怪獣が鎮守府に着任しました。これより蹂躙の時間が始まります。   作:サンダーボルト

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二話目ながら、ムートーの出番なし。


鎮守府が朝を迎えました。これより事情説明を行います。

「おはようございます、皆さん」

 

「あっ、赤城先輩!おはようございます!」

 

 

鎮守府の食堂に赤城が入って挨拶をすると、翔鶴を始めとした艦娘達が敬礼しながら挨拶を返す。赤城は空母が集まるテーブルへ着いた。

 

 

「あの、赤城先輩。足の具合は…」

 

「もう大丈夫ですよ。昨日のうちに高速修復材を使わせてもらいましたから」

 

「良かった…。昨日はすいません、私のせいで…」

 

「翔鶴さんは悪くありませんよ。そんなに気にしないで?」

 

「はい…」

 

 

そう言われても割り切れないのか、翔鶴の表情はまだ暗い。赤城は苦笑いしながら、テーブルに置いてある食事に手をつけ始めた。

 

 

「ほら、早く食べないと冷めてしまいますよ?いただきましょう?」

 

「……そうですね、いただきます」

 

 

食事を始める赤城達。そこに褐色の肌色をした艦娘が近づいてきた。

 

 

「赤城、足は大丈夫か?」

 

「あ、武蔵さん。おはようございます。足ならもう大丈夫です」

 

「ああ、おはよう。それは良かった。すまないな、もっと早く止めるべきだった…」

 

「ふふ、翔鶴さんにも言いましたけど、本当に気にしないでください。あの提督にあんなことを言えばああなることぐらい、予想できていましたから。ただ私が我慢できなかっただけで…」

 

「あ、赤城さん!足はもういいの?」

 

「ちょっと、もう動いて大丈夫なの!?」

 

「もっと私に頼ってもいいのよ!」

 

 

食堂に入ってきた艦娘が赤城の姿を見るなり声をかけてくる。赤城はこの鎮守府でも古株で、戦闘でも提督の魔の手から守ってくれたことでも助けられた艦娘が多く、提督以上に慕われているのである。

 

 

「それにしても、普通のご飯が食べられるのがこんなに幸せだとは思わなかったわ…」

 

「そうですね。あの提督、経費削減だ何だって言って、ろくに補給もしないで出撃させてばっかりでしたし」

 

「まあ、戦艦や正規空母の燃費が悪いのは否定できないが、軽巡や駆逐艦の食事まで削っていたからな…」

 

「でも今日はお腹一杯食べてもいいんでしょ!?」

 

「ええ。提督が許可してくれたみたいだから」

 

 

提督。その単語が誰を指すか分かっている艦娘達は、赤城を除いて何とも言えない顔をした。自分以外の反応に赤城は困惑する。

 

 

「え、えと、皆さん?どうかしたの?」

 

「いや…昨日の出来事を思い出してな…。本当にあの怪物が、我々の提督だとは…」

 

「大淀さんも大本営からの電文で間違いないって言ってましたし…」

 

「で、でもでも、ご飯食べていいって言ってくれましたし、悪い人……人?ではないんじゃないでしょうか…」

 

「フンッ、どうせいい人……人?ぶってるだけでしょ!すぐに化けの皮が剥がれるわよ!」

 

「剥がれる前から既に化け物なんですがそれは…」

 

「私はあの提督は信頼に値する人物だと思います」

 

「「「「うわぁ!?」」」」

 

 

赤城に群がる集団の後ろから、特盛ご飯を持った加賀が無表情で断言した。

 

 

「あーびっくりした…。加賀さん、それ本気で言ってるの?だってあの提督だよ?普通、信じろっていう方が無理ですよ」

 

「黙りなさい瑞鶴。爆撃するわよ」

 

「それ私の台詞なんですけど!?」

 

「まあ落ち着け。加賀よ、お前のその信頼は提督が高速修復材を赤城に持ってきたことからか?」

 

「その通りです」

 

 

それは昨夜の話。鎮守府のてっぺんで咆哮を上げた提督が再び地面に降り立つと、艦娘達をぐるりと見渡した。その中で倒れていた赤城を見て足の弾痕に気づくや否や、すぐに海に向かって飛び立ったのである。そして僅か数分後、口に高速修復材のバケツをくわえて提督が戻ってきた。提督は赤城の前にバケツを置き、妖精を通じて使うように促したのである。

