイマス」十分に無かった事にはできず、彼にまたもや無防備な姿を見せてしまったことを悔いた。

しかし、覚醒しきっていない頭でちゃんと挨拶などできるものか。歯がゆいものを感じた。

 

「ん〜ゆっくりでもしますかねえ」

本を手に取った姿を横目に見て微笑む。久方ぶりのお休みを存分と味わうようだ。彼はお休みでも私はお休みではないので、朝ご飯の支度をし始める。

今日の朝ご飯は何にしようかな。きっと彼は和食がいいのだろうが正直飽きてきてこないのだろうか。レパートリーが少ない私はとっくに飽きてしまった。お料理の本とか欲しいなあ。そうすればあまり悩まずに済むのだけれど。

 

とりあえず、パンにしてみた。たまごサンドイッチと、野菜サンドイッチ。それからクロムッシュを作った。野菜スープも添えればとりあえず簡単ながらもしっかりとした朝ご飯が出来上がった。

その料理を珍しそうに眺めて「今日はパンなんだね。」手を合わせてからあっという間に食べた。

 

 

「前から思っていたけどお前は本当に料理が上手だね」

私は目を丸くした。おまえ、と言われた事が初めてで思わず驚いてしまった。キミか、いちかか。そう呼ばれたことしかなかった。

言葉の意味として褒められたわけだから、嫌悪感のあるおまえ、ではない。ということは彼が素で出てしまった口癖だろうか。少し気を許され始めているのだろうか。私の憶測でしかない答えだけれど、そうだったら嬉しいと思う。

「喜んで頂いて嬉しいです」

その空気に微笑んだ。

 

お皿洗いをする前に洗濯機を回す。

私の服とカカシさんの服は一緒に洗っていた。男物の下着を洗う事なんて最初からためらいは無かった。あまり現実味がないというのが本音だ。

きっと遠い昔私は同じように異性の誰かの下着を洗った事があるのかもしれない。…そんなことわからないし、確認しようが無いのだけれども。

洗濯機に洗剤を入れてから、食器を洗い始める。こまめに洗っているおかげでそこまで時間は取られない。

あとは洗濯を待って干すだけだ。

前日の干しっぱなしの洗濯物を背伸びをしてカーテンレールから外した。昨日は雨だったので部屋に干していた。なるべく外に干したいとは思うけれども、私の下着などは流石に家の中に干している。彼がかえってくる前にもちろんしまっている。

洗濯バサミから一つずつ洗濯物を外して、床に座り込む。

 

鼻歌を歌いながら綺麗に折り畳んでいく。

なんとなく感じた視線に思わず振り返ると掻かしさんと目が合う。はっきりあった視線に思わずびっくりする。

「う、うるさかったですか?」鼻歌が気に障ったのかな。手を口にあててどぎまぎした。「いや、そうじゃなくて。」私の緊張を解いて彼は目を細める。

 

「いいな、って思っただけだよ」

そう優しく述べた彼に疑問符を浮かべる。果たして何がいいのか。私は頭をひねった。わけのわからない表情をしていても彼は特に教えるそぶりもせずに優しい笑みを浮かべたままだった

 

 

 

「げげ、なんでこいつがいるでやんすか」

窓からのいつもの来訪者に振り返る。「しらたま、おはよう」うんざりした表情をしたしらたまはカカシさんをにらみながら窓から入ってくる。

しらたまは毎日私に顔を見せに来てくれている。家事の合間に邪魔されることなくお話しつつ家事もできてとても楽しい。

「お休みなんだって」猫に教えてやると不機嫌そうにシッポを揺らして彼から離れた床にお行儀よく座る。

「嫌われてるね」困り顔になったカカシさんを見て笑った。

 

「しらたま手、拭いてあげる」 

猫はおとなしくわたしに手を差し出す。しらたまはいつも外を歩いているので手足が土まみれ。そのネコちゃんを人様の家にあげるにはよくない。私の意図をわかって渋々と手を差し出してくれるのだ。

「むにむに」

「姉さん、肉球さりげなく触ってるでやんすよ」

「まさか、拭いて上げているんだよむにむに」

「はあ」

ネコに溜め息をつかれた私。しかしそんなことも気にならない程私は肉球に夢中だった。少し固くなった肉球がきもちいいですよ!しらたまさん!私の心の声が聞こえたか定かではないがいやそうに離れていくしらたまを解放してやった。ざんねん。

 

「姉御、暑いでやんすよ外は」

「うん、見るからに暑そうだね」

猫につられて外を見やった。凄く暑そうにお日様がギラギラと照っていた。

猫なで声で鳴いた猫に驚く。その声は聞き覚えがある。記憶の片隅にある聞き覚えのある声に思考を巡らせて、それからはっと息を呑む。記憶といっても最近の記憶だった。

 

ああ、そうか暑かったしおなかすいたからなんかよこせといっているのだ。思わず苦笑いをして「はいはい」冷蔵庫に寄る。私が分かった事が嬉しいのか嬉しそうにうしろをついてくる。

「はーいごはんだよ〜」お皿に牛乳を盛ってやると待ってましたとばかりに喉がかわいていたようで勢いよく飲む。その様子を肩肘に頬を置いて見つめる。かわいいな〜ネコ

頭を掻いてやると「姉さん構ってやるから後にするにゃ」「む〜」怒られてしまった。棚から煮干しを出してもう一つのお皿に少しだけ盛ってやると音に驚いて身構えたあとに自分の好きな匂いに気づいて煮干しにも食いつく。しらたまのかわいい姿に笑むと、しらたまはくちに煮干しを咥えながら「うまいっす姉さん!」そう言って嬉しそうにした。

 

「うんうん、よかったよかったちゃんとお食べ」しらたまにでれでれと破顔して、あちこちこっそりなで回すが特にお咎めがないのでそれをいい事に綺麗な毛並みに笑む。昨日は雨のなかやってきたネコをゆっくりお風呂にいれてやった。最初はいやがっていたけれどもとろりと気持ち良さそうにしたしらたまに思わず笑った。ネコは水嫌い、風呂嫌いだったはずなのにしらたまはそうではなかったらしい。

 

「仲良いのね」

低い声に驚いて、私はかぶりをあげた。一連の行動をずっと見られていたようで、しっかりこっちを見ていた。

しまった。いつものようにしらたまを溺愛してしまって、そのでれでれモードを完全に暴露してしまった。しまった。むにむにとかちぇーとか言ってしまった!

冷や汗を垂らした。何だろう、上司にネコ好きなプライベートがバレたような気持ちだ。でも、唯一救いなのがネコと会話ができることだ。もしネコがしゃべってなくてえ〜いいじゃん触らせてよ〜むにむに〜とか喋ってるところを見られたらぞっとする。

 

「そうっすよ姉さんおいらのこと大好きでやんすから!」

しらたまが突然カカシさんに喰ってかかった。食べ終えたのか満足そうにして口の周りににぼしのかすがやたらついていた。私の周りを一周回って「ね」そう言ったしらたまに「ね」微笑み返した。

 

カカシさんは本を置いて私の傍に寄って来て視線を揃える。傍によってきたカカシさんを見て不機嫌そうにネコは私のうしろに隠れた。

「俺にもご飯だよ〜って今度から言って」

「言えません何仰ってるのですか」

「ちゃーんとお食べとかむーとか」

「...、勘弁してください」

 

上司にプライベートを見つけられて脅されているような気分だった。お前は絶対俺にそんな言葉使わないってわかっているような口ぶりにまた機嫌を損ねるしかなかった。だって、本当だから

「おめーには使わねえよ、!」捨て台詞を私の背中からしらたまが言った。しらたま、凄くなんかかっこわるいよ。でも、凄くかわいいよ。ぐっと拳を握った。

 

