羅武雷舞〜音ノ鬼坂番長伝説〜   作:1UEさん

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なかなか難産でした。
タイマン、決着です。


十一撃目

昼休みに始まった焔也と支倉のタイマン勝負。

そのギャラリーの中に、三人の男子生徒がいた。

 

「焔也のヤツ、いつになくやる気だな」

「あぁ、今まで面倒くさがってたのに、何があったんだ?」

「……」

 

ヒデキ、フミオ、ミノル。

通称ヒフミトリオと呼ばれているこの3人は、二年B組を率いる実力者であるのと同時に中学時代から焔也と親交がある数少ない男達でもある。

 

「……俺さ、心当たりが一個だけあんだけどよ」

「マジ?」

「何さ?」

 

ミノルが恐る恐ると言った様子で言ったのは、今日の朝から出回ってたある噂についてだった。

 

「昨日の夕方、ウチの生徒とA-RISEの連中が揉めたらしいって噂立ってたじゃん?」

「あぁ、立ってたな」

「この噂には続きがあってさ。実はそれ、焔也がやったらしいんだ」

「「は!?」」

 

衝撃の事実に目を見開くヒデキとフミオ。

 

「お前それマジで言ってんのか!?」

「A-RISEつったらここらで今一番デカいチームじゃんかよ!」

「俺も最初は信じられなくて、すぐに海斗に確認したんだよ。そしたらどうもホントの事らしい……昨日の夕方、焔也の妹の雪穂ちゃんに絡んでたA-RISEの連中をやっちまったって話だ」

 

深刻な顔を隠せないヒフミの三人。

彼らも、最近のA-RISEの動きや勢力の大きさは知っている。

そして、敵に回したらいかにマズイ連中であるか、もだ。

 

「って事は、今こうやって支倉相手に喧嘩してるのは……」

「多分だけど、焔也は本格的にこの学校をシメるつもりなんだと思う。アイツは自分がテッペンに立ってオトノキを一つにまとめるつもりなんだよ。A-RISE相手でも戦えるようにな」

「焔也……」

 

そして、そんなヒフミの会話を後ろから聞いていた男が一人。

 

「(あちゃー……嫌な予感はしとったけど、ホンマにやってくれたな)」

 

生徒会副会長、東條望だ。

せっかく志賀仁志とのコンタクトに成功し、穏便に済ませようとしてた時にこれである。

彼からしてみれば、たまったものじゃない。

 

「(とりあえず、まずは静かにするように言わなあかんな)」

 

ギリギリまで先伸ばしにして時間を稼ごうとしていたが、あまり時間をかけ過ぎても英吉が怪しんで見に来る可能性が高い。

彼らには申し訳ないが、時間切れと言うことで一度解散してもらうとしよう。

 

「あーお前ら!英ちゃんがここの騒ぎに気付き出してるで!アイツ来る前にさっさと解散せんとーーー」

 

その続きを言おうとした望の口が止まる。

彼の目の前に広がっていた光景。

それは、

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……!」

 

 

 

荒い呼吸を繰り返し、顔と拳を赤く染め上げ、それでも楽しそうに笑う二人の男。

 

 

 

「いけるぞ支倉ァ!」

「殺れ支倉!そのままぶっ殺せぇ!!」

「焔也くん!頑張って!」

「負けるなよ焔也!負けたらお前の親父さんにお前がタバコ吸ってたのチクっちまうぞ!」

 

 

 

それを心から応援する両者の仲間達。

そして、

 

 

 

「いよいよ勝負が分からなくなってきたぞ!ただいまのオッズは高坂が6、支倉が4だァ!さぁ賭けろ賭けろォォォ!!」

「高坂に三千円!」

「俺も俺も!」

「待て、俺は支倉に五千円賭けんぞ!」

「なら俺は七千円だ!」

「面白そうなことやってんな。どれ、じゃあ俺は大穴狙って支倉って奴に十万円ほど……」

「いやいや西木野なんだその額!?高校生がポンと出せる額じゃなくね!?」

「ぼ、僕は五百円でいいかな?賭けるのは……高坂先輩で」

「華はやめとけって!それお小遣い最後の奴だろ!?」

 

 

 

