大学選抜戦後、知波単学園には改革の波が押し寄せた。改革を推し進める隊長西絹代は、知波単学園の伝統である吶喊の墨守を主張する浜田たち突撃派の反対に遭いながらも、大学選抜戦での経験を元に吶喊戦術から遊撃戦術への転換を断行する。
 吶喊命の知波単学園の生徒がそれをすんなり受け入れるはずもなく……

 大学選抜戦後の知波単学園のドタバタ劇を書いた作品です。

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西絹代は吶喊の夢を見るか

 大学選抜戦も無事大洗の勝利に終わり、各高校の参加者は勝利の喜びに浸りながら帰路についた。もちろん知波単学園も例外ではない。列車の織り成す振動に心地よく揺られながら西と福田は今日の体験を感慨深げに振り返っている。

西 「やったな福田。今回の戦いで学んだことは多い。知波単は生まれ変わるぞ」

福田「そうでありますな隊長殿。明日からの練習が楽しみであります」

西 「アハハ、張り切りすぎだ福田、明日ぐらいはゆっくり休め」

福田「福田は大丈夫であり…いたっ」

 福田は足下に置いていたお茶を取ろうとしたが、手を伸ばした瞬間に激しい筋肉痛に襲われた。

福田「やっぱり、明日はお休みさせていただくであります」

西 「そうしろ福田、今日の活躍見事だった」

 そう言って西は立ち上がり、デッキを伝って他の車両に移動していった。おそらく今日試合に出場した他の生徒をねぎらいに行くのだろう。意外にもと言っては失礼だが、西は些細なことによく気がつく。そこが西が知波単において隊長として、人望を集めている理由の一つだろう。

福田「ふぁああ、眠いであります…zzz…」

 西の姿が見えなくなった途端、福田に強烈な眠気が襲ってきた。福田はアヒルのぬいぐるみを抱え、今日の自身の活躍を消えゆく意識のなかでうっすらと振り返りながら心地よく眠りへと落ちていった。

 

数日後

 

 西は隊長就任式以来の戦車道履修者全員集合を呼びかけた。サンダースには及ばないものの知波単学園はお嬢様学校であるためか部員の数はすこぶる多い。それも皆、一糸乱れず整列している。

西 「皆、忙しいところよく集まってくれた。今回、重大発表がある。心して聞いてくれ」

「「試合か?」」

「「隊長の命なら何処へだってゆきます」」

「「命尽きるまで戦いますぞ」」

「「知波単名物、総突撃の出番だ」」

 西の言葉を聞いた部員たちは思い思いのことを口走っている。

西 「皆、士気旺盛なのは素晴らしいが、今回は試合のことではない。戦闘教義の変更についてだ」

 その言葉を聞いた部員たちはさらにざわつき始めた。

「「戦闘教義の変更?」」

「「突撃主義から何になるんだ」」

「「更なる突撃を目指して、吶喊至上主義に変更に違いない」」

福田「お静かにであります」

 余りの五月蠅さに福田が叫んだ。そうするとぴたっ雑音はやんだ。

西 「今日をもって、吶喊は禁止とする。これ以後我が校は遊撃戦を基本戦略とする」

 しばらく、沈黙があった。皆、西の思いもよらぬ発言にただ呆然としているばかりである。

西 「何か質問のある者はいないか?」

 西は辺りを見渡した。人混みのなかに一本の手が、空に向かってまっすぐ伸びている。

西 「何だ、思うところがあるなら言ってみよ、浜田」

 浜田は一年生ながらも中隊長を務めている有望な若手である。頭の回転が速く、上下関係を余り重んじていないという知波単学園の生徒としては珍しい性格である。

浜田「西隊長は先例を無視して、突撃をおやめになるのですか?」

 浜田はきっと西を睨み付けた。だが、西はひるまない。西の性格を考えると、睨み付けられたことに気付いていなかったのかもしれない。

西 「近年、我が校の成績が低迷していることは諸君も知っているだろう。この現状を打破するためには改革が必要だ。先例に囚われているばかりではだめなのだ。分かってくれ、浜田」

浜田「しかし、突撃以外に何がありましょうぞ。ご再考を願います」

西 「浜田の気持ちも分からないこともないが、却下だ」

浜田「お願いします。隊長、どうかご再考を……」

西 「しつこいぞ浜田、もうこの話は終わりだ」

 そうして集会は終了した。隊員たちは各自の教室に戻っていった。

西 「予想通り反発する者もでてきたな」

福田「仕方ないであります。時間が経てば皆分かってくれるはずであります」

西 「そうだといいのだが……」

 

 その後数日間は何も問題なく過ぎていった。皆、突撃の訓練からゲリラ戦術の訓練の切り替えにも無事順応しつつある。元々知波単の生徒の練度は高いこともあり、新たな訓練にも難なくついてきてくれている。

 西はその日の訓練を終え、隊長としての事務処理をした後、寮の自室に戻って早めに布団に入った。連日新たな指針づくりに奮闘し疲労が溜まっていたためかすんなりと寝ることができた。

 どれ程寝たのだろうか、西は突然、砲撃の音でたたき起こされた。

西 「夜戦の許可は出してないぞ、誰だ全く」

 眠い目をこすりながら西は布団から這い出て、夜戦をしている連中に注意すべく窓をのぞき込んだ。そこには驚きの光景が広がっていた。

西 「これはどういうことだ……」

西の眼前にはとうてい信じられない光景が広がっていた。寮の周囲をぐるっと囲むようにして戦車が並んでいるのだ。

福田「西隊長、西隊長、一大事であります。謀反であります」

 福田は寝間着姿のままノックもせず西の部屋に勢いよく飛び込んできた。

西 「これは何事か、福田」

福田「浜田たちが中心となって反乱を起こしたようであります」

西 「理由は?」

福田「分からないであります」

浜田「お答えしましょう隊長」

西・福田「!!」

 タンクジャケットを着た浜田が悠悠と部屋に入ってきた。窓まで歩いて誇らしげに外の様子を眺めている。

福田「逆賊は出て行くであります」

 福田は精一杯浜田を睨み付けた。しかし、浜田はそんなことは気にもとめない。

西 「まあ待て、福田。で、何が目的だ浜田」

浜田「単刀直入に言いますと、隊長、辞任してください。貴方は伝統ある知波単学園戦車道の隊長にふさわしいお方ではありません」

西 「その理由は?」

浜田「貴方は知波単の伝統をないがしろにしました。皆、口には出しませんがそのことを不満に思っております」

福田「そんなことはありません西隊長、我々は隊長を慕っており……」

浜田「若輩者は黙っていろっ」

 浜田の一喝に圧され福田は何も言えなくなった。

西 「もう吶喊だけではやっていないのだ。分かってくれ浜田」

浜田「吶喊なくして知波単なしです。皆もそう言っています」

西 「それでも吶喊は禁止だ……知波単は変化を必要としている」

 浜田は西の答えを聞いて小さくため息をついた。

浜田「残念です。ここまで考えに隔たりがあると議論では埒があきませんね。ここは戦車道らしく戦車で決着をつけませんか?我々が勝てば隊長は潔く戦車道を辞めてください。その代わりと言っては何ですが、もし隊長が勝てば我々も隊長の方針に従います」

