よくここまで続くなぁ(遠い目)
昼休み。
多くの不良達が腹ごしらえを終えた頃。
海斗とことりは、居なくなった焔也の行方を案じていた。
「焔也くん、戻って来ないね……」
「あぁ……アイツにはすこしキツく言い過ぎてしまったかもしれんな」
不機嫌そうに教室を出た焔也は、あの後何処かへと行ってしまった。
おそらく学校をフケてしまったのだろう。
明日の朝にでも詫びを入れようと、海斗が心に決めた時。
不意に彼のスマートフォンが小刻みに震えた。
「ん?誰だ?」
画面を起動し、メッセージアプリを開く。
フレンド欄の一番上に、送り主の名があった。
「焔也からだ」
「え?ホント?焔也くん今どこにいるって?」
ことりが思わず身を乗り出して聞いた。
海斗の目が焔也からのメッセージを目で追う。
『支倉は教室にいるか?』
「支倉だと?」
「支倉君を探してるの?」
「どうもそうらしいが……何を考えてるんだ?」
海斗は軽く教室を見回す。
焔也の言う支倉はちゃんと教室におり、弁当を忘れたと嘆いているのが見えた。
海斗はすかさず文字を打ち込む。
『教室にはいるが、どうしたんだ?』
『悪いけどよ、支倉に中庭まで来るように言ってくれねーか?』
『だから、支倉を呼び出して何をするつもりなんだって聞いてるんだ』
次に焔也が返信した文字は、海斗とことりの目を疑うものだった。
『喧嘩すんだよ、アイツと』
学院制覇に無関心だったはずの高坂焔也が支倉和臣に喧嘩を売った。
その事実は瞬く間に学院中の不良達に広まった。
その一部始終を目撃しようと、既に中庭には数多くの不良達が集っていた。
教室の窓から見る者を合わせると、実に100人は下らない数のギャラリー。
その全員が中庭でタバコを吸う一人の男に注目していた。
明るめの茶髪に、腕まくりした学ラン。
ボタンは当然のように全て外されており、中には「ほ」と書かれたオレンジのTシャツを着ている。
その男こそ、今回の出来事の元凶である高坂焔也だ。
「あれが高坂か……腕とか太いな、ありゃ相当喧嘩慣れしてるぜ」
「こないだまで売られた喧嘩買うだけでこんな事はしなかったらしいぜ?」
「なんでまたこんな事したんだ?」
「さぁな、でも動機としてはこないだのリベンジマッチってのがデカイだろうな」
「二年の中の最強候補か……こりゃオトノキが荒れるぞ〜」
ギャラリー達の興奮も冷めやらぬ中、ついにそのリングへと上がる挑戦者が現れた。
「支倉だ!支倉が来たぞー!」
「A組の頭か……パッとしねえな」
「何でも高坂との喧嘩じゃかなり負けてるらしいよ?でもってその度に挑み続けてるとか」
「まぁ、クラスの頭がそんなんじゃ締まらねえからなァ」
「でもその折れねえ姿勢はなかなか良いと思うぜ」
ギャラリー達が好き放題言っている中、焔也に対峙した支倉が口を開いた。
「来てやったぞ、高坂」
「あぁ、待ってたぜ支倉」
焔也は吸っていたタバコを足元に落とし、黒の革靴でしっかりと踏み消すと、真剣な表情で支倉を見る。
その普段と違う様子に、支倉は悟った。
「その顔……ようやく本気になったみたいだな」
「あぁ、そうだ。俺は今日お前をぶっ倒してA組のテッペンに立つ」
「させねえよ」
ファイティングポーズを取り、臨戦態勢に入る支倉。
彼にもまた、男としても意地がある。
「お前が本気になった以上、この喧嘩は絶対負けられねぇ。必ず勝って俺がA組の頭だって知らしめてやる」
「上等だ」
焔也も拳をペキポキと鳴らし、準備を整える。
「ケリをつけてやるぜ、支倉」
「こっちのセリフだ、高坂!」
両者共々長々とやるつもりは無い。
最初から全力で、一気に叩き潰す。
二人の意思はこの時、皮肉にもシンクロしていた。
その盛り上がり様は、不幸にも生徒会室にまで響いてしまっていた。
「ん?何の騒ぎだ?」
「ウチの生徒達はみんな毎日お祭り騒ぎやろ?一々気にしとったらキリがあらへんで?」
「いや、この盛り上がり方は……喧嘩だな。しかも結構な大物同士の奴だ」
大体の事情を把握している望が行かせまいとさり気なくフォローするが、不良達の異様な盛り上がり方に目星がついた英吉が状況を確かめようと席を立つ。
「(元不良ってのをこんな所で発揮せんでもええやん、めんどくさいなぁ)」
「アイツら全く懲りてないようだな、行くぞ望」
内心で呆れ返ってる望をよそに、早速腕に腕章を付ける英吉。
どうやら完全に行く気らしい。
「待てや英ちゃん」
「何だ?」
「わざわざ英ちゃんが行かんでもええやん。ワシが代わりに行ったるわ」
