765シアターは今日もにぎやか! ~三十路女Pとアイドルたちと事務員さん、ときどき先輩と社長~   作:葉月の百合

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 大変お待たせいたしました…。第一話、なんとか投稿でございます。

※注意! この話にアイドルは出てきません。オリ主の過去話となっております。


第一話 遠き日の憧れが導きし縁《えにし》

 -ガチャリ

 

 「ふぅ。ただいまーっと」

 

 帰宅して部屋のドアを開けながら声を出すが返事はなかった。

別に寂しくはならない。一人暮らしなのでそれが当然だからだ。

(というかむしろ、反応があった方が怖いし。なにその心霊現象、もしくはストーカー行為)

 

 そんなくだらない事を考えつつ、私は部屋の電気をつけた。

そして届いていた郵便物を広げ、あるものを探し始める。

 

 やがて目的のもの――とある会社名が書かれた封筒――を見つけた私は、厚みが無く薄いそれを手に取ると、しばし見つめる。

「…じっと見ててもしょうがないよね、うん。よし、開けるぞ!」

 嫌な予感を感じながらも、私は意を決して封筒から書類を取り出した。そして目を通していく。

 

 

「………はぁ」

 

 読み終えると同時に私は溜息をついた。その後、誰にともなく呟く。

「やっぱりまたお祈りされちゃってたか…。まぁ確かに面接とかは得意じゃないうえに年齢的なアレもあるし、ね…。とはいえ、こう上手くいかないと流石にヘコむなぁ…」

 

 

「はぁーあ…」

 

 私は再び――と言っても先程のものより更に深い――溜息をついた。そして倒れこむようにしてゴロン、と部屋の床で仰向けになる。

「どうせなら前職の経験を活かせる職種にしようと頑張ってたんだけど、こりゃもう、選んでる余裕とかないかもな…」

 そうぼやくと、私はそのまま何をするでもなくぼんやりとすごす。

 

 

 テンションは最低で、気分を紛らわす為に何かする気力も出ない。

涙が出そうなのは、仰向けになった際に部屋の照明が眩しかったからだ、という事にしておいた。

 

 

(…選ぶ、か。そういえば私って何かやりたい事とかあったっけ…?)

 私は依然仰向けになったまま、ふと、そんなことを考えた。

 

 思えば、私には夢とかなりたいものとか仕事にしたい何かが特にあるわけではない。

必死に就活してなんとか前職に就いたのも、生活に必要な資金を稼ぐためと、世間一般における『普通の人』――所謂『学校を卒業した後社会に出て働き自立している大人』――をなんとなく目指していたから、というだけだ。

 そんな私が改めて考えてみたところで、出てくる結論が『特に無い』となるのは必然だった。

 

 

(…ああ、でもそういえば。小さい頃には一応、憧れたものはあるといえばあったっけ)

先程の結論に少々虚しさを感じていた私に、幼き日の夢…というよりは憧れたものがよぎった。

 

 その憧れとは……【アイドル】である。

 

 

 【アイドル】

 

―それは、ずば抜けた歌唱力や愛らしさを誇る者

―あるいは、高い身体能力・優れた技術とともにそれを活かせる知識を持つ者

―またあるいは、溢れるセンスや情熱・信念を体現し、表現する者

 

―それら全てを含めて自らを輝かせる様々な魅力(こせい)とし、その輝きで人々を魅了する存在

―その誰もが、人に愛される可憐さだけでなく、確たる力強さを瞳に宿している存在

 

 

 幼き日の私も、そんな存在である彼女(あるいは彼)らの輝きに魅了された一人だった。

 

 きっかけは、元々歌う事が好きだった私が偶然見たテレビのライブ。

ステージの上で美しい輝きを放ち、尚且つ力強い歌声を響かせる姿に、そして何より楽しそうあるいは誇らしげに歌っているその姿に、すっかり魅了されてしまったのだ。

 それ以降、私はアイドルたちの曲を歌ったり、その振り付けを覚えて真似して踊ったりして遊び、テレビでライブ等が放映されていれば食い入るように見るのが当たり前になった。

 

 そんな風にきらきら輝くアイドルたちを見続けていた私が、「自分もあそこに立ってみたい!」と夢見るようになるのにはたいして時間がかからなかった。

 それからは今まで以上に熱心に、それこそ遊びレベルでなく幼いなりに本気でアイドルたちの歌とパフォーマンスを真似するようになった。更には、習い事として歌のトレーニングもある音楽教室に通わせてもらったりもした。

 

 しかし、時が経ち成長して大きくなれば、夢や理想だけでなく現実もまた見えてくるというのが世の常である。

 私もまた、その例にもれず、歌うのが好きな事は変わらなかった――いや、変わらないからこそなのかもしれない――が、いつからか「自分もあの場所に立ちたい!」とは考えなくなっていった。