西 「しかし、仲間割れは……」

浜田「西隊長はそんなに我々の吶喊を恐れているのですか?もしや、新しいやり方では突撃にかなわないとでも」

西 「そ、そんなことはない。分かった、そこまで言うのなら勝負を受けよう」

浜田「試合をお受けになりましたか。試合形式は車輌は双方最大二十輌のフラッグ戦はどうですか?」

福田「西隊長、これは罠であります。おやめくださいであります」

西 「大丈夫だ福田。浜田、分かった。その形式で試合を行おう」

浜田「試合は十日後、既に会場は押さえてあります。日本戦車道連盟中部演習場です」

西 「相変わらず用意周到な後輩だな」

浜田「お褒めにあずかり光栄です。では念のため、今決まったことを誓約書にまとめましたので署名を」

 西が署名を済ませ二枚の同じ内容の誓約書のうち一枚を受け取ると浜田はもはや用事は済んだとばかりに部屋から出て行った。

 西の長い戦いが始まった。

 

 翌日、西と福田は戦車を確保するために車庫に赴いた。ここには知波単学園戦車道の主力戦車が保管されている。ところが既にここは浜田の手に落ちていた。

西 「やるな浜田、敵ながら天晴れ」

福田「笑ってる場合じゃないであります」

 西と福田は車庫の前でたたずんでいる。車庫の入り口には「隊長派ノ立チ入リヲ禁ズ」と書かれ、浜田派の生徒が入り口を守っている。

浜田派モブ「申し訳ありませんが隊長を車庫に入れるわけには参りません」

西 「そうか、残念だ。いくぞ福田」

福田「行くって、何処に行くでありますか」

西 「第二車庫だ」

福田「第二車庫?初耳であります」

西 「普段使っていないからな。車庫とは名ばかりで実際は物置だ」

 普通の学校と違い、チハタン学園のような歴史の長い学校だと戦車の質には困っても戦車の数には困らない。なぜなら使われなくなった旧式戦車や廃棄処分の一歩手前のような戦車が大量に倉庫に打ち棄てられているからである。

 しばらく西と福田は歩いた。そうすると旧校舎が見えてきた。草が好き勝手に茂っているグラウンドを通り校舎の裏にまわるとそこには車庫があった。地面にくっきりと履帯の後が残っているがかなり古い。誰も来なかったため消えずに残っているのだろう。

福田「おおっ、巨大な車庫でありますな」

西 「まあ旧校舎時代にはこれが第一車庫だったらしいからな」

 西が鍵を開け扉を開くと長い間使われていない倉庫独特の埃とかびの入り交じった臭いがした。かすかに油や鉄の臭いもする。

西「使えそうなのも大分あるな」

 西は戦車を覆っているシートを剥ぎ取りながら奥へ奥へと進んで行く。シートを剥ぎ取る度に埃による白煙が上がる。

福田「ごほっ、ごほっ、煙たいであります」

西 「我慢しろ福田、戦車が確保できただけでもありがたいと思え」

福田「しかし西隊長、乗員はどうするのですか?」

西 「どうしよう…」

福田「考えてなかったのでありますか…」

 「「にしたいちょぉー」」

西 「この声は!」

 西と福田は急いで車庫から飛び出した。

玉田「西隊長に御味方すべく、推参いたしました」

西 「玉田、細見、名倉、池田、皆、ありがとう」

 玉田たち大学選抜チームの面々は西隊長支持にまわったようである。おまけに戦車まで持ってきくれている。

西 「他の部員たちの様子はどうなんだ」

玉田「浜田の甘言に煽動されて聞く耳を持ちません」

西 「皆、素直で真面目なのが裏目にでたか…ところで第一車庫は封鎖されていたのに、どうやって戦車を持ってきたんだ?」

玉田「はっ、大学選抜戦に使用した車輌は修理のため別の場所に保管されておりました。もちろん西隊長のチハと福田のハ号も持って参りました」

西 「お前たち、恩に着る…」

 西は目に涙を浮かべた。

玉田「礼には及びません。我々もあの試合で変革の必要性を実感しました。せっかく知波単が前進する機会を得たのに、再び後退するわけにはまいりません」

 西と玉田はお互い涙を流し始め、手を取り合っている。

福田「取り込み中に申し訳ありませんが、まだまだ人数が足りないであります」

玉田「安心しろ福田、ほかにも義士は大勢いる」

 玉田は西の手を離すと玉田たちが今来た方向を指さした。

福田「あっあれは…」

 福田の視線の先には、のりでパリパリになったままの真新しいタンクジャケットを着た初々しい集団がいる。

玉田「大学選抜戦に感動して、二学期から戦車道をやり始めた新入部員たちだ」

新入部員A「我々は西隊長に感銘を受けて戦車道を始めました。何処までも西隊長に付き従う所存です」

新入部員B「大学選抜戦を観戦した後、思わずアヒルのぬいぐるみ買っちゃいました」

新入部員C「私もパーシングを撃破できるくらいになれるよう頑張ります」

新入部員D「腕は未熟ですが、熱意だけは先輩方にも負けません」

 五十人近くの新入部員たちが西に駆け寄ってきた。

西 「入部早々、面倒事にすまない。本当にありがとう」

福田「これなら二十輌出せるであります。万歳であります」

 

 第二車庫から取り出した戦車は、予想以上に状態が良くレストアは三日ほどで完了した。だが試合までに残された時間は少ない。試合会場への戦車の輸送なども考えると練習に当てることができる時間は最大でも五日程度である。

西 「それでは訓練を始める。戦車前進、乙地点に達した車輌から的に発砲せよ」

 各車輌一斉に動き始めた。しかし、まともに動いているのは大学選抜チームの六輌だけだ。新入部員たちの戦車は何とか動いている程度である。

新入部員「乙地点到達、発砲を開始します」

 砲撃も当然のごとく当たらない。

福田「試合が心配になってきたであります」

西 「これより五日間、知波単名物猛特訓を行う。総員心してかかれ」

 五日間、日がある間はひたすら戦車を動かし、夜は遊撃戦についての勉強会が行われた。その厳しさは福田たちですらうんざりするほどであった。しかし、そんな厳しい訓練にも関わらず、新入部員たちは音を上げずについてきた。それは初めて本格的に戦車に乗れる喜びと厳しいなかにも優しさがある西の人徳のおかげであった。