私はネコと会話しながら洗濯物を干していた。わたしたちの会話に時々茶々を入れながらカカシさんも話に混ざっていた。穏やかな時間を過ごして私は笑んだ。

暫く時間が経った頃にカカシさんは徐に立ち上がった。彼が突然動くのでしらたまは警戒して身を堅くする。

「終わった?」

家事のことだろうか。ワタシは今日の晩ご飯の予定を立てていたところだった。冷蔵庫を閉めて、家事なら終わったのでこくりと頷いた。

 

 

「ほら、じゃあデート」

 

玄関に向かった彼に一瞬何を言われているのかわからず、静止していると隣で同じように静止していたしらたまが「行くわけないでやんす!」我に返って怒鳴った。その声で自分も我に返った。

、デート?もしかして昨日の話の続きなのか?混乱してその場を動く事ができなかった。

 

「じゃあお前は留守番ね」

しらたまにそう言ったカカシさんはどこか楽しそうで。しらたまを興奮させるには十分だった表情で「おいらもついていくでやんす!」結局ついてくる事になった。無言で私を待っている彼にわけもわからず彼に近寄る。

 

「エプロンはとっていきなさいな」

くるりと反転させられて、エプロンの紐を解かれた。その紐をカカシさんはじっと見つめていた。ついにエプロンの紐を解いてしまった喜びに歓喜していた事なんて私は露知らず「あの本当に行くんですか?」緩くなったエプロンをそっと取って、それを畳み膝を折って床に置いた。

うん。紛れも無い揺らがない言葉に私はなんというか実感が無く、不信感を露にした。本気なの?と疑いの視線を投げかける。彼はにこりと笑ってかわした。

 

「こんな格好なのですが。」

白いTシャツに短いパンツをはいて動きやすい格好をしていただけなのだ。じゃあ着替えたらいいと言われたがこれと変わらぬ服を持っていないかもしれない。スカートと言われたら、彼と出会った時から身につけていた白のワンピースしかない。

なんて。私お洒落をしようなんてして。まるで本当のデートではないか。

 

「やっぱりこれでいいです。」

そんな気持ちを押し込めてなんともさっぱりした普段着で色気も無いデートをしようと心に決めた。

 

時刻は夕方前で、日が一番近いところだった。昼とはちがうまた暑さに思わず眉を寄せた。私の傍を歩いていたネコが「暑い」さっそく音を上げた。それでもどこに連れて行くか不安みたいで意固地として私の傍を離れなかった。

「どこに行くんですか?」出て早々に暑さで体力を奪われていくのを感じて早速帰りたいと思っていた。

「君がきっと好きなお店」はっきりと教えてくれない答えに私はいつも一筋縄にはいかないと思い出す。私が質問しても必ず答えは帰ってきてくれない。

 

手伝うといった彼は、積極的に手を出す事なく見守ってくれている。

教師が板についているのだろう。うまい人間関係の距離の取り方に感嘆する。

 

 

 

たどり着いた先は木陰に隠れている、「甘味屋」

そこからはあまい匂いと新緑の匂いが混ざっていて夏の猛暑さえ忘れてしまいそうだった。「好きでしょ?」聞いているのではない、断定している。

彼の言葉に顔を上げると、木漏れ日が顔に落ちていて。自分の腕を見ると同じように木漏れ日が落ちていて。さっきと気温はさほど変わっていないのに、「素敵な場所ですね」なんて風情ある光景に感嘆の息を漏らした。

「気に入った?」私の顔を覗き込んできたので、「どうでしょう」彼を真似て質問に答えを言わなかった。でもしっかり笑んでいる私に彼は満足そうに笑った。

 

でもふと不思議に思った。私は甘味が好きと言った覚えはない。テンゾウさんに言った覚えはあるけれどカカシさんに言った覚えはない。

それに「カカシさん、甘いもの嫌いじゃないんですか?」

「どうして?」やはり答えではなく疑問を投げかけた。

 

「大学芋、一切手をつけなかったので... 」

以前出したかぼちゃの煮付けをほとんど食べなかったり、芋類はあまり箸が進んでいなかった。芋が嫌いなのか甘いものが嫌いなのか悩み、試しに大学芋出したら一切食べなかったので確信を得ていた。

 

「アレまさかわざとやってたの」

「はい」

私は悪びれる事無く真顔で頷いた。嫌いな物を聞けばいいだけのことだろうけど、素直に茄子のみそ汁が好きだから明日作ってと言わずそれとなく示唆させてくるような人だったから。素直に言うとは思っていなかったので日々観察している。

やられたな。彼は困ったように息を吐き出した。その大学芋を食べるか食べまいか相当悩んだらしい。食べないとわかっていたので残ったものをみてなんとも思わなかったけれども、彼は相当心をいためたらしい。

 

「せっかく作ったものちゃんと食べるのが礼儀でしょ」

しっかり私の作った料理達の事を考えてくれていたので思わず噴き出した。食材達にも慈愛満ちる人だと笑ってしまった。

 

「無理なら結構ですよ、?」

「俺はここのお抹茶が好きだからいーの」

彼のお言葉に甘えて甘味処の敷居をまたぐ。

外席に案内され、メニューに目配せしながらどれにしようか迷っていた。久しぶりの甘いものに目が爛々と輝くのが自分でもわかった。

 

 

「しらたま何かたべたいものある?」

「あんこ!」

「あなた本当名前にふさわしくないわよね」

 

猫は餅食べれないのではないか。慌てて喉に詰まらせたりしたら大変。でも伸びて慌てふためくしらたまの姿もみたい。ひとり妄想してちらりと猫を見やると私の考えていた事をわかったのかそっぽを向いていた。

「ぜんざい、かき氷、ぜんざい、かき氷」

指を彷徨わせて頭を捻らせた。どっちにしよう。しらたまはあんこを食べたがっているようだしだがこの暑い中ぜんざいを食べてしまうとその後が怖い。かき氷一択しか無いような気もするがあの甘い小豆が。あんこが食べたい。

「決めた?」

私の悩んでいる姿を楽しそうにカカシさんは見ている。どうしようと困り果てている私の顔を見て彼も「また連れてきてあげるから」そう言って困っていた。次の約束をされて私の心は決まった

「かきごおりで!」目をつぶってメニューを指差した。ぜんざいは、また来たときの楽しみにしよう。今度は雨とか少し肌寒いときに連れて来てもらおう。

 

隣でしらたまはあんこぉと嘆いていた。暫くしてやってきた抹茶かき氷に目を爛々と光らせ皿をもらい、少しわけてやると全身びくりとさせたあとに嬉しそうにかき氷をなめていた。初めての感覚に驚きながらもすっかり気に入ったようだ。抹茶のかき氷にのっていた小豆はしっかり猫の胃袋に消えた。

 

私が氷を夢中に頬張っていると「はい、あーん」抹茶の小さなどら焼きを差し出して来た。

突然の事に静止した。今日、何回目だろうか。

彼が頼んだのはお抹茶セット。小さな甘味が3つほどついてくるようだ。それの一つを私に差し出してくる。

どら焼きとカカシさんをめまぐるしく見比べ私は混乱していた。

あーん、ですって?!きっと私の顔は真っ赤だろう。

この差し出されたどら焼きをどうするか激しく悩んだ。からかっているのか、ただの残飯をよこしているだけなのか。...いや、前者だろう。後者ならばそっと渡してくれればいいのだ。

 

 

「しらたま、もらうといいよあんこ好きでしょ」

私は赤くなった頬を冷ますようにかき氷を頬張った。しらたまは少し目を輝かせたが、私と同じようにカカシさんとどら焼きを見比べた後に

「あんこに罪はねえ!」 走って逃げた。

逃げるしてまでカカシさんが嫌いなのね、しらたま。きっとあの子の心は揺れまくったのだろう。大嫌いなカカシさんと、大好きなあんこを必死に考えて居たたまれなくなって逃げ出したのだろう。

 

