あらすじ修正。「『白雪姫』のようだ」→「『シンデレラ』のようだ」。タイトル間違えてました。
「――なるほど、ココアさんたちの学校では授業の一環で演劇を見に行ったことがあったんですか。どうりで、前触れもなく変なことを言い出したはずです」
(まぁ、ココアさんはきっかけがなくても変なことばかり言いますが……)
「えへへ。改めて見てみたけど、やっぱり演劇って楽しそうだったなぁって。映画みたいにどこか別のところの話を見てるような感じじゃなくてね、こう、まるで私自身が物語の世界に迷い込んだみたいな。最後の二匹が再会するシーンとか泣いちゃったよー」
「物語の世界に……確かにそれは面白そうです」
「ふふん、今日は期待してね? 私が、ううんっ。私たちが、きちんとチノちゃんを童話の世界に招待してあげるからっ!」
「私も参加するんですが……でも、少しは期待しといてあげます」
もう、チノちゃんは素直じゃないなぁ。そういうところも可愛いけど!
全員の予定が空いた初めの休日。私ココアはにこにこと笑顔を浮かべながら、チノちゃんと街の中を歩いていた。いつもならチノちゃんは頭の上にティッピーを乗せているが、今日はいない。
私もチノちゃんも手にはふくらんだ紙袋を携えている。それに入っているのは演劇で使う衣装であり、今は劇の練習のためにリゼちゃんの家に向かっているところだった。
ちなみに衣装についてはさすがに初めから専用のものを揃えるのは難しいので、以前コスプレでチラシ配りをしていた時期があったため、その時に使ったそれっぽい衣装なんかを流用することになっていた。
「でもチノちゃん、本当によかったの?」
「いいって、なにがですか?」
「演劇、だよ。ラビットハウスのお仕事だって忙しいのに」
私が演劇をやろうと言い出したのは、実はこの前が初めてではない。いつかのコスプレでのチラシ配りをしていた時期にも一度やってみたいと言ってみたことがあった。
皆の感情面での反応は好意的なものが多かったが、問題は現実面。学校はもちろんラビットハウスのお仕事もあるし、脚本も大道具もなく、あまり現実的じゃない。そういうわけで、その時の演劇の話自体はすぐにぼつになってしまっていた。
結構ダメ元のつもりで今回改めてまた言い出してみたけど、なんと返ってきたのは予想外の問題ないという言葉。思わずはしゃいじゃったのもきっと無理はない。
「構いませんよ。以前ココアさんが……いえ、あの時の発端は元をたどれば私でしたか。あの頃はココアさんが私の誕生日の前だからと張り切って、その後もクリスマスに向けての準備などがあったので本当に暇がありませんでしたが、今はそこまででもありません。さすがに本格的な劇はできませんが、あまり時間を取られないごっこ遊び程度の劇なら特に問題はないでしょう」
「そっか、よかったぁ。ありがとね、チノちゃん」
「いえ。私も前々から少し、やってみたいと思っていましたから」
大道具は使わず、それっぽい動作と代わりの衣装だけで劇を演じる、それこそチノちゃんの言う通りごっこ遊びの劇。あまり時間を費やせるわけでもないので、演目自体も数分か十数分で終わってしまうような簡単な童話。
それでも私は演劇が皆とできるというだけで大満足だ! 今日はまだ本番じゃなくて練習なのに、昨日なんて楽しみすぎて眠れなくなりそうなくらいだった。
ちなみに本番の際にはマヤちゃんとメグちゃん――チノちゃんの同級生。私の妹でもある――や、青山さん――チノちゃんのおじいさんと知り合いだったっていう、ちょっと変わった小説家の人――など、知り合いの人たちを呼んで見てもらう予定でいる。その時にチノちゃんのお父さんに動画を撮ってもらえるように頼んであるから、その場にはいないけど実家にいるお姉ちゃんやお母さん、お兄ちゃんたちにも見てもらうこともできる。
本当の演劇みたいにいっぱいの観客がいるわけじゃないけど、少なくても親しい人たちに楽しんでもらえるっていうだけでもじゅうぶん嬉しい。
練習にも気合いが入るってものだよ!
「あ、そろそろ見えてきましたね。あいかわらず、リゼさんの家はでかいです」
「いつかラビットハウスもこれくらい大きくなったらいいよねー」
「そこまでいくとさすがに喫茶店の範疇には収まらないのでは? フルールみたいにチェーン店でも出して、お店の数を増やす方が建設的です」
「チェーン店かぁ。あれ? でもそうなると、甘兎庵世界進出の夢を持ってる千夜ちゃんと縄張り争いをしなくちゃいけないことになっちゃうのかな。今日の友は明日の敵……くっ、世界はままならないものなんだねっ……!」
「縄張り争いって……そもそもそれを言うなら昨日の敵は今日の友では? また敵になってどうするんですか。私たちはもう和解したんです。もしも互いにお店を広げるようなことがあっても、潰し合うなんてことはせず、よき友でありライバルとして互いを高め合っていくんです」
そういえば千夜ちゃんもいつか同じようなことを言ってたなぁ。互いに競い合う、好敵手と書いてライバル……熱いね! まるで漫画みたい!