それを自分勝手に盛り上げるギャラリーの不良達だった。

学校という一つの施設からしたらあり得てはいけない光景だ。

そして望は、自分がそれを止めなければならない立場のいる事も知っている。

それでも、

 

「(みんな、楽しそうやな……)」

 

その一人ひとりの顔には紛れもない笑顔と自由があった。

そうだ。

学舎はただ知識を蓄えるだけの場所じゃあない。

こうやって、生徒の顔に笑顔が無くてはならないんだ。

 

「(英ちゃん、堪忍や……こないにもええ喧嘩を邪魔するなんて、ワシには出来へんで ……!!)」

 

望は一人の男として、目の前の喧嘩を見届ける事を選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

右フック。躱される。

反撃のボディブロー。喰らう。

そのまま続けて右ストレート。これも喰らう。

更に前蹴り。足を掴んで引き倒す。

倒れた相手の顔を殴る。鼻柱にクリーンヒット。

続けて喰らうまいと、横になった体勢のまま腹部を前蹴り。喰らって距離が離れる。

そんなやり取りを、もう何度繰り返しただろうか。

 

「クソッタレ……相変わらずしつこいんだよテメーは……!!」

 

マウントを取り損ねた焔也が忌々しそうに言う。

 

「る……せぇ……俺は、負けられねえ、んだ!」

 

溢れ出る鼻血を無視して、無理やり立ち上がる支倉。

実力はやはり、焔也が一枚上手か。

息を切らしつつもまだ余裕のある焔也に対し、支倉は満身創痍という言葉が似合う程だ。

おそらく、今彼が立っていられるのもその執念から来る気力のおかげだろう。

 

「勝つのは……俺だ…………!!」

 

前のめりになったまま突っ込む支倉。

そのままの勢いで右の拳を振るう。

それを左腕で受け止めた焔也は、そのまま支倉の右腕を掴むと、その腕力に任せて思い切り引き寄せた。

そして、

 

「フン!」

「っ、ぶ!?」

 

鼻血の止まらない支倉に顔面にさらに頭突きを叩き込んだ。

痛みと衝撃で、目の前がチカチカする。

 

「コイツでシメーだァァァ!!」

 

トドメを刺さんと焔也が右腕を振り上げる。

多大な出血と衝撃の余韻で朦朧とする意識の中、支倉は今まさに振り抜かれようとする焔也の拳をぼんやりと眺めていた。

 

「(また負けるのか……俺は……)」

 

ナメられてた。

一年の一番最初にこの男に敗れてから、支倉の人生はナメられっぱなしだった。

興味が無いと焔也がほっぽり出し、暫定的に転がり込んできたクラスの頭。

しかし、付いてきたのはごくわずか。

そのごくわずかの男達が支倉に付いている理由も「自分達が負けたから」という結果論でしかなく、クラスの頭と認められたわけじゃない。

他のクラスの連中や街の不良からは「おこぼれで頭になった軟弱者」と陰口を叩かれていた。

 

「(嫌だ……負けてたまるか……)」

 

支倉には学も教養もなければ、人を惹きつけるカリスマも無い。

これで喧嘩の一つも出来ないとあれば、もはや自分に存在価値など無い。

だから、この喧嘩だけは絶対にーーー

 

 

「(負けるわけにはいかねぇんだよ!!)」

 

 

支倉は自分の犬歯で唇を噛みきった。

激痛と共に意識が一気にクリアになる。

そして、間一髪。

焔也の放った右ストレートを頭を振って躱すことに成功したのだ。

 

「なっ!?」

 

これで決められると思っていた焔也。

支倉の思わぬ動きに翻弄され、一瞬だけ無防備な隙が出来た。

 

「ぉらァ!」

 

そして。

焔也の無防備になった腹部に支倉はボディブローを叩き込んだのだ。

 

「お、ごっ!?」

 

鳩尾に入ったその一撃は焔也の横隔膜を揺さぶり、呼吸のリズムを狂わせた。

酸素が体内に上手く入らなくなり、膝が震え始める。

そんな明確な隙を逃すほど、支倉は馬鹿ではない。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

右、左、右、左、右。

今までの鬱憤を晴らすかのように叩き込まれるフックの嵐。

その一撃一撃が焔也の頬を打ち抜く度に血しぶきが飛び散り、中庭の地面を赤く染めていく。

 