西 「皆、五日間よく頑張った。厳しい訓練だったと思うが、最後までついてきてくれて本当にありがとう。明日は移動日で、明後日が試合だ。疲れを残さぬよう今日は皆早めに寝ること」

一同「「ありがとうございましたぁー」」

 

 ガタンガタン…ガタンガタン…

 蒸気機関車に揺られながら福田は黄昏れていた。窓から外を覗くと辺り一面刈田が広がっている。夕暮れ独自のさみしさに包まれて、隘路の草が寂しげに頭を垂れている。

西 「どうした福田そんなにしょぼくれて、明日は試合だぞ」

 西は福田の隣に勢いよく腰掛けた。

福田「無礼を承知で伺わせていただきますが、明日の試合、西隊長は怖くはないのでありますか?」

福田「大洗のように負ければ廃校という訳ではありませんが、もし負ければ西隊長は追放されてしまうであります」

西 「……」

 西は思いの外深刻な質問に黙りこくったが、唾を飲み込んで何かを決心したように口を開き始めた。

西 「正直に言えば怖い、大好きな戦車道ができなくなってしまうからな。だが福田、貴様はそんなに気負うことはない。これは私と浜田の問題だ」

福田「そんなことはないであります。これは福田にとっての問題でもあります。福田は西隊長と一緒に戦車道をしたいであります」

西 「福田……」

 西と福田はしばらくの間見つめ合った。ほんの少しの間ではあったが、二人にとってその時間は長く、長く感じられた。

西 「明日は厳しい戦いになる。頼りにしてるぞ福田」

福田「もちろんであります」

 福田は目を輝かせながら答えた。その時、汽車の汽笛が鳴り響いた。それはあたかも二人へ贈られたエールのようであった。

 

観客A「旧軍戦車オンリーの試合なんて初めて見るぜ」

観客B「流石は知波単学園、チハ以外はどんな旧軍戦車が試合に出るんだろうなあ」

ペパロニ「アンツィオ名物、鉄板ナポリタン、ほっぺが落ちるくらいおいしいっすよ~」

アンチョビ「おいしいおいしいアンツィオの屋台でお昼はいかが~」

カルパッチョ「ピザもありますよ~」

 日本戦車道連盟中部演習場は、普段ではとうてい考えられないような人だかりである。会場には「知波単学園秋期大演習 隊長選抜紅白戦」と墨で黒々と書かれた垂れ幕があちこちに掛かっており、屋台や試合経過を映し出すための巨大スクリーンまで用意されている。

西 「なぜこんなに観客がいるのだ。説明しろ、浜田」

浜田「知波単の伝統を破った者がどうなるのかを知らしめるためにはちょうど良いと思いましてね。大々的に宣伝させていただきました」

西 「我々を晒し者にする心積もりか?とんだ強気だな」

浜田「知波単の名を汚さないようせいぜい頑張ってください。こちらも作戦会議がありますのでこれで失礼します、西「元」隊長」

 浜田はそう言うと群衆のなかに消えていった。

 

 浜田との会話が終わるのを見計らったように西を呼ぶ声が聞こえた。

ケイ「Hey!ニッシー、大学選抜の時以来ね」

西 「お久しぶりであります、ケイ殿」

ケイ「ニッシー、今日負けちゃうとチハタンズの隊長をディスミスさせられちゃうんだってね。でも、チハタンズの隊長はニッシーがベストよ。という訳で応援してるわ、それじゃグッドラック、ニッシー」

西 「ケイ殿、応援ありがとうございますー」

 手を振るケイと入れ替わりに西住みほが現れた。

西 「西住殿、本日は遠路よりご足労ありがとうございます」

みほ「いえいえ、知波単の皆さんには大学選抜戦でお世話になりましたし」

西 「いや、お世話になったのはこちらであります。あの時、学ばせていただいたことを今日の試合で披露してみせましょうぞ」

みほ「ところで西さん、今日負けると隊長を辞めさせられると聞きましたが、それは本当ですか?」

西 「恥ずかしながら本当です。まあ、大洗の廃校の危機に比べたら大したことではありません。ハハハ…」

みほ(西さん緊張してる)

みほ「西さん、戦車に通れない道はありません。諦めなければ必ず活路は開けます。来年、西さん率いる知波単と戦うのを楽しみにしています」

西 「西住殿、期待して待っていてください」

みほ(少しは役に立てたかな?)

 

ペコ「西さんに挨拶しなくていいんですか?」

ダー「ペコ、こんな格言を知ってる『痴話喧嘩は干渉すべきではない』」

ペコ「日本風に言うと『夫婦げんかは犬も食わない』ですね」

ペコ「じゃあ何で試合を見に来たのですか?」

ダー「あら、物事は何でも高見の見物が一番面白いのよ、ペコ」

 

西 「それでは作戦会議を始める。部隊編成の発表を行う」

 

久保田隊 九四式軽装甲車TK車2輌 九七式軽装甲車テケ車4輌

河童隊 特二式内火艇カミ車3輌 特三式内火艇カチ車1輌

池田隊 チハ1輌(池田) 八九式中戦車2輌

名倉隊 チハ改1輌(名倉) 八九式中戦車2輌

西隊 チハ2輌(西、細見) チハ改1輌(玉田) 九五式軽戦車ハ号1輌(福田)

※フラッグ車 チハ(西)

 

西 「次に作戦を伝える」

西 「皆、知っての通り、この演習場は川を挟んで東側には高地と高地を囲む林がある。高地を西に下れば川があり、川の西側には丘陵地帯が広がっている。今回、我々は西側、浜田たち突撃派は東側に布陣することになった」

福田「東軍と西軍でありますな」

西 「おお、関ヶ原だな」

福田「負けては駄目であります……」

西 「作戦としては、まず足の速い久保田隊が迅速に高地を確保し、名倉隊が高地の北側の林、池田隊が南側の林を押えて久保田隊を支援せよ。残りは予備隊だ。敵の主力が判明したらそこに投入されると思え。分かったな」

一同「「はっ、了解であります」」

福田「西隊長、作戦名の下知をお願いするであります」

西 「うーん、それでは大学選抜の時にも提案したが、スキヤキ作戦はどうだ」

福田「賛成であります」

玉田「異議なし」

細見「それでいきましょうぞ」

西 「では作戦名はスキヤキ作戦で決定だ」

福田「西隊長、最後に檄をお願いするであります」

西「知波単の興廃この一戦にあり、各員一層奮励努力せよ」

一同「「応っ」」

 

 浜田率いる東軍と西率いる西軍が向かい合って整列した。東軍、西軍ともに戦車道全国大会の試合前のような異様な緊張感が張り詰めている。

浜田「よくもまあ、これだけ廃車寸前の戦車を集めましたな。今ならまだおとなしく負けを認めればれば、隊長をお辞めになった後にそれなりの地位を与えることを考えてもいいですよ」