「つきましたね」
そうこう話しているうちに、私とチノちゃんはリゼちゃんの家の鉄柵門の前にたどりついていた。ここを抜けてちょっと進んだ先に大きな洋館のお屋敷の入り口がある。
「リゼちゃーん、私とチノちゃんだよー!」
と、三回連続でインターホンを鳴らす。リゼちゃんの家は、ちょっと見た目が怖いけどとっても紳士的な使用人たちがたくさんいるから、すぐに出てきてくれるだろう。
「あの、ココアさん」
「なぁに、チノちゃん」
「どうして三回も鳴らしたんですか?」
「ふふん、この前読んだ本には親しい人のところに行く時は三回が正しいマナーだって書いてあったからね! 早速実践してみたの!」
「それはたぶん、ドアのノックの回数では……」
「インターホンもノックみたいなものだよ!」
「無理があります。ココアさんはもう少し常識を正しく覚えてください」
「私の常識は正しくないのっ!?」
がーん、と地味にショックを受けていると、インターホンの向こうからも声が聞こえてきた。
『まぁ、自分にとっての常識が他の人にとっての非常識だったってことは、案外よくある話だよな』
「あ、リゼちゃんの声だ。リゼちゃーん、おはよー。私とチノちゃんが来たよー」
「おはようございます。リゼさんもそういう経験があるんですか?」
『おはよう。それなりにあるぞ? たとえば、以前私の学校の同級生がどこの会社のホームセキュリティがどうとかって話をしてたから、皆知ってると思ってRMAについて話そうとしてみても、不思議そうな顔されるばかりで少しも理解されなかったりな』
「へー、私と同じでリゼちゃんも大変なんだねぇ。ねぇ、ところでチノちゃん」
「なんですか?」
「……ホームセキュリティとRMAって、なに?」
『知らないで納得したような態度取ってたのか!?』
小声で問いかけてみたつもりだったのだが、リゼちゃんにも聞こえてしまっていたらしい。あはは、と誤魔化すように愛想笑いをする。
「その、リゼさん。実は私も知らないので教えてくれませんか? ホームセキュリティの方はなんとなく察しはつくのですが」
「あ、はいはーい! 私も教えてほしいです、教官!」
『教官か……あぁ、任せろ! チノも喫茶店を経営してるし、ココアも実家がお店だ。知っておいた方がいいかもしれないしな』
「お願いします、リゼさん」
リゼちゃん、教官って呼ぶと大体なんでも嬉しそうに教えてくれるんだよね。私たちは知らないことを知ることができて、リゼちゃんは楽しくおしゃべりすることができて、一石ニ鳥ってやつだね!
『こほん。それじゃあまずは、ホームセキュリティについてからだな』
「直訳すると、家が可愛い、だね!」
『文系苦手なのに無理するな。家の安全、だ』
「そ、それくらいわかってるよ! 私そんなにバカじゃないからー!」
『はいはい。で、まぁ、ホームセキュリティっていうのは、そうだなぁ……簡単に言えば自宅とかに専用のセンサーやカメラなんかを設置して、それに異常があった場合に、契約している民間の警備会社の警備員に駆けつけてもらうシステムのことだ。ホーム、つまりは自宅なんかじゃなくても、警備会社には店舗向けのセキュリティ商品やサービスもあるから、環境に則したプランの導入が可能なんだ』
「機械だけではない人による防犯システムってことですね。確かに知っておいて損はありません」
「よくわかんないけどかっこいいー。でも、うちはリゼちゃんがいるからなくても大丈夫なんじゃないかな」
『おい、私はガードマンじゃないぞ。それにホームセキュリティは防犯だけが目的ってわけじゃない。たとえばお年寄りなんかが急に発作を起こして倒れてしまったりした場合に素早く駆けつけたりとか、そういうこともしてくれるんだ』
なるほど、それは確かに助かるかも。私には必要ないけど、千夜ちゃんはおばあちゃんと二人暮らしをしてるから、教えてあげたら喜んでくれそうだ。
「じゃあRMAの方はどういう意味なの?」
『
「なんかすごそう!」
強そうな言葉がたくさん出てるし、話してるリゼちゃん楽しそうだし。これまたよくわかんないけど!
