怪獣が鎮守府に着任しました。これより蹂躙の時間が始まります。 作:サンダーボルト
鎮守府勤めの艦娘達は、鎮守府内で部屋割りを決められている。艦娘にとっては鎮守府が仕事場であり、家でもあるのだ。ムートーに合わせた改装作業で鎮守府が大きくなった分、艦娘達の部屋も少し広くなった。
ある一角の部屋では、まだやんちゃ盛りの艦娘達が談笑していた。
「うーちゃん、司令官にいたずらを仕掛けるぴょん!」
立ち上がって胸を張り、高らかと宣言するのは睦月型駆逐艦の一人、卯月。独特な語尾を付けた喋り方にいたずら好きの性格は一度会ったら忘れない印象を残すだろう。
「三日月、そのクッキーくれくれ。いや、むしろ食わせてくれ」
「寝転がりながら物を食べるなんてお行儀が悪いわよ、もっち!まずちゃんと座ってからにしなさい!」
「望月ったらだらしないわね。そんなんじゃ、一人前のレディーには程遠いわよ?」
「ほっぺにクッキーのカス付けた奴に言われてもな」
「しょうがないわね、私が食べさせてあげるわ!」
「電のクッキー、美味しいね!いくらでも食べられるよ!」
「しあわせ~♪」
「喜んでもらえてよかったのです!」
「如月ちゃんのお肌、いつ見ても綺麗だよね~」
「うふふ、普段のお手入れが肝心よ?」
「少し…羨ましい…です」
「長月さん、先日の戦闘についてお話したいのですが…」
「ああ、いいぞ。私で答えられる事なら何でも答えるぞ」
「ハラショー」
「若葉だ」
「聞けよ」
誰も話を聞こうとしていない状況に、卯月は語尾を付けるのも忘れてツッコむ。
まあ、普段いたずら三昧の彼女がいたずらをする、と言ったところでいつもの事だと流されるのも当たり前なのだが。
「……何なのさ、いきなり。いたずらがしたいなら勝手にやればいいだろう。私達を巻き込むな」
刺々しい言葉で菊月が返す。当然ながら、卯月のいたずらを受けてそれを快く思わない者もいる。菊月もその一人だ。卯月にとっていたずらとはコミュニケーションの一種であるのだが、それでもやられて嫌なものは嫌なのだ。そこまで悪質なものでない分、二度とするなとまではいかないが。
菊月の視線を軽く受け流し、意味深に卯月は笑う。
「ふっふっふっ、うーちゃんがただお遊びでいたずらをすると思っているのかぴょん?」
「ああ」
「うん」
「違うの?」
「違うのです?」
「若葉だ」
「あ、そう…」
格好つけた割に、相手に返されたリアクションが普通だったことに気落ちする卯月。一名だけ返事でも何でもないが、気にしてられないと大きく咳払いをして仕切り直した。
「ごほん!うーちゃんが今回、司令官にいたずらを仕掛ける一番の目的はぁ~?ずばり、司令官との距離感を確かめるためなのだぴょん!」
「距離感?」
きょとん、と首を傾げる望月に対し、卯月は勢いよく指を指して肯定する
「そう!うーちゃん達の鎮守府にやってきたあの怪獣提督!みんな、どう接していいか悩んでいるんじゃないかぴょん?」
思い当たる節があるのか、数人の表情が固くなる。レベリングの際にムートーと一緒に出撃した者はいるが、大した話をしているわけではない。
怪獣という異形の存在を相手にどんな話をすればいいかなんて、誰に聞いても答えなんて返ってくる筈もない。何故ならこの鎮守府の全員が同じ悩みを抱えているからだ。
「そうだと思ってたぴょん。うーちゃんもずっと、みんなと同じく悩んでいたぴょん」
「………卯月も悩むんだ…」
「弥生、今は聞き流してあげるぴょん。それでうーちゃん、悩んだ末に答えを出したぴょん!これはもういたずらするしかないと!」
「何故そうなる…」
「それは司令官の心の広さを調べるためぴょん!どれくらいのいたずらまで許してもらえるか、それが分かれば怖さも消えて話かける事に抵抗がなくなるはずぴょん!」
「ふ~ん…卯月のくせに、説得力があるじゃないか」
「……卯月にしては、真面目に考えてたのね」