西 「降伏はしない。試合で白黒はっきりつけよう」

浜田「フッ、短い間でしたが、隊長ご苦労さまでした」

蝶野「静かに、これより知波単学園、西軍対東軍の紅白戦を始める。なお本試合は最大20輌のフラッグ戦で行う」

西 (どうなるのだろう…)

浜田(……)

蝶野「礼っ」

一同「「お願いしますっ!」」

 

西 「久保田隊に伝令、お前たちが高地を取れるかどうかがこの作戦の鍵を握っている。頼むぞ」

久保田「絶対に確保して見せますお任せください、隊長殿」

久保田隊員「西隊長が正しいことを証明して見せます」

西 「その意気やよし。それではスキヤキ作戦を開始する、各隊、戦車前進」

一同「「戦車前進」」

 

東軍モブ(以下東モ)「こちらチハ六号車、敵早くも高地を確保しております」

浜田(予想よりも動きが速い、西隊長は思い切った作戦に出たな、意外だ)

浜田「敵の車輌は?」

東モ「現在確認できるのはTK車2輌、テケ車4輌であります」

浜田「好きにさせておけ。お前は偵察を続けろ、まだ攻撃はするなよ」東モ「了解」

浜田「さっさと終わらせるか…チハ中隊に突撃準備をさせろ」

 

優花里「さすが西殿であります。機動力を生かして早速、地形的有利に立ちました」

みほ「でも優花里さん、これは危ないかも」

優花里「どうしてであります?西住殿」

みほ「高地には6輌もいるけど、装甲車ばかり。いくら地形的に有利といっても、高地を守るには火力も防御力も不足してる。それに映像から判断する限り、西さんの方には練度が低い車輌が多い」

優花里「ああ……それは私の情報によると、西さんの方は大学選抜戦に参加した6輌以外は、ほぼ全員戦車道初心者だそうです」

みほ「ほとんどが戦車道初心者……」

優花里「一応直前に猛特訓したらしいですけど……それにしても初心者ばかりって私たちの最初のころを思い出しますねえ」

みほ「みんな戦車にすごいペイントしたりしてたね……」

優花里「大洗に帰ったら大学選抜戦勝利の記念に4号にボコのペイントでもしますか」

みほ「ええっ、本当にいいの?優花里さん」

優花里「冗談ですよ西住殿」

みほ「残念、ちょっと期待しちゃった……」

 

久保田「高地の陣地構築完了しました。今のところ敵影はありません」

池田「池田隊、渡河完了しました。久保田隊の支援にまわります」

名倉「名倉隊も渡河完了いたしました。これより林に進行します。こちらも敵影ありません」

西 「ご苦労、そのまま作戦行動を続けてくれ」

西 (浜田はまだ動かない。浜田の意図が分からん)

 西は川より西側の見渡しの良い丘陵から、辺りを観察している。その時高地の向こう側からものすごい土煙が見えた。

久保田「緊急連絡、10輌以上のチハが高地に迫っております」

西 「了解、至急援軍を送る。地の利を生かしつつ応戦しろ。絶対に突撃だけはするなよ」

久保田「了解しました。各車、撃ち方始め」

 TK車の7.7mm機銃、テケ車の37mm砲が一斉に火を噴き始めたが、低火力の悲しさ、遠距離からでは装甲に傷はついても致命傷は与えられない。もっとも機銃では近距離でも怪しいが。それに、そもそも練度が低いためになかなか敵戦車に命中しない。

敵中隊長「はっはっはっは、知波単名物総突撃を喰らえい。これがお前たちの捨てた吶喊だ、後悔しても遅いぞ」

 高地の頂上では敵の激しい砲撃により迫り来る敵に反撃すらままならない。

久保田「何をしている。早く撃て」

久保田車砲手「車体が揺れて満足に撃てません」

久保田「ええい、なんて様だ。もう突撃が来るぞ、各車備えろ」

敵中隊長「敵陣を食い破れ、敵は弱兵ぞ」

 近距離からの敵の砲撃に今まで車輌を守っていた即席の土塁が吹き飛んだ。もう久保田隊を守る物は何もない。

東モ「白兵戦だ、いざ尋常に勝負」

久保田隊TK車長「受けて立つ勝負だ」

久保田「やめろ、無茶だ」

 久保田の制止を振り切ってTK車が接近してきたチハの後ろに回り込もうとしたが、あっさりと逆にチハに後ろを取られて撃破されてしまった。

 接近戦となれば練度の低い西軍には勝ち目はない。頂上に達した敵中隊は久保田隊を各個撃破していった。

敵中隊長「チハ中隊、吶喊に成功せり。敵陣地を突破しました」

浜田「了解。そのまま作戦通り高地を降りて西に向かえ」

敵中隊長「承りました」

浜田「ふふふ、西隊長、私が開発した吶喊電撃戦の威力受けてみよ」

 チハ中隊は高地の陣地を蹂躙し、一斉に斜面を駆け下りて行く。

久保田「申し訳ありません。久保田隊、奮闘するもTK車2輌、テケ車1輌撃破されました。そのまま敵中隊は高地を下って西に向かっています」

西 「突破されただと!?まだこちらは戦闘準備ができてないぞ」

 西はこんなに簡単に高地が陥落するとは予想していなかったために、予備隊はまだ渡河の準備をしていた。こんなところで吶喊されては、虎の子の予備隊はサンドバッグと化してしまう。

福田「水中では身動きがとれないであります。このままでは全滅の恐れが」

玉田「この際、こちらも急いで川を渡り、正面から吶喊してはいかがでしょう?」

西 「それは駄目だ。今吶喊しても数的に不利な上に、向こうの方が高地にいる形で迎え撃つことになるから下手すると全滅だ。それに吶喊は禁止と言っただろう」

玉田「差し出がましことを言ってしまい、申し訳ありませんでした」

 この絶好の吶喊のチャンスに一瞬、西も吶喊したい衝動に駆られたが何とか我慢した。大学選抜の前なら間違いなく吶喊しただろうが、今の西は違う。

西 「しかし、吶喊以外の方法でこの虎口の難を脱するにはどうすれば……」

福田「報告によると別行動の河童隊は既に川の中程にいるであります」 

演習場を東西に横切るこの川は、流れはそこまで速くないが、川幅が広い上に、水深もある。そのため戦車が渡れる場所は限られている。

西 「そうだ河童隊がいるじゃないか」

 西は手を打ち、一気に表情が明るくなった。

 

