シャロside
「あー!もうこんな時間。……仕方ない、近道しちゃおう。」
入学式のあった日の放課後、バイトまで時間があるからと立ち寄ったカップ屋で思いの外多く時間の消費してしまった私は、バイトに遅刻しそうになったため近道しようと路地裏に入った。
「!」
けど、路地裏に入った瞬間に私は自分の行動を強く後悔する。
だって道の真ん中を塞ぐようにして座っている、そいつに出会ってしまったから。
鋭い眼光に、悪そうな顔立ちで植物の茎を咥えている、右目にある大きな傷跡のあるそいつに……。
(逃げなきゃ。)
そう頭では分かっているのにそいつを見た瞬間、身体はいう事が効かなくなり恐怖で足がすくえ、動く事が出来なくなる。
そしてそんな私に向かってじりじりとその灰色のそいつは近付いて来た。
逃げる事は出来ない。恐怖ですくんだ足が言う事を聞かず動く事が出来ないから。
今の私が出来る事といえば、
「た、たすけて……、誰か助けて……。」
ただ震える事と、か細い声で助けを呼ぶ事しか出来なかった。
だけどその助けを呼ぶ私の声は、
「あ、また道塞いでるな。」
幸運にも運命的な出会いを私に届けた。
振り向くと私と同じ制服を着た紫色のツインテールの女の人が立っていた。
「ほら、あっちいった。」
その女の人は勇敢にも私とそいつの前に立ち、手で追っ払う仕草をする。
するとそいつは悔しそうに咥えている植物の茎を吐き出してどこかへ去って行った。
途端に安堵が私を包み、強張っていた身体から力が抜けて私は立つ事も出来ずにその場でペタンと両膝をついてしまう。
「大丈夫か?」
その声に顔を上げると力が抜けて立てない私を心配した表情で見下ろすさっきの女の人。
「ほら、立てるか?」
そう言って差し出された右手を一瞬躊躇った後掴むと、ふわりと手を引かれ立たされる。
「うーん、摺ったりした所はなさそうだな。良かった、けがしてなくて。」
私の周りをぐるりと回って私にけががない事を確かめると、その女の人は安心した表情で笑顔を浮かべる。
「じゃあ私はこれで。」
そして颯爽と去っていくその人の後ろ姿はまるで物語に出てくる王子様みたいにカッコ良くて、私はいつまでもその後ろ姿を見つめていた。
そしてしばらくした後、女の人にお礼を言う事と名前を聞く事、そしてバイトの始業時間が迫っていた事に気付いて、慌ててバイト先のクレープ屋に走って行ったのだった。
――第19話 にゅうがく6――
そんな運命的な出会いを果たした2日後のお昼休み。
「パン作り?」
「うん、バイト先に実家がベーカリーの子がいて今度の土曜日にその子指導の元、パンを作る事になったんだ。だからシャロもどう?」
学校初日の朝の一件のおかげか、席が前後という事もあってよく一緒にいて、互いにタメ口で下の名前で呼び合い、お昼も一緒に食べる位仲良くなったトウカからパン作りに誘われた。
「……。」
「どうしたの? ……もしかして何か予定、あった?」
答えずにいるとトウカは切ない表情で聞いてくる。
その表情が女の子以上に女の子らしくて、(本当にトウカって男の子なの?)と、つい出そうになった言葉を首を横に振って消してから、
「予定はないんだけど、行っても良いの? 私、パン作った事ないから上手く作れるか不安で。それに初めて会う人もいるし……。」
代わりにトウカに今の自分の不安を正直に応えた。
誘ってくれたのはとても嬉しい。
でもその反面、私の中には不安もある。
初めて会う人達と一緒に、初めてするパン作りがちゃんと出来るか、という不安が。
そんな私の不安を聞いたトウカは微笑んでゆっくり「大丈夫」と答える。
「実は僕もパン作りは始めてだからちょっと不安なんだ。上手く作れる自信ないし……。
でもそれは他のみんなも同じで、例え上手く出来なくてもそれを悪く言う人は
それにパンの作り方を教えてくれる子、ココアちゃんって言うんだけど、ココアちゃんも友達連れて来るみたいで、その子とは僕も初めて会うんだ。
だから、シャロも気にせず来てみない? きっと楽しいと思うよ。」
その言葉を聞いて、さっきまであった不安な気持ちが少し晴れるのを感じた私は「じゃあ、行ってみようかな」と、頷いた。
ーーーー
そして更に日が進み土曜日になった。
今日はいよいよパン作りの日。
トウカに連れられて喫茶店、ラビットハウスに行くと、水色の長い髪の青色のエプロンを着た女の子がそこにいた。
「おかえりなさい、トウカさん。えっと、そちらの方が、」
「うん、紹介するよ。こちら僕のクラスメイトの桐間 紗路さん。席が前後で仲良くなったんだ。
シャロ、この子はこの喫茶店、ラビットハウスのオーナーのお孫さんで、僕のバイトの先輩でもある香風 智乃ちゃん。