「ほら、はい」

すぐ口の目の前にまで差し出され私は戸惑う。甘い匂いが鼻をくすぐりごくりと唾をバレないように飲んだ。私は頑に口を真一文字に閉めると、「いいの?」そう言って引っ込められる。引っ込められると、人は惜しくなるもので。私は思わずその遠ざかるどら焼きを名残惜しそうに見つめてしまった。それをぶはっとカカシさんは噴き出した。思わず涙目になる

「ひどいです!」私は半ばうるませながら彼をにらんだ。彼はやはりからかっていた。「はい、どーぞ。」怒って口を開こうとした私にすかさずどら焼きを入れられて、思わず黙る。「美味しい」そう悔しそうに言うと彼は凄く満足そうに笑った。

小さなどらやきがまだ3つ程残っている。カカシさんは次のどら焼きに楊子を刺したのを見て私は冷や汗を垂らした。

 

 

「あれ?」

見覚えのある金髪と背が高い猫目の彼を目にして口を開いた。私の声につられてカカシさんも視線を向ける。

「あれ、テンゾウ達じゃない」

カカシさんの言葉に気がついた彼らはこちらを振り返った。怪訝そうな顔をして皆こちらを見ていた。ピンクの髪の綺麗な女の子は凄い形相でこちらを見ている。

「こんにちは」

遠くから手を振って声をかけると、認識され彼らは私に気がつきそれから顔色をかえる

 

「あ?!カカシ先生がデートしてる?!」

聞き覚えのある声とよく目立つ金髪に青い瞳。カカシさんの生徒さんがこちらを指差している。隣にはピンク色の髪をした可愛らしい女の子がこちらを見て驚いていた。

「カカシ先生が、女の人とデート?!」

相当驚いているようで私たちを見て微動だにしない。うしろにいたテンゾウさんが「失礼だろ」そう言って女の子も自分の失言に気づいて「ナルト、指差すなんて失礼よ」と隣の彼を叱った。

 

「お久しぶりです」

私の傍にやってきたテンゾウさんがまるで天使に見えて私は心底安堵して満面の笑みで助かったと思いながら挨拶した。その私の笑みにテンゾウさんはくらんだようだったが私は気づかない。

「ヤマト隊長、知り合いですか?」

金髪の男の子も傍にやってきて、ピンク色の綺麗な髪の子も傍に寄ってくる。

ヤマト?聞き慣れない名に疑問符を浮かべる。

「俺もこの前紹介してもらったんだ」テンゾウさんはちらりとカカシさんを見た。

 

「新妻ってね」

「「にいづまあああああああ??!」」

 

あ、天使じゃない。私は笑顔が固まった。テンゾウさんはこの前、夫婦と冗談を真に受けてしまったことが相当悔しく恥ずかしかったのか恐らく腹いせだろう。

カカシさんはテンゾウさんと視線を絡ませてにっこり笑っていた。どうしたらいいかわからず冷や汗を流してその光景からそっと視線を逸らした。

 

「ま、冗談だったんだけどね」

絶対復讐している。テンゾウさん、目が笑っていません。怖いです

なんだよ〜冗談かよ!もうカカシ先生ってば と二人嘆いている。その吃驚したと怒っている二人を余所にカカシさんとテンゾウさんは無言で見つめ合っていた。だから、怖いですって

 

 

「まあ、遠い遠い親戚でね。今うちで預かっているんだよ」

「いちかですよろしくお願いします。」

さらりと嘘を言って彼らに私を簡単に説明してみせた。慌てて彼らにかぶりを下げる。

 

サクラと名乗った子は可愛らしくも凛とした笑顔を見せた。その凛とした表情に見覚えがある気がした。かわいらしい子だ。微笑み返した。

金髪の子とサクラちゃんは何かひっかかりがあったようで突然二人で悩み始めた。視界の端で溶け始めたかき氷に気づいてあわてて食べる。食べ始めた私にどら焼きをカカシさんは差し出して来たが頭を振った。

「預、かる、?」

「カカシ先生の家に預かってるってこと?」

二人は理解してからそれからパニックになった。

慌ただしい2人にどこか傍観している私がいて、楽しそうだなと他人事に思った。妙に冷静になっていた。

 

 

「新妻じゃないんだよな?!あれでも先生のコレだったんじゃなかったのかよ!」

「え、先生の恋人なんですか?!」

 

興奮しきった二人に私は静かに首を振って「そんな筈ありません。」そうきっぱり言った。

「ちょ、いちか傷つくんだけど、て、ヤマト勝ち誇った顔やめてくれる」

 

私は溶け始めたかき氷の山を崩して忙しなく食べる。カカシさんとテンゾウさんが何か言っているのを余所に私はかき氷に夢中だった。

「これは、また厄介な」

私たちの関係をサクラちゃんはそう呟いた。ナルトとよばれた子は「なにがってばよ?」理解していなかった。私はもう誰の会話にも耳を傾けずかき氷に夢中だった。

 

「美味しいですか?」いつの間にか隣に座っていたテンゾウさんにそう言われてとても美味しいと笑んだ。

「すみません僕も抹茶セットを一つ」

「私かき氷」

「俺もかき氷!」

随分にぎやかな席になってカカシさんと視線を合わせて笑った。彼は眉を八の字にして苦く笑っていた。

 

「あなたは、ナルトくんだっけ?」

私は金髪の彼に声をかけた。ラーメン屋で出会ったときに名を聞かなかったのだ。呼ばれている名を恐る恐ると口にした

あれ、教えていなかったけ。カカシさんとその男の子は目を丸くしていた。こくりと頷く。

 

「うずまきナルトだってばよ!将来火影になる男だ!」

自信満々に答えた彼を見て、元気がいいなと思った。周りにこんなに元気に騒ぐ子はいなかったので、新鮮に感じなんだか元気を貰ったような気がした。

えーと、火影っていうのはたしか長様の事だから。この里を守るって事だ。冗談で言っているわけでもない、自信に満ちあふれた表情に私はひどく安心してこの里がこんなまぶしく笑う彼が守るのかと思うと胸の奥が熱くなり「頼もしいね」心からの笑顔で言った。

 

私の言葉に少し驚いてから、はなをこすって「へへ」照れて笑った。その幼い仕草に思わず胸がうずいた。な、なんだろうこの母性が揺れ動くこの男の子は。私は母親のような気持ちで彼に笑った。

 

 

「ねえ、いちかさん。カカシ先生がだめならヤマト隊長は?」

空になった皿を下げてもらうと、唐突にサクラちゃんはテンゾウさんを指差した。ヤマト隊長、?テンゾウさんに目を向ける。

あれ、私この前この人の事テンゾウさんって呼んだけどヤマトさんとも言うの?でもさっきカカシさんはわざわざ呼び名を変えていた。

私も合わせた方がいいのかな?テンゾウさんの顔をじーっと見て考えていた

 

 

「ヤマト隊長とはつき合えるかってことですよ」

 

思わず水を噴き出しそうになった。またもや変なところに水が入って、苦しい。そうか、このくらいの年頃になるとそういうお話は尽きないのね。

カカシさんからもテンゾウさんからも強い視線を注がれていることに気がつき身をかたくした。

 

「て、や、ヤマトさんとはそういうものでは」

テンゾウさんといいかけて言い直した。

こいだの愛だのそういう話は私とは無縁だと思っている。カカシさんが私をからかってくるのは初な私が楽しいのだろう。テンゾウさんは、カカシさんの後輩だから。私を気にかけてくれているのだろう。

この前、助けてもらった事を思い出して思わず赤面した。そう、後輩で、その人の任務の対象が私だから助けてくれただけで

 

「顔真っ赤ですけど」

サクラちゃんが間髪入れず突っ込みをしてきて思わず呻いた。あの体温を思い出すと思わず恥ずかしくなってしまうのだ。しかし変なタイミングで思い出してしまってみんな何か困った反応してるし。「違う、ちがうのですよ」慌てててを忙しなく振るが、左隣に座っていたテンゾウさんの視線が凄くいたい。ちらりと見るとなんだか照れてる、!