 チハ中隊が一斉に川に到着した。渡河が可能な地点を見つけるとすぐさま渡河を開始した。

敵中隊長「敵影なし。先ほどまで確認できた敵戦車は西側に引き返した模様。チハ全車順調に進軍しております」

 その瞬間、川面に円状の波が走り砲声が響き渡った。

東モ「チハ2号車、撃破されました」

東モ「チハ改3号車、同じく撃破されました。敵確認できません」

 突然の砲撃になすすべもなく東軍のチハ2輌が撃破された。被弾箇所からして川上から攻撃されたと推察されるが、敵の姿は見当たらない。

敵中隊長「川上には戦車が渡れる場所はなかったはずだ、どういうことだ?」

 敵中隊長は砲塔から顔を出し双眼鏡で川上をよく見つめた。すると川の中央にある水面から大きく突き出た巨石群の岩の隙間から砲身が伸びているのが見えた。

敵中隊長「岩の隙間に敵が隠れているぞ、撃てえ」

東モ「大変です。水圧で砲塔が回りません」

 川はチハでも十分渡れる深さだが、車高が低いチハでは、砲身の大部分が水に浸かってしまい、水の流れに圧されて砲塔が回らない。

河童隊隊長「水中戦なら河童は負けません、それっ全車出航です」

 隊長車であるカチ車が先頭で、後にカミ車が続いている。その光景は親ガモについて行く子ガモのようである。スクリューをエンジン全開で回して無抵抗のチハの群れに食いついていく。

河童隊隊長「47mm威力をの受けてみよ」

 側面、しかも近距離のダブルコンボで撃たれれば、チハはひとたまりもない。

東モ「チハ改8号車、水軍に敵せず撃破されました」

敵中隊長「くっ無念だが転進だ、戦略的転進を行う。全車引き揚げ」

 チハ中隊は数で圧倒的優位に立つにもかかわらず、我先にと先ほど通った岸辺に戻り始めた。

 

優花里「おお、水陸両用戦車なんて生まれて初めて見ました」

みほ「戦車道じゃ水中戦なんて殆どないからね」

沙織「ゆかりん、あの戦車、船みたいな形でとってもかわいいね」

優花里「あの船みたいな形をしているのはフロート、つまり浮きです。本来上陸したら外しちゃう物らしいのですが、実践では少しでも装甲の足しになればと陸上でも装着したままの事例もあったそうですよ」

沙織「へー、とにかくあの戦車ってなんだか海の男って感じがするね。彼氏はやっぱり海の男がいいかも」

華「沙織さんは陸の男性すら知らないのに海の男をご存じなんですか?」

沙織「もーっ、華のイジワル」

麻子「zzz……」

 

敵中隊長「陸に揚がったならこちらのものだ。河童を釣り上げろ」

 形勢逆転とばかりに上陸したチハ中隊はプカプカと水面に浮かんでいる河童隊めがけ砲撃を始めようとした。

敵中隊長「各車砲撃用意、う「「ドーン」」

 四方八方からチハ中隊へ砲撃がやって来る。遠距離のためか当たりはしないがこのように四方から攻撃されては砲撃もままならない。

敵中隊長「砲撃中止、各車接近中の敵への対応を優先せよ」

東モ「北、南から砲撃確認、西方向の高地からも砲撃来てます。我がチハ中隊は完全に包囲されました」

久保田「こちら久保田隊、車輌修理及び陣地の再構築完了しました」

名倉「こちら名倉隊、準備完了しました」

池田「こちら池田隊、同じく準備完了しました」

西 「了解、総員、焦らずゆっくりと包囲の輪を縮めていけ、急がば回れだ」

 

ペコ「今回のスコーンは勝手には割れないようですね」

ダー「ペコ、茶柱が立ったわ」

ペコ「エキシビションの時と同じですね」

ダー「今回のスコーンは勝手に割れない代わりに、素敵な訪問者のお茶請けにされてしまうかもしれないわ」

ペコ「美味しく食べられちゃうと……」

 

久保田「ゆっくりとぜんし、うわ何だ何だぁー」

 久保田のテケ車は吹き飛ばされて坂をゴロゴロと下り数回転した後、やっと止まりひっくり返った車体から白旗が揚がった。

 次の瞬間には、高地に熊のようなのっそりとした多砲塔重戦車が現れた。

久保田「九五式重戦車ロ号だ……大変です西隊長、ロ号が現れました」

 ロ号は分厚い装甲でテケ車の砲撃を跳ね返しながら、ゆっくりと二つの砲塔を回し、高地に残っている2輌のテケ車にそれぞれ狙いをつけた。

西「テケ車は逃げろ、逃げるんだ。ロ号にはかなわん」

 西の指示にすぐさまテケ車は従い、塹壕を脱出したために間一髪撃破は免れた。以前のやり方のままであれば、転進するしないの押し問答で、その間に撃破されてしまっていただろう。

ロ号車長「貧弱な装甲が、70mm砲に耐えられるかな?」

 高地を確保したロ号は好き放題低地に向かって撃ち始めた。頭上から強力な砲火を浴びて次第に包囲網はズタズタにされていった。逆にチハ中隊とロ号が連携して反撃に出ようとする動きさえ見られ始めた。