まだ中学生だけど凄くしっかりした子なんだ。」
女の子の私を見る視線に気付いてトウカは互いの事を紹介してくれた。
女の子、チノちゃんの頭を撫でながら……。
「はじめましてチノちゃん、今日は一緒に頑張ろうね。」
「は、はい// 頑張りましょう、シャロさん。」
あえて撫でられている事には触れずに挨拶するとチノちゃんは少し顔を赤くしながらも挨拶を返してくれた。
以前トウカからまだ中学生だけど年齢より落ち着いている子がバイト先にいる事を聞いていた。
きっとチノちゃんの事なのだろう。
けど初めて会う人の前で頭を撫でられて恥ずかしくて顔を赤くしてるのに、その手を払わずに撫でられたまま少し嬉しそうな表情を見せるチノちゃんは、年相応の女の子にしか私には見えなかった。
ガチャ
そんなチノちゃんをほほえましく思って見ていると、私の視線の先、正確にはお店のカウンター横のドアが開き、中から1人の女の人が現れる。
「!」
その人を見た瞬間、私は自分の心臓が飛び出るのではないかと思う位大きくはねるのを感じた。
……だってそこにいたのは数日前に颯爽と現れてヒーローみたいに私を助けてくれた女の人だったから。
「ん?」
「!!」
見つめていたせいで私の視線に気付いたのか、女の人が私の方に顔を向けたので目が合ってしまった。
その瞬間、急激に体温が上がり、カーと頬が熱くなるのを感じる。
……鏡を見なくても分かる。きっと私の顔は真っ赤なのだろう。
この1週間、私はこの人の事を忘れた日はなかった。
学校の休憩時間や登下校の時に再び会えないか探した日もあった。
会って一言お礼を言うために……。
でも名前も学年も知らない相手を短い休憩時間や、学校やバイトの時間を気にしながらの登下校では十分に探す事は出来ず、あの1回以降再び見つける事は出来なかった。
そんな相手が今、目の前に立っている。
きっと彼女は私の事なんて覚えていないだろうけど。
「こ、この前は助けていただきありがとうございました!」
それでも言いたかった一言を私は頭を下げるのと同時に言う。
きっと頭を上げた先には女の人の戸惑った表情があるのだろう。
この人からしてみれば、身に覚えのない事だから。
「気にしなくて良いよ、私は特に何もしてないから。
それより学校初日に大変だったな。あの後大丈夫だったか?」
「へ?」
……そう思っていたから、返された言葉の意味が一瞬何の事か分からなかった。
だけど、「学校初日の」という言葉を聞いて少しずつだけど理解出来た。
この人は私の事を覚えててくれていたという事に。
「あれっ リゼとシャロって知り合いだったの?」
そんな私達の様子を見てトウカが尋ねてくる。
「あぁ。入学式の日に学校が終わって、ここに来る途中で出会ったんだよ。」
「あ、だからあの日来るのが遅かったんだね。」
親しそうに女の人と会話をしているトウカ。
その姿を見て、何故かちくりと胸が痛んだ。
その胸の痛みはその後女の人とも互いに自己紹介をして、彼女が天々座 理世さんというお名前で、私やトウカの1個上の先輩だという事を知るまで続いたのだった。
――――
自己紹介を終えた後、少ししてから私はある事に気付いて周りを見渡す。
けど、お店のホールのどこにも今日パンの作り方を教えてくれるココアって子と、トウカの幼馴染のユキって子、それにその2人の友達の姿はなかった。
「ねぇ、トウカ」
「ん? シャロどうしたの?」
「ココアって子とユキって子とその2人の友達の子は?」
「あぁ。2人は今、その友達を迎えに行っている所なんだ。だからもうすぐ、」
カランカラーン
「みんな〜、遅れてゴメンね。」
「おまたせ〜。」
トウカが言い終わる前にお店のドアが開き、2人の少女がやって来た。
多分2人がココアとユキなのだろう。
……どっちがどっちだかまだ分からないけど。
「えっ!」
でも私の視線はすぐに2人ではなく、その後ろから来た女の子に向く。
「紹介するね、私達のクラスメイトの千夜ちゃんだよ。」
「
だってそこに立っていたのは私の幼馴染だったから。
せっかくトウカとシャロが同じクラスメイトになっているので少し強引な展開になりましたが、パン作りの時にシャロも登場させてみました。
「それにしてもトウカさん、出会ってまだ1週間しか経ってないクラスメイトを誘うとか、顔に似合わず結構積極的ですね。」
トウカ「か、顔は関係ないでしょ!」
そんなトウカはほっといて、「ちょ、ちょっ!?」来週はいよいよパン作り〜! と行きたい所だったのですが申し訳ございません。来週は私用の為、お休ませていただきます。
11/25(金)
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