重たい買い物袋を持ち上げ直して溜め息を吐いた。ちょっと買いすぎた気がする…重たい荷物をもう一度持ち上げ直して自分を奮い立たせる。買ってしまったものはしょうがない。カカシさんの家までまだ距離はあるけれどなんとか持って帰ろう!
炎天下の夏の日差しが私をじりじりと焼いていく。その暑さに負けるものかと心だけでも強気な事を言ってみる。汗が首筋を伝って、頬を流れていくこの感覚に夏だと実感させられる。
あつい、おもい。
私は早くも心折れていた。
「いちかねーちゃん」
この炎天下とは関係なさそうなナルト君の満面の笑みをみて自分もつられて笑んでいくのがわかる。相変わらずの笑顔に破顔した。最近はよく買い物帰りにばったり会う事が多かった。
私が重たそうにしているのを見ると軽々と荷物を奪われた。あ。そう思うことさえ間に合わない程の早い動作だった。突然現れたもう一人のナルト君がもうひとつ持ってくれる。「二人いる」私は消えた荷物の解放感に気の抜けた声が出た。2人いる事が慣れていない私はまじまじと2人を見つめる。どちらが本物か本当にわからない。ナルト君は私の反応が珍しく面白いのか楽しそうに笑っていた。ふたつの笑顔に挟まれて、驚きつつも笑顔になってしまう。
一緒に歩くこの道もそんなに珍しいことではない。よくここで会うよね、この前そう聞くと視線を逸らしながら任務から帰るときここ通るんだってばよ!と気まずそうに言葉を吐いたのを覚えている。私は知っている。里の門は遥か遠くにあって、ナルト君の家は逆方向だということを。
「ナルト君、もしかして私を待ってるの?」素直な疑問を彼にぶつけると彼は照れくさそうに頬をかいた。少年らしい反応に目を見開いた。
「ねーちゃんの飯また食えたらな~って思って」
言葉がどんどんと小さくなっていく。どうやらこの前のご飯は相当お気に召したらしい。遂に白状した真意に笑いが溢れた。素直でとても可愛らしかった。
「じゃあ今から作りにいこうかな?」提案すると彼は明るい顔で私を振り返る。「ほ、ほんとか?」凄く嬉しそうに笑ってくれて私もついに息が漏れてしまうほど笑ってしまった。笑ってはいけないとは思いつつも笑いを堪えるのがやっとだった。
「すぐ作って、帰るよ」
帰ってカカシさんのご飯を作るまでにはまだ時間がある。ナルト君の家に向かって、1人分のご飯をすぐに用意してきたくすれば夕食までには間に合うだろう。カカシさんも帰ってくるのが不規則だけれど、早く帰ってくる時間に合わせて作ればとりあえず困らない。
私の言葉に私を挟む2人のナルト君は項垂れた。2人のナルト君が項垂れている。息ぴったりで思わずびっくりした。その間に挟まれ居たたまれなくなりながら一人のナルト君を見る。ナルト君は面白くなさそうに唇を尖らせて「食ってかないのか?」そう言った。そ、そんな顔されると困ってしまう。落ち込んだ様子に耐えきれず視線を逸らすともう一人のナルト君も同じように落ち込んでいる。落ち込んでいるナルト君に挟まれて「~~」私は口を真一文字に閉めて眉を寄せた。暫く考えた後に観念して軽く溜め息を吐く。
「今日はナルト君の家でご飯、ね」
私の言葉に2人のナルト君は飛んで喜んだ。その大きな喜びように眉を下げて笑ってしまった。カカシ先生に伝えてくるんだってばよ!ともう一人のナルト君は、彼に荷物を預けて走り去っていってしまった。
どっちが偽物か本物かわからないけれどナルト君は一人になって重たい荷物を持って隣にいてくれる。その嬉しそうな笑顔に思わずつられて笑う。
視界の端に見覚えのある猫が走っていく姿を見た。見間違えることのない2つのシッポ。「しらたま?」そのうしろを一人の男が追いかけていく姿に思わず足が動いていた。私がナルト君の家とは違う方向に走り出したのを驚いてナルト君が私を呼ぶ。少し困惑したその声に気づいて振り返った
「ナルト君、あとで向かうから」
足を止める事を躊躇うほどの猫の慌てた姿に嫌な予感がした。
人気の無い場所で、猫にクナイを向けている姿に思わず声を失った。気がつくと私はしらたまとその男の間に割って入っていた。
「やめてください」
声が、震える。身体も同じように震えていた。
怖かった筈なのに頭で考えるよりも先にしらたまを守っていた。何も力を持っていないのに、身体が動いていた。自分の行動に誰よりも一番驚いているのは自分だった。
私は眉を寄せて、しらたまを追っていた男の人を見る。…カカシさんたちと同じ忍服?つまり、忍者?