カカシさんは相変わらず真顔で何を考えているかわからないけれど視線が、痛い。この前テンゾウさんとの助けてくれた時の話はなんとかごまかしたけれどその話はなんだかタブーみたいだからどうにかバレないようにしないと、!

 

「カカシさん、その甘いどら焼きくださいな」話を逸らそうとしたが我ながら苦しかったと思う。カカシさんは満面の笑みで「はい、あーん」どら焼きを差し出して来て墓穴掘ったと思った。私は差し出されるどら焼きを目の前にしてもう涙目になっていた。誰か、この状況助けて欲しい。

 

「…厄介ね」私たちの関係をサクラちゃんはそう呟いた。ナルト君は「だからなにがってばよ?」やっぱり理解していなかった。

意を決してかれの手からどら焼きを奪って自分の口の中に運んだ。

 

そこへ抹茶セットとかき氷2つが現れた。ナイスです!少し遅かったけれどナイスタイミングでしたよ。配膳したお姉さんに私は「ぜんざい追加で」カカシさんに仕返しを試みた。

 

「んで結局どっちなんだってばよ?」かき氷をしゃくしゃくといい音をさせながら頬張るナルト君は結論を急いだ。

「だから、どっちでもないの」私は思わず拳を握ってナルト君に喰ってかかった。彼は興味無さげにふーん?と呟いた。私があまりにも大人げなく必死に口論する姿を見てカカシさんもテンゾウさんも同時に噴き出した。拳を膝の上で握り、口を真一文字にしておとなしくした。からかわれている、あそばれてる。心の中にダメージを抱えながら大人しくした

 

流石にかわいそうと思ったらしくサクラちゃんは話題を変えてくれた。他愛ない話に男の子達もなんやかんやと盛り上がり始めた。

女の子って、なんていいんだろう。私は涙を噛み締めてサクラちゃんを見やる。

夏の木漏れ日がサクラちゃんの髪の毛に反射して「綺麗」思わず呟いた。

私の呟きに彼女は気づいて、視線が自分の髪の毛だと気づいた。「羨ましい、桜の花みたい」綺麗な薄い女の子らしいピンク色にほれぼれとする。褒められて、照れたように頬を染めて歯を見せて笑った。なんとかわいらしい女の子か。

 

 

 

「いちかさんの髪だって綺麗」

そう羨ましそうに見つめられる髪の毛を見て、何もめかしこんでこなかった事にすごく後悔した。「俺もいちかの髪は綺麗だと思う」「僕も出会ったときからそう思っていました」「透き通って綺麗だってばよ」おのおのに褒められて私は萎縮する。

金髪のような色素の抜けた髪色はあまり好みではなかった。綺麗な桜色に染まっている髪の方が私の好みだ。

 

人に視てもらって、あまつさえ人に髪を褒められてしまった。初めての経験に思わず萎縮してしまった。「ちゃんとお手入れしとけばよかった」そう思って髪の毛ごめん、と撫ぜた。髪の毛に気を回している余裕がなく綺麗な髪の毛だとは私思えない。カカシさんの家には簡易な櫛しかなく、よくひっかかって涙目になっている。

 

「ねえ、いちかさん今度一緒に出かけましょうよ」

そんな私の気持ちを察したらしく、すこし毛先で絡まった髪をサクラちゃんは指で優しく解いてくれた。い、いま凄くイケメンだった。同性に思わずどきっとしてしまった。私の気持ちを考えてくれる反面、私と女の子トークがしたいと顔に書いてあったけれど。恋愛の話はちょっと困るけれど女の子特有の洒落た話は万々歳だ。こんなかわいらしい子とお出かけなんて楽しみだ。髪の毛を綺麗にするコツとか学びたい。私は笑顔を浮かべてぜひ。そう嬉しく答えた。

 

「身だしなみとかイロイロ女の子は大変でしょ、遠慮なく言って下さいね」

 

気を利かせてこっそり私に耳打ちしてきた。この子が本当の天使だと思った。その気遣いに歓喜余って彼女の両手をとって強く握った。幽霊に、女の子特有の一ヶ月に一回くるアレがやってくるかまだわからなかったのだけれど来てしまったらどうしようかと思っていたのだ。準備もあるし費用だってかかる。それからカカシさんにだって気を遣う事になるだろう。その事があっても彼女がいたら心強く本気で助かったと思った。

 

「それとも今から買い物に行きますか?」嬉しい誘いを受けて私は思わずすぐにでも席を立って向かいたいくらいの気持ちだったが、そろそろ夕方になる頃だった。晩ご飯の用意をしないとまずい。残念だけどまた今度と断りを入れようとする前に、カカシさんが先に口を開く。

 

「ダーメ、これから俺に美味しいご飯つくらなきゃだから」

 

そう彼が言うとその場にいた全員が心の中で舌打ちをしたことを私は知らない。

 

「いいないいなー先生ってばよ!」

 

ナルト君が興奮した様子でかき氷を飛ばしながら怒った。誰かに作ってもらえるなんて羨ましいってばよ!大きな声で怒りながらかき氷がどんどん減っていく。

彼の言った言葉に少しの疑問を持つ。家族に作ってもらえないの、かな?流石にそんな事を聞くにはぶしつけで黙っていた。

 

「わたしも食べたいなー」

私の顔をのぞきこんで、サクラちゃんはいたずらな笑みを浮かべて来た。少し小悪魔な上目遣いに私は珍しいものを見たような気分になる。いままで女の子にこんなふうに覗き込まれていらずらな笑みを浮かべられた事なんて無い。記憶、ないけど…

仲良くなりたい、と顔に書いてあるサクラちゃんに私は嬉しくなる。きっと、彼女は恋愛関係の話がしたくてたまらないとは思うんだけれども。それでも、女の子とお話できるかと思うと嬉しくてしょうがない。

 

「俺もたべたーい」

「僕もまた食べたいな~」

 

それぞれ口に何かつめながら言っている。おやつを食べながら夕飯を食べたいと言っている姿はすごく可笑しくて。その不思議な光景での要求に思わず笑ってしまいそうになるけれど、彼らが私を見つめて要求してくるものだから笑うわけにはいかなかった。困ってカカシさんを見やる。同じようにカカシさんは少し困った顔をして悩み始めた。

 

「ナルトの家でやろうか」

 

彼がそう言うと、ナルト君は一拍おいてから大きな声で驚いた。

「えええええ、俺んち汚いってばよ!」彼は自分の部屋の事を思い出しながら慌て始めた。突然家に行くよと言われたナルト君が哀れで「また、次の機会にする?」声をかけると、難しい表情をしてカカシ先生と私と視線を右往左往する。この機会を逃したら今日の夕飯はカカシ先生の独り占め。そう思ったらしく「片付けてくる!」慌ただしく席を立った。かき氷はいつの間にかなくなっていた。

 

「手伝おうか?」今すぐにでも向かおうとしているナルト君に私は慌てて声をかける。慌てている様子に、思わずつられてしまっている自分が可笑しい。「だめ!誰も俺の部屋に入っちゃだめ!」彼は俊足の足で帰路に向かった。その姿にみんなで苦く笑った。相当汚いのだろう。でも、夕ご飯食べたいんだな。

 

「そんなに食べたいのね」

サクラちゃんが呆れたように言った。私も同じ事を思ってとなりでくすくすと笑っている。

「あいつは家庭の味に飢えているからね」

カカシさんがサクラちゃんにそういうと、サクラちゃんの瞳は少し陰った。カカシさんの言葉に私は2度目の違和感。テンゾウさんも、少し目を伏せているので違和感がどんどん増していく。私がカカシさんの言葉に、彼をじっと見つめるとその視線に答えてくれる。

