兎ノ助、あのね!
~バカの出陣~
兎ノ助「……昨日はあんなんだったけど、礼司はおとなしくしてんのか?」
礼司「……」
兎ノ助「……何してんだお前」
礼司「……」
兎ノ助「いや、ほんと何してんの!? 床でそんな格好して、何してんの!」
礼司「兎ノ助さん……見ればわかるだろう?」
兎ノ助「座禅してる理由を聞いてるんだよ!」
礼司「すまない……気が散る」
兎ノ助「……」
礼司「……さて、そろそろ行くか」
兎ノ助「え、お前どこ行くつもりなの?」
礼司「決まってる――皆のところへだ」
タカ!トラ!バッタ!
礼司「レッツゴー覚悟。というやつだ行ってくる」
兎ノ助「ああぁ!? 行きやがった……不味いことになったぞ、虎千代と……鳴子に連絡しないとぉ!」
~第七次侵攻7日目~
国連軍の戦線が崩れてからはや二日。
グリモアに在籍する生徒たちの中にも次々と負傷者が増えていた。
連日続く闘いが精神的、肉体的双方に強い疲労をもたらすことが第一因としてある。
精神的な疲労がたまっていくことで人は恐怖に屈しやすくなる。
肉体的な疲労がたまることで魔法使用にワンテンポのタイムロスが挟まれることもありうる。
そんな生徒たちの都合などお構いなく次々と襲い来る魔物たちの群れに、一人また一人と負傷を負わされているのが今のグリモアの現状である。
現状未だ死者は出ておらず、歴代生徒でもトップクラスの戦績をもつ生田目つかさ、武田虎千代などといった面々が力を振るって居る事によって戦線は維持できているとしても。
転木交生という、全人類の総合魔力保有量を超える規格外の魔力タンクがいることで常に生徒たちの魔力の枯渇がないとしても――
「……さて……このままだと崩壊は間違いなく来る……どうしたものかな」
「遊佐鳴子、泣き言を吐く余裕があるならば前線復帰は余裕でごぜーますね」
「もう少しだけ休ませてほしいものだけれど……現状でそんな贅沢は言ってられないか」
戦場全体の中でも東側。
簡易拠点で腰を落ち着けていた鳴子は、風紀委員長である水無月風子と交代をするところであった。
連日の戦闘からか、つい先ほどまで戦っていた風子は当然ながら、しばしの休息を与えられていた鳴子の顔にも疲労がありありと浮かんでいる。
「……そういえばですよ遊佐鳴子」
「……なんだい、すぐに戻らないといけないから手短に頼むよ?」
「すぐにすむ話でごぜーます……網在礼司のことですよ」
網在礼司――その名前を聞いたとき、彼女の足はピタリと立ち止まった。
今現在、彼はトラウマを患っていて、作戦本部では必死に彼が魔法を再発動できるようにとカウンセリングを受けているころだろう。
しかしそれは鳴子の作戦通り――実際には、礼司はトラウマで魔法を発動できない状態ではない。
彼を戦わせない状態にひたすら置き続けていることに、もしや彼女は気づいたのかと鳴子は不安を抱き始める。
「彼が……どうしたんだい?」
「あんたさん、やたらに彼の周りを付き纏ってますけど――何をかんがえてんでしょーね」
「……別に何も考えてないさ、君の考えすぎだと思うよ?」
「そーですか……まぁ、ウチはあんたさんが風紀を乱さなけりゃなんだっていーんすけど」
以来興味を亡くしたようにドッカリと椅子に座り込み、簡易冷蔵庫に保存してあったリンゴを食べ始めた風子。
――杞憂だったか。
安堵する鳴子のデバイスに一通のメッセージが届く、送り主は――
「……そんな……礼司君が!?」
***
~第七次侵攻西の丘~
武田虎千代を始めとした生徒会一同は、戦線が崩れかけている生徒に変わって魔物の集団を相手にしていた。
来る日も来る日もひっきりなしに襲ってくる敵の軍勢、西の主力が回復するまでの時間稼ぎとして彼女たちが出張るはずだったが、精神的ショックが大きいらしく一部生徒は立てそうもないという現状が、生徒会面々の疲労を加速させていた。
「これでっ――!」
「……会長、一時交代です、簡易拠点へ戻りましょう」
「そうだな……聖奈、転校生はどれ位で来ると連絡があった?」
「はっ、それが……現在あちらも戦線突破の危機であったらしく――朱鷺坂チトセが助っ人に来たそうです。今から向かってくるとのことなので……」