 

 

「鎮守府にはまだ在庫があったにもかかわらず、提督はご自分で持ってきてくださったのよ。充分信頼に値するのではないかしら」

 

「それはあった事を知らなかったんじゃないかなーって那珂ちゃんは思うなー?」

 

「黙りなさい那珂ちゃん。探照灯だけ持たせて出撃させるわよ」

 

「やめて!スポットライトの一人占めは好きだけど集中砲火は嫌!!」

 

「それに在庫云々を差し引いても、提督はご自分が撃たれた艦娘の仲間であろう赤城さんを助けたのよ。この中に誰かいる?撃たれながら撃った相手の仲間を助けようなんて考えられる人は」

 

 

加賀がそう問いかけると、何か言おうとしていた艦娘達が一斉に口をつぐんだ。加賀は一人、満足そうに頷いた。

 

 

「提督の器は私達など遠く及ばないくらいに広いのよ。それに五航戦。あなた達は赤城さんのおまけとはいえ、結果的には提督に助けられた身ではなくて?」

 

「う…それはまあ……そうなんですけど…」

 

「正直、すぐには…」

 

「まあまあ加賀さん、そんなに急かさないで。信頼できるかどうかはこれから判断しましょう?ね?」

 

「……赤城さんが言うなら」

 

 

騒がしい朝食の時間が終わったが、全艦娘は食堂に残ったままだ。昨日、赤城の前に現れた妖精が提督について説明するので、残っていてほしいと言われていたからである。

 

食堂に急遽用意された大きな机。その上に昨日の妖精がよじ登り、食堂を見渡して鎮守府の全員が集まっているのを確認すると、ビシっと敬礼をした。

 

 

「おはようございます、皆さん!」

 

「「「「おはようございます!」」」」

 

「昨夜は突然の出来事に驚いた方も多いと存じます。ましてや、大規模作戦も終了したばかりで疲労がまだ残っていることでしょう!したがって本日は説明が終わり次第、お休みとします!本当はもっとお休みしてもらいたいのですが、提督は提督になってから日が浅いので皆さんのフォローが必要なのです!どうかお力添えをよろしくお願いします!」

 

 

妖精が頭を下げると、艦娘達は敬礼をしながら問題ないと伝えた。妖精はもう一度、頭を下げてお礼を述べると本題に入った。

 

 

「まずは私の自己紹介から始めさせて頂きます!私は提督の補佐兼、通訳係の妖精です!皆さん、『小美人妖精』とお呼びください!」

 

「美人って自分で言うのかよ!?」

 

「天龍さん!名前についてのツッコミは無しでお願いします!名乗るの私もちょっと恥ずかしいんですから!」

 

「お、おう。悪い…」

 

 

小美人妖精の名乗りにツッコミを入れる天龍だったが、すぐに釘を刺されて大人しく座る。横では姉妹艦『龍田』が忍び笑いをしていた。

 

 

「えー、次に提督の事ですが、人間でないのは見て分かると思います。あの提督は、私達妖精が別世界から呼び寄せた、いわゆる怪獣というものです!」

 

「……か、怪獣?」

 

 

戦艦『長門』が思わず呟く。あの風体は確かに怪獣そのものだ。

 

 

「はい!提督は元の世界ではMassive Unidentified Terrestrial Organismと言われています!」

 

「ま、Massive Unidentified Terrestrial Organism、デスカ…」

 

「お姉様、どういう意味なんですか?」

 

「ええと…未確認巨大陸生生命体、という意味だと思いマース…」

 

 

英国生まれで英語に明るい高速戦艦『金剛』が姉妹艦『比叡』の疑問に答えた。

 

 

「提督はその略称でMUTO、ムートーと呼ばれていました!ですので皆さん、これから提督の事はムートー提督と呼んでくださいね!」

 

「いや、呼んでくださいね?と言われても…」

 

「そもそも、どうして怪獣を提督に…?」

 

「それはですね、未だに増え続けているブラック鎮守府と呼ばれる鎮守府の運営方針にストップをかけるためです」

 