 

「あいつは腹に化け物を抱えていてね」

バケモノ。その言葉に私は一瞬、頭が真っ白になって腹の底から憎悪感を感じた。その不思議な感覚に、初めての感覚に。自分自身で驚く。

それ以上は何も言わなくなってしまって、カカシさんの瞳にも影が落ちた。

私に似ているといった彼の後ろ姿をもう一度見た。以前会った時もこうやって彼のうしろに視線を追った気がする。きっと、彼はさびしい思いをしてきたのだろう。家庭の味に飢えている。その言葉が示唆していた。

 

「ぜんざいです」

私の前に店員さんがぜんざいを置いてきた。私は頼んでいた事をすっかり忘れていて、一瞬呆けた。それからカカシさんにあーんの復讐をしようとこっそり頼んでいた事を思い出した。なんて、なんて小さな復讐なんだ私、!自分の小ささに驚いてぜんざいを見つめた。

 

「暑いのにぜんざい食べるんですか?」

サクラちゃんの率直な疑問がいまの私は心が痛い。そうなんです、復讐の為にこの暑いぜんざいを私は食べるのです。

いざ食べようとすると、足下に何か当たって思わず変な声をだしてしまう「ひぎゃあ」って言ってしまった。私の突然の大きな声に皆驚く。私は恥ずかしさでいっぱいになりながら足下によって来た黒猫をにらむ。「びっくりするじゃない、しらたま」そう言うと猫は猫なで声を出した。

このこ、ずっと傍にいたのね。そして、その声はぜんざいが欲しいのね。私は心底呆れ返って先ほどしらたまに取り分ける為に貰ったかきごおりのお皿に、あんこを乗せてやった。

 

「ずいぶん懐いているんですねえ」

不思議そうに黒猫を見つめられて私は曖昧に笑った。その猫は、いま、あんこ欲しさにわたしに寄ってきただけです。懐いてますが、あんこ欲しさにかわいさを振りまいているだけです。かわいいと思っています。

 

「熱いから気をつけるんだよ。」

「姉さん、少ないっす」

「あまり身体によくないからほんの少しだよ」

小さな声で非難した猫に怒る。分け与えてやったのに文句を言われた。「あら、喋るのその猫」「珍しい」そう言ってさほど驚いていない2人に私は瞠目した。この前しらたまはこのへんじゃ珍しくないとかいって全然珍しいじゃない。嘘つかれた。

 

「じゃあ私一旦師匠のところに行くのでまたあとでナルトの家で合流しましょう」

立ち上がったサクラちゃんが私をじっと見つめてきた。「何か、必要なものあったら持ってきましょうか?」そう言って気を利かせてくれたサクラちゃんに飲み込もうとしたあんこが音をたててわたしの胃に流れていく。なんて、いいこなんだ。私は感激して「ありがとうございます、!」またもや手を握りしめる。

 

「くし、借りてもいい?」

私は絡まってしまった髪の毛に先ほどから嫌気がさしていた。褒めてくれたのにこの髪が恥ずかしくて。サクラちゃんは私の気持ちを察してくれて了解と言って笑んでくれた。

 

私はふと、ナルト君が綺麗に食べていったかき氷の空っぽのお皿をみんなで見つめた。「あいつ、またちゃっかりと」そうカカシさんは困ったように眉を寄せた。

「じゃあ、ごちそうさまヤマトくん」

カカシさんはテンゾウさんの肩にぽんと手を置いて笑った。テンゾウさんは驚いて声が裏返る。

サクラちゃんは「あ、ごちそうさまです~では」走っていってしまった。ちゃっかりしている生徒達に大人の2人は苦く笑った。

いやですよ僕払いませんよ~と言ったテンゾウさんに私は思わず慌てた。カカシさんにいつものように払ってもらおうと思っていた私は、2つも頼んでしまった。「も、申し訳ありません!私、2つも頼んでしまって、えと、あの!」思わずどもってしまった。身を小さくして恐縮してしまう。

 

「仕返しの為に頼んだ物がテンゾウさんにご迷惑がいくとは思わなくて」

「え、仕返ししてたの」

「何ですか仕返しって」

 

テンゾウさん...!私は涙目になりながら訴えかける。私のうるんだ瞳に彼は身じろぐ。「カカシさんってば私をからかうんです」告げ口あいている自分で後悔をした。少し情けないく恥ずかしい

「何したんですか」テンゾウさんは呆れてカカシさんを見やる。カカシさんはそっぽを向いて「食べれないケーキを分け与えてやっただけだよ」嘘じゃない説明をした。

なんとなく察したテンゾウさんは溜め息を吐いた。わたしも同じように溜め息を吐く

 

「テンゾウさんすみません、こうなるとは思ってなくて」

本当に申し訳ないとうるんだ瞳で彼を見上げた。カカシさんにちょっとした仕返しのつもりだった。その矛先がテンゾウさんにいったと思うと申し訳なくて仕方ないと思った。私の視線に耐えきれないとでもいうように逸らした彼はしばらく視線を逸らした後に作った笑顔を見せた。

「大丈夫ですよ、これくらい」

そう言って少し頬を染めた彼に視線を落として行く。そう言ってくださった事にどんどん申し訳なさが募っていく。さっき嫌っていってたし。

あまりにも私が気にするのでテンゾウさんは何か思いついたらしく悪戯な顔で私を見た。その顔に思わず身を堅くする。

 

 

「先輩がした逆の事をしてくれたら、いいですよ」

 

満面の笑みで言った彼に私は凍り付いた。にこにこと笑う彼に乾いた笑いを浮かべて「ご冗談ですよね?」冷や汗を垂らしてかたまった表情で笑った。

「僕の言った事を実行すればいやでも申し訳なさがなくなると思いますけど」

否応無しの言葉に背筋が凍る。あれ、いつも優しいテンゾウさんが、なんかすごく、こわい。さすがにいつも優しいわけではないのか。そうよね、里を守る人がいつも優しい笑みを浮かべてやさしくしているわけないものね

 

彼の怖い笑顔から視線を外すと、無表情のカカシさんと目が合った。なんか、こっちも、こわい。なんか、なにしようとしてるのお前達。って顔してる。その視線から外して、足下にいるはずのしらたまを見やった。丸くなって寝ていた。おなかいっぱいで寝ていた。

「嫌ならいいですけど、僕もそこまで申し訳なさそうにされるのも嫌なので」

少し気を落としたように言ってみせたテンゾウさんに私はもうぐうの音もでなかった。

ずるい、この人、とってもずるい!大人ってずるい!

 

自分のぜんざいを見つめた。熱そうに湯気をたてて食べられるのを待っている。テンゾウさんも、それがやってくるのを待っている。

カカシさんの仕返しが、テンゾウさんの仕返しに変わっただけだと思えばたしかに、心苦しくはなくなる。私の頭はとうとう煮えたたぎってきて。頭で考えるのをやめて腹をくくった。

首を曲げてぜんざいを見つめる。長い髪がさらりと、落ちる。意を決してスプーンでぜんざいをすくってみせた。熱そうに湯気をたてているのを見て少し冷ます。口を近づけた際に髪の毛が邪魔で耳にかける。かけなおしてもまた滑り落ちていくので、耳にてをかけたままぜんざいに2度息を吹きかけて冷ます。

そっとテンゾウさんを見るとほんのり染めた頬に私もつられて赤くなる。口を真一文字にしているので、小さく「あーん」と言った。そう,言うしかなかった。そう言うと彼は恥ずかしそうに視線を逸らして。目を閉じて大きく口を差し出した。その口にそっとスプーンをくわえさせる。彼が綺麗に食べたのを見届けてゆっくりとスプーンを取る。その動作にひとつひとつ瞼に焼き付いてしまって、

 

「ごちそうさまでした」

ほんのり染めた頬で。満面の笑みを浮かべられて私は視線を逸らした。かなり、恥ずかしかった、!!!!

