怪獣が鎮守府に着任しました。これより蹂躙の時間が始まります。 作:サンダーボルト
駆逐艦の育成が一通り終了し、重巡の育成のための資材も十分溜まった。そしてほぼ同じタイミングで鎮守府の改装作業が完了した。
前より一回り程大きくなった鎮守府は、ムートーと艦娘の両方が生活しやすいようにあちこちに工夫が凝らされている。特に廊下は横幅がかなり広がり、ムートーと秘書艦が並んで歩けるくらいのスペースは確保できるようになっていた。
とある不幸が代名詞になっている戦艦姉妹が、
「見て見て姉様!この廊下、私達が艤装を付けたままで歩いてもこんなに余裕があるわ!」
「そうね山城!これで向かいから歩いてくる人の進路の邪魔になって気まずい空気にならなくて済むわ!」
とはしゃいでいるのが目撃されている。また、天井も高くなったのでムートーが頭をぶつける心配も無くなった。ただ、部屋や通路の扉はムートーのサイズに合わせてしまうと艦娘達に不便になってしまうため、ムートーが屈んでくぐれる程の大きさにとどまった。
こうして新しく生まれ変わった鎮守府で始まったのが、重巡洋艦の育成だ。軽空母、正規空母の護衛の下、南方海域へ出撃しての練度上げ。ベテラン提督達の間では有名な東京急行レベリングである。
編成は駆逐艦、空母がそれぞれ二隻ずつに重巡、戦艦が一隻ずつ。育成が終わって戦闘に出せるレベルになった駆逐艦二隻にドラム缶をガン積みさせ、道中の燃料確保に努めさせる。空母はルート固定に二隻以上必要だという事で、最低ラインの二隻を加えている。旗艦を育成する重巡に固定し、主力として高速戦艦も配置。更に航空戦力としてムートーを入れた艦隊で東京急行を何度も何度も往復して育成を行っている。
そうして戦力の増強に努める怪獣鎮守府だったが、進めていくうちにあるトラブルが発生した。
「提督、お話があります」
執務室に入ってきてそう言ったのは、赤城と同じ一航戦の加賀だ。着任時期も赤城とほぼ同じの古株の一人である彼女は今、沈痛な面持ちで机に両手をつき、ムートーの顔を見上げていた。器用に万年筆を持って書類を片付けていたムートーは、加賀と共に入ってきた大勢の艦娘の姿を見て手を止める。
加賀の後ろに控えているのは蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴の正規空母組、飛鷹、隼鷹、龍驤等の軽空母組、それらに混じって航空戦艦の日向がいた。
「提督、お話というのは他でもありません。電磁パルスの使用を止めて頂きたいのです」
加賀の言葉に艦娘達、特に日向は腕を組みながらうんうんと頷く。秘書艦をしていた赤城も、何かを察したのか苦笑している。
「確かに電磁パルスによって敵の艦載機を沈黙させ、空母を無力化するのは有用な戦略です。育成艦、ドラム缶装備の駆逐艦で艦隊の半分は戦力としては数えられません。なので敵の脅威を減らせるのはとてもありがたいです」
ですが、と加賀は険しい顔で首を横に振る。本当なら言いたくない、けれども言わなければならない。という葛藤が表れているようだった。
「電磁パルスの影響で、私達の艦載機も駄目になっているんです…!」
言い終えて加賀が俯いてわなわなと肩を震わせている。後は引き継いだとばかりに、龍驤が加賀の肩をポンと叩いてムートーの前へ立った。
……改めて目の前で見るとおっかないなぁ、と内心怯えながらも龍驤は話しだした。
「あのな?キミの電磁パルスっちゅうのは、敵味方関係なく浴びせられるやろ?せやからウチらの艦載機も、キミの電磁パルスのせいで使い物にならなくなっとんねん」
「いやぁ、敵機がパーッと落ちていくのは見てて気持ちいいんだけどさ、あたし達が飛ばしたのまで一緒にパーッと落とすのはどうなのよ?」
「そうだよ提督さん!艦載機が無くなったら私達、砲撃戦に参加できないんだよ!帰投するまでずっと棒立ちで気まずいんですけど!」
「その通りだ。瑞雲は飛ばしてこそ真価を発揮できる」
隼鷹、瑞鶴、日向がムートーへ訴える。
ムートーが発生させる電磁パルスは、自身を中心として全方位へ放射状に広がっていく。敵の艦載機と航空戦を行う際には、敵機と味方機両方ともかなり接近するため、味方機は電磁パルスの影響圏内から逃れられない。そもそも空母を完全に無力化するには、搭載されている艦載機も無力化させる必要があるために空母にも電磁パルスを浴びせなければならない。
しかし、ムートーは電磁パルスを特定の方向にだけ放出する事が出来なかった。威力を弱める事で影響圏を狭める事は可能であるが、敵にだけ電磁パルスを浴びせるようなテクニックをムートーは持っていなかった。
敵に肉薄して範囲の狭い電磁パルスを放てば良いのでは?とも考えたものの、そこまで接近しているなら直接殴ってしまえばいいという結論に至った。戦艦を沈めた一撃を空母が耐えられる道理はない。
ムートーは小美人妖精にぼそぼそと呟き、それを小美人妖精は翻訳した。
「でも電磁パルスを使わないと、ただ空飛べるだけの怪獣に成り下がってしまうと……」
「なにを気にしてんねんキミィ!?」
でかい図体の割にみみっちい事を気にしていたムートーに、龍驤の鋭いツッコミが入る。
「ええか!?ウチらの第一の仕事は制空権を奪い取ることなんやで!空を敵に奪われてしもたら、回避下がるわ命中下がるわ弾着観測射撃バンバン飛んでくるわでええこと無しなんやで!?」
「……えっと、艦載機が全滅してるのは敵も同じだから制空権を奪われる事はまず無い。それに空母はルート固定の為に入れているだけだから…だそうです」
「さっき瑞鶴も言っとったやろ気まずいて!!戦わんなら艦隊にいる意味あらへんわ!」
「そうだ。確かに瑞雲は見ているだけでも飽きないが、やはり飛ばさなければな」
「それにせっかく貯めたボーキサイトも、艦載機の補充で消えてしまっているんですよ?ボーキサイトは他の資源と比べて希少なんですから、無駄に浪費するのは避けなければ…」
怒鳴る龍驤に便乗し、翔鶴が鎮守府のボーキサイト事情をムートーに突きつける。流石に自分のせいで資源を減らしている事には思うところがあるらしく、困ったように片腕の鉤爪で頭をかく。
「電磁パルスは提督の持ち味でもありますが、皆さんから苦情がでた以上、使用は極力控えてみてはいかがでしょうか?もし電磁パルスの使用が有効な局面になった場合のみ、作戦と装備編成を見直した上で使用する、という事で手をうちましょう。ね、提督?」
隣で赤城がフォローを入れながら笑いかけると、ムートーは渋々頷いた。
話が終わり、全員が頭を下げて執務室から退出する。するとここで、飛鷹がずっと気になっていた事を問いただした。
「ねえ、日向はどうして一緒に来たの?まだ提督と一緒に出撃した事なかったはずよね?」
改めて言われてみれば疑問だ、と他の艦娘も日向の方を見る。
「どうしてって…瑞雲が飛ばせなくなったら困るだろう?」
「……そ、そうね」
何を当たり前の事を、とでも言いたげな顔をして答える日向に、飛鷹は同意するしかなかった。