 

小美人妖精がその言葉を口にすると、艦娘達の表情が暗くなる。自分たちは勿論、他の鎮守府でも同様に艦娘に酷い事をする提督がいるのは知っていた。そんな提督が減るどころか増えていると知れば、良い気持ちではないのだろう。

 

 

「艦娘の皆さんは兵器として扱われていますが、これを良い事に必要以上に酷使したり、中には無理矢理艦娘に夜の相手をさせる提督もいます。……言いづらいですが、この鎮守府にもそういう経験をした方がいらっしゃると思います。

普通ならばそんな事をすれば厳罰を与えられますが、さっきも言った通り皆さんは兵器なので扱いが難しいのです。大本営でも艦娘達は生き物であり、それ相応の生活をすべきだという艦娘派と、艦娘は兵器であり、無茶をさせても構わないというクソや……こほん。強硬派に分かれています」

 

「……今、クソ野郎って言いかけたっぽい?」

 

「夕立さん!お静かに!」

 

「ご、ごめんなさいっぽい!」

 

 

駆逐艦『夕立』が小美人妖精の発言について聞き返すが、強引に流されてしまった。

 

 

「このように大きく二つの派閥に分かれているのですが、残念ながら艦娘派の人達は強硬派の人達よりも数が少ないのです。ブラック鎮守府と思われる運営をしていても、それを取り締まる憲兵が買収されていたり、上に揉み消してもらったりで検挙まで至らないのが実態なのです」

 

「そんな……」

 

「でも、私達の事をちゃんと考えてくださる提督もいらっしゃるんですよね?」

 

「はい。…しかしそれは軍に入りたての若い提督の場合が多く、上層部に具申して目を付けられて虚偽の罪状をでっちあげられて鎮守府を追い出されたり、左遷されたりしているんです」

 

「……酷い」

 

 

強硬派のあまりのやり口に比叡と同じ金剛の姉妹艦『榛名』『霧島』が声を漏らす。

 

 

「私達妖精も、この艦娘に対する態度を改めさせようとしていました。ある鎮守府では妖精達が結託してボイコットをして対抗した事もあります」

 

「……それで、結果は?」

 

「…駄目でした。名前は伏せますが、ある一人の艦娘さんがボイコットをした妖精達の目の前で徹底的に暴力を振るわれました。ボイコットを止めなければ、毎日一人の艦娘さんを同じ目にあわせると、脅されて…。ボイコットを止めてからは、妖精達までも殴られたり、蹴られたり、それを庇って艦娘さんが……うぅぅ…!」

 

「は、はわわわ!小美人妖精さん、泣かないで…」

 

 

耐えられずに泣き出した小美人妖精に、駆逐艦『電』が自身も目に涙を溜めながらハンカチを差し出した。

 

 

「あ、ありがとうございます…。ええと、それでこの前、艦娘派の皆さんと妖精達とで、この状況をどうにか出来ないかを話し合ったんです。まあ、そんな方法があればとっくにやっていますから、ほとんど進展はありませんでしたが…。それで話し合いが停滞した時、誰かがボソッと呟いたんですよね。……いっそ、人間以外が提督をやればいいんじゃないか、って」

 

「お、おいおい…まさかそれだけで、あのムートー提督を呼んだってのか?」

 

「お言葉を返すようですが、最早まともな手段ではひっくり返せそうにないんです…」

 

「それでも、どうしてよりによって怪獣なんて選んだんですか?」

 

「主な理由としては、『艦娘を脅威とみなさず人間が支配できる存在ではない』ってところでしょうか」

 

「艦娘を脅威とみなさず…か。確かに我々の砲撃を受けてもびくともしていなかったな。だが、それは必要な要素なのか?」

 

 

圧倒的な火力を誇る戦艦『武蔵』が昨夜の砲撃戦を思い出しながら小美人妖精に問うと、小美人妖精は少し言いづらそうに答えた。

 

 

「ブラック鎮守府に対する救済策として、艦娘派に属する提督さんを新しく送りこんだ事もあるんですが…。皆さんはこれでもまだ軽度な方なんです。重度になると、新しい提督を殺そうとするほど追い詰められている場合がありまして…。ただでさえ数が少ない艦娘派の人を危険にさらしたくないんです。ましてや、艦娘さんの手にかかってなんて…」