その男は不愉快そうに眉を寄せて私をにらんでいた。「何だよお前は邪魔すんじゃねぇ」その乱暴な口調に私は負けそうになりながらもなんとか踏ん張ってうしろにいる小さな存在を守ろうと踏みとどまる。
その男は私をなめるように下から上まで見て言葉を無くしていた。瞠目した瞳と私の瞳が絡み合う。その驚いた表情に違和感を覚えた。男は口をわなわなと震わせた。「お、お前は」そう小さく呟いたのを見て目を細めた。男は私をもう一度見据えて、目の色を変えてにんまりと厭らしい顔で笑った。
「やっと見つけた」
その口ぶりはどうやら私を知っているようで。しかしこの前のような明るい再会ではない事は確かだった。相変わらず私の記憶は何も思い出すそぶりはないようで、彼の記憶は全くなかった。
初めて感じた殺気に私は竦んだ。
この身体になって、自分から話しかけて確認されることを初めて恨んだ。クナイを構え直し私を静かに見据え殺気を漂わせながら敵意を向けてくる。初めての感覚に私は頭が真っ白だった。男の口がゆっくりと形作って私に言葉を吐き捨てる。
「バケモノめ、」
その言葉を聞いて、身体中が逆立つような感覚に陥った。私の心は激しく乱れ、汗がどんどんあふれていく。その言葉は、何故か聞き覚えがあった。
「お前のせいで俺はどんな思いだったかわかるか」男は一気に間合いをつめながらクナイを私に向ける。成す術無く、目を思いっきり瞑った。私が諦めたと同時にうしろに引かれる感覚。
それはとても小さな力。
「姉さん!あぶねえっす!」
猫が私の膝に思いっきり頭突きをしてきた。不意をつかれた私はおもいっきり膝かっくんを食らう。うしろに倒れた私はぎりぎりのところで男の攻撃をかわした。私の髪が宙を舞い、その髪をクナイがぱらぱらと裂いていく。何本か切れていく髪の毛を見て言葉を失う。本気だ。
大きな音を立てて私は背中から倒れた。痛みに顔を歪ませている間に男は間も着かずまた私に攻撃しようと迫ってくる。私の下敷きになったしらたまが私の名を大きく呼ぶ。
その声があたまのなかに入らない。
このままでは死ぬ。
私は突然の恐怖に身体が全く動かなかった
「いちかねーちゃん!!!」
大きな金属音が目の前で響く。呼ばれた自分の名に私は我に返り、目の前に現れた黄色い髪に目を奪われる。「大丈夫か?!」その大きな背中に私は驚きながらも頷いた。
ナルト君だ。
彼はクナイを構え男の攻撃を防いだ。私を、守ってくれた。ナルト君は自分のクナイを薙ぎ払うと男は舌打ちをして間合いを取る。少し離れた距離に私はつかの間の安堵の溜め息を吐く。恐ろしい、殺気だった
「ねーちゃんに何の用だ」
彼は静かに怒って、男を見据える。いつも満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくる彼とは全く違う姿に驚く。背を向けた彼は今、どんな顔をしているか予想すらつかない。ただ、その背中があまりにも頼もしくて驚いた。しらたまが心配した様子で私にすり寄ってくるのを腕に感じながら、彼から目を離せなかった。
男は忌々しくナルト君の名を呼んで、消えた。分が悪いとわかったのか大人しく身を引いていく。もう一人のナルト君がまた現れその後を追う。2人を視界で追っているとまた違うナルト君が私に駆け寄ってくる。
「ケガは?!」
