時間ある時にどんどん書いていこうと思います。
「(クソが……)」
あの後、学校をバックれた焔也はやる事もなく秋覇原の公園のベンチでタバコを吸っていた。
しかしそれで気を紛らわそうとしても、海斗に言われた言葉が脳裏から離れずに気分はモヤモヤしたまま。
「(あーイライラすんな……なんだってんだよチクショウ)」
A-RISE。
秋覇原最大最強のチーム。
その連中が最近、自分の地元で好き勝手している。
昨日も妹の雪穂とその友達が被害を受けたばかりだ。
「(気に入らねえ……)」
そのくせ、今の音ノ鬼坂はまとまりが付かず、評判はどんどん悪化していくばかり。
このままではA-RISEの悪行を自分たちの仕業にされてしまう。
「(気に入らねえ……!)」
さらには自分のせいでそのA-RISEと戦争する事になるかもしれない。
統率されているならいざ知らず、今の状態でまともにやりあえば敗北は必至。
そんな現状に、焔也は堪えがたい憤りを感じていた。
「(気に入らねえ……!!)」
事態が深刻なのは分かってる。
だが、それでも焔也は納得出来ない。
彼は、平然と自分の身内に手を出したA-RISEの連中に怒り。
知らぬ罪の濡れ衣を一方的に着せられる理不尽に怒り。
そして何より、そんな事すらお構い無しに内輪もめを繰り返し、一つにまとまらない学校の連中に怒っていた。
「(ダメだ、もう一本吸おう)」
もうすっかり残り少なくなって来たタバコを取り出す焔也。
火を点けようとするが、ライターがうまく点火しない。
「(チッ、ガス切れかよ)」
志賀仁志から貰った安物のライター。
どうやら、新品ではなく残りガスの少なくなった余りものをオマケとしてくれたらしい。
「(そりゃそうか、新品なら金取ろうとするよな)」
しかし困った。
これではタバコで気を紛らわす事も出来ない。
と、その時だった。
「ほい」
その声と共に差し出された、火の点いたジッポライター。
「?」
ライターの持ち主へと目を向けてみれば、一人の男がそこにいた。
白いジャケットとスラックスに、柄の入った赤地のネクタイ。
茶色の髪はよく整えられていて、ルックスも女に受けそうないわゆる「アイドル顔」だ。
どこかの私立高校の学生だろうか、焔也はその男に自分には無いキラキラしたオーラみたいなものを感じていた。
「ライター点かないんでしょ?火、貸してあげるよ」
「あぁ……ども」
いかにも優等生っぽい彼がライターを持っている事に疑問を感じた焔也だったが、火を貸してくれると言ってくれてるのだ。
他人からもらえるものは病気と借金以外はなんでも貰っておく。
それが焔也のモットーだ。
「ふぅ……あざす」
「いえいえ、どういたしまして」
男はそう言って笑うと、焔也の横に腰掛けた。
そして、慣れた手付きでタバコを取り出して当たり前のように火を付ける。
「んー、やっぱりガッコーサボって吸うタバコはうまいね」
「はぁ……」
訂正。
この男、優等生っぽい外見の癖にサボり魔らしい。
「その学ラン、音ノ鬼坂だよね?キミもサボり?」
「……そんなとこっスかね」
「そっかぁ……あそこはガラ悪くて有名だからね。サボりなんてそれこそ日常茶飯事でしょ?」
「……えぇ、まぁ」
やたらとグイグイ来る男に困惑していた焔也だが、受け手に回ってても疲れるだけなので、今度は焔也から質問する事にした。
「アンタこそ、優等生っぽいのにこんな所でサボってていいんスか?」
「優等生ねぇ……俺はそんなんじゃないよ」
辟易した様子のその男は、退屈そうに語った。
「ただ人よりちょいと勉強が出来るだけのつまんない男さ。それなのに周りから勝手に期待されて、気付いたら優等生って事にされてた……おかげで毎日がつまんなくてしょうがないよ」
「だからこんな所でサボってんスか」
「まぁね、ここはお気に入りのサボりスポットだから、授業がめんどくさい時はよくココでタバコ吸ってるよ」
優等生ってのも楽じゃないんだなぁ、とぼんやり思う焔也。
勉強が出来ないで音ノ鬼坂に来た彼からしてみれば、優等生なんて生き物は勉強が趣味の変人のような扱いだったので少し驚きだ。
「そういうキミは随分とイライラしてるみたいだけど、何があったんだい?」
「!」
急に見透かした事を言う男に思わずビクリとする焔也。
焔也が何かを言う前に、男は焔也の足元を指さして言った。
「そこに落ちてるタバコの吸殻……七本か。キミがよほどのヘビースモーカーでもない限りその本数はいくら何でも吸い過ぎだと思うけど?」
「……まぁ、色々あるんスよ。俺みたいな不良でも」
そう言って再び有害な煙を肺に流し込む焔也。
しかし、やはり気分は晴れないままだ。
「そうなんだ……なんか意外だなぁ」
「……え?」
そんな男の言葉に疑問を感じた焔也は、思わず聞き返した。
「何でそう思うんスか?」
「ん?いや、音ノ鬼坂のヤンキーってみんな自由に生きてるじゃない?悩みなんて無いのかと思ってたんだよね」
