羅武雷舞〜音ノ鬼坂番長伝説〜   作:1UEさん

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新社会人1年生です。
毎日ズタボロですが、一応頑張ってます。


十五撃目

放課後。

勉学から解き放たれた学生が、真に青春を謳歌する時間。

焔也と支倉は、停学明け祝いと言うことで海斗の家に招待されたのだが---

 

「……え?」

 

海斗の家の前で支倉が発した第一声がそれだった。

 

「ぷっくく、ビビってるビビってる……!」

「まぁ、そうなるだろうな……」

 

焔也はこうなる事が分かっていたのか口元に手を当てながら笑いをこらえ、海斗も海斗でなれた光景なのかやれやれと肩を竦めていた。

しかし、支倉が固まるのも無理はない。

 

 

 

友達の家にお呼ばれされて来た先が、映画の中でしか見ないような立派な屋敷だったのだから。

 

 

 

しかも支倉の記憶が正しければこの屋敷は……

 

「なぁ、ここって確かこの辺りを仕切ってるヤクザの屋敷じゃなかったっけ……?」

 

秋覇原はもちろん神吠町や織茶ノ水一帯をシマとする昔ながらの極道組織。

いかに悪ガキの多いこの地域でも、この辺でおイタをしようとする馬鹿はいない。

 

「ヤクザ、か……厳密には違うな。ここはこの近辺一帯を縄張りとしている”極道組織”---園田組の本部屋敷であり、俺が生まれ育った場所だ」

 

園田組。

その名前を聞いた瞬間、支倉の背中が凍りついた。

顔じゅうから嫌な汗が溢れてくる。

やがて油を差していない機械のようなぎこちない動きで、支倉はゆっくりと海斗に視線を向ける。

 

「ちょっと待てよ……園田、ってお前まさか!?」

 

明らかに動揺する支倉に、海斗ははっきりと頷いて答えた。

 

「俺はここの三代目だ。いずれはここを継ぐことになる」

 

彼の口から放たれたその答えは、支倉の顔面を蒼白させるには十分だった。

そして、そんな支倉を見て顔をニヤつかせる男が一人。

 

「大丈夫だって支倉そんなにビビんなよぷくく」

「お前これが分かってたからあんな事って言ってたのかこの野郎!」

「そうだよーん!おばけ見た小学生みたいにブルブル震えてやんのあーおもしれー!!」

 

小学生がいたずらを成功させた時のような顔で笑う焔也に、支倉は顔を赤くして羞恥と怒りに震えている。

すると見かねた海斗が、

 

「焔也、そのへんにしとけ」

 

と、焔也に忠告した。

海斗のドスの効いた声と鋭い眼光にさらされた焔也はいとも簡単に怯んでしゅんとしてしまった。

まるで犬と飼い主である。

もっとも、それを言ってしまうとまたモメかねないので言わないのだが。

 

「あ、若!おかえりなせえ!」

 

門の前で立ち話している内に、屋敷の中から一人の若い男が出てきて頭を下げた。

背格好からして駆け出しの若衆と言ったところだろうか。

 

「おうヤス、準備は出来てるか?」

「バッチリっす。ささっ、行きやしょう」

「よし、行こうぜ二人共」

「お邪魔しまーす」

「お、お邪魔します」

 

屋敷の中に引っ込んでったヤスを追うように、焔也たちも屋敷へと足を踏み入れる。

結局、支倉の緊張は解けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でしたー」

 

夜。

焔也たちと別れ、バイトに勤しんでいたことりは勤務時間を終えてバックヤードを出た。

外はすっかり暗くなり、街も居酒屋やクラブと言った場所が盛り始める。

ことりはそんな喧騒から逃れるように路地へと入り、のんびりと帰途についていた。

 

「(焔也くんたち、今頃どうしてるかなぁ)」

 

ことりの予想が確かなら、今頃彼らは海斗の屋敷で宴会用にこしらえた豪華な食事と日本酒でパーっとやってるはずだ。

畳張りの居間に組長である海斗の父と、海斗本人に焔也。そして今回のゲストである支倉がいるはずだ。

支倉との一悶着や生徒会長の事を酒の肴に盛り上がって……いや、今回が初の支倉にとってはいきなりあの家で宴をするのは厳しいだろうか?

 

「(いいなぁ、楽しそう……)」

 

今からでも母親にメッセージを入れて自分も行ってきていいかどうかを聞いてみようかな?

そんな事を考えながらタバコに火を付けようとした時だった。

 

「?」

 

ことりの行く手を阻むように、三人の男が立っていた。

いずれも黒ずくめの格好で、素性隠しの為か頭にはフルフェイスのヘルメットを被っている。

 

「……僕に何か用かな?」

「「「……」」」

 

男達は答えない。

ただ、目の前にいることりを表情の分からない顔で見つめるだけだ。

 

「……あれ?」

 

そして気づけば、ことりの背後にも同じような格好をした集団が現れていた。

その数、およそ二十人。

いずれもマスクにニット帽や口元に三角巾と言った顔を隠すような格好をしており、どう考えても穏やかな雰囲気ではない。

 

「……一応聞いておくけど、どういうつもりなのかな?」

 

学生鞄を捨て、両手をフリーにした状態でことりは目の前の男に問いかける。

そこで初めて、先頭にいた男が口を開いた。

 

「南ことり……お前に恨みはないが、ちょっと痛い目見て貰うぜ」

 

その言葉の直後、背後の不良の一人が雄叫びをあげて襲いかかった。

それをキッカケに、そのまた後ろの男達も続々とことりに襲いかかろうと一歩前に踏み出そうとした---その時だった。

 

 

 

男達の目の前には、ことりに顔面を掴まれ空中に持ち上げられる不良の姿があった。

 

 

 

「誰が誰に痛い目を見せるって?」

 

次の瞬間、ことりは掴みあげていた不良の体を思い切り地面に叩きつけていた。

背中を強かに打ち付けて声にならない悲鳴をあげる不良の顔面に、容赦なく革靴の底を叩き付けてとどめを刺す。

 

「な、なんだそれ……!?」

「ひ、ひでぇ……」

「おいおい、コイツヤバイだろ……!」

 

男達が戦慄する中、ことりはあまりにも平坦な声音で言い放った。

 

「あのさぁ、どこの誰だか知らないけどこんな程度の雑魚をかき集めてどうにかなるとでも思ってたの?」

「「「……!!」」」

 

ピリピリした空気の中、ことりは学ランを脱ぎ捨てる。

学ランのせいで着痩せしていたことりの身体が、シャツ一枚になった事と街灯の明かりに照らされたことで露わになった。

胸筋と上腕筋、そして完全に割れた腹筋。

欠かさずトレーニングを重ねてきた彼の、シャツ1枚越しからでもわかる屈強な肉体がそこにはあった。

 

「随分とナメられたものだよねぇ、僕も。気に入らないなぁ……」

 

肩を鳴らし、首を回す。

それだけで全身からパキポキと小気味のよい音が鳴るが、男達にとってその音は目の前の怪物に対する恐怖を増幅させるものでしかない。

 

「焔也くんたちはお楽しみ中みたいだし、こっちもこっちで遊んじゃおっかな」

 

やがて準備運動を終えたことりが、最後に拳を鳴らす。

ゴキリという響くような音が鳴り、怪物が口を開いた。

 

 

 

 

「かかって来な。みんなまとめて、ことりのおやつにしてやるよ」

 

 

 

 

牙を向いた1匹の怪物。

狩られるのは不良達か、それとも

 

 

 

 




ことりのおやつ(物理)
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