「もうしばしの辛抱か、いいだろう、腕の見せ所ってやつか」
「ちょっ、会長!?」
朱鷺坂チトセ……現在ではグリモア内における要観察対象である存在。
真実を追い求めるものとして危険視されている遊佐鳴子、突如現れた人類の希望たる転木交生、クエストを受けずに魔物を狩り続ける生田目つかさなどと同様に、現在グリモア内でその素性や思惑などを探られている生徒。
そんな彼女ではあるが、魔法使いとしての実力は本物。
戦線突破の危機と聞いて少しばかり顔を苦くした虎千代も、チトセが助っ人に入ったことを聞いたとたん安堵を見せる。
この魔物の群れを相手取る間に、転木を中心とした遊撃魔力供給部隊が来るはずだと一層の奮起を図る。
「――副会長、今しがた本部の兎ノ助さんから連絡が!」
「何かあったのですか!?」
「それg――」
生徒会と共同戦線を張っている生徒の一人が言葉を紡ぐと同時に、上空から何者かが彼女たちの前に落ちてきた。
人影に見えるそれは――
「いよっし、やっぱイメージすればちゃんとバッタのように跳んでこれるな……勢いあまって跳びすぎてないかな……少し心配だ」
「その声――網在か!?」
「――サンフラワークラス三年の網在礼司が、単独で戦場へ飛び出したと……」
――頭部が赤く、胴体が黄色、腰から下にかけてが緑と、黒をベースにした三色バラバラな珍妙なフルフェイスのアーマー姿をした網在礼司その男だった。
礼司の声を確認した虎千代は混乱を避けられない。
なぜなら彼は今トラウマによって魔法を使えず、本部にてカウンセリングを集中的に行っている最中。
自分たちが西の戦場へ向かうその時までトラウマが癒えている様子はなかったのに、今目の前にいる彼はそのような様子がみじんも感じられない。
「……会長? よかった、間違ってはなかったか」
「網在……その、魔法は使えるのか?」
「……ええ、ご迷惑をおかけしました」
礼司はその言葉とともに、フルフェイスのアーマー姿から普段の制服姿へと戻る。
虎千代はそれを見て、真っ先に考えた『いずこかの新兵器を目の前のこいつがどこからか持ってきた』という線を捨てた。
ではこの珍妙な姿は何なのか――虎千代は梓から以前受けた報告を思い出す。
『網在礼司の魔法は……奇妙ッス。自分の前では忍者でしたが、生田目センパイの前ではイカのような、ロケットのような何かでした。相手によって変えているというより……周りの状況で変えているっぽいッスね』
姿を変えることで戦術も変わるという報告もあるその魔法は、変化するストックがあればあるほど戦術が広がる恐るべきもの。
虎千代は礼司がグリモア側に所属していることを、今までで一番感謝した。
「しかし網在、いくら回復したといっても単独での戦場参加は問題行動だぞ?」
「それに関しては弁明のしようもない……ただ、この中でまったくの万全は俺だけです」
「……そうか、わかった。だが無理だけはするな」
虎千代の言葉に礼司がうなずいたとき、魔物が数体現れる。
戦闘態勢に入ろうとした生徒会面々たちを礼司は手で制する。
その意味は――『俺がやる』という覚悟。
「……大丈夫なのか網在?」
「大丈夫です会長、休んでた分、恥じない働きしますから」
話しながら、彼は三つの窪みがあるバックルのような何かをいずこからか取り出し、腰に当てる。
バックルのようなものから腰を一周するようにベルトが伸び、カチリという音とともに固定されるのを確認した彼は、これまたいずこからか赤、黄、緑のそれぞれ色合いの違うコインのような何かを取り出した。
「会長……あれが……?」
「ああ、恐らくあれが網在の魔法の一端だろうな。服部の報告と異なるものがある」
三枚のコインを彼から見て右から赤、黄、緑の順に入れ、緑のコインが入った窪みが下になるようにバックルを傾ける。
「……信じろ、俺は……」
そうつぶやき、ベルトの右側についている楕円球の物体――オースキャナーを握りこむ。
深呼吸するようにしばし目を閉じ、開き、魔物を睨み据えた礼司はオースキャナーでベルトの上をゆっくりと滑らせた。
