羅武雷舞〜音ノ鬼坂番長伝説〜   作:1UEさん

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お待たせしました、最新話です!
とりあえずこの辺で話は一区切りになります。


十二撃目

 

 

「さて、望には後でたっぷり話を聞くとして、この現状はなんだ?」

 

多くの不良が集まる中堂々と現れたのは、オトノキの全生徒の天敵とも言える男、綾瀬英吉だった。

今一番相応しくない人物の横槍に、先程までの盛り上がりから一転して中庭の空気は一気に白ける。

しんとした静寂の中、英吉の言葉が響く。

 

「中庭のど真ん中で暴力沙汰を起こすだけじゃ飽き足らず、それを止めるどころか寄ってたかって煽り立てて助長するだと?ふざけるのもいい加減にしろ!学校はお前らのおもちゃじゃないんだ!そんなに好き勝手したいなら学校なんて辞めてしまえ!!」

 

英吉の怒声が中庭の校舎の壁でやまびこのように反響する。

だが、誰も英吉の声に耳を傾けようとはしない。

誰もが皆、今までの高揚感をすべて台無しにした英吉を白い目で見ているだけだった。

 

「やれやれ、空気が読めねえ奴だとは思ってたけど、まさかこれ程とはなぁ」

 

焔也が呆れ果てたとばかりにこぼしたその言葉は、その場の不良たちの声を代弁するものだった。

 

「なんだと?」

「なぁ、会長さんよ。今でこそ偉い子ぶってるけどよ、アンタだって元々は俺達と同じ不良だったんだろ?」

「……それがどうした?」

「だったら、俺達不良がどんな事されたらムカつくかとか分かるだろ?何でわざわざ俺らが嫌がる方法でけしかけてくるんだよ?」

 

怒りを通り越し、呆れすらも抱かなくなった焔也は、単純に自分の疑問をぶつけた。

生徒会長を名乗って真面目な風に振舞っている英吉だが、こんな学校にいる時点で元々は相当の不良か、勉強の出来ない馬鹿かのどちらかだろうと、焔也は推測していた。

もっとも、焔也の場合はそのどちらにも当てはまるのだが。

 

「お前らが嫌がるかどうかは問題じゃない。俺は一般常識的に「やってはいけないこと」を「やるな」と言っているだけだ。お前らがそれを聞き入れなければそれまでだろう」

「だーかーら、それを俺らに伝えるにしたって、やり方ってもんがあるだろうがよ。頭下げろとまでは言わねぇが、それにしたって随分と態度が高圧的なんじゃねーの?そんなんじゃ、相手が不良じゃなくたってイラッとするだろうぜ」

 

焔也の言っている事はまさに、英吉に不満を抱いている生徒全員の言葉そのものだった。

英吉は上から頭ごなしに規制しようとするだけで、こちらの話に耳を傾けようとしない。

その一方的かつ高圧的な態度が、生徒達の不満を招いているのだ。

 

「アンタも生徒会長を名乗るんならよ、俺らの話を聞くぐらいの器量があってもーーー」

「黙れ」

 

焔也の言葉を、英吉の声が遮った。

その目には、堪えられんばかりの怒りが滲み出ている。

 

「お前は、何も分かっちゃいない」

「はぁ?」

「高坂……お前は二年生で、俺は三年生だ。不良の世界も縦社会だ。まさか口の利き方すら分からないほどの馬鹿じゃないだろう?」

 

再び、中庭の空気が凍りついた。

皆が「信じられない」とばかりに英吉を見る。

あの喧嘩っ早い焔也がここまで譲歩しているにも関わらず、この言い様である。

もはや傲慢不遜と言われても過言じゃないこの態度に、もはや誰も口を開こうとはしなかった。

 

「人に話を聞かせたいなら、まず態度から改めるのが筋じゃないのか?」

「なるほど……要するにアレか、生徒会長。”アンタはもう、俺達の意見を聞くつもりは無い”って事か?」

「その態度がどうにかならない限りは、そう取って貰って構わん」

「そうかよ……」

 

再び深くため息をついた焔也は、おもむろに学ランの懐から小さい箱を取り出した。

中にある筒状のモノを咥え、ライターを手にした所で、英吉が声を荒らげる。

 

「お前、何の真似だ……!?」

「いかん、焔也やめろ!」

「ダメだよ焔也くん、それ以上いけない!」

 

英吉の怒声をまともに受け、慌てて止めようとする海斗とことりの声も無視して、焔也はそのままタバコに火を付けた。

 

「ふぅ……やっぱウマいわ」

「お前、自分が何をしたか理解しているのか?」

 

中庭のギャラリー達の間に動揺が走る。

あの堅物生徒会長である綾瀬英吉の目の前で堂々とタバコを吸ったのだ。

もはや自殺行為に等しいその行動をやってのけた当の焔也は、さも当たり前のように言った。

 