よいしょ、とゆっくり椅子から腰を上げると、机にある生徒会の腕章を学ランの袖に通す。
「何を言ってる、俺も行くぞ」
「ええって、英ちゃんはここで書類の続きしててや?」
「しかし俺が行かねばーーー」
「英ちゃん」
望は少し悲しそうに顔を歪めた後、諭すように言う。
「ワシはな、これ以上英ちゃんが皆から嫌われていくのを見たくないんや。黄金夜叉を率いて150人を率いとった英ちゃんが、今はまともに話せる相手がワシだけやなんて……そんなの悲し過ぎる」
「……俺が奴らから憎悪を受けるのは元より覚悟していた事だ。お前が気に病むことじゃーーー」
「そうやって何でもかんでも一人で背負い込もうとすんの、お前の悪いクセやで?とにかく、ここはワシに任せてや?な?」
やたらと積極的なのが気になる英吉だが、望が自分の事を考えて動いてくれようとしているのは分かる。
これ以上我を通そうとすれば、望の顔を潰す事にもなりかねない。
「……分かった、お前に任せるよ」
「おおきにな。ほな、ちょっと行ってくるわ」
そう言うと望は生徒会室を出て廊下を歩いた。
そして階段の踊り場に差し掛かり、英吉に自分の声が届かないと確信できる距離が空いたのを確認した瞬間、
「めんっっっっっっっっっっどくさ!!」
それは爆発した。
「あーもうめんどくせぇな俺が行ってやるつってんのになかなか折れやがらねぇしそのせいでくっさいセリフ吐かなきゃならねぇしそもそもお前が行ってもロクなことにならねえのいい加減気付けよマジでかしこくねえなあの野郎チクショウこっちの苦労も考えやがれってんだバカタレ!」
思わずエセ関西弁が抜けてしまう程の愚痴が決壊したダムのように溢れ出てしまう。
ある程度吐き出してすっきりしたのか、またいつもの飄々とした態度に戻る。
「はぁ、まぁこんな所で愚痴ってもしゃーないし行くかぁ」
階段を下り始める望。
その様子は、明らかに気だるそうだ。
いたってシンプルかつ、堂々とした闘いだった。
「オラァ!」
焔也の右フックが支倉の頬をえぐり、
「クソがァ!」
支倉も負けじと焔也の腹に拳を叩き込む。
特徴的なのは、両者共々格闘技の経験が無い事だろう。
その結果、簡明かつ明確な決着を欲した彼らのとった行動は、ノーガードの殴り合いだった。
アドレナリン脳内を駆け巡り、沸騰するかのような熱さが身体を支配する。
もはや二人は、相手のどこを殴っているかも分かっていない。
あるのはただ一つ、相手をこの手でぶちのめす事だけだ。
「ボケがァ!」
支倉の右ストレートを喰らった焔也が、お返しにボディブローを叩き込む。
軽くたたらを踏む支倉に、焔也は更に右のストレートで追い討ちをかける。
が、
「うぉおッ!」
それよりも早く支倉の右足が焔也の胴を正面から蹴り抜いた。
腕よりもリーチの長い脚活かし、一度距離を取る支倉。
「はぁ、はぁ、相変わらずつえーじゃ、ねえか……」
血の混じった唾を吐き出し、呼吸を整える支倉。
「おめーこそ、いつになくしぶといな、あァ?さっさとくたばっとけよコラ」
呼吸を整えつつもまだ余裕のありそうな焔也。
やはり喧嘩の実力では焔也が一枚上手か。
ギャラリーの誰もがそう思った時だ。
支倉が焔也を挑発したのだ。
「だったらさっさとトドメ刺しに来たらどうだ?もっとも、そんな度胸もねえなら話は別だがな」
「はっ、そんなボロボロでイキがってんじゃねえよ!そんなに潰されてぇならお望み通りトドメ刺してやらァ!!」
この明らかに無謀と言える行動、これがギャラリー達を改めさせる事になる。
「オラぁぁぁ!!」
トドメの一撃として放った右ストレート。
支倉はこれをギリギリ躱すと、がら空きの顎に左のアッパーを叩き込んだ。
頭部にモロに襲う衝撃に焔也がフラついた隙を狙うように、今度は支倉が焔也の顔面に拳を打ち込んだ。
「っ、ぐ!」
顔面へのストレートが気付けになり、体勢を立て直す焔也だが、その時もはもうーーー
追い討ちで放たれた支倉の右足のハイキックが眼前まで迫っていた。
「あが、っ!?」
反応が追い付かずに直撃を受けてしまった焔也の体が中庭の地面に転がる。
この番狂わせに、ギャラリーからは歓声が上がった。
「どうした?トドメ刺しに来るんじゃねえのかよ?」
「テメェ……!」
支倉の再びの挑発に、今度は心の底からの怒りに燃える焔也。
拳を握る力にも今まで以上の力が入る。
「面白くなってきたじゃねえかこの野郎……覚悟しやがれコラァ!!」
二人の戦いはまだ始まったばかりだ。
ちゃんとしたタイマン書くの難しいね