「おごって頂きアリガトウゴザイマス」

この恥ずかしい空気と、ひとり無表情で終止みつめられ続けた私の精神はズタズタになっていて。ぜんざいを無言で食べた。食べ続けた。

「姉さん、おはようでやんす」のんきに私に挨拶してきた猫を私は抱えて無言で食べた。私の顔色に不思議に思いながらも猫は私の体温に身を委ねた。

 

 

 

 

「姉さんそういえば、何か他に思い出しました?」

猫は私に抱かれながらふと思い出したように言った。そう。何も思い出してない。ゆっくり頭を振った。私の表情に猫は残念そうにして「ま、いつか思い出しやすよ」明るく言った。その言葉に私は少し救われた気がして、猫に礼を述べた。

 

「そういえば、しらたまの言う通りだったよ。あなたに教えてもらって本当に感謝している」

以前、私は人に気づいてもらえると皆に視えるようになるという話をしらたまにしてもらった。おかげで私は買い物もひとりでできるようになって少し生活しやすくなった。「お役にたてて光栄っす」猫は嬉しそうに鳴いた。

 

「ん?何か気づいた事でもあるの?」

カカシさんに報告していたことを忘れて、丁寧に説明した。うわさをされたり、そこに存在していると気づいてもらえると視えて貰える事。それから、死期が近い人に私は視えるようになることを説明した。

「カカシさんが何故私が視えたのかよくわかりませんけど」そう最後に付け加えた。

 

カカシさんは無表情で私の説明を受けて、そうか。そう小さく呟いた。

わかっても、すべてはわからない。一度ですべて分かってしまえばいいのに。

 

「じゃあついでに聞きたい事があるんだけどさ」

カカシさんが私ではなくテンゾウさんに振り返った。テンゾウさんも一緒に私の話を聞いていたのだが、突然自分に話をふられて驚いていた。

 

 

「お前、この前俺の部屋でいちかに何したの」

「ぶっ!な、何もしてませんよ何ですかその聞き方は」

慌てふためくテンゾウさんを見て私は哀れに思った。彼は私を助けてくれただけなのに。こんな言い方をされているテンゾウさんを哀れに思った。だけれど助け舟を出すには私には役不足で。おとなしく黙っていた。空になったぜんざいを見つめ、空を見上げる。そろそろ暗くなりそうだ。

 

 

「そろそろ出ましょうか、」

私の提案に彼らはそうだな、と空を見上げた。席を立ったテンゾウさんに「ごちそうさまでした」そう言うと「いえいえ、」そう満足そうに笑った。その満足そうな笑みに私はなんかひっかかりを感じた。先ほどの事を思い出して満足そうにしているのを見て、複雑な気持ちだった。

それでも、申し訳なさそうにした私に対しての優しさだと思った。やはり、優しい人だと思った。複雑だったけど。

 

料理はナルトくんの家で作る事になるだろう。でも恐らく調味料も食材も無いだろうとカカシさんは言い切った。どうやらラーメンばかり食べているらしい。

「調味料はうちから持っていこうか」

頷いて、カカシさんの家に2人で向かう。テンゾウさんはこれから少し用があると言って別れた。しらたまも暗くなったので森に帰っていった。

私はカカシさんと二人肩を並べて歩いた。すこし、彼を見上げると思わず目が合う。その事に驚いてしまった。その絡んだ視線にカカシさんは逃がさないとでもいうように口を開いた。

 

 

 

 

 

「ねえ、いちか。テンゾウの事すきなの?」

 

彼の質問に私は息をするのを忘れそうになった。唐突に何を言ってるのだこの人は。ゆっくり頭を振った。あまりの唐突な質問に驚きすぎて私は頭を振りながら混乱していた。

好き、という感情に私は記憶を無くしてから今まで深く考えた事はない。考えた事がなかったから、テンゾウさんに助けられて感じた体温だとか、あーん、とご飯を相手に渡したり渡されたりする行動が異様に恥ずかしくて逃げたくなる。経験がないからこそ、もっと恥ずかしい。その記憶がないためだと、思いたい。記憶を思い出しても経験なかったら私、立ち直れそうにない。この歳で純情っていう言葉があまりにも恥ずかしい。

 

「わたし、いま、自分の事がいっぱいいっぱいで」

唐突にこの人は何を言っているんだろう。そんな気持ちだった。自分を知るのがいっぱいいっぱいで恋愛だとかそういう事を考えている余裕がないのだ。恥ずかしがったりしてしまうけれども、だから好きとか。そういう話ではない。

自分の気持ちを素直に言うとカカシさんは私を覗き込む。

 

「俺、いちかのこと好きになっていい?」

 

突然の言葉にとうとう頭が真っ白になって暫く声が出なかった。言っている言葉が理解できなくて脳裏で丁寧に反芻させた。彼が言おうとしている事を必死に理解しようと頭をフル回転させた。どんなに考えても彼の意図を読み取れず、とにかく口を開いた。

 

「だ、だめだと思います。」

 

とにかく、彼がからかっていってるかもしれないので否定した。からかっていても、本気でも好きになってはだめだと告げた。私の答えにカカシさんは「どうして」詰め寄って来た。思わず一歩引いた。

「私より素敵な方はいるし、わたし、幽霊ですよ」私の中ではこれで参るだろうと思う言葉だと思った。幽霊なのだ、そう口にして寂しい気持ちになるがその心を隠す。幽霊と言う言葉を使えば流石に身をひくだろうと思っていた。しかし、私の言葉に彼は表情を変えず「そんなに大きな問題は無いんだよね。」そう言って私の手首を掴む。そのやさしく強い温度に驚いて言葉をなくす。

「触れるし、実体あるようなもんだし何も問題ないよ。」彼の言葉に思わず眉を顰めた。私の顔を見て彼は驚いて目を見開いた。「そんな顔するんだ」そう言われて私は今ひどい顔をしていたと気づき視線を逸らす。何が問題あって、何が問題ないか考えてしまったらいつの間にか眉を寄せてしまっていた。

 

「きっと結婚気分になっちゃったんですよ。錯覚ですよ」私は苦く笑って彼が言おうとしている言葉を否定した。

「うん、ずっと閉じ込めておきたいとは思うね」だが彼は私の話は全く聞こえていなかったのか自分の気持ちを押し通そうとする。だめだ、なんか話通じてないヨ。私は彼に掴まれた腕をやんわり取って一歩引く。

怯えた表情で彼を見やる。正直、こんな事を言っている彼は私にとって不思議な人としか思えなかった。

 

「俺のこと嫌い?」

そう聞いてきた彼の瞳は何を訴えて来ているかわからない。でも、いつもより輝きを失っているのはわかる。それが、彼が隠す悲しさなのかまだ私にはわからない。

「嫌いではないです」私は慎重に言葉を選んでそっと言う。「じゃあ、好き?」そう言われて私は何も言えなかった。人としてまだ理解し合っている途中だというのに、恋愛に繋がる事が飛躍しすぎた事だとしか思えない。

 

「どうして、急にそんなことを」私の頭は混乱していた。ここまで言われて本気なのか冗談なのかわからず、どう出るか迷っていた。どうしてって言われてもね。彼は離された手を顎の上に乗せた。

 

 

「守ってやりたいとか、俺のものにしたいとか、おかえりと言うキミの笑顔に惹かれたとかかな。顔、真っ赤だよ」

そこまで言われて顔を赤くしないわけない。私はなんと言っていいかわからず手を握りそれを口にやって、少しでも隠す。

 

 

「そうやって照れちゃうところが、かわいい」

 

勘弁してほしいと顔を手で覆った。ここまで辱められて冗談だったと言ったら私は本気で怒るだろう。かつてないほどに。

私の手首を先ほどよりももっとやわく触れて手を顔から離される。彼の少し力強い瞳にたじろぐ。「冗談ですか?」私の弱々しい声に「まさか」そう笑って答えた。

 

