長谷部→伊織に花を贈る話。
花言葉は調べたものではありますが色々意味があるので多少の間違いがあるかもしれません。一応複数のサイトで調べはしましたが。
某日。仕事で現世に赴いていた。審神者として働く以前の仕事を、私はまだ続けている。人によっては現世と完全に隔絶された暮らしをする者も居るようだが、私にはどうしてもそれができなかったため、たまに現世に行き、仕事を片付け、ある程度の引継と話し合いをして帰るのが普通になった。
さて私は今、無事本丸に帰還したわけだが、執務室に入るとそこには小さな花束があった。ぽつりぽつりと机上に咲く桃色はとても鮮やかで、思わず目を惹かれた。……しかし、何故こんなものが私の部屋に?かさり。近づいてその花束を手に取ってみると、ひらりと紙片が落ちるのが見えた。メッセージカードのようで、拾い上げてみると「主へ 遠征の土産です 長谷部」と几帳面な字で書かれてあった。長谷部が私に?…確かに、彼が私に土産を買ってくることはたまにある。茶葉だったり洒落た和菓子であったり。この間は美味しいガトーショコラを買ってきてくれたかな。私の好みを熟知して、それに近いものを買ってくることが殆どだったが、はて、私は彼に花が好きなどと言っただろうか?いや、そもそもこの花は何なんだろうか?
「うーん……聞いてみるか」
本丸の誰かに聞くのも何なので、現世に居る私の相棒・翡翠に聞くことにした。向こうでの仕事での相棒だが、プライベートでも特別親しくしている者だ。彼女はガーデニングが趣味だと言っていたから、この花が何がわかるかもしれない。端末を取り出して、ぱしゃ、と花を写す。それを添付して、メールを送った。
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「……あれ、珍しい、さっき会ったばっかだけど、どうしたのかしら」
現世。そこは伊織が働く職場の一室。翡翠と呼ばれる少女が、オルゴールの綺麗な音色を聞き、音を発していた端末を手に目を瞬かせていた。開いてみると、そこに写ったのは小さな花束と「これを貰ったんだが、何の花か分かるか?」という、短い一文。彼らしい簡潔明瞭なメールだった。
手早く指を動かし、返事を送る。その顔は少し緩んでいた。―彼女には、この花の名前も、憶測ではあるが送り手の意図も読み取れたからである。
「まあ、確かに周りの目を気にするとこうなっちゃうのかな…でもこれだと、肝心の伊織にも伝わらないよ………長谷部さん」
*
伊織の端末が、僅かに震える。翡翠からの返信を知らせるものであった。彼はぱっと端末を手にして、彼女からのメールを開いた。目で文字を追っていく。
『突然メールしてきたから何かと思った。
それは胡蝶蘭。誰から貰ったの?なんて聞かないけど、煮えきらないあなたと贈り主さんのために教えてあげる。
胡蝶蘭の花言葉は、「純粋な愛」「幸福が飛んでくる」。今回伊織が貰ったピンクの胡蝶蘭だと、特に「あなたを愛しています」。
応援してるよ、頑張って。
翡翠』
「――――え……?」
端末を手に、固まる体。
………否、待て、何も彼奴がそういう意図でこれを買ってきたと決まったわけじゃ、
上手く回らない頭で必死に考える。あいしてる?彼奴が、長谷部が、私を?…確かに以前そんな話を翡翠とした。彼女は、きっと長谷部も自分と同じ気持ちだと言っていたが、それはあくまで翡翠の憶測に過ぎない。まさか長谷部が、本当に私を愛してくれているなんて思ってなかった。
腕にすっぽり収まるくらいの小さな花束を抱いて、ひとり、俯く。
もう日はすっかり沈んでいて、白い月が空に浮かんでいる。暗くなった執務室で、小さく震える彼の姿は、まるで悪夢を見た小さな子供のようで。
…………もし、そうだとしたら……
わたしは、彼の手を――――――
過ぎたことを望んではいけないと思っていた。望むつもりもなかった。
翡翠に言われて漸く、自分が長谷部に対して抱いている感情が「恋」と呼ばれるものだとわかったのは良いが、同じ感情を彼も持っているとは限らない。伝えたら拒絶されるかもしれない。それが怖かった。だから、この想いとは向き合わないようにしてきた。だが、もし今日彼が胡蝶蘭をくれた意味が、翡翠の言うように花言葉を意識したものなのだとしたら…………
「………愛されることを、望んでもいいと思いますか…?………………母様………」
誰に届くともない声は、いつもよりもずっと弱々しくて。しかしその目には、確かな意志が宿っているように感じられた。
花束とメッセージカードを手に、執務室を出て、上の階の私室へと向かう。彼の頭にはある考えがあった。少し、意趣返しをしてみようと、そう考えついたのである。
(つづく)