「自由?」
「そうさ」
吸い終えたタバコを携帯灰皿で処理しながら、男はすこし羨むように言う。
「楽しけりゃ騒ぐし、ムカついたらぶん殴る。自分の意思は曲げないし、やられっぱなしじゃ終わらない。キミ達不良はいつだって自分に正直に生きてる。優等生を強制されてる俺とは大違いだ」
「自分に、正直……」
「だから俺は、そんなキミたちを尊敬してるんだ。いつだって馬鹿で、横暴で、それでも自由に楽しく生きれるキミたちを。だから俺もこうして不良の真似事なんかしてるけど……いやはや俺には授業サボってタバコ吸うぐらいが限界だね」
男はやれやれといった様子で笑った後、おもむろにベンチから立つ。
「だからキミも音ノ鬼坂の不良らしく、もっと自由になればいいと思うよ?」
「……」
焔也が答えに詰まっていると、男は軽く何かを投げた。
反射的に片手で掴み取ったそれは、先程のジッポライター。
「それ、キミにあげるよ。俺なんかが持ってるよりも、君が持ってる方がずっと似合ってるからね」
男はそう言い残すと、焔也に背を向け去っていった。
ひとり公園に残された焔也は、ぼんやりと思考する。
「(自由、か……)」
確かにそうかもしれない。
不良という生き物はいつだって自分勝手で短絡的で乱暴だ。
だがそれは同時に、自分に正直であると言う見方もする事が出来る。
その何にも縛られない自由な生き方を、あの男は尊敬すると言ったのだ。
しかし、それでは何も解決しない。
行き過ぎた自由は無法でしか無いのだから。
「(今回の騒動は、A-RISEと音ノ鬼坂の両方の不良が自由過ぎたのが原因なんだ。)」
A-RISEの連中が台頭して好き勝手に振る舞うのも、奴らが余りにも行き過ぎた自由を掲げる無法者だから。
音ノ鬼坂の内輪もめが終わらないのも、奴らの己を曲げない性質がいつまでもぶつかり合ったままだから。
そして、自分がそんな現状を露ほども知らずにA-RISEとの均衡を崩してしまったから奴らが戦争を吹っかける口実をーーー
と、そこまで考えて焔也は違和感に気付いた。
「(そもそも、何で戦争を吹っかけられたらマズイんだ?)」
そう、まず前提がおかしかったのだ。
海斗をはじめとした、戦争を回避しようとする動き。
何故そんな動きをしなければならないのか。
内輪もめばかりしていて統率出来ていないから、戦争になっても勝てないから?
周囲の評判が更に悪くなるから?
物理的に戦力が足りないから?
「(そんなもん、ただの言い訳じゃねえか)」
そう。焔也は不良だ。
そして不良という
生き物はいつだってワガママで、正直で、なにより負けず嫌いなのだ。
そんな不良である焔也が、このままイイようにやられっぱなしでいいのか?
「(なんだ、簡単な事じゃん)」
あの男は言った。
不良は自由だと。
ならばやってやろうじゃないか。
不良は不良らしく、ワガママに、自由に、徹底的にやってやろう。
先程まで焔也の心にあったモヤモヤが、まるで嘘のように晴れた。
やる気がどんどん漲ってくる、こうしちゃいられない。
衝動にも似た何かに駆られて焔也が立ち上がった時ーーー
「見つけたぞコラ」
焔也の目の前から数人の男達が歩いて来た。
いずれも「善良な市民」とは言い難い頭髪と服装の彼らは、焔也に対して敵意を剥き出しにしている。
「情報通りだなぁ、マジでここの公園にいたぜ」
「おい、俺らを忘れたとは言わせねえぞ?」
「昨日の借りを返しに来たぜ……音ノ鬼坂ァ」
それは、焔也が昨日撃退したA-RISEのメンバーだった。
昨日のお礼参りをしに来た彼らの手には鉄パイプなどの凶器が握られているばかりか、
「お、コイツか例の音ノ鬼坂のヤツは」
「なんだよ、もっとゴツイ奴かと思ったら全然普通じゃねえか」
「ま、これだけの頭数がいるなら余裕だろ」
既に焔也の周り半径5メートルを敵で囲まれていた。
逃げ道など何処にもない、一見して絶対絶命の窮地だがーーー
「へっ、まさかそっちから来てくれるなんてな、丁度いいや」
「あぁ?何笑ってんだテメェ?」
「頭イカれてんのか?」
嘲笑するA-RISEのギャング達だが、焔也はお構い無しにタバコを吸い切ると吸殻をギャング達に投げながら、声高に宣言する。
「いずれお前らA-RISEは一人残らず俺が潰してやる。まずは準備運動だ、行くぞザコ共ォ!!」
そしてそのままギャング達に殴りかかって行った。
「上等だ、お前らコイツぶっ殺せェェェ!!」
A-RISEのギャング達も一斉に焔也に襲い掛かる。
突如として始まる喧嘩に周囲の人々が騒ぎ出す中、木陰からその様子を覗く白い制服の男ーーー綺羅ツバサは、口元に笑みを浮かべると、
「高坂焔也、か……また会う時が楽しみだね」
そう呟いて、今度こそ公園を去っていった。
A-RISEのツバサさんが早くも登場しました。
さてさて、いよいよ物語が本格的に動き出します(予定)
お楽しみに!