夏休みに入れたので今の内に出来るだけ書こうと思います。
「おい焔也……今なんて言った?」
翌日。
焔也は学校で昨日起きた出来事について二人に話していた。
妹の雪穂とその友達がタチの悪いギャングに絡まれてた所を助けた話だ。
最初は普通に耳を傾けていた海斗とことりだったが、
「A-RISEだかなんだか知らねえが、俺の妹に手ェ出そうとしやがったんだ。あれくらいで済んだのを感謝して欲しいくらいだぜ」
この言葉に、海斗の表情が固まったのだ。
「A-RISEだと……焔也お前、A-RISEのヤツらと揉めたのか?」
「ん?そうだけど……海斗、何か知ってるのか?」
状況を何一つ把握していない焔也に対し、海斗は表情を段々と強張らせていく。
「どうしたんだ?海斗の奴」
「焔也くん、A-RISEって言うのはーーー」
焔也が混乱しないよう、ことりが説明をいれる。
曰く、現在この秋覇原界隈で最も大きい勢力となりつつあるギャングチームだと言う。
「海斗くん、ここからは……」
「あぁ……焔也、よく聞いてくれ」
「お、おう」
やたらと真剣な表情の海斗に、焔也も思わず息を飲み、耳を傾ける事にした。
「……A-RISEの影響で、最近じゃこの辺りの治安がさらに悪化してるんだ。うちのシマにも恐喝や強盗なんかの被害が出てる」
「うちのシマって……海斗の組の縄張りでってことか!?どんな命知らずだよそれ……」
焔也が驚くのも無理はない。
海斗の実家はこの地域一帯を取り仕切る極道組織だ。
地域住民との繋がりを重んじる彼らにとって、治安が悪化するのは許せない事だろう。
「最近じゃウチの若い衆も見回りを強化して追い払ったりはしてるんだが、如何せんイタチごっこだ。何せこの広い秋覇原一帯だけで数百人もワルがいるんだ、誰が誰かなんて特定できるはずもねえ」
「それにね焔也くん、場合によってはこの学校の生徒も疑いをかけられるかもしれないんだよ」
「は?なんでだよ?」
あからさまに顔を歪める焔也に、ことりは続ける。
「今のオトノキは群雄割拠の戦国時代……誰も彼もがテッペンを取ろうとしてまとまりがついてない状態なんだ。その影響でオトノキの評判はどんどん悪化してるし……」
「このまま行けば、うちの生徒たちが疑われ始めるのも時間の問題だ」
「おかしいだろそれ!!」
バンと机を叩いて、焔也は立ち上がる。
クラス中から何事かと視線を集めるが、構わずにまくし立てる。
「だって俺らはなにも悪いことしてねえじゃんかよ!なのになんで俺らが疑われなくちゃいけねーんだ!」
「……世間にとって、俺達もA-RISEの連中も同じ「不良」って事だ」
不良。
その一言だけで卑劣な連中と一括りにされてしまうその現実に、焔也は憤りを感じずにはられなかった。
「それに、問題はそれだけじゃないんだよ」
今度はことりが表情を歪める。
「A-RISEの勢力が拡大する理由としては、リーダーである綺羅ツバサの圧倒的人望とカリスマ……そして、もはや都市伝説レベルと化している喧嘩の強さにあるんだ」
「都市伝説レベル?」
「『 100人の不良相手に完勝した』とか『 海外の格闘技団体からスカウトされてる』とか『 熊を素手で倒した』とか、噂になっていく過程でいろんな尾ひれがつき過ぎて、誰も本当の強さを把握していないんだって……」
でも、とことりは付け加える。
「そういう不確かなモノって、みんなすごく興味を持ちたがるんだよね。だからこそA-RISE、そして綺羅ツバサは今、不良達から絶大な支持を受けている。それは、これからの進路を決めようとしている中学生達も例外じゃない」
「中学生って……ことり、まさかそれはーーー」
焔也の感じた嫌な予感は、見事に的中する。
「うん。最近この学校の入学希望者が減少しているのは、新入生となるはずの中学生達の関心がA-RISEに向いているのが理由の一つ……ううん、むしろそれが大部分を占めているんだよ」
