Infinite Stratos -Paradigm shift Endeyumion- 作:リディクル
物語開始の時系列は次回書きます。
それでは、どうぞ。
幼い頃、自分は母の手に引かれ、いろいろな場所に行った。日本からは一度も出なかったが、それこそ北の端から南の端まで、時にバスで、時に電車で、そして時には徒歩で移動し続けた。
当時幼かった自分には、何故こうして各地を転々とするのか、全く意味も理由もわからなかった。そして、知ろうともしなかった。母に聞けば全て答えてくれただろうが、自身の手を引いて歩く彼女の顔に浮かんでいた表情は、とても悲しげで、そして余裕がなかったことが、幼い自分の頭でも理解できた。
何故、彼女は自分とともにいろいろな所に行くのか。何故、彼女は一つの場所にいようとはしないのか。考えてもわからないし、それを積極的に聞こうとはしなかった。ただ、自分のわかる範囲では、三歳の頃にはもうそういった生活が始まっていたし、その原因が、そうなった前後の記憶が全くない自分のせいであるということを自覚しているがゆえに、何も言うことはできず、ただ母の手に引かれ、あちこちを旅することになった。
幸いにして、小学校に入学する前にその旅路は終わった。どこかの施設から現在では姉となっている少女を迎え、三人で慎ましやかに暮らし始めた。旅行こそできなかったものの、自分たちの周りには、様々な人間が集まってきた。
母の師であり、自分たちの住んでいる街とは違う所に住んでいながらも、足繁く会いに来てくれて、よく自分の相談相手になってくれたシスター。
こと武芸というものに関して天賦の才を持っている、少々暴力的ではあるが、礼儀正しく敬意を忘れない少女。
姉の友人である平凡で中庸な生き方を望み、あらゆる外的な事象に対して常に自己の
とある研究機関の上級職員であり、過去に母に救われたことがある、どこか冷酷な雰囲気を漂わせているが、根は優しい性格の青年。
自分たちと同じ頃に街へと来てそのまま住み始めた、母とは旧知の仲である、眼鏡をかけている時と外している時では全く性格が違う人形作家。
そして、ある物を作り出して文字通り世界を変えた天災科学者。
いつの間にか、自分たちの周りには人が集まっていた。ある者は自分に会うために、ある者は姉にちょっかいをかけに、ある者は母を訪ねて、そしてある者は何の目的もなく。全ての人間が、各々の目的を持って自分たちの元を訪ねてきた。そうであるためか、たまに同じ時に訪ねてきては、ばったりと出会うことがあった。最初は顔を合わせるとどこかよそよそしい態度であったり、馬が合わないなどといったことがあったりしたが、何度か会ううちに自分たちで折り合いを付け、すぐに交流を持つようになった。そうして徐々に人の輪が広がっていく過程で、自分たちの家が小さな集会場になるまで、そんなに時間はかからなかった。
世間話、武勇伝、議論、果ては些細なことによる口喧嘩まで、彼らが来た時の家には、言葉と知識、そして物語に溢れていた。そんな日々が、自分はとても心地のいいものだと感じた。そして、そうした日々の中にいたためか、母も徐々に元気になっていった。
その日常は、自分が小学生になっても続いた。当時は学校の授業よりもそちらの方が楽しいということで、早く授業が終わり、下校時刻にならないか待ち遠しかった。ただ、そのことを母に話したら、困った顔で学校の方も大切にしなさい、と諭されたことは、今でもよく覚えている。母のそんな言葉でさえも、その時の自分にとっては嬉しいものであると感じることができた。だが、母の言うことも最もだと考え、学校の方にも意識を置くようにした。
それからは毎日が楽しかった。学校に行けば、クラスメイトや別のクラスの友人と色々な話をしたり、勉学で競い合ったりした。最初の頃は、自身の年不相応な大人びた態度が原因で上手く馴染めなかったが、根気よくこちらから歩み寄り、徐々に馴染んでいき、自分の居場所を確立していった。そして、家に帰れば、愛すべき母と姉、そして様々な不思議な物事を持ってきてくれる客人が待っており、彼女らと様々な話をすることができた。そうした話の中には、子供であった自分の理解が及ばないような難しい話があったが、それでも、例え内容を半分も理解できなくても、そうした話を聞いているだけで心が躍った。
そしてそれは、白騎士事件が起こり、世界情勢が変化しても、自身が中学校へと進級しても、
中学時代は、変化していく世界情勢も併せて激動の三年間であった。
入学式の時に廊下ですれ違った桃色の髪の先輩女子生徒が長い時を生きてきた魔女であったり、三年間ずっとクラスが一緒であった、こと女性の胸部について一家言あると豪語する茶髪の青年がいたり、魔女に無理やり入れられた思弁的探偵部という部活の顧問が、白い服がよく似合う自称72歳の、魔女からは『白い男』と呼ばれているどう見ても外見と自称の年齢が噛み合わない男と出会った。
それだけでも自分の中では濃いと思うのだが、学校行事の方でも濃いと思われる経験をした。まず、一年の時の文化祭で、一輛の地下鉄に乗った少女とともに、学校に巣食う
だが、そんな体験も、そんなに時間が経っていない筈の現在であっても、自分にとってはいい思い出だと言えるのだ。それが、あまりの理不尽を体験することによって自身の心が鍛えられたのか、単に降りかかってくるものが多すぎて諦めが着いたのか、そのどちらでもないのか、詳しい理由はわからない。ただ一つ言えることは、そんな過去であっても、自分の思い出であるのは変わりがないということだけだ。
――そんな思い出に / ノイズが走る。
場面が変わる、という生易しいものではない。今まで見ていた風景が変わると許容したほうが適切な変化が、自身の目の前で展開される。
今まで見ていた人々と風景は全て消え失せ、代わりに殺風景な岩場に変わる。木々も生えていなければ、小さな草花も生えていない。そこは正しく岩山の頂上と呼べる場所であった。その場所から見える空には、満天の星々と、不気味なほど大きくて、眩いほどの金色をたたえた満月が浮かんでいた。
――そして、そんな不可思議な空間に存在する、少女が一人。
月の光で本来の色が定かではないが、おそらく
『ほら、早く起きて』
笑みを浮かべながら、彼女は口を動かす。夢の中で何度も会っているにも関わらず、一度も彼女の声を聞いたことはない。だが、何故か彼女がなんと言っているのかわかるのだ。
『早くしないと、遅れちゃうよ』
彼女の言葉とともに、徐々に月の光が強くなっていく。
――待ってくれ、そう言いたくてもそれが言葉にならない。それでも諦めずに、自分の手を伸ばす。君は誰なんだ。そして、何か知っているのか。
『待て、しかして希望せよ。だよ』
そう言いながらも、彼女は笑みを崩さない。その黄金の瞳だけが、月光に包まれていく世界の中で、怪しく輝いていた。
『もうすぐだから、待っててね』
いちか。
最後に出てきた少女は一体何者なんでしょうね(すっとぼけ)
また、彼女に限らず、今回の話に出てきた人々は一体どこの誰でしょうかね。
ヒントはタグに書いてあります。というかそのまんま……
最後になりましたが、ここまで読んで下さり、どうもありがとうございます。
よろしければ感想がもらえると幸いです。
これからも、どうぞよろしくお願いします。