キン、キン、キンとコイン――オーメダルに一枚一枚反応するような音を確認し、彼はフッと息を吐く。
「――変身!」
≪タカ! トラ! バッタ!≫
掛け声とともにオースキャナーを胸の前にかざすと三種類の生物の名前がいずこから叫ばれる。
その呼び声とともに『タ・ト・バ! タ・ト・バ! タ・ト・バ!』と珍妙な歌がなり、それとともに先ほど礼司は空中から現れた時の姿に変わる。
「……なんですか、その歌は?」
「……歌は気にするな」
薫子の疑問に一言返し、構えをとって走り出す。
走り出す途中両腕を一度振ると黄色の腕部からかぎ爪――トラクローが伸びる。
一度ジャンプすると脚――バッタレッグが変化し、ばねのように縮む。
「一気に飛び込んでいくぜ……」
脚が伸びた瞬間――
バッタのジャンプ力をロケットのように生かすため、体を前傾にし、飛び出していく礼司。
ロケットのようにジャンプ力だけで飛びつつ、その速度を用いて、トラクローで二体の魔物の体をバターのように軽々と引き裂く。
衝撃を前転回避でやり過ごした直後、反転するように体をひねり、再び足に力を込めて飛び込み、ぼろぼろの魔物の傷跡に約九十度ゆがめた傷跡をさらに刻み込んだ。
「生天目と同様肉体強化系の魔法……?」
「いや、それだけじゃない。あの爪には振動の魔法がかかっている……さらには幻惑魔法、敵の切り口には微弱な炎熱魔法、通常ではありえない派手な音や火花もおそらく魔法……アイツ、どれだけの魔法を一度に行使してるんだ」
「そんな!? それでは網在さんの負担が大きすぎます! これではすぐに魔力切れが――」
「いや、よく見るんだ薫子。アイツの魔力の底はだいぶ深いらしい、転校生ほどではないようだがな」
一度に多くの魔法を行使したとなれば、並みの魔法使いではすぐに魔力が枯渇し、倒れ、戦えなくなるような結果に陥るだろうが、礼司の魔力保有量はそんな予想を軽々凌駕するほど。
さらに言うならば、礼司の現在の魔力消費量はかなり少ない。
――効率のいい戦い方を、もっと綺麗に戦えたら!――
そう願ったことで無意識に、彼のこれまでの莫大な魔力を垂れ流すだけだった魔法は、魔力消費を格段に抑え、無駄に洗練された無駄を極限まで省いた無駄な魔法へと昇華された。
結局は無駄な魔法に違いないとしても、その『無駄』の部分でさえも極限まで綺麗に整理された魔法は、見た目からは一切予想のつかないコストパフォーマンスをたたき出すことに成功した。
つまりだ、現在の礼司は強い。
経験上の問題で遠く虎千代たちに及ばないとしても、魔物相手に限れば十全に脅威であるほどに。
「だが……驚いたな、網在の魔法はここまでのものだったとは……覚醒がアタシ達ほど早ければ、今頃アタシや生天目に並んでいてもおかしくはない」
「……ええ、だいぶ動きが荒く、自身の戦い方をつかみきれていないようですが……ポテンシャルが高いですね」
「悔しいことですが、会長に並ぶどころか服部さんの報告から考えて上回る可能性もあったと見えます。網在さんの魔法は現時点ではまさしく変幻自在なものであるかと」
手数が多いということはそれだけ相手を選ばず戦えるということ。
実戦経験というこの界隈で何者にも勝る重要な基準を除いた場合に限り、網在礼司という魔法使いのデータは簡単に学園最強の座を狙えるほどであることが、現学園最強の虎千代が認識した――この重要さが礼司にはまだわからないことが救いに違いない。
「会長、もしかすると遊佐鳴子は彼の魔法使いとしての技能を秘匿したかったのでは?」
「あり得ます、我々が此処まで感嘆するようなポテンシャルを持った魔法使いでありながら実戦経験が未だ今回で三度目という事実からみて、何かしら秘匿すべき事象が存在したのかとも」
ここで生徒会の役員たちは気づく、ここまで強い存在が入学後も数か月の間実力を隠していたのかということに。
そして、礼司のそばにはほぼ常に遊佐鳴子の姿が存在したことを思い出し、礼司のトラウマ症状も鳴子が持ち込んでいたという事実にも行きついた。
つまり、ここから導き出されたものは――