「オラァァァ!!」

 

フックから繋がるように放たれたアッパーカット。

焔也の頭部を揺さぶり、膝をつかせるには十分だった。

 

「まだだァ!」

 

支倉はさらに焔也の胸板に前蹴りを叩き込んで、焔也を蹴り倒した。

 

「ぁ、ぅ……」

 

流れるような一連の攻撃に思考と動作が追い付かない焔也。

仰向けに倒れたまま、しばらく動けないでいる。

支倉はその間に焔也のマウントポジションを取った。

 

「これで決めてやる…………オラ!オラ!オラ!オラァ!!」

 

焔也の胸ぐらを左手で掴み上げ、顔面に右の拳を叩きつける。

何度も、何度も。

もう二度と立ち上がれないように。

 

「おいおい、これ決まっちまうんじゃねえか!?」

「支倉が勝つぞ!逆転だ!」

「何やってんだ焔也!早く抜け出せ!」

「焔也くん、負けないで!」

 

ギャラリーも奇跡の番狂わせに色めき立つ。

勝利を確信した支倉の口元が、今日初めて歪んだ。

 

「(いける!勝てるぞ!俺は今日、コイツに勝つんだ!!)」

支倉の全身を今まで味わったことのない高揚感が駆け巡る。

アドレナリンが最高潮に迸り、焔也の顔を殴打し続けている右の拳も自然と痛くなかった。

 

「終わりだ高坂ァァァああああああ!!」

 

右の拳を今まで以上に高く振り上げ、トドメの一撃を刺そうとする支倉。

焔也の体はこの瞬間、ほぼ反射的に動いた。

 

「!!」

 

支倉のトドメの一撃は、焔也の顔面に振り下ろされる寸前で彼の掌に受け止められた。

 

「ぃ……いい加減にしろよコラァ!」

 

支倉の顔面に反撃の拳が迫るが、左手で焔也の胸ぐらを掴み、今まさに右手を無力化された支倉に防ぐ手段はなかった。

 

「ぁが、っ!?」

 

思わぬ反撃に仰け反る支倉。

焔也はさらにそこに蹴りを入れて、支倉を完全に引き剥がす。

 

「今度は、こっちの番だ!」

 

支倉の胸ぐらを掴み上げようと、今度は焔也が彼の胸元へと手を伸ばす。

しかし、支倉は待ってましたとばかりに焔也の腕を両手で掴んだ。

そして、

 

「よぉしっ!!」

「っ!?て、てめぇ!!」

 

そのまま焔也の左腕を胸元に持っていくと、自分の両足をまるで飛びかかるように焔也の肩と首に引っ掛けた。

腕ひしぎーーープロレスなどでもよく見かける基本の関節技だ。

支倉がやっているのは実戦の場である喧嘩で突如生まれた亜種。

本場の人間がやるような高度な技術などは無いが、その分力加減にも遠慮がない。

支倉は今、本気で焔也の腕を折るつもりだ。

 

「腕一本貰ったああああああ! !」

「ふ、ざけんなこの野郎ぉぉぉ!!」

 

全身の力を使って腕を折ろうとしている支倉に対し、焔也は半ば意地で左腕に力を込める。

だが、どちらが有利かなど一目瞭然だ。

 

「(ク、クソが……!)」

 

左腕の筋肉は既に限界で、徐々に関節が逆方向へと曲がりつつある。

このままでは本当に腕を折られる。

本能的に危機を感じた焔也の身体が、この状況を何とかしろと叫んだ。

 

「(……?)」

 

その時、焔也の目に飛び込んできたのは支倉の顔だった。

岩にでも齧り付くような勢いで腕を折ろうとする彼の表情には、鬼気迫るものがあった。

が、重要なのはそこじゃない。

肝心なのは、”支倉の顔面がガラ空き”だという事。

 

「う、おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

そして、焔也の体は動いた。

左腕全体のの筋肉を総動員して、腕を折られまいと最後の悪あがきをする。

そして、その最後の悪あがきが続いている間に、

 

 

 

「オラァぁぁぁあああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

全力で右の拳を、ガラ空きの顔面に叩き込んだ。

 

「っ、ーーーーーー」

 

肉を打つ音だけじゃない。

骨にまで響くような重低音が響き渡り、一歩遅れて支倉の折れた鼻から大量の血が噴き出る。

支倉の体から力が抜け、仰向けに倒れたまま動かなくなった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

フラフラになりながらも、何とか立つ焔也。

そして、彼が合図として自分の右手を突き上げると、

 

 

 

ワァァァアアアアアアアアアアアアアア!!