「今更何を言ってんだ。アンタはもう俺の話を聞く気は無いんだろ?だったら俺もアンタの言う事なんか聞かねえ」

「なに……?」

「自分の意見ばっか押し付けて、さも当然のようにふんぞり返ってるお前の言葉なんか聞くかってんだよ」

「意見を押し付けてふんぞり返っているだと?ふざけるな!自分たちの素行不良を棚に上げて偉そうな口を聞いてんじゃないぞ!!」

「そうか?少なくとも、自分と副会長以外の誰も信じちゃいない独り善がりなアンタよりはマシだと思うぜ」

「なんだとお前......!!」

 

うっかり手が出そうな程にその身を怒りに震わせる英吉。

そんな彼の前で、焔也は再びタバコを吸い、煙と同時に吐き捨てるように言った。

 

「ついでに教えといてやるよ。俺が頭下げるのは俺より喧嘩が強い奴と、俺が尊敬すべきだと思った奴だけだぜ」

 

これ以上話す事などないと言わんばかりに、焔也は踵を返してさっさとその場を立ち去ろうとする。

 

「待て!まだ話はーーー」

「英ちゃん」

 

当然、英吉は焔也を引き止めようとするが、それよりも早く英吉の肩を何者かが掴んだ。東條望だ。

 

「英ちゃん、一旦戻ろ?」

「話せ望!俺にはまだアイツに言いたい事がーーー」

「それなら後でワシが聞いたる。それに、英ちゃんも俺に言いたい事があるんやろ?」

 

望の表情はいつになく真剣だった。

大勢のギャラリーがいる中でこれ以上英吉が何かを発言しても、ますます彼自身の首を締めるだけだ。

もしもこれ以上英吉の立場が悪化すれば、望がフォローできる範疇を超えてしまう可能性がある。

 

「望……お前……!」

「あぁ。お前の思ってる事、全部ブチまけたらええ。ワシーーーいや、俺もお前とは一度腹を割って話すべきだと思ってた所なんだよ」

 

お得意のエセ関西弁をやめ、本来の口調で語気を強める。

それだけで英吉は、望の内側に潜む”本性”を垣間見てしまい、気圧されてしまった。

 

「ーーーほな、戻ろ?」

 

望が元の関西弁に戻った時には、

 

「……分かった」

 

英吉にはもう、それ以外に何かを言う事が出来なくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

ほとんどの生徒が帰宅し、誰も居なくなった校舎内。

その体育館で、一つの喧嘩が終わろうとしていた。

 

「ぐぁッ!?」

 

こうして倒されたのは、もう何度目かも分からない。

度重なる攻撃に顔面を血まみれにしたその男の名は、黒崎隼人。

そして、たった今彼を倒したこの男こそーーー

 

「イキがってた割に大したことないっすね、先輩」

 

赤髪の一年ーーー西木野真樹だった。

 

「く、そ……なんて野郎だ、俺ら二年がこうもあっさりと……!!」

 

頭である自分もそうだが、今回選抜されたのは、クラスの全員が認めた猛者達だった。

まず一人目は、クラスで一番ガタイの良いモヒカン頭。

それに次ぐ二人目は、元ボクサー崩れの金髪頭。

そして、三人目である黒崎隼人も元々はキックボクシングをかじっていた経験があり、喧嘩の腕には自信があった。

負けるつもりなど一切無かった。

にも関わらず、

 

「はぁ、なんとか勝てて良かったよぉ……」

 

そう言って胸を撫で下ろしている小泉華に、モヒカン頭はガタイの良さなど関係なく一方的にぶちのめされ、

 

「大丈夫だって言ったろ?華はもうちょっと自分の強さに自信を持った方がいいぜ?」

 

と、華の肩を叩く星空蓮に、金髪頭は同じボクシング使いでありながら圧倒的な瞬発力を前に良いようにサンドバッグにされてしまっていた。

そして、今まさに自分も窮地に陥っている。

 

「先輩、もうやめませんか?実力の差は歴然だと思いますが」

「ふざ、けるなよ……一年坊主が……!!」

 

ボロボロの体にムチを打ち、黒崎が立ち上がる。

 

「ほぉ、まだやれそうですね」

「黙りやがれ、このクソガキがァァあああ!!」

 

構えるのももどかしく、黒崎が蹴りを放つ。

型も何も無い、シンプルな右の前蹴りだ。

真樹はこれを難なく躱すと、返しのフックを黒崎の顔にーーー

 

「(なッッ!?)」

 

それよりも先に、黒崎の動きが変わった。

なんと黒崎は、蹴った右脚を思い切り後ろに戻し、その反動で体を右に回転させ、そのまま右の裏拳を放ったのだ。

予想外の動きに硬直してしまった真樹は、その一撃を顔面で受ける事になった。

 