練習を続けていても、「自分は主役にはなれない」「あの場所に届く事なんてない」という思いの方が強くなり、目を背けるようになっていたからだ。

 

 

 やがて私は、「所詮小さい頃のただの憧れにすぎなかった」と割り切るフリをして完全に諦めた。

 

 

 このように本気で目指さず諦めたのだから、先程表現したとおり『夢』ではなく『憧れ』としか言えないのである。

 

 

 

(……でも。全く未練が無かった、ってわけじゃあないんだよなぁ…)

 かつての憧れを思い起こす時にいつも感じる、懐かしさと悔しさと不甲斐なさが入り混じったものが私を襲った。

私はそれを振り払うように声を出す。

「…やめやめ。さてと、いつまでも横になってないで次に向けて動き出さなきゃね、っと」

 少し沈みがちな気分を引きずりながら、力を込めて体を起こす。

 

 ある求人広告――先程広げたままにしていた郵便物の中にあった――が偶然目に入ったのは、そんな時だった。

 

 “新規プロジェクトの為の従業員募集中。  

   あなたもトップを目指すアイドルたちを支え、共に歩んでみませんか?”

     

 

 広げたままの郵便物が目に入ったのは本当に偶然だった。決して特に何か意図があったわけではない。

「にも関わらず、よりによってあんな事を思い出していた後にアイドル関連の求人広告とか…。あはは、とんだ皮肉だね」

私は自嘲気味に笑いながら、片付けようと手を伸ばす。しかし、ふと興味が湧いて手が止まる。

(そういえば、こういう界隈の臨時じゃない裏方募集ってどんな感じなんだろ?)

 

 人は一度何かが気になると、それが解決するまで落ち着かない場合が多い。かくいう私もその一人だった。

 片付ける前に続きを読んでみる事にした私は、ある一文を目にして思わず視線が釘付けになる。

「ん…?」

 

 “年齢・性別問わず。未経験でも大丈夫!”

 

「ええ!? 『年齢・性別問わず』、おまけに『未経験でも大丈夫』!? こ、これは…!」

 私は驚きの声と共に目を見張った。何故ならその条件は、まさに今、私が悩んでいた部分にピッタリ当てはまるものだったからだ。

 

 確認の為、今度はきちんと内容を読み進める。

「うん、間違いない…。しかも『新規プロジェクトの為の従業員』って事は、これから覚える事の方が多そうだから私には好都合なんじゃ…! いやでも、ここまで都合のいい条件だと逆に怪しくないか…? えっと、募集元は、と…」

 私は好条件に胸躍らせるも、それ故に少々訝しみながら募集元の記載されている箇所に目線を移した。

 

“ご応募お待ちしています! 

       ご連絡はこちらへ:03-◇△□×-○○○○  765プロダクション”

 

「765プロダクション…確か、ここ最近よく名前を見かけるようになってきてる所だっけ? ふむ…」

 私はおもむろにパソコンが置いてある机まで移動すると、その765プロダクションとやらが関わっていたものや仕事ぶり等の評判を色々調べ始める。

 ざっと見た所、特におかしな点は無い様だった。それどころか、その手の業界では今注目を集め始めている事務所らしい。

 

(うーん…。特に変な噂も無いみたいだし、勢いに乗ってる所なら、それを削ぐ様な怪しい事はしない、かな…? よし! どうせまだ次の目的も決めてなかったし、これも何かの縁って事かもね)

 私は悩みながらもそう結論付けた。

そして早速次の行動に移る…否、移ろうとした。しかし、時計を見て思わず動きが止まる。

 

「……うん。今日はもう部屋片付けて寝るかな…」

 色々集中しすぎて周りが見えなくなっていたらしい私は、そう呟いて部屋の片付けを始めるのだった。

 

…時刻は既に、普通の企業ならとうに終業している時間帯だったのである。

 

 

 そして翌日。

 

「あ、もしもし、765プロダクション様ですか? あの、わたくし、応募を見てお電話させて頂きました栗井と申しますが………」

 

 

 

 

 

 ―こうして私は765プロダクションの募集に挑む事となった。しかし、実は一つ重大な勘違いをしている事にこの時点の私は気が付いていなかったのだ。

 

 そしてその勘違いこそ、『かつて自らが憧れた存在をその手でプロデュースする』という数奇な運命の始まりだったという事など、この時の私には知る由もなかったのである―

 

 

 

 

 





 THE・大遅刻…。申し訳ありませんでした…m(_ _;)m

 追記:活動報告の方でちょっとしたおまけ(裏設定とか)も書いてるので、よかったらお暇な時にでも読んで下されば嬉しいです。

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