「……転校生と同じように、情報統制を図れ。遊佐個人で行っていたことを我々でサポートするぞ」
「はっ!」
「執拗に遊佐さんが戦わないように動いていた理由……なるほど、よくよく考えれば網在さんの存在は重大なものです。今まで彼女が一人で隠せていたこと自体が奇跡的としか……」
グリモアに在する者たちは、遊佐鳴子と皇絢香以外の大部分が礼司のことを『何を考えているかよくわからない転校生』としか認識していない。
さらに言えば、生徒会から彼へ持たれた認識は『突如何をしでかすかわからない人物』といいうものも追加されている。
転校生の情報すら学園全体で秘匿しようとしても完全に秘匿されていない現状であるにもかかわらず、そんな摩訶不思議ないずこから来たのかもはっきりしない魔法使いの情報を遊佐鳴子一人だけで管理できる事態そのものが異常なのである。
――まぁ、実情は遊佐鳴子が礼司の親友にほぼ同じような人物だったからこそ、彼は鳴子の言葉に素直に従い、自身ができるだけ目立たないような生活をしていただけなのだが。
「――会長、ここの魔物は仕留め切った」
「そっそうか、よくやった網在……えっと……」
「網在、至急遊佐のエリアに合流してくれ。それが何とか出来次第北の方に――」
「――まどろっこしいな、全部いければいいのだろう?」
聖奈の指示に
(オーズ、たくさん、増える――うっ……ガタキリバ! 劇場版やるしかねぇ!)
といつもの愉快さを発揮した礼司が彼から見て右と真ん中のメダルを緑色のものに変える。
『クワガタ! カマキリ! バッタ! ガ~タガタキリッバ! ガタキリバ!』
礼司は音声とともに全身緑の昆虫っぽい見た目をした姿に変化する。
彼が雄叫びを挙げると同時にその緑姿の彼は八人に増殖、そのまま七人の礼司はそれぞれ三枚ずつ、色の違うメダルを取り出し、ベルトに装填、スキャナーで読み込ませる。
『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タ・ト・バ! タ・ト・バ!』
『ライオン! トラ! チーター! ラッタラッタ! ラトラ~タァ!』
『サイ! ゴリラ! ゾウ! サゴーゾ……サゴーゾォ!』
『シャチ! ウナギ! タコ! シャッシャッシャウタ! シャッシャッシャウタ!』
『タカ! クジャク! コンドル! タ~ジャァドルゥ~!』
『プテラ! トリケラ! ティラノ! プットッティラッノザ~ウルゥ~ス!』
『コブラ! カメ! ワニ! ブラカ~ワニッ!』
「サゴーゾの俺とブラカワニの俺がここに残る。タトバの俺とラトラータの俺が西、俺とタジャドルの俺が北へ、シャウタの俺とプトティラの俺で東に向かってくれ」
「水辺はあるのか?」
「地図は確認した、シャウタの俺は東の湖から奇襲殲滅に集中してくれ、プトティラの俺は湖側に敵を回すように努めてほしい」
「応!」
テキパキと指示を出す緑の礼司――ガタキリバに従い、跳んだり跳ねたり飛んだり駆けたりして移動を始めるガタキリバを含めた六人の礼司。
十分にも満たない大移動とともに、魔物たちがやってきた方向へと駆け出していくサゴーゾ、ブラカワニたちを見送りながら、生徒会の面々は考えることを、やめた。
直後、虎千代のデバイスに遊佐鳴子の悲鳴が流れ込んだことについては――想定していただけるだろう。
グリモワールパーソナル
・水無月風子
ウサギリンゴ大好きな風紀委員長。
報道部と生徒会と割と仲が悪いそうだが、彼女自身は割と寛容的。
むしろ注意すべきは彼女じゃなくて――
・朱鷺坂チトセ
CV水樹奈々。
突如現れた謎の強い魔法使い。
いつ覚醒したのかもどこで戦っていたとかも何もかもミステリアス。
・仮面ライダーオーズ
2010年の九月から放送が始まった仮面ライダー。
三枚のメダル『オーメダル』を使用して生物モデルの能力を活用する仮面ライダー。
「ライダーは助け合いでしょ?」や、「明日のパンツ!」などといった名言迷言を多く生み出したライダーで、内容には割と原点回帰的な要素が多くみられる。
また、当ライダーは仮面ライダー放送40周年、1000回目を迎えるというアニバーサリー的な作品でもある。