 

 

 

勝者を称えるように歓声が中庭を埋め尽くした。

 

「いい喧嘩だったぞお前らー!」

「こりゃオトノキも面白くなってくるぞおい!」

「やっぱ高坂つえーな、その内マジでテッペン取るじゃねえの?」

「支倉ー!ナイスファイトー!」

「お前根性あるな!見直したぞ!」

 

ギャラリーから、双方を称える言葉が次々と投げかけられる。

 

「良かったぁ……僕正直、焔也くん負けちゃうんじゃないかって思ってたんだ」

「フッ……確かに危ない場面は多々あったが、あいつは、焔也は俺が認めた男だ。そう簡単にくたばってもらっちゃ困る」

 

海斗もことりもほっと胸をなで下ろす。

いつもなら負けない相手とはいえ、今回の支倉の気迫と実力は相当なものだった。

最初こそ焔也の圧勝を確信していたが、予想だにしない接戦のせいで二人も動揺していたのだ。

 

「支倉!」

「しっかりしろ、大丈夫か!?」

 

支倉派の不良達が仰向けに倒れたままの支倉に駆け寄る。

上体を起こされた彼は、なんとか声を絞り出す。

 

「今更、なんだ……?もう、俺に付く義理は無ェぞ……?」

 

所詮はナメられっぱなしだった自分が喧嘩で下しただけの不良達だ。

彼らから慕われていない事など、支倉自身がよく知っていた。

支倉が完膚なきまでに負けた今、彼らには支倉に付き従う理由は無いーーーはずだった。

 

「そんな事ねぇ!」

「!」

 

不良の一人が口にした。

 

「確かに、お前は高坂よりは弱いかもしれねえ。でも俺は、お前以上に根性のあるヤツを知らねえ!」

「そうだ!今回のタイマンだって、あとちょっとの所まで行ったじゃねえか!」

「正直、俺は今までアンタのことナメてた……謝るよ。高坂とタイマン張ってる時のアンタ、最高にカッコよかったぜ」

「お前ら……」

 

その後に続いて、次々と彼らの口から出たのは、支倉を肯定する言葉だった。

今まで投げかけられたことのないそれらに、どういった反応を返せばいいのか分からない。

 

「なかなか愛されてんな、お前」

 

そう言ったのは、焔也だった。

彼もまたボロボロ顔だが、その表情は穏やかだった。

 

「高坂……」

「いやぁ、何度も何度もしつこく挑んできて正直ウザかったけどよ……お前のそういう所、嫌いじゃねえよ」

 

焔也はフラついた足取りで支倉の前まで来ると、膝を折って支倉に手を差し伸べた。

 

「俺に、ついて来てくんねぇかな?」

 

それは、高坂焔也が初めて支倉和臣を一人の男として認めた瞬間だった。

 

「……へっ、仕方ねえな」

 

焔也の手を取り、仲間達に支えられつつもなんとか立ち上がった支倉は、不適な笑みを浮かべて返した。

 

「ただし、これで終わりじゃねえからな。俺が勝つまで誰にも負けんじゃねえぞ」

「はっ、言ってろよ。何度来てもぶちのめしてやらぁ」

 

軽口を叩き合う二人の姿は、まるで気の知れた友人同士のようだ。

もしもこれを本人達に言えば、彼らはこれをは否定するだろう。

だが、そこには不器用ながらも紡がれた、確かな絆があった。

 

「イテテ……保健室でも行くか」

「初めてお前と気があったな……俺も同感だよ」

 

兎にも角にも、まずは体を休める事が先決だ。

そう、ひとまずの方針を決めた焔也達だったがーーー

 

 

 

 

「いいや、お前達が来るのは職員室だ」

 

 

 

 

金髪の生徒会長が現れた以上、そうも行かないらしい。

 

 

 

 




低速ですが、地道にやっていこうと思いますんでよろしくです。
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