 

「……でもそれって、逆に私達が危険にさらされているんじゃありませんか?」

 

 

重雷装巡洋艦『大井』が厳しい口調で指摘するが、小美人妖精はそれに満面の笑顔で答えた。

 

 

「それについては心配ありません!この世界の事情は既に説明済みです!艦娘の皆さんが大規模なクーデターでも起こさない限りは提督は鎮守府の艦娘さんに危害を加える事はありえません!それに元より、ムートー提督は弱っちい存在に興味を抱きませんから!」

 

 

笑みを崩さず言い切った小美人妖精であったが、すぐに自分の言った事の意味を理解して慌てて頭を下げた。

 

 

「も、申し訳ありません!戦う皆さんに対してあまりにも失礼な事を…!」

 

「い、いやまあ、確かにあの提督と比べられればなあ…」

 

「でも、あん時は夜やったし、制空権を取れればいけるんちゃうん?」

 

「……制空権、取れる?」

 

「……そりゃあ無理か。あははは…」

 

 

軽空母『飛鷹』の冷静な指摘に、同じく軽空母の『龍驤』が乾いた笑い声を漏らした。

 

 

「ていうか、今さらなんですけど…どうやって怪獣を呼び寄せたんですか?」

 

「えーと、詳しくは話せないんですが、平たく言えば別世界で既に死んだ怪獣を借りたんです。別世界にも妖精というか、私達に近い存在がおりまして、死んだ怪獣の魂を見守っているんです。今回、その方達に事情を話して無理に頼み込んで協力してもらったんです。勿論、怪獣の皆さんともちゃんと話しあいました」

 

「ムートー提督って、話が分かるんですか!?」

 

「はい。ただコミュニケーションの取り方が特殊なもので、かなり苦労しました…。中には宇宙から来た、電磁波で会話する怪獣もいましたから…」

 

「よく話しあえたなそんなのと!?」

 

「ムートー提督も同じようなもので、電磁パルスの波長で会話をしていたんですよ?ただ、そんなのといきなり分かり合えっていうのも無理な話ですから、翻訳係として私が一緒にいるんです」

 

「……ていうか、あの……怪獣の皆さんって言いました?ムートー提督だけじゃないんですか?」

 

「はい、他の鎮守府にも怪獣提督は着任なさってますよ」

 

 

駆逐艦『吹雪』の指摘に小美人妖精はなんでもない事のように答えるが、食堂にいた全ての艦娘は絶句していた。

 

 

「よ、よくそんな無茶苦茶が通りましたね…」

 

「大本営には、妖精が連れてきた新しい提督候補として報告しています。ほら、妖精ってまだまだ解明されていない不思議な存在じゃないですか?だからこれくらいの事をしても、妖精だからしょうがない、ってなるんですよ」

 

「それを自分で言うのか…」

 

「でもさ~、ムートー提督、提督を殺しちゃったんだよね?や、鈴谷としては清々したけどさ、それって問題にならないの?」

 

「先に殺そうとしたのは提督じゃないですか。艦娘という兵器を使って。あの時点ではムートー提督は何も危害を加えたりしていません。つまり正当防衛ですよ」

 

 

航空巡洋艦 『鈴谷』の疑問にさらりと答える小美人妖精。一応、筋は通った言い分に釈然としないなにかを残しながらも、異を唱える者はいなかった。

 

 

「さて、私からのお話はこれで終わりです!後で何か質問がありましたら、執務室におりますので声をかけてください!本当ならここでムートー提督に着任の挨拶をしていただきたいのですが、鎮守府の出入口や廊下が狭くて、動き回られるとあちこち壊しそうなので執務室で待機してもらっています!近いうちに鎮守府全体を改修いたしますので皆さんにご迷惑をおかけしますが、ご容赦ください!それでは皆さん!ゆっくりお休みください!」

 

 

小美人妖精は最後にもう一度敬礼をすると、食堂から出ていった。かくして怪獣提督の着任した鎮守府は、新たなる道を歩み始めたのであった。

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