765シアターは今日もにぎやか! ~三十路女Pとアイドルたちと事務員さん、ときどき先輩と社長~   作:葉月の百合

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お久しぶりです。






第二話 いざ、戦い《めんせつ》へ

 

 

 ―コツ、コツ、コツ…

 

 都内のとある雑居ビル階段に、そこを登るスーツ姿の私の靴音だけが響く。

…いや、おそらく他の音も普通に響いているはずだ。なにせ、このビルは街中にあるから当然雑踏の音が聞こえてくるはずだし、他のテナントも入っているのだから。

つまりは、ただ単にこれから自分が挑む事に精一杯で余裕が無い状態の私の耳には、他の音が入ってこなかった、という事なのだろう。

 

やがて階段を上りきった私の目の前に、本日の目的地が姿を現した。

 

「ここが、765プロダクション…」

 

 

 

 

(うぅ…緊張してきた…。何度経験しても慣れないんだよなぁ…)

 あの申し込みの電話から数日。面接を受けに来た私は「765プロダクション」と書かれた扉の前で立ち尽くしていた。緊張で顔と体が強張っているのが、鏡を見ずともわかる。

 

 だが、いつまでもそうしているわけにはいかない。

少しでも緊張をほぐす為、私は深呼吸をして気持ちを落ち着けようとする。

(すぅ……、はぁ……。よし、まずは落ち着け、私…。落ち着いていけば大丈夫、大丈夫…)

自分にそう言い聞かせると、私は意を決してインターホンを鳴らした。

 

 

「………はーい、何か御用でしょうか?」

「あ、あの、ほ、本日面談のお約束をさせて頂いている栗井と申します!」

鳴らしてからやや間が空いた後に返事が聞こえ、私はそれに多少つっかえつつ――どうやら先ほどなんとか落ち着かせようとした甲斐はなかったようだ――答えた。

 

 答えた直後、最初の一歩からいきなりの失敗という自らのあまりの情けなさに、私は暗い思考の海に沈む。

(あぁぁぁ…。もう…ホント私ってば、こういう所ダメダメだよなぁ…。相変わらずこんなだから、面接も不得意なままだし……あの時とか、あの時とかだって……)

しかし、すぐ続いた相手の声でなんとか我にかえった。

 

「ああ、栗井さんですね。お待ちしていました。今お開けします」

 

声の少し後にガチャリ、と音を立てて扉が開く。

 

 

 扉の向こうには、声の主と思われる緑の制服を着た女性がいた。

おそらくはこの765プロダクションの受付か、あるいは受付兼業の事務員あたりなのだろう。チラリと見えた事務所内入口付近には受付スペース等が無かったので、後者かもしれない。

 そんな彼女は、肩口より少し上で切り揃えたショートの髪がよく似合い、口元のほくろがチャームポイントにもなっている美人だった。

私は思わず見とれてしまう。

(おぉ…。さすがは今話題の芸能プロダクション、事務員さん(仮)までレベル高いんだ…!)

 

「はじめまして。私はこの765プロダクションで事務員を務めている、音無 小鳥(おとなし ことり)と申します。どうぞお入りください」

音無さん――やはり事務員の方だった――は、その場で軽く挨拶しながら、笑顔で出迎えてくれた。

 

 

(あれ……?)

 私は彼女のその笑顔を見て、何故か既視感を覚えた。

『いつかどこかで見た事がある』というようなひどく曖昧なものだったが、それをきっかけに名前の方にも聞き覚えがあるような思いにとらわれる。

(うーん…。私は、この人に会った事がある…? 音無、音無小鳥、か…。なんだろう、どこか引っかかる名前の様な…)

 

 そんな事を考えていたからか、いつの間にか彼女をじっと見つめるような形になってしまっていたようだ。不思議に思ったらしい彼女から、再び声がかかる。

「あの、どうかしましたか…?」

首を傾げながらこちらを見つめる彼女に対し、私は慌てて答える。

「え!? い、いえ、出迎えてくれた方が美人さんだったので、思わず見とれてしまって!」

「あら、ありがとうございます♪ ふふ、お世辞だとしても嬉しいですね♪ さ、立ち話もなんですし、中へどうぞ」

そう言うと、彼女は言葉通り嬉しかったのか、上機嫌な様子で中に案内してくれた。

 

とっさに思いついた言い訳だったのだが、なんとか取り繕う事に成功したようだ。

私は、最初の時に見とれてたのは本当の事だから嘘ではないよね、という誰にするでもない謎の弁解を思い浮かべつつ、返事をする。

「あ、はい。それではお邪魔致します」

 

 しかし返事をすると同時に、上機嫌の彼女を見た事で既視感もまた強くなっていた。

(やっぱり、どこかで……。まぁ、思い出せないって事はたいして重要な事じゃないだろうし、これ以上考えるのはやめておこう。とにかく今は面接を成功させるのに集中しないとだから、ね)

 

 区切りをつける為にそう結論付けた私は、いよいよ765プロダクションの中へと入るのだった。

 

 

 ――ちなみにこの時の既視感の正体と、思い出せなかった…いや、()()()()()()()()()()理由はのちに判明するのだが、それはまた別のお話である――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ご無沙汰しておりました。なんとか文章が書ける状態まで復活しましたので、ようやく続き投稿です…。

 ちなみにサブタイトルについて:「いつから読み仮名が漢字の通り読むものだと錯覚していた?」 
…すみません。ラノベみたいにタイトルに無理やりなルビ振るのやってみたかったんです…。まぁ、本文中ではプロローグと一話ですでにやってましたけどねw


 あ、活動報告の方にも色々書いてありますので、よろしければお暇な時にでもご覧下さい。

※後程本編のネタバレとか補足分も追加するかも…?⇒活動報告の方にうpしましたー。こちらもご興味があればどうぞご覧下さい♪




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