「わたし、自分の事なにもわかってないんです」

思わず、下ろされた手のひらを強く握った。自分の事を理解すらしていないのに人を想う余裕など無い。私に欠陥している記憶のせいで自分を成り立たせるのがやっとで。時々自分が怖くなる。どれが本物の自分なのか、嘘の自分なのか。昔の自分はどんなだったのだろうか。そう思うと不安になる。

カカシさんは私の髪の毛をそっとすくって、私と視線を合わせる。

 

「前のキミが気にならないほど今のキミに夢中ってことだよ」

私が理解していなくても、今のいちかを理解している。そう聞こえた。私は一瞬心が軽くなるのを感じた。彼の優しい瞳に射られ、私は言葉を失う。やさしい空気にまたも身を委ねそうになる。このまま私を理解してくれる方に身を委ねてもいいかもしれない。記憶がなくても困らないかもしれない。私は唾を大きく飲んだ。

 

「ね、いいよね?」

 

彼が髪の毛をやわく引っぱる。少し強引な彼になんとか視線を逸らして、現実に戻ってくる。

「も、もうそれ許可必要なんですか?拒否権ありませんよね?」

反発すれば反発するほど口巧みな彼に勝てるわけないとわかってしまう。このままでは彼の思惑通りだ。それを阻止しようとするも、頭で阻止する理由が見つからなくてどんどん頬が熱くなる。幽霊だと言っても彼は触れるから大丈夫だなんて言って私の言葉をまるで聞いてくれやしない。ほかになんとか理由を探す。必死に理由を探す自分があまりにも滑稽で。

 

「一応許可とっておこうと思ってね」

理由を探す私を見抜かれているようで。私は視線を逸らして心を見られないように隠す。を逸らしても無駄だということはわかっている。それでも、そんな熱い瞳に私は応えられない。

 

「だめです!」私が視線を逸らしながら拳をつくって大きな声で否定すると「なんで?」そう言って覗き込んでくる。視線が絡んで、慌ててはんたいがわを向く。「なんでも!」これでは本当に子供だ。私は自分の行動に本当に情けなくなってくる。

 

 

「何がそんなに嫌か言ってくれないと俺だって引き下がれないんだけど。」

 

彼は私との間合いを一気に詰めて、近くなる顔に私は言葉がもう出ない。というか、出したくない。私はなんとか顔だけでも背けようとすると、彼の長い人差し指に顎を掬い取られて彼から逃げられなくなる。必然的に絡み合う視線に私はもう涙をためるしかできない。「その顔いいね」そう言ってかれは不敵に笑んだ。その彼に反抗してにらむ。

 

「触れるから問題ないって。私に触れられるから、好きになるんですか?」

触れるから問題ないといった彼に引っかかっていた。彼は、私に触って何をしようとしているのか。触るために私を好きになるのか。そう捉えてしまった。

「誤解だよ。」そう間髪いれずに彼は私の考えを否定する。

 

 

「触りたくなった時に、問題がないねっていう意味だよ」

 

カカシさんは私の髪の毛を口布ごしに口元にあてて、まるでキスするような仕草に私はもう動けなくなる。怯えて逃げようとすると肩を掴まれてそれも許されない。

「大丈夫、取って食おうとしているわけじゃないんだから」

全速力で逃げ出したくなったが、逃げたところでわたしの遅い駆け足ではすぐに追いつかれた。何も言わず私の反応を伺うカカシさんにめまいがするほど頭をフル回転させて言葉を作ろうとする。恋愛を考えた事がない私にとっては容量オーバーすぎる内容にめまいがしてしまう。

 

「わ、わたし、カカシさんの冗談嫌いなので、!」

私から出て来た言葉は彼を拒否する言葉だった。ようやく、それらしい理由が見つかって私は安堵した。

あなたのソコが嫌いなので、私はあなたの事を好きになれない。そう言おうとした事を読み取ってくれると信じてとりあえず緊張を解いた。

 

「冗談じゃなきゃいいってことね?」

そう言ってかれは私の腰を持つ。一気に近くなった距離に私は吃驚して彼の胸を押す「違います!断じて違います!」すぐ目の前にある彼の温度に私は身体を強張らせた。

私の気持ちが冗談かどうかの話ではなく、あなたの冗談を言う性格が嫌いと言っているのに理解していない!

彼の胸を押してもびくともしない。絶対に顔を見ないようにして頭をしっかり下げて、彼からなんとか逃げようとする。

 

 

「ま、そういうわけだから宜しくね」

突然離れた彼に私は不信の目を向ける。なにがよろしくで、なにが冗談で、なにが本当で。私の頭は混乱しきっていた。

彼の表情は読み取れない事が多くて何を考えているかさっぱりわからない。私に好きになっていいと聞いて結局何がしたかったのだ。多分、反応を見て楽しみたかっただけなのだろう。やっぱりからかわれている。その事実に私は憤慨した。

「俺の事好きになってもいいよ?」余裕釈然と言った彼に冗談なのかわからない。そんな彼に私はやはり機嫌を損ねる方法しか見つからない。「私、あなたの事好きになりそうもありません!」そう言っても、彼は面白そうに笑うだけだった。

 

 

 

 

 

一度カカシさんの家に戻ってから、必要なものを持って食材を買ってナルト君の家に訪れた。少し疲れきった顔のナルトくんは嬉しそうに出迎えてくれた。その笑顔に私は心が暖かくなる。部屋に入るとサクラちゃんとテンゾウさんはまだいなかった。部屋に備え付けのクローゼットがなんだかすごくものがはいっているように見えた。多分。あそこに。いろいろ。そこまで考え、お疲れさまでしたとナルトくんを心の中で誉め称えた。

食材を買っていたら遅くなってしまった。すぐに用意しようと持って来たエプロンや調味料を出して、準備にとりかかる。

彼のキッチンには、カセットコンロ一つだけだった。これは頭を抱えた。作る順序をよく考えないとこれはまずい。

今日は人数が多いので時間も取られず、たくさん食べれて、お出汁で簡単にできるものを何個か作ってしまおう。私は献立を決めて意気込んで作る事にする。

 

「何作るんだ?な、な」無邪気にうしろからはしゃいで聞いて来たナルト君に笑みがこぼれる。待ちきれない様子だった。

「たいしたものじゃないけど、たくさんつくるね!」私は大きな鍋に水を入れてナルトくんに振り返る。たくさんという言葉が嬉しいのか目を輝かせて、すぐ傍に椅子を置いて私の様子を見る準備をしていた。その姿に思わず苦く笑った。

 

鍋に火をかけてその間に違う料理の準備にとりかかる。まず、炊き込み御飯の準備をしよう。鶏肉をぶつ切りに切って、塩胡椒を振って人参と油揚げきのことしょうが。大根も切って、スペースが狭いのでボウルに入れて、それから米を研ぐ。しかし、研いでいる間にお湯が沸いてしまう。「あわわ」米を研ぎながら私は沸騰しているお鍋を見つめた。手が、手があと二つ欲しい。そう思いながらお米から手を離し、タオルで手を拭こうとするとナルト君が隣に立って「な、何すればいいんだってばよ?!」慌てた様子で手伝ってくれようとしていた。私はその姿に笑って、「かつおぶし、たくさん入れてあげて」米研ぎを再開した。

 

「これくらい?」

「もっともっと!」

「こんくらいか?!」

「それくらいをあともう一杯」

 