その心配そうな顔も初めて見る。今日一日でいくつか新しい顔を見たなとどこか冷静な自分がのんきに考えている。ゆっくりと首を振って彼の青い瞳を見つめる。よかったと安堵するナルト君に私もようやく息を大きく吐いた。今頃になって恐怖が押し寄せてきて、身体中が震え始める。初めての敵意に私は手が止まらなくなって、白くなるほど掌を握る。
思い出さないようにする私の努力とは裏腹に頭の中で流れていく今あった事が呼吸を乱す。汗が次々へと流れて、不快感を得る。
ナルト君の心配そうな顔を見て苦笑いをなんとかして「大丈夫」やっと答えた。私の顔を見て顔を歪ませ私の手を力強くとってくれる。その力強い掌に彼が背負う痛みを知る。私は彼の力にも及ばない力で掌を握り返す。その暖かさに私は自分の呼吸を整えながら目をそっと閉じる。
頭の中でバケモノという言葉を何度も響く。
その言葉がなんだか懐かしい。
「わりいちょっと汚いってばよ」
床に散乱しているゴミや衣服の間を歩いて促された椅子に座る。片付けるよりも前に私にお茶を出そうとしてくれているようで忙しなく動いている。申し訳なさそうに私を振り返って「ごめん、茶が無い」その言葉に私はすこし笑って「ありがとう、気にしないで」彼を気遣う。自分は思ったよりも笑えるのかと安心した。
「何があった?」
ナルト君の鋭い声に私は唇を噛み締める。私の作り笑いはすぐに崩れた。ナルト君の家に一緒に入ったしらたまをぎゅっと抱いて「よく、わからない」小さく呟いた。猫を助けようとしたら私を襲ってきた。ゆっくりと口にして自分の腕を掴む。また、震えそうだった。
「わたしのこと、バケモノってそう言った」
その言葉にナルト君の瞳が揺らいだ。その言葉に胸がざわついて、冷や汗がたれる。たった一言が私をここまでも乱す。時計の音が私たちを囲んで、静かに流れていく。
「その言葉があまりにもしっくりくるもんだから驚いて」
私は腕をしっかりと握り震えるのを堪えた。心が痛みに震えてるが、懐かしいその言葉を何度も反芻させる。懐かしいその感覚に私は顔を歪ませた。その言葉を聞くのが痛いと思いつつも懐かしさを噛み締めているようだった。
「俺はねーちゃんをバケモノなんて思わない」
その蒼いまっすぐな瞳に私は涙を溜めなが言葉を失った。彼は知らない、私が幽霊だということを。それでもこんなにまっすぐに言われてしまうと罪悪感に満ちあふれる。それでも、その感情よりも心に閉めている気持ちは嬉しい、だった。彼と私が違うと理解している筈なのに私は今その言葉をもらいたかったようで、安堵している。
そのまっすぐな瞳の中に、カカシさんが言っていたナルト君が背負っている重みが垣間見えた気がした。
「あり、がとう」
瞬きをするとひとしずくだけ膝に居たしらたまを濡らした。しらたまの黄金の瞳とぶつかって私は笑んだ。その瞳は心配そうに私を気遣っている。「よかった、無事で。」しらたまの頭を撫で、その存在を確かめた。
「ねーちゃんも無事でよかったよ」
ナルト君が私の肩にそっと触れる。人の痛みに寄り添う彼に目を伏せた。ナルト君が化け物を抱えていると聞いた。だからこそ彼はその言葉を忌み嫌っているのを深く感じた。そう呼ばれた私を代わりに怒ってくれる優しい彼に私は鼻の奥がツンといたくなる。その何年も背負った重みが今私を分かろうと寄り添ってくれる。こころがやさしい彼に思わずなきたくなった。
「助けてくれてありがとう」
私がまっすぐその蒼い瞳を見つめると、彼は揺らぐ事無く「おう!」大きく返事をした。