「えへん!……あれ、これ褒められてないぴょん?」
真面目な話をした反応がこれである。姉妹艦の弥生、長月、三日月にボロクソ言われているものの、あまり気にしていない様子から卯月のメンタルの強さが窺い知れる。だからこそ、怪獣にいたずらを仕掛けようという発想ができるのかもしれない。
「ちょっと怖いけど、楽しそうだね~。でも、いたずらって何をするの~?」
「如月ちゃんみたいに、意味深な台詞で迫ってみるとか?」
「え?……うふふ、お望みなら如月のテクニック、教えてあげてもいいわよ…?」
「あの司令官相手にやるのはただの馬鹿だぴょん」
「ぐっは…!?」
「如月ちゃーーん!?」
妹からの言葉のボディーブローに、精神的ダメージで腹を抱えてうずくまる如月。卯月のメンタルの強さは姉譲りではなかったらしい。
「つーか、ここは言い出しっぺの卯月が考えろよ」
「卯月、何か考えてあるんだろう?」
「ふっふっふ、こんな事もあろうかと!ちゃーんと準備してきたのでっす!じゃーん!」
卯月が自身満々に取り出したのは、小さい風船のようなものだった。それを見た暁が、大きく声をあげてそれを指差す。
「あーっ!!それブーブークッション!私、一回引っかかったことある!」
「そう!暁が朝の食堂で大恥をかいたブーブークッションだぴょん!うっしっし、司令官を食堂までおびき寄せて、このブーブークッションを仕掛けた椅子に座らせればぁ~?」
「椅子ごと潰されるんじゃないかな」
「…」
クッキーを頬張っている響が冷静に指摘すると、卯月はドヤ顔を引っ込めて静かにブーブークッションをしまった。そして部屋の隅から色々な物が入った箱を引っ張り出し、新しい道具を取り出した。
「じゃじゃーん!今度はこれぴょん!このバケツに水をたーっぷり入れて、ドアの上に取り付けておくぴょん!そして司令官がドアを開けて入ってきた時にひっくり返せば、司令官は頭からずぶ濡れぴょん!」
「……ドアの上って、普通に司令官の頭の高さだよね」
「目の前でバケツがひっくり返るだけじゃないの?」
「……」
今度は皐月と雷に言われ、卯月はすごすごとバケツを箱に戻す。
「じゃじゃじゃーん!飛び出たガムを引っ張れば、パッチン痛いよパッチンガムでっす!」
「効かないだろ」
「そもそもガム食べるの?ムートー司令官」
「若葉だ」
「………」
「じゃじゃじゃじゃーん!押せばビリビリ電気が流れる、ボールペンだぴょん!」
「だから効かないだろ」
「提督が使っているのは、万年筆なのです…」
「若葉だ」
「…………」
「じゃんじゃじゃーん!おもちゃのヘビ、カエル、ゴキブリぴょん!」
「「「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」」」
「これをいきなり投げつけられれば、いくら司令官でもびびるぴょん!」
「本当にそう思うか?」
「……………」
「そう思うか?」
「……………」
「じゃんじゃかじゃーん!これは見た目は普通のポッキーですがぁ~?なんと!激辛ソースをチョコでコーティングしてるんだぴょん!匂いでバレる心配も無し!一口食べれば悶絶間違いなしだぴょん!」
「……お前、司令官が辛さに耐性無くて暴れ出したらどうするつもりだ?誰も止められないぞ」
「キスカ…間違えた、若葉だ」
「………………」
最早打つ手を無くし、卯月は両手を床についてうなだれた。
「だ……駄目だぴょんっ…!どれだけ考えても、成功する気がしないぴょん…!」
「相手が悪すぎるよね…」
「は、初霜っ!何かいいアイデアはないかぴょんっ!?うーちゃんと正反対の性格の初霜なら、きっとうーちゃんには考えつかないいたずらが…!」
「…えっ、私?そうね…」
自分に話が振られると思っていなかった初霜が、人差し指を顎に当てて考え込む。大勢の期待の眼差しが向けられる中、何かを考えついた初霜が両手をぱん、と叩く。