かつおぶしの量に彼は驚きながら、水をしみ込んで布のようになったかつおぶしをじっと見つめていた。そのままじっと動かなかった。米に先ほど切った野菜をぶち込んで水と調味料を入れて炊飯する。私は次にかぼちゃを取り出して、気合いで切る。思いのほかすごく堅くて悪戦苦闘した。「ねーちゃん、俺やるってばよ!」目を爛々と輝かせた彼に私は一瞬驚いた。多分、すごくやりたいのだろう。「包丁、気をつけてね」たてに包丁を入れて、力強く押し込む。ナルトくんも苦戦していたがどうにかぶつ切りにできた。「ありがとう、凄いねナルトくん」達成感に満ちた彼の顔に私は優しく笑む。「次はなにするってばよ!」私の観察からどうやらお手伝いに移行したらしく。目を爛々と輝かせている。そのあどけない姿に私は笑みを濃くした。かつおぶしをここのお皿にいれてくれる?はしとお皿を渡して、ナルト君は器用にかつおぶしをすくった。

 

「水に色がでてるってばよ、!」

「それが料理の基本になるお出汁ってやつだよ」

 

目を離しているスキに…。信じられないというような表情に私は可笑しくなる。料理ひとつでこんなにも騒げる彼が可愛らしかった。「じゃあそのお出汁をこっちのお鍋に分けてくれる?」彼は大きな鍋を両手で持って、小さな鍋に分けてくれた。たくさんの水で作ったので相当重いに違いない。「ありがとう、重たいでしょ?」「これくらい平気だってばよ!」そう言って額から汗が流れていくのを見て私は微笑ましくなる。「その大きなお鍋からコ少しお出汁とってもらってもいいかな?」ナルト君はすかさず食器棚からコップを出して来てそこにお出汁を注ぐ。

 

小さなお鍋にカボチャを入れて、「醤油と砂糖3杯、みりんを2杯」ナルト君に入れてもらい、ことことと煮だす。蓋をしてあとは何分か放置をする。その間に次の料理。目に入った油揚げと豆腐に頷いて、お味噌汁の準備にとりかかる。「なあな、次は?!」次の指示が待ちきれんのか文句を言い出した。なんと頼れる助っ人なのか。油揚げを切ってもらい、豆腐も切ってもらおうとする。豆腐を私が手のひらで切ってみせると目を輝かせた。それを真似てなんとか切ってもらった。

 

カボチャを火から下し、バスタオルで巻いてあとは余熱で完成させようとする。コンロが1つしかないのでこうでもしないとご飯が間に合わなくなってしまう。大きな鍋にさっき切ってもらった油揚げを入れて火にかける。先ほどの鍋に豆腐とみそをかき混ぜてみそ汁を完成させる。タマネギと人参を切ってもらい、それらを焼いて肉も焼いてもらう。フライパンを見つめる表情は真剣そのものだった。

 

「あれ、ナルトが料理してるの?」

遅れて到着したサクラちゃんをカカシさんが出迎えた。入るなり、ナルトくんがフライパンを真剣に見つめながら料理する姿を目撃する。ナルトくんはサクラちゃんが来た事に気づいてないくらい真剣だった。その様子を私たちは苦く笑った。

「それでね、ここに調味料いれるんだけど」ナルトくんは真剣に私の説明を聞いている。さっき取り分けてくれたお出汁を入れる。

 

 

「お醤油だーーーっていれてみりんをひょーっていれて、お砂糖ぱっぱと入れて、最後に豆板醤をぴゃっといれれば完成だよ」

「全然わかんねえってばよ!!」

 

 

 

 

 

「は〜いご飯ですよ〜」

ナルト君がほぼ作ったといったも過言ではない夕飯を並べる。「ほんとに作っちゃったねナルト」カカシさんの言葉にナルトくんは自慢げにはなを高くしてお箸を握る。テンゾウさんはサクラちゃんが来てからすぐにやってきて皆でテーブルを囲む。皆で手を合わせて、いただきます。

 

「お、おいしい!」

「ナルトすごいね、!」

「いや、ねーちゃんが味付けしたから」

「いちかさんすごい」

「さすがいちか」

「ナルトくんが手伝ってくれたから随分楽だったよ」

「甘辛煮おいしいってばよ!なんであの変な説明の味付けでうまくなるんだってばよ!」

 

かぼちゃの煮付け、炊き込み御飯、油揚げのみそ汁、豚の甘辛煮。それらすべてを皆が一斉に食べて一瞬でなくなった。まるで、戦争だった食事に私は苦笑いをしながらその光景を見ていた。おいしい、おいしいと笑いながら食べてくれる姿が嬉しくて私は笑んだ。こんなにもしあわせなことはない。

テンゾウさんがアイスを買って来てくれて、食後に皆でそれを食べる。種類がたくさんあってナルト君はソーダ味とバニラ味を頭抱える程悩んでいた。その姿があまりにも可愛らしくて微笑んでしまった。

 

「わたしと半分こする?」

「!するってばよ!」

 

弟みたいな存在に私は気を大きく許していた。私の提案にナルト君はとても嬉しそうにして、バニラとソーダ味を堪能していた。それを面白くなさそうにカカシさんの視線が捉えていて。その視線が私にささっているのには気づいていた。

 

「いちか、俺とも半分こ」

「やですよそしたら私4分の1になるじゃないですか」

「俺の半分あげるからお得だよ」

「おなかこわします」

 

仲良くナルト君とアイスを半分こして、その時間を楽しんだ。ソーダの味もバニラの味も口の中でまざっても意外と合っていて。ふたりで美味しい美味しいとたいらげてしまった。「あ、舌が青い」そう言ってナルト君は舌をぺろりと出してみせた。サクラちゃんは真っ赤になっていて、テンゾウさんは黄色い。カカシさんは、それを見て笑いながら決して口布を下げる事は無かった。

 

 

 

サクラちゃんが凄く良い櫛を持って来てくれた。その心遣いに感謝をして彼女の手を握った。「それと」彼女はがさごそと紙袋を漁って一枚のワンピースを取り出した。「これ、着てないんでよかったら」そう言って取り出したのは深紅のワンピースだった。裾が花びらのかたちみたいになっていて、鮮やかでありつつ深い赤色に思わず溜め息が出てしまいそうだった。彼女の気遣いに感謝し、受け取りたいところなんだが。

 

「足下のスリットと胸元がおかしいくない?」

胸元はぱっくりと開かれ、スリットは大きく太ももまではいっている。彼女が着なくなった理由がなんとなくわかった気がした。

「この服と合わせたら凄くかわいいと思うんです」

そう言ってサクラちゃんは白のかわいいオフショルダーを取り出した。サクラちゃんは赤いワンピースの下にその白いオフショルダーを中に入れて私を振り返る。たしかに。かわいいかも。オフショルダー一枚だとちょっと恥ずかしい気もするし。二つを一緒に着るとたしかにかわいいかも。

「これ、かわいいかも」脳裏で何回も呟いた言葉を彼女に言うととても嬉しそうに笑ってくれた。

 

 

楽しい時間を過ごして私はカカシさんと帰路についていた。サクラちゃんに貰った服と櫛を持って。また、集まろうと約束をして。私はあたたかい気持ちに鼻歌を歌いながら歩いた。「

ごきげんだね」彼の言葉に元気よく応えようとして、夕方の事を思い出して目を見開いた。思わず距離を取るか考えていた私に、カカシさんの手が突然私の頭に伸びてくる。

 

「俺も嬉しいよ」

そう言って私の頭を優しく撫でてくれて。その体温に、悪い人じゃないことを思い出す。私の事をからかって遊ぶけども、しっかりと私の事を助けてくれる優しい人。教師が板について時々私にもそんな風に接してくる。それでも、スキになって良い?と言った彼はひとりの男の人で。

 

「それは良かったデス」

私が知っているのはたったそれだけの彼だ。彼もまだ深いところまで私を知っている筈無いのに、どうして私をスキになろうとしているのかはわからないけれども。彼が冗談ではないと言ったので、とりあえず今までの彼を見て冗談で無い事は信じてみようかなと思った。

 

 

 

 

 

 

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