今日初めて襲われて忍者というものがすこしわかった。あんなにも本気で人の命を奪っていくものだと全然予想すらしていなかった。
ナルト君も、テンゾウさんも、カカシさんも。こんな命を取り合う仕事をしていたなんて想像できなかった。私はのうのうと彼らにご飯を作っていたなんて今でも信じられない。
彼らは皆、優しい心を持っているにも関わらず人の命を奪っているのか。人の命を奪うからこそ優しいのだろうか。そこまで考えて頭を振った。ちがう、それぞれに抱える優しさはきっと違うものからきている。人の命を奪うから優しいのではない。優しいからこそ奪うことだってある。初めての敵意ある場所に気が動転していた。
そして、きっと彼の優しさは。
私はそっとナルト君のおなかを見た。そこには紅く灯る光がある。この光から来ているのだろう
「わたしも、アナタの事バケモノだなんて思わないよ」
こんなにも人の痛みがわかる人がバケモノだなんて思えない。私は彼の手に自分の手を重ねて蒼い瞳を見返す。バケモノじゃない、そう言ってくれた言葉が私の心は落ち着きを取り戻してくれる。その言葉が私を励ましてくれた。
痛みを知った人間は人に優しくできる。そういう意味でこの光から彼は優しくなれたのだろう
そっと彼のおなかに見える紅い光をじっと見つめると、ナルト君が突然驚いておなかを抱えた。「いててて」彼が痛がってしまって驚く。私よりもナルト君の方が驚いていた。
「み、見えるのか?!」その動揺ともとれる驚きぶりに私は静かに頷く。「少し変わった物が見える体質みたいで」曖昧に笑って誤摩化した。交えた彼の蒼い光を見る。忍者という過酷な運命の彼。寂しさで揺れたその瞳に私も寄り添いたい。
「檻の中にいる彼よね」すごい威圧感に怖じ気づきそうだったが、慎重に言葉にする。「いてててて」ナルト君は驚きながらもおなかを抱えていたがっている。その様子に私は慌てて腰を折った彼の背中をさする
「ごめんなさい、視るなって怒られちゃった」不機嫌になってしまったお腹の子に私は落ち込む。人の心に土足に入ってしまったことを反省する。「へへ、九尾が吃驚してらあ」ナルト君は痛がりながらも何故か嬉しそうにしている。その様子に目を瞬かせた。バケモノと呼ばれたその子と共存している彼。その彼をナルト君は受け入れようとしているように見えた。だって、嬉しそうにしているから。
「謝っておいてくれる、かな」背中をさすりながら土足に入ってしまったことを後悔した。寄り添いたいと思ってもそれは自分勝手な気持ちだったような気がした。現に九尾と呼ばれた彼は私を怒った。でも、
「へへ、ねーちゃんが九尾にそう言ってくれるのがなんか嬉しいや」
嬉しそうに素直な言葉を吐いた彼にまたもや救われる。どうやら寄り添う私の気持ちを察してくれたらしい。私はゆっくり笑うと彼も嬉しそうに笑ってくれた。
「バケモン扱いするアイツからは俺らが守ってやるからな!」
彼のうしろに寄り添う誰かの姿が垣間見える。ここまで強く優しく育て支えたのは「俺ら」と言った彼らなのだろう。私は礼を述べて頼もしい彼を見た。
「ご飯、つくろっか!」
「おう、うまいもん食おうぜ!」
ナルト君に励まされた私は元気を取り戻していた。化け物という言葉に少し翻弄されたが、化け物といわれ続けた彼が私を励ましてくれた。その重みと強さに感嘆しながらも時期火影を名乗る彼が頼もしかった。彼の言葉に感化されようやく落ち着きを取り戻した。ナルト君のお腹の中の子も見てナルト君もみてその言葉を受け入れている彼が羨ましく思ってくよくよしてられないと思ったのだ。