「なんだと……!?」
今やひとつの高校の入学希望者すら操作してしまう程の影響力を持ったA-RISE。
それほど大きなチームの戦力がどれ程のものか。
もはや想像すら出来ない。
「焔也……もしもお前の言ってる事が本当なら、奴らは俺達と戦争する大義名分を得ちまった事になる。それがどういう意味か、分かるか?」
「内輪揉めで疲弊してるオトノキには、A-RISEみたいな大きなチームと戦う力はないよね……お父さんも「昔ならいざ知らず今のオトノキじゃ無理だ」って言ってたし……」
事の重大さを分からせる為に、少しだけ語気を強めて言う海斗。
今後のオトノキを純粋に憂い、心配することり。
そして、焔也は
「……チッ、クソが!」
顔を不機嫌に歪めると、机から立ち上がって教室を後にした。
「さて、どうしたもんかね」
音ノ鬼坂学院二年C組所属。黒咲隼人。
彼もまた、オトノキ制覇を虎視眈々と狙う不良の一人だ。
現在、オトノキの第二学年は支倉和臣仕切るA組、ヒフミトリオと呼ばれる3人組が頭を張るB組、そして黒咲の仕切るC組だ。
それぞれの戦力差に関して言えばC組とB組が互角といった所か。
ちなみにA組が省かれているのには理由がある。
それはA組の戦力が他のクラスと比較して頭一つ飛び抜けているからだ。
その理由はA組を仕切る支倉が強いーーーという訳では無い。
A組に所属する、三人の生徒が原因である。
「(高坂焔也、園田海斗、南ことり……この三人の強さは中学時代からかなり有名だが、オトノキに来てからも健在だ。コイツらをどう攻略するか……)」
なんでもB組を仕切るヒフミトリオはこの三人と親交が深いという。
つまり、この三人をどうにかして潰せばB組は自然とこちらへ堕ちるという事。
それは彼の率いるC組が二年をほぼ支配する事を意味するのだ。
問題はーーー件の三人が恐ろしく強いという事なのだ。
「(南は女顔を指摘されると鬼のようにキレて暴れ回るし、園田は実家がヤクザで、ヤツ自身も空手の段持ち……そして高坂は三年の志賀先輩の兵隊相手に素手で完勝しやがった。喧嘩の強さは折り紙つきだろう……)」
もしも仮に高坂焔也たち三人を彼のクラス全員でフクロにしたとしても、おそらくは勝てないだろう。
あの三人は一つのクラスに匹敵する力を持っているのだ。
「(今の俺に足りないのは戦力だ。こっちの兵隊は総勢32、高坂達を同じ30くらいだと推定して敵になるであろうヒフミトリオのB組が35……支倉のA組を除外しても約二倍の戦力差だ。まず勝てない)」
兵力が要る。
ヤツらとまともに殺り合えるだけの兵力が。
と、黒咲が頭を悩ませていた時だった。
「すいません、このクラスの頭に話があるんですけど、どなたですか?」
黒咲のクラスに、一人の男が入って来た。
炎のように赤い髪。
黒の短ランとワインレッドのYシャツ。
黒咲のクラスの不良達は突如として現れたこの男を警戒するが、黒咲自身はそ
の正体を知っていた。
「俺がこのクラスの頭の黒崎だ」
「はじめまして、黒崎先輩。俺はーーー」
「西木野真樹、だろ?入学早々今年の1年をシメたらしいじゃねーか」
「俺を知ってるんですか?」
「俺は情報収集に余念がなくてね、お前みたいな奴は特に警戒するようにしてるのさ」
「それは良かった、こちらとしても自己紹介の手間が省けて助かります」
この男の不敵な笑みからは、黒咲達に対する畏怖も敬意も感じられない。
まるでお前らなど敵じゃないとでも言っているかのようだ。
「それで?その一年最強の男が何の用だ?」
「……単刀直入に言います」
赤髪の男ーーー西木野真樹は黒咲に向かって指をさして宣言した。
「黒崎先輩……俺は今日、あなたに喧嘩を売りに来ました」
臨戦態勢に入ろうとする自分のクラスメイト達を手で諌めて、黒咲は言う。
