闇。
闇。
真っ暗。
闇。
闇。
漆黒。
やみ。
やみ。
やみ。
光。
やみ。
やみやみやみやみやみやみやみやみやみやみやみやみやみやみやみやみひかりやみやみやみひかり...。
光...?
ちっちゃな光。
暖かい。
どんどん近づいてくる。
凄く眩しい。
だから目を閉じた。
「......ここじゃない」
光が言った。
「君の居場所はここじゃない」
ここじゃないの?
私はちょっと怖かったけど目を開けた。
そこには私の手の何倍も大きなゴツゴツした手。
でも暖かい。
「さあ、おいで」
光が言った。
私は恐る恐るその手を握る。
暖かった。
涙が出た。
中身が空っぽな私から涙が出た。
もう枯れてしまったと思った涙が出た。
嬉しかった。
私を真正面から見てくれるこの暖かい手が。
「さあ、楽園に」
私の手を力強く引っ張ってくれた。
闇の中にいた私の半分が光の中に入った。
「幻想の楽園に」
さっきより一段と強く引っ張ってくれる。
膝まで光の中に入った。
私の知らない世界。
私が夢見た世界。
「幻想郷へ」
光は私を闇の中から引っ張り出してくれた。
全身が今まで感じたことない温かさに包まれた。
光が私を抱きしめてくれた。
私は泣きながら
「...ありがとう」
私はもう一度目を閉じた。
見知った天井。
ベットの中にいた。
「...久しぶりね」
私は少し濡れた目を擦りながら体を起こす。
夢を見ていた。
私を変えてくれた日の出来事。
今の私を形作った出来事。
もう10年ほど昔。
...........。
いけない、余り感傷に浸っている場合じゃない。
ベットから出て背伸びをする。
いつも通りの時間。
何年も続けてきた習慣。
カーテンを開け放ち、新しい朝日を浴びながら
「よし」
私のいつも通りの一日が始まる。
まず、朝食の準備をする。といっても朝食を食べるのは私と美鈴、パチュリー様、その他諸々。
私の主人レミリア・スカーレット様、その妹様フランドール・スカーレット様は吸血鬼なので今の時間帯は寝ている。
私はフライパンで今日採れた野菜を炒めながら物思いにふける。
今日の朝に見た夢。
忘れることのない出来事。
でもここ最近あの夢は見ていない。
私を助けてくれたあの人は私に居場所をくれた後、私と同じ境遇の子達を見つける為に行ってしまった。
それからは一度も会っていない。
それでも今はとても幸せだ。
大切な家族が出来た。大切な友人が出来た。
こんなにも大切が私の中にある事が信じられない。
空っぽで周りに突き動かされていただけの私が。
...........。
「...また会いたい」
私は思わず自分の中で蠢く感情の渦を吐き出してしまった。
「誰にですか?」
ビクッ。
私は火を止めて振り返る。
「えっ、どうしたんですか!?」
そこには、狼狽えた表情の美鈴が立っていた。
「美鈴、盗み聞きとはいい度胸ね」
私の手の中には銀のナイフが握られていた。一時は嫌った能力。でも今はあって良かったと思う。
「ちょっ、まっ待ってくださいよ咲夜さん」
美鈴はナイフを見た瞬間、顔を青ざめ私から距離をとる。
「冗談よ美鈴」
私は手の中にあったナイフをしまい、笑顔で笑った。ちゃんと笑えているだろうか心配だ。
「咲夜さんが言うと冗談に聞こえませんよ」
頬を膨らませながら抗議する美鈴。
「あら、悪いわね冗談に聞こえなくて」
美鈴の軽口に軽口で返してやる。本当に失礼な奴だ。
「ふふっ、やっと笑いましたね咲夜さん。朝食が遅いもんだから見に来たら涙ぐんでいるもんで心配しましたよ」
なんだか盛大に心配させてしまったらしい。反省しなければ...。
「で、何かお悩みですか?私に出来ることなら何でもやりますよ!」
満面の笑みでそう言ってくる美鈴を直視できなくて私は話をそらす。
「それじゃあ、このパンと野菜炒めあと調味料を持っていってもらえるかしら」
「もう、そうやって話をそらして...ナイフとフォークは?」
「それは私が持っていくわ」
分かりましたと言って美鈴は食器を持って出ていく。やっぱり優しい奴だ。私の事を考えてくれている。
また感傷に浸る前に私は人数分のナイフとフォークを持って台所を出る。
朝食を終え、館内の清掃を始める。
といっても館内はちょっとしたグラウンドより大きい。一人で昼食前に終わらせられる量ではない。私以外は。
私の能力は時を操る程度の能力。