息を切らして私を迎えに来たカカシさんは拍子抜けだったようで私の笑顔に少し安堵したように息を吐いたのを見た。私とナルト君がまた楽しく料理をしている姿を見てやれやれと眉を落とした。
100個餃子を作っている間にナルト君の昔の話を聞いた。この前会ったイルカ先生の話が多く出てかれの中で大きい存在なのは明らかだった。嬉しそうな笑顔に私も嬉しくなる。
私の足下にやってきたしらたまを見て、彼のイルカ先生に対する気持ちににている気がした。無くしたくない繋がりとはきっとこの事だ。
不器用に大きく形作るナルト君の餃子に笑いを零しながら彼にバレないように、少しだけ破れたところを補修したり具がでないように修正する。
餃子作りを四苦八苦しながら挑戦する彼は、先ほどの背中とうって変わったものに苦笑いを零した
3人で5個ずつ食べ尽くし、余った餃子をラップして冷凍しておく。餃子に野菜をたっぷり詰めたので彼もこれで否応無しに食べられるだろう。ラーメンと一緒に食べるように言うとくすぐったそうに笑った。その照れた笑みが、あまりにも嬉しそうに笑うものだから心が暖かくなった
カカシさんの家の帰路を歩いている時に猫は踵を返す。森へ帰ると言った。足を止め振り返ったしらたまは落ち込んだように耳を下げしっぽをだらしなく下げた。
「姉さん、今日は本当にありがとうございやした」
その瞳は申し訳なさそうに揺れていた。猫を優しく撫で、また明日の口約束をする。猫は少し嬉しそうに鳴いて森へと闇に溶けていく。
カカシさんと肩を並べた帰り道、ナルト君との餃子作りの話をした。肉は少なめにしたから野菜不足には恐らく困らない事とか、カカシさんの家でも同じように餃子を作り置きしておこうだとか。他愛無い話がどんどん堰を切ったよう溢れ出てくる。
止まらない私の唇にカカシさんの人差し指が当たる。
「強がらなくていいよ」
彼に掴まれた左手が小さく震えていた。自分の気持ちを誤摩化すように口は動いても、震えていることを隠せない。私の強がりを彼は見抜いていた。驚いた瞳と、彼の瞳と交える。その強い眼差しに言葉を失ってうまく言葉を紡げない。つよがらなくていいと言った彼の言葉に先ほどの出来事を思い出す。非日常だったあの空気に身を震わせる。あの敵意に、眼差しに、殺気に。初めての経験に怖い筈が無い。
バケモノといわれて、ひどく落ち込むと共に懐かしく感じ
「この痛みが記憶なんだとわかりました。」
胸元の衣服を握り、恐ろしさに涙が流れた。あの男の敵意に、自分の過去に、記憶に恐ろしさが沸いてくる。突然私自身を知る男は私と何かしらの繋がりがある者。彼に関して私は何も思い出す事は無い。彼との繋がりを知るにはあの思い出したくもないあの感覚を避けては通れない。懐かしくも痛い。恐ろしいあの殺気さえも。避けては通れなさそう
ナルト君と共に化け物と言われた事はなんとか踏ん張れそうだったけれど、あの恐ろしい恐怖は乗り越える術をまだ見つけていない。
震える手に戸惑いを隠せない。
私の記憶は近づくにつれて、平凡なものとはかけ離れていたものとわかっていく。
見つけようとしている自分自身に更なる不信感を抱く。
以前よりも増して自分がわからなくなっていく