「ほう?たったひとりで乗り込んでくるとは中々根性あるじゃねえか」
「おっと、何も今すぐ喧嘩するとは言ってませんよ」
「なんだと?」
真樹は指を三本立てると、それを黒咲に見せながら提案した。
「今日の放課後。俺を含めて代表者三人を連れてきますんで、そっちもそっちで代表を選定してください」
「……3体3のタイマン勝負ってとこか」
「えぇ、俺と先輩だけで勝負するのは簡単ですがそれじゃ納得しない人もいるでしょう。でもこの方法ならあなた以外にも腕に自信のある奴が立候補出来る。そうなればどんな結果になったとしても文句は言われないはずです」
西木野真樹。
この男、どうやら頭がキレるというのはタダの噂ではないらしい。
「なるほど……で、条件は?」
「俺達が勝てば、先輩のクラスは俺が貰います。でも俺達が負けた時はーーー俺達一年全員、先輩の下につく事を誓いますよ」
「その証拠は?」
「証拠といった証拠はありませんが……俺も男だ、二言はありません。」
「そんな確証のない賭けに乗るとでも?」
「俺の挑発に乗るか乗らないかは先輩の自由です、おまかせしますよ」
でも、と真樹は付け加える。
「後々になって「二年C組の黒咲は一年の西木野にビビって逃げた」なんて噂が立つのは、先輩としてもよろしくないんじゃないですか?」
明らかに挑発するような物言いにクラス中の静かに殺気が膨れ上がる。
しかし、当の本人は未だ笑みを浮かべたままだ。
「(なるほど。ここで勝負を受けなけばそういう噂を流すわけか。かといって今この場でコイツをフクロにでもしようものなら、更にヒドイ噂を立てる事も出来る…………西木野真樹、侮れねえ男だ)」
大胆にもたったひとりで乗り込んで来たこの姿勢は、見方を変えれば正々堂々と筋を通していると捉える事も出来る。
そんな勇敢な一年など相手にもしない、ましてや一方的にフクロにでもしようものなら、果たして黒咲は周囲からどういう風に見られるか。
現時点の黒咲には、目の前の勝負に乗る以外の手段は無いに等しい。
「別に何も難しいことは言ってませんよ」
苦々しい表情の黒咲とは対照的に、真樹はあくまで余裕の笑みを崩さない。
「俺は今日、真正面から先輩に喧嘩を売りに来た。だったら先輩はそれを買って、正々堂々と俺達を負かして生意気な一年にお灸を据えてやればいいんですよ。先輩達が勝てば、俺を含めた一年の全員60人が先輩達の下に付くんだ。戦力を欲しがっていた貴方からすれば、悪い話じゃないと思いますけど?」
「お前、何でそれを!?」
見透かした事を言う真樹に思わず動揺を隠せない黒崎。
真樹は気分を良くしたのか、得意げに語る。
「今の第二学年で最も厄介なのは高坂焔也のいるA組です。しかも、調べてみればB組の頭のヒフミトリオは高坂焔也と元々仲がいいらしいじゃないですか。という事はA組とB組はほとんど同盟を組んでいるようなもの。となれば、残されたC組にそんな奴らを相手にする物理的戦力はないはずです。俺が仮にこのクラスの頭なら、そいつらを何とかするにはまず戦力がいると考えます。そこに戦力増加のチャンスが転がってくるなら、願ってもない事ですからね」
「フッ、中々頭のキレる奴だ。不良なのが不思議なくらいだぜ」
黒崎は立ち上がると、真正面から真樹を睨みつける。
「お前の喧嘩買ってやる。ただし、俺達が簡単に負けると思ったら大間違いだ。その調子に乗ってピノキオみたいに伸びきった鼻、俺がこの手でへし折ってやるよ」
「決まり、ですね。じゃあ今日の放課後に、場所は体育館でどうですか?」
「良いだろう」
「ありがとうございます。それじゃ、俺はこれで」
真樹はそこで軽く頭を下げると、踵を返して教室の戸を開けた。
そして、
「待ってますよ、先輩」
振り返らずに一言だけ呟くと、真樹は教室から出ていった。
策士、西木野真樹(ただし煽り耐性はZERO)