「ぶっ、?」

 

明確なスキを見せた真樹に、黒崎が追い込みをかける。

ジャブ、ワンツーから左のローキック。

真樹はガードもロクにできずに喰らってしまい、更なるスキを許してしまう。

 

「(貰った!)」

 

そしてそのスキは、黒崎にトドメを出させるのに十分なスキであった。

顎を狙った、右のハイキック。

これが決まれば、下手な脳震盪ではすまないであろう必殺の一撃。

そう、決まれば。

 

「らァッ!」

 

真樹は上体を仰け反らせてハイキックを躱すのと同時に、黒崎の軸足の左足にローキックをでしかけたのだ。

足払い。

拳の打撃とは違い、蹴りは威力が大きい反面、軸足を攻められると非常に脆い。

いとも簡単に体勢を崩した黒崎は、そのまま体育館の床に叩き付けられた。

 

「あ、ぐッ!?」

「テメェ……よくも顔をやってくれたなァ!!?」

 

背中を強く打ち、立ち上がることが出来ない黒崎を、怒りに燃える真樹が追い込んでいく。

 

「クソッタレが!たかだか一年早く生まれたぐらいでエラそうにしてんじゃねえよ!!」

 

倒れた黒崎の顔や腹を一方的に蹴りつける。

爪先、靴底、かかと。

容赦ない蹴りが雨のように黒崎に降り注いでいくその様はもはや喧嘩ではなく、一方的な蹂躙だった。

 

「に、しきの…………て、めぇ…………!」

 

黒崎は最後の抵抗なのか、真樹の軸足を掴むと、真樹を見上げるように睨み付けた。

しかし、

 

「離せコラ!」

 

そんな抵抗も虚しく振りほどかれてしまい、そして。

 

「くたばりやがれ!!」

 

全力のサッカーボールキックが、黒崎の顔面を蹴り抜く。

その一撃がトドメとなり、黒崎は完全に動かなくなった。

 

「あーあ、ひっでぇ事するなぁ西木野。アレ、完全に伸びてるぜ」

「ふん、俺の顔に傷を付けるからだ」

 

そう言って口元の血を拭う真樹。

手の甲に付いた血を見て、不機嫌そうに舌打ちを漏らした。

 

「相変わらずナルシストだな、西木野は」

「違うぜ星空。俺は自分の顔に自信を持ってるだけだ」

「そう言うのを世間ではナルシストだとか、自惚れてるとか、自意識過剰って言うんだよ」

「ふん、言いたいヤツには言わせておけばいいさ、所詮は俺の美貌に嫉妬しているだけの哀れな連中だ。相手にする価値もない」

 

だが、と真樹は少し語気を強める。

 

「俺の顔に傷を付けた奴は何人たりとも容赦しねえ。それが誰であろうと絶対にな」

「はー……さいですか」

 

自身の顔立ちに対して絶対の自信を持つ西木野の価値観が分からない蓮は、結局曖昧にうなずくしかなかった。

しかしここで、今まで喋らなかったメガネの少年が口を挟む。

 

「で、でも大丈夫かな?黒崎先輩、さっきから全然動いてないけど死んじゃったりしてないよね……?」

 

小泉華が本当に心配そうな口ぶりでそう言った時、真樹と蓮の心が一つになった。

 

「「いやお前が言うなよ」」

「え?」

 

不思議そうに首を傾げる華の後ろでモヒカン頭から「ひっ」と悲鳴が上がり、彼のズタボロ顔が恐怖でさらに歪んだ。

 

「何度も言うけどよ、華はもっと自分の強さとヤバさに自覚を持てって」

「そんな事言われても、喧嘩してる時ってあんまり記憶が無くて……」

「小泉、それがヤバイって言ってるんだよ」

 

一年を制覇した時の事を思い出したのか、真樹は顔を青くして言った。

 

「はっきり言うぞ小泉。正直に言って俺はお前とだけはもう二度と喧嘩したくない」

「やっぱり?華とやった奴は勝ち負け関係なくみんなそう言うんだよな〜」

「え?えぇ?」

 

やれやれと首をすくめる蓮と、困惑するしかない華。

この小泉華という少年、喧嘩になった途端に性格が好戦的なものに豹変するという特徴を持っているのだが、その”性格”に問題が多々あるのだ。

 

「ま、何はともあれこれで黒崎センパイのクラスはシメたワケだけど……西木野、これからどうする?」

「どうするって、決まってるだろ?」

 

真樹は自慢の顔を好戦的に歪めながら、

 

 

 

「高坂焔也を、潰す」

 

 

 

確かな口調でそう言うのだった。

 




次回からは新章開幕です!
お楽しみに!
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