眉を寄せて考えに耽っていると突然の暖かい温度に驚いた。私を包むその暖かさの正体は今目の前にいたカカシさんと理解するのは長く時間をとらなかった。私は息さえするのを忘れそうな程驚いてしまい、力強い力に心臓の音が増していく。涙は驚きで引っ込んでしまった。
「か、カカシさん」
私の戸惑った声が弱々しく彼の肩口に消えていく。私の声に彼は力強く抱きしめて応える。強く感じた温度に目眩がしそうになる。戸惑いながらも薄々気づいていた。いつも口で私をからかうけれど、彼は私をからかって手をだしたりしない。
「怖かったろうに」
彼の言葉に驚いて肩を揺らす。その優しい口調が私の涙腺を簡単に緩ませた。彼の暖かい温度に私は困惑をしながらそれをしっかり感じ始めていた。
私の痛みを悲しんでる
「いちかはその痛みにも耐えなきゃいけないのか」
彼が愛おしそうに私の頭にすり寄った。心中いろんな感情が沸いて忙しないことこの上ない。とりあえず彼の言動をひとつずつ反応する事が私の心の最優先順序だった。彼の大きな身体に包まれながら私は動揺すると共に安心していた。温かな人の確かな存在に安心した。そしてナルト君と同じように私に寄り添ってくれる彼に心が痛む。こんなにも想ってくれる彼に胸が苦しくなる
「お前はもう死んでるのにまだ傷つかなきゃいけないのかね」
私が傷つく事をナルト君もカカシさんも悲しんでくれる。それが嬉しくも悲しい。ここまで想ってもらえるほどの私だとは想えないのに、彼らは
「助けてやれなくてごめんな」
どうしてそこまで私を守ろうとしてくれるのか不思議に思ってしまう。私の頬にそっとカカシさんの手を寄せられる。暖かく大きな掌に涙が緩む。「守って、もらおうだなんて思っていません」私の弱々しい言葉にカカシさんは小さく笑った。
「守りたいから、守るんだよ」
彼の言葉に息を呑んだ。黒猫を庇って頭で考えるよりも先に男の前に立ちはだかった自分を思い出す。そう、本人がなんと思おうと私はあのとき猫を守りたいから守った。その気持ちと一緒なのかと思うとナルト君とカカシさんの気持ちをなんとなく理解できたような気がした。
そしてあんな危険と隣合わせた忍者を一瞬怖くなってしまっていたが、恐らく守りたいものがあるからこそ彼らは出向いているのかもしれない。
強く抱きしめてくれるその暖かさが、愛おしくその温度にほおずりした。
ひとつひとつ私の涙を掬っては、心配そうに私を気遣う彼に感謝した。彼に身を委ねて彼の肩を濡らす。おおきなあたたかいその胸にひどく安心してどんどん涙が溢れてくる。
もう少し、このまま。私の小さな願いがまるで聞こえたように彼は私の頭を優しく撫でてくれる。家族のような親のような暖かさが懐かしく感じ彼の服をぎゅっと握った。
きっと私はまたあの男に会わなければならない。そう考えると恐怖で震える。それでもクヨクヨずっと怯えて泣いているわけにはいかない。
危険を冒してまで彼に会う必要はありそうだった。
「今度はちゃんと守るからね」
優しいその言葉に私は涙が止まらなくなる。やはり想像した通りの忍という存在だった。守られる必要は無いと思いながらも自分の震える身体に強く拒否できない。私は眉をしかめながら彼の言葉を受け入れる他なかった。「ご迷惑おかけします」私が言うと彼は笑った。その軽い笑い声を聞きながらほっとして彼にすがる。彼は私の髪の毛を掬って何本か切れた髪の毛をじっと見つめて強く握りしめた。彼の瞳の奥が微かな怒りで揺れた。
いつの間にか私の手の震えは治まっていた。