名倉「このままでは逆包囲されてしまいます」

池田「川を渡って形勢を立て直す要ありと認めます」

名倉・池田「我々二人がおとりになります。その間に撤退を」

西 「駄目だ、これ以上は一人も欠けてはならん、全員で撤退しろ」

池田「それでは損害が大きくなります」

西 「まだまだ厳しい戦いが続いて行くなかで、練度の高いお前たちを失うわけには…」

名倉「西隊長がいれば知波単は大丈夫です。安心してください」

池田・名倉「今度は犬死にしませんから、では西隊長の御武運を祈っております」

西 「おっ、おい待て「ブチッ…」無線を切られた…」

名倉「いくぞお、発動機の出力を最大にしろ」

池田「一気に突っ込んでロ号の息を止める、前進だ」

 南北から池田車、名倉車が一斉に駆け上がる。

ロ号車長「敵2輌、接近、37mm砲塔はチハ、70mm砲塔はチハ改を標的にしろ。あちらの攻撃は効かん、落ち着いて対応しろ」

名倉「操縦手、砲身よく見ろ。回避行動を取りつつ一気に食らいつく」

池田「のろまな百貨店戦車の弾に当たるわけにはいけません」

 ロ号の砲撃をかいくぐり、池田車は37mm、名倉車は70mmの砲塔の根元に砲身を食い込ませた。

「ドシュッ」

 鈍い発砲音とともにロ号各砲塔のターレットリングはそれぞれあっさりと破壊され、ロ号からは白旗が揚がった。

名倉「アヒル式奇襲戦法大成功だ」

池田「大学選抜戦で撃破された後、我々はただ指を咥えて試合を見ていたわけではありません」

名倉「密かに練習した成果がでたな、次行くぞ」

池田「次の目標は敵チハ中隊です」

名倉「我々の目的は時間稼ぎにある。各員、くれぐれも軽率な吶喊精神は発揮せぬように」

池田「その通り。美しくなくても良いから時間を稼いで稼ぎまくりましょう。潔く散るだけが知波単魂ではありません」

 池田車と名倉車はロ号を撃破した勢いで駆ってチハ中隊に突入した。敵のチハは新旧合わせて14輌、一方の池田たちは2輌、絶望的である。

東モ「来るぞ、撃て撃て」

敵中隊長「絶対に近寄らすな、接近戦は不利だ」

 流石に見とおしの良い場所で14輌の一斉射撃を受ければ、池田舘はひとたまりもない。

名倉「大洗式発煙筒作戦開始!」

池田「発煙筒用意、投擲はじめてください」

名倉「積んでいるのを景気よく使うぞ、ケチっては駄目だ」

 池田たちの戦車のキューポラが開いたかと思うと、ポイポイと発煙筒が投げられた。

 周囲にはあっという間に煙が立ち込み、可視距離は5メートルもないような状態になった。

東モ「何も見えんぞ……おい、そこのチハ邪魔だ。下がれ」

池田「先輩殿、大変失礼しました。撃てっ」

東モ「不覚、敵だったのか……」

「ドドォーン」

東モ「おいこのチハは味方だ撃つな」

東モ「どれが敵で味方なのかが分からん」

名倉「全くだ。それっ」

「ドシュン」

東モ「くっ、チハ4号車不覚にも行動不能、おい名倉、闇討ちとは卑怯だぞ、姿を現せ」

名倉「忍法、雲隠れの術ってね」

 名倉と池田はちぎっては投げ、ちぎっては投げ、敵の砲塔ねじ切って捨ててんげりとばかりに鬼神の如き活躍を示した。大学選抜戦では早々に撃破されてしまったために実力を見せる場はなかったが、元来、池田と名倉は6輌に選ばれたように精鋭揃いの知波単学園のなかでも、群を抜いた存在なのである。

西 「こちら西、お前たちを除いた全車の渡河が完了した。お前たちも撤退しろ」

名倉「了解。池田車へ、そろそろ煙幕も晴れてきた。引き時だ」

池田「まさか生き残るとは……いき「ドゥドゥウン」

名倉「池田車、どうし「ドゥドゥン」

 警戒を怠っていた後方からの砲撃に、池田車も名倉車もひとたまりもなく撃破されてしまった。

池田「すみません西隊長、池田車、名倉車ともに撃破されました。でも今回は犬死にじゃありませんでしたよ」

名倉「西隊長、バンザーイ、バンザーイ。福田たちもファイトォー」

 

 名倉と浜田を撃破したのは、フラッグ車である浜田車を中心とする予備隊であった。編成は浜田の搭乗するフラッグ車四式中戦車チニと三式中戦車チヌ改良型2輌の計3輌である。知波単学園の誇る後期旧軍戦車で固めてある。

 

浜田「名倉も池田もよくやるよ。それにしても派手にやられたな」

敵中隊長「返す言葉もございません…」

浜田「敵が態勢を整え直す前に急いで敵を追撃するぞ」

敵中隊長「それが……」

浜田「どうかしたのか?」

敵中隊長「無事な車輌もかなりの数が履帯を切られました……修理にはしばらく時間が掛かります」

浜田「電撃戦は失敗か……」

 浜田はくやしそうにキシキシと歯ぎしりをした。

 

優花里「ここまで互角……両軍、実力伯仲してなかなか熱い勝負ですねえ」

みほ「互角というより、西さんの方が不利かな」

沙織「えっ、なんで?みぽりん。お互い14輌ずつ残ってるんだよ、今のところ引き分けじゃない」

みほ「確かに数の上では互角ですが、西さんの方はこれまでの戦いで久保田さん、名倉さん、池田さんと小隊長クラスの方が大勢リタイヤしました。これから先、指揮に悪影響が表れるのは間違いないです。それに浜田さんの方はロ号がやられたと言っても、まだ、虎の子のチニとチヌが無傷です」

優花里「チニとチヌなら中距離からでもシャーマンに対抗できる程の火力を持っています。薄い装甲の戦車しかない西殿にとってこの火力は脅威ですね」

沙織「そっかぁー、それじゃますます西さんを応援しなきゃいけないね。ガンバレー西さん」

華 「ファイトです西さん」

麻子「が…ん…ば…れ…zzz……」

沙織「麻子ったら応援するならちゃんと起きて応援しなよ」

麻子「私は今…昼寝…中だ…zzz……」

 

東モ「全車渡河完了いたしました」

東モ「偵察車から報告、西軍は丘陵地に分散して布陣しております」

浜田「分散して……?そういうことか、受けて立とう。全軍楔形陣へ」

東モ「布陣完了しました」

浜田「これより独逸式吶喊戦法を行う、戦車前進」

 浜田らの高火力、高防御力の車輌が楔の先頭になり、両翼にチハがずらっと並んでいる。遠くから見れば巨大な矢じりが移動しているように見える。

 

ペコ「ダージリン様、大変ですよ。あんなに分散した状態でパンツァーカイルをやられてしまっては……」

ダー「落ち着きなさいペコ、聖グロリアーナの生徒は常に優雅であるものよ」

ペコ「そうですが、落ち着いてなんかいられません……西さんたちは対戦車陣地を構築しているといってもあれではひとたまりもありません」

ダー「ペコ、こんな格言を知ってる?『暗闇はなく、無知があるのみ』」

ペコ「シェイクスピアですね」

ダー「通常、攻撃する側は守備側に対して三倍の兵力が必要よ。何も考えずに勢いに任せただけの攻撃は益のない結果を生むだけ」

ペコ「つまりこの突撃は、西さんに有利な結果を生むと」

ダー「ご明察の通りよ、ペコ。安心して試合を観てなさい」

 

川の西側には丘陵地、なだらかな丘と窪地が交互に広がり、ところどころに草むらや林があり見渡しは良くも悪くもない土地が広がっている。

 西は残存車輌を再編成し、2,3輌からなるグループを五つほど編成した。それらのグループは、東軍を受け止めるようにくの字型に配置され、丘に対戦車陣地を気付くなどして東軍迎撃の準備を整えている。

西 「作戦としては、各班は陣地に陣取り、敵の攻撃を受け流しつつ敵を中央の低地に誘導しろ、そこで敵に集中砲火を浴びせ撃滅する」

西モ「恐れながら質問させていただきます、浜田隊は一気に我々の中央に突っ切る様ですが、何かご対策は?」

西 「中央周辺には比較的高火力の河童隊と西隊の車輌を二重に配備している。それでも不十分なのは百も承知だが何とか食い止めてみせる」

 西は質問に答えるというより、自分に言い聞かせているようだった。

西 「それと福田、頼み事がある」

福田「はっ、何なりとお申し付けくださいであります」

 