時を止めてしまえば、どんなに時間をかけて清掃をしても私以外には一瞬で終わった様に見えるわけだ。
どれほど経っただろうか。もう館の半分程は清掃仕切った。いつもなら、あの夢を見ても清掃を始める時には心の片隅に置いておけるの今日はチラチラ思い浮かべてしまう。
今日は何かが違う。
そんなのは根拠の無い事であると分かっているのに私は期待してしまう。
あの人が帰ってくる。
そんなはずは無い。あの人は多忙なのだ。
これは一種の気の迷いだ。無心無心無心無心。
それからは着々と清掃を進め、体感時間4時間程で全作業を終える。
パチッ。
指を鳴らし能力を解除する。別にこんなことをしなくても解除は出来るが気分だ。
「ふう」
少々疲れてしまった。
私以外は数秒と掛からずに清掃が終わったように見えるが私から見れば4時間だ。疲れもピークに達している。仮眠でもとろう。
私は仮眠室に向かう途中、あの人から貰った胸元の懐中時計を見て現在の時間を調べる。8時20分程だ。昼食を作る時間を入れると2時間は寝られるだろう。
仮眠室は簡素な造りでベットと化粧棚しかない。
靴を脱いでベットに潜り込む。清掃仕立なので埃も無くベットメーキングも完璧なので直ぐに睡魔に襲わる。
光。
わたしは今光の中にいる。
わたしを助けてくれた大きな手はわたしの手を握ってくれている。
「ここが幻想郷だよ」
「げんそうきょう?」
「そう、君の居場所だ」
そう言って大きな手の持ち主、背の高い男がわたしを見つめてくる。
「さあ、行こう」
そう言った男は空中に浮かんでいる。
「わあ、すごい」
「君にだって出来るさ」
そう言ってわたしの手を引っ張ってくれる。
なんだか体が軽くなったみたいでわたしも男に続いて空中に足をかける。
飛んでいる。
大空の中、自由に飛んでいる。
「ついておいで」
男は笑みを浮かべて大空にかけていく。
わたしも必死になって追う。
それから、飛ぶことにも慣れたわたしは聞いてみた。
「どこへいくの?」
「もう少し、もう少しで君の新しい居場所につくよ」
「いばしょ?」
「そう、居場所さ。君を蔑んだり奇怪な目で見たりしない優しいところ」
「ほんとに?」
「ほんとさ」
もうわたしの事をいじめる人がいないと思うとなんだか嬉しくなって涙が溢れる。
「見えてきた。あの赤い館、紅魔館がこれから君の居場所だ」
男が指さす方向を見ると赤い大きな家がある。
とっても大きな門を潜って、大きな庭を横切って、扉を開ける。
そこにはすごく大きな階段の踊り場に佇む小さな女の子がいた。
「その子が契約の子かしら?」
そう言った小さな女の子はわたしを見ながら階段を降りてくる。
「ああ、そうだレミリア」
男は膝を曲げて私と同じ目線になる。
「あいつはレミリア・スカーレット、新しい家族だ」
男は小さな女の子、レミリアを指さしながら言う。
「かぞく?」
「ええ、そうよ人間あなたは私が面倒を見るわ。美鈴この子に合う服を持ってきなさい」
そう言ってレミリアはいつの間にか居た女に命令した。
「はい、お嬢様。さあ寸法をしますからこちらに」
女は私の手を握り私を促す。
男から離れたくなかった私は戸惑っていた。
「行っておいで」
男はそう言って私の手を離す。
「...わかった」
私は女に手を引かれ衣装部屋に入った。
美鈴と呼ばれた女にメイド服を着せられ大広間に戻った時には男は居なかった。
「あのひとは?」
私はずっと階段の踊り場に居るレミリアに聞く。
「賢者はあなたと同じ境遇の子を探しに行ったわ。あまり一緒に居られなくて悪いと一言言っていたわ」
「そんな...あのひとはいつここにくるの?」
私は目から涙を流しながらレミリアに聞く。
「わからないわ」
私は泣いた。
あの人が居ない。
私を助けてくれたあの人が。
泣いた。
泣いた。
......。
私が落ち着いた時を見計らってレミリアが
「人間、いえあなたは私達の家族になったわ。あなたに名前を授けるわ」
言いながら踊り場から降りて私の目の前に歩いてくる。
「あなたは今日から十六夜咲夜と名乗りなさい」
私は彼女を見つめるしかできなかった。
また夢を見ていた。
お嬢様に初めて会った日。
あの日私、十六夜咲夜が生まれた日。
そしてあの人と会って別れた日。
「また会いたい」
溜まった涙を指で拭う。
注意⚠主人公は賢者(オリキャラ)です。