「でしたら、机の上に可燃物を置いておくというのは…」
「それいたずらじゃなくていじめだぴょん!!」
「初霜ちゃん陰険にゃしぃ!!」
「ふえぇっ!?ち、違います!私、そんなつもりで言ってません!!」
「…分かってる……から…落ち着いて…」
心外だと怒る初霜を弥生がなだめる。と、ここでこれまでまともな発言をしていなかった艦娘が手を上げた。
「若葉だ」
「……さっきからそれしか言ってない若葉、何か考えがあるぴょん?」
「ああ。くすぐってみるのはどうだろうか」
「……ぴょん?」
~~~~~~~~
「司令官、若葉だ。これより秘書艦業務に入るぞ」
若葉は今、いたずらを仕掛けるために秘書官になっていた。と、いってもくすぐるのは若葉の役目ではない。ムートーをどうにかして執務室の外へと連れていき、駆逐艦達が待ち構えている場所まで誘導するのが目的だ。
無論、仕事を疎かにするわけではない。すらすらとペンを走らせる若葉を見習い、ムートーも素早く書類を書きあげる。
「お疲れ様です、提督、若葉さん。お茶をどうぞ」
「ありがとう。若葉か?」
「いえ、新茶です」
「そうか…」
何故だか残念そうに呟きつつ、小美人妖精に出されたお茶を口に運ぶ若葉。ムートーは湯呑をくわえて頭を上にあげて一気に飲み干した。
「そうだ、提督。話があるんだが、いいかな」
ムートーは湯呑を置くと、若葉に顔を向ける。
「実は今日、睦月型を始めとする駆逐艦達が提督をくすぐるいたずらをしようとしているんだ。だから引っかかってあげてほしい」
直球だった。ムートーは若葉の話にどう反応していいか分からず、静かに喉を鳴らす。
「あ、あの…若葉さん。それは提督に言ってはいけない事なのでは…?」
「そうなのか?」
引きつった笑みを浮かべる小美人妖精に、若葉は首を傾げる。
「だが、もう言ってしまったからな。もうこの時間なら執務室の入り口でみんなが準備を終えて、提督が出てくるのを待っているはずだ。さあ、提督。出て行ってくれ」
歯に衣着せぬ若葉の物言いに圧倒され、さあさあ、と体を押してくる若葉に抵抗できずにムートーは執務室を追い出される。小美人妖精に助けを求めて視線を送ったものの、彼女は申し訳なさそうに頭を下げるだけだった。彼女でも対処できない事態だったらしい。
「出てきたぴょん!者ども、かかれー!!」
「「「「わー!!!!」」」」
執務室を出たところで、卯月を筆頭とした駆逐艦達がムートーに群がってきた。訳も分からず纏わりつかれ、ムートーはただただくすぐられ続けていた。
正直、くすぐられたところでムートーは何も反応しないのだが、そんなことはお構いなしに一心不乱にくすぐり続ける卯月達。やがて気が済んだところで卯月が号令をかけて一斉に離れる。
「ぜえぜえ……ど、どうだぴょん…?」
「き、効いたのか…?」
「どうかな~…?」
息も絶え絶えになるほど必死になっていたくすぐっていたようだ。ある種の期待の眼差しを一身に受けて、ムートーはどう反応すべきかを考える。理由は分からないが、この子達を満足させてやらなければならないという不思議な使命感がムートーの中に生まれていた。
ムートーは廊下の窓に取り付けられてある白いカーテンを掴み、ぱたぱたと羽ばたかせる。駆逐艦達はその行為をじっと見て、何を言いたいのかを考える。
「……これは…白旗…?」
「提督、参ったって事にゃしぃ?」
ムートーは黙って頷く。それを見た駆逐艦達が、一斉に歓声を上げた。
「やったぴょん!いたずら大成功だぴょん!」
「ま、まあ一人前のレディーなら当然よ!」
「たまにはいたずらも、悪くないな」
「そうだね、実にハラショーだ」
ムートーは執務室に顔を向ける。そこには扉の陰から、若葉が少しだけ顔を出して親指を立てていた。
「これが奇跡の作戦、キスカだ」
ムートーは本日、空気を読むスキルを身につけた。