西モ「敵確認、楔形でこちらに前進してきています。せっ先頭にはフラッグ車がいます」

西 「フラッグ車が一番槍か……味な真似をするじゃないか浜田」

八九式車長「おいっ、フラッグ車がいるぞ。あれを撃破すれば大手柄だ。撃て撃て」

 功に焦った一部の車輌が、有効打を与えることができないにも関わらず遠距離から砲撃を行い始めた。

西 「フラッグ車に釣られてはいかんぞ、目の前の敵に対処するんだ。陣地から飛び出すな狙い撃ちされ」

八九式車長「八九式2号車、撃破されました」

テケ車長「申し訳ありません。テケ3号車行動不能です」

西 「遅かったか……」

 フラッグ車に標準を合わせるため陣地を飛び出した何輌かは、フラッグ車の後続車両に狙い撃ちされてしまった。

西 「対戦車陣地からは絶対に出てはならん。あと地形を利用して敵からは砲塔以外見えないようにするんだ」

東モ「吶喊!」

 各陣地に食らいついた東軍はここぞとばかりに吶喊を始めた。

西モ「引きつけて撃つんだ。敵は猪武者ばかりぞ」

 一方で西軍は一直線に吶喊してくる敵を狙い撃ちし、両者互いに譲らず一進一退の攻防が繰り広げられている。

浜田「麻袋では錐を止めることはできない。風穴を開けるぞ」

 先頭の浜田隊は包囲されるのを厭わず一気に低地に突入し中央突破をはかった。

河童隊隊長「チニとチヌが来るぞ、フラッグ車だけを狙え」

 河童隊は一週間前まで素人だったとは思えない程の装填スピード、命中精度で砲撃を続ける、が、大戦後期の車輌相手ににカミ車の37mm、カチ車の47mmではドアノッカーにもならない。

河童隊隊長「皆の者、素人だった我々をここまで育ててくれた西隊長の恩に報いるぞ、1輌でもいいから撃破だ」

 そんな思いもむなしく浜田隊は低地を突破し、坂を駆け上がり始めた。

浜田「陸に揚がった河童は怖くないんだよ」

 浜田隊は丘から突き出ている河童隊戦車の砲塔めがけて一斉に発砲した。高精度・高威力の長砲身75mmの前に河童隊は二、三回の砲撃で1輌残らず壊滅した。

 浜田が白旗を揚げたカミ車を跳ね飛ばしながら丘に登ると、そこにはフラッグ車である西車が控えていた。

浜田「こんにちは、西隊長」

西 「急げ、後退的前進だ」

 西隊各車は急旋回して、一目散に逃げ出した。

浜田「おい待て、逃げるとは卑怯だぞ。それでも隊長か」

西 「三十六計逃げるに如かず。時には転進するのも必要だと我々は学んだのだ」

 浜田隊は追いかけながら砲撃してくるが、行進間射撃ではなかなか当たらない。

西 「この先は崖になっていて行き止まりだ。細見、玉田、例のやつを頼む」

細見「了解いたしました。不肖細見、アヒル式攻撃を敢行いたします」

玉田「同じく不肖玉田も続きます。チヌなどパーシングに比べれば大したことはありません」

細見・玉田「「回転レシーブだ」」

 細見車と玉田車は急制動をかけ、車体を真横にしながら通過する浜田隊の後ろに回り込もうとしている。

細見車操縦士「履帯切れます。このままでは転輪も外れそうです」

細見「なんとか回り込むまで持たせろ」

玉田「射撃の機会は停車した瞬間の一度だけだ。絶対外すなよ」

玉田車砲手「無茶な要求ですね……」

細見・玉田「「根性~」」

「「ドゥオン」」

「「ドゥオン」」

西 「玉田、細見お見事」

 玉田車と細見車は一瞬の好奇を逃さず2輌のチヌの後部に潜り込み砲弾を命中させ、2輌とも撃破した。だが代償として、チハの限界を越えた運転をしたために細見車、玉田車ともに履帯は切れ、転輪は悉くねじ曲がったため走行不能となり白旗が揚がった。

細見・玉田「西隊長、根性です。頑張ってください」

 

浜田「邪魔者はいなくなったし、まあ良いとしよう」

 1輌だけになったが浜田は攻撃の手をゆるめない。

浜田「ほれほれこの先は行き止まりだぞ」

西 「くっ、追い込まれたか」

 三方を岩崖で囲まれた窪地の草原に西は追い込まれた。今来た道を引き返そうにもチニが出口を塞いでいる。車体を隠そうにも、窪地にある障害物は中央にまばらに生えた木々と薄茶色のロール状干し草が横並びに並んでいる干し草置き場しかない。どうやら普段窪地は放牧に使われているらしい。

浜田「フラッグ車同士で雌雄を決することになるとは……何かの思し召しかもしれませんな」

西 「浜田、貴様らしくもない、何坊主臭いことを言っている」

浜田「ふふ、吶喊を捨てた貴方と吶喊を守る私、どちらが正しいかは戦車が決めてくれることでしょう」

西 「戦車道にまぐれなし、あるのは実力のみ……最後は戦車道で語り合えということか、浜田」

浜田「そういうことです。では始めましょう」

浜田「いざ尋常に」

西・浜田「「勝負」」

 まず浜田が先手を打ち、砲撃を放った。が、チハからは大きく上に逸れていった。

西 「行進間射撃じゃあるまいし、どこを狙っている。甘いぞ浜田」

浜田「甘いのはそちらだ」

ゴロ……ゴロ……

 チハにコツンコツンと岩の当たる音が響く。キューポラから顔を出していた西の上半身に影がかかる。

西 「落石だ。上から来るぞ、戦車緊急発進だ」

 西もハッチを急ぎ閉じて、車内に滑り込んだ。戦車が急発進した瞬間真後ろで巨石が地面に転がり落ちる衝撃音がした。

浜田「隙だらけですよ、隊長殿」

 チニは間髪置かず二発目を放った。

西 「二発目来るぞ、総員衝撃に備えろ」

落石を回避したばかりのチハには回避行動を取ることもできず、履帯に命中した。

西 「履帯がやられたか……継続の戦車みたいに転輪走行に切り替えだ」

チハ操縦士「無理です。チハはクリスティー式じゃないです……」

西 「根性で発進だ」

チハ操縦士「アヒル殿のそんなとこまで似なくても……」

 その瞬間、浜田は人目もはばからず車内で大きくガッツポーズした。

浜田「勝った、勝ったぞ!最後は近距離から確実に仕留めるぞ、吶喊でだ、隊長が捨てた吶喊でだ」

浜田「戦車前進、突撃だ」

チニモブ「突撃~!!」

西 「あきらめるな、最後の瞬間まで徹底抗戦だ。これこそ知波単魂だ」

浜田「確実に撃破できる距離まであと少しだ……操縦手急げ」

 全速力で接近してくるチニに対して、チハは苦し紛れに主砲を撃つが、チニの分厚い装甲には全く効果がない。そんなことはお構いなしにチニは接近してくる。

西 「砲手、チニを枯れ草置き場まで誘導できるか」

チハ砲手「やって見せます」

 砲手はチニの速度に合わせてタイミング良く砲撃で木を倒していく。遠距離から細い樹木を狙撃するとは流石は隊長車の砲手を任命されているだけはある。

浜田「倒木で時間稼ぎとは見苦しい、西隊長にも知波単魂があるならば潔く散るべきです」

 チニは倒木を避けて前進しているが、倒木を避けていくうちに干し草置き場に吸い寄せられるように自然に誘導され、最後にはチニは干し草置き場の前の砂利道に沿って前進し始めた。

浜田「突撃、突撃、一にも二にも突撃だ。諸君、あと40メートルで決戦射撃距離に入る。距離圏内に侵入すれば私の合図とともには撃って撃って撃ちまくれ。装填手、砲手、用意」

浜田「あと30メートル」

チニ操縦手「あと9秒で決戦射撃圏内に入ります」

浜田「あと20メートル」

チニ装填手「装填完了しました」

浜田「あと10メートル」

チニ砲手「いつでもいけます」

浜田「決戦射程距離圏内に入った、うてぇ「ドゴォン」

 自車が砲撃した際の震動とは明らかに異質な揺れがチニを襲い、チニは横倒しになった。

浜田「何事!?」

 浜田の疑問に答えることなく、チニからは問答無用で白旗が揚がった。

浜田「イタタタ……自滅か?」

 浜田がキューポラから這い出ると、目の前には干し草ロールに包まれた九五式軽戦車の姿があった。その砲身からは硝煙が立ちこめ、キューポラからは福田が顔を覗かせていた。

浜田「参ったよ、釣り野伏か……」

 

蝶野「「知波単学園西軍の勝利」」

 

 「「やったな、ブラボー、知波単学園見直したぜ、西隊長ほれちゃうねぇ、福田ちゃんかっこいいー」」

 突然の逆転勝利に観客は沸き立ち、観客席は拍手の渦に包まれた。突撃しか脳がないと思われていた西の圧倒的劣勢からの善戦、そして最後のフラッグ車をおとりにしたトリックプレーに観衆は皆、賞賛を惜しまなかった。

 

沙織「男を落とすにもやっぱり突撃だけじゃ駄目なんだね。これからは頭を使っていかないと」

華 「あらあら殿方に突撃した経験もないくせに」

沙織「華、うるさいわよ」

みほ「でも良かった……西さんが隊長を続けることになって」

優花里「確かに西殿が隊長でない知波単って知波単らしさがしませんもんね」

麻子「最後のトリックプレーは良かった。プラウダ戦を思い出した」

優花里「どちらも自分のフラッグ車を囮にして、敵のフラッグ車を撃破、それも待ち伏せのところまで一緒ですからね」

沙織「ていうか麻子、いつから起きてたの?」

麻子「フラッグ車が窪地で対決したところから」

沙織「試合中ほとんど寝てたのね……」

 

ダー「ペコ、こんな格言を知ってる。究極の希望は、究極の困難から生まれる」

ペコ「バートランド・ラッセルですね」

ダー「究極の困難を乗り越えた西さんもとい知波単学園は、これから手強くなるわよ」

ダー「次、知波単学園と試合をする際には、ティーセットを贈ることになるかもしれませんわね」

アッサム「次の知波単学園との戦いは守りの堅いチャーチルに乗っていても紅茶散る(こう「ちゃーちる」)展開になるということですね」

ペコ「……」

ダー「……」

 

 フラッグ車のチハが福田の九五式軽戦車に牽引されながら戻ってきた。西がチハから飛び降りるととそこには、涙目になった西軍の隊員たちが整列していた。

西 「おい我々は勝ったんだぞ、泣くな泣くな」

 西はすっーと胸を大きく膨らまして深呼吸をし、大きく口を開いた。

西 「お前たち、今日は本当にありがとう。感謝の念に堪えない」

玉田「たっ隊長、不肖玉田は隊長が勝つと信じておりました」

 玉田は目一杯に涙を浮かべ、鼻水を垂らしている。タンクジャケットの袖も鼻水と涙で水に浸けたようになっている。

西 「玉田、ハンカチだ。これで涙をふけ」

西 「おい福田、ちょっとこっちに来い」 

 西は玉田にハンカチを手渡すと九五式の上に乗っていた福田を手招きして呼び寄せた。

西「最後のお前の活躍見事だった。私の次の隊長はお前がいいかもしれんな」

 そう言うと西は福田の腰に手を回しギュッと強く抱きしめた。

福田「隊長、恥ずかしいであります。皆の目の前で抱擁とは、隊長は破廉恥であります」

 福田は顔を真っ赤にして、恥ずかしさから来る汗をダラダラと流している。

浜田「お取り込み中失礼」

 西軍の人混みをかき分けて浜田が現れた。

名倉「なんだ浜田、試合結果に文句でも言いに来たのか?」

 名倉をはじめ西軍の皆は浜田に対して敵意の視線を送っている。

浜田「敗軍の将には優しくしてほしいものだな」

 悪びれる様子もなく浜田は西の前まで歩いて行った。

浜田「知波単魂は、私ではなく貴方の方がお好きのようで」

西 「勝負は時の運だ」

浜田「これだけの戦力差で負けてしまっては、運などではありません。私の信じる戦車道が誤っていて、西隊長の信じる戦車道が正しかったのです」

西 「戦車道に正しい道などない。道に正しいも誤っているもあるものか」

西 「で、本当の用件は何だ」

浜田「今回の騒動の責任を取り辞表を持って参りました。謀反の首謀者として責任を……」

「「ビリィビリィ」」

 西は辞表を受け取るやいなや目の前で破り捨てた。

浜田「なっ何を……」

西 「今回の戦いは、知波単の将来を憂える者たちが互いに正面から意見をぶつけ合っただけ、謀反でも何でもない。そうだろ?」

浜田「にっ西隊長……」

西 「それに私も吶喊を全否定してしまったことを謝らなければならない。今日、浜田たちの吶喊を見て、刹那的ではなく考え抜かれた末の吶喊が侮れないことを知った」

西「これからは大学選抜戦で学んだ遊撃戦と知波単の伝統である吶喊を融合した新生知波単学園戦車道を一緒に創っていこうではないか」

浜田「不肖浜田、誠心誠意お手伝いさせていただきます」

 浜田並びに後方で話を聞いていた東軍参加者は皆泣き崩れた。

西 「何だ福田、こういう状況を聖グロ風に言うとだな……」

福田「はい?」

西 「福田、こんな格言を知ってる?『雨降って地固まる』」

福田「最後の最後で台無しであります……」

 

 


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