「そのRMAとホームセキュリティに、どう関係が?」
『ホームセキュリティっていうのは、元はこの軍事革命を応用したものなんだ。センサーで察知し、その情報をもとに攻撃や人を派遣する。ほら、システムが似ているだろう? だから知ってるかと思って話しかけてみたんだが、案の定、だ』
「そっか……やっぱり技術っていうのは、常に戦争の中で進化していくものなんだ……! 人間っていうのは、争わなきゃ進化できない悲しい生き物なんだね……!」
「ココアさん?」
うぅ、と目元を擦る私を、チノちゃんは「また変なこと言ってる……」みたいなじとっとした横目で見つめてくる。もちろん冗談なのですぐに演技をやめようかと思ったら、予想外のところからどこか興奮したような言葉が返ってきた。
『あぁ、確かに悲しいことかもしれない。だけど、それでも私たちは戦い続けなくちゃいけないんだ。その争いの果てに、心の底から求めるものがあるのなら』
「リゼさんまでっ!?」
リゼちゃんは普段は年上っぽい冷静なまとめ役のポジションだけど、父が軍人なこともあってか、たまに変な方向に話がすっ飛んでいってしまうことがある。特に偵察とか潜入とか軍関係の言葉が出ると、よく暴走する。
演技をやめようかと思っていたけど、リゼちゃんが乗ってくれるなら話は別だ。
「手を貸すよリゼちゃん! 私とリゼちゃん……ううんっ、チノちゃんも千夜ちゃんもシャロちゃんも、皆の力を合わせれば百人力だよ! きっとどんな戦いにだって勝利できる!」
「勝手に巻き込まないでください。そもそもいったいなにと戦うつもりなんですか」
『いいのか、ココア。大切なものを何度も失うことになるかもしれない……この先は地獄だぞ』
(乗っかった!?)
「覚悟はできてるよ! リゼちゃんのためだもん!」
『たとえ、その手を赤く染めることになろうと?』
「うん! ジャムでよく赤くなるから、それくらい慣れたものだよ!」
『たとえ、寂れた硝煙の匂いを忘れられなくなるとしても?』
「うんっ! 初めて焦がしちゃったパンの匂いは今でも覚えてるよ!」
(ココアさんの返しはどこかずれてるような)
『そうか。なら、たとえ……大切な妹を失うことになるとしても?』
「う、って、え? 妹って……チノちゃんっ!? そ、それだけはだめぇーっ!」
「こ、ココアさん!?」
がばぁーっ、とチノちゃんに思い切り抱きつく。
いつもならもふもふと優しく抱きしめるところだけど、一瞬でもチノちゃんがいなくなっちゃうことを考えちゃったせいか、なんだかそれだけじゃ足りない。
いつもより強く、ぎゅーっ! ってして、チノちゃんがここにいることをちゃんと確かめる。
「どこにも行かないでっ。どこにも行っちゃダメだよ、チノちゃん!」
「い、行きませんっ。行かないので、は、離してください。ちょっと……その、く、苦しい」
「え? あ、ご、ごめん!」
ばっ、とチノちゃんから離れる。思わず強くしすぎてしまったようだ。
ちょっとだけ睨むような視線に、すごく申しわけなくなってしまう。
「チノちゃんがいなくなっちゃうことを考えたら、体が勝手に……痛かった? 本当にごめんね?」
「体が、勝手に……?」
チノちゃんはぱちぱちと目を瞬かせると、しばらくして、小さくため息をはいた。
「……しょうがないココアさんです。大丈夫ですよ、許します。もうなにも痛くありませんし」
「ほ、ほんと? 本当に怒ってない?」
「怒ってません。しつこいですよ」
「やっぱり怒ってるー! うわぁーん!」
「な、なんでココアさんが泣くんですか。怒ってないって言ってるのに……」
「だってぇ」
『ははっ! やっぱりココアはココアだなぁ』
チノちゃんはどうやらもう本当に怒っていないようなので、私も目元を拭って、涙を拭き取る。ようやく落ちついた、という風にチノちゃんが息をついた。
『まぁ、このままインターホン越しに長話もなんだ。そっちに行ってくれた親父の部下がそろそろつくと思うから、門を開けてもらってくれ。千夜とシャロも、さっき家を出たって連絡があったからすぐに来るだろうし、一緒に中で待っていよう』
「あ、うん。わかった! またすぐあとでね、リゼちゃん」
「またです、リゼさん」
『ああ』
リゼちゃんの返事を境にインターホンからの音声が途切れる。それからチノちゃんと言葉を交わす間もなく、ぎぃ、と門の向こうにあるお屋敷の扉が開いた。
現れたのはスキンヘッドにサングラスという、いかにもおっかなそうな見た目の大人の男性。以前はこの外見から危険な人だって勘違いしちゃって、でもその後ものすごく紳士的な対応をされたから、すっごく申しわけなく感じたことを覚えている。
もう見た目なんかには騙されない。リゼちゃんの家で働いているこういう人たちは皆紳士的ないい人だってことはとっくにわかっている。
「お嬢の友達ですね、ようこそいらっしゃいました。さ、中へどうぞ。足元にお気をつけください」
「はい! わざわざありがとうございます」
「ありがとうございます」
「いえいえ。お嬢も喜びます」
チノちゃんと一緒に門をくぐる。屋敷の中に入ると、リゼちゃんの部屋へと足を進めていった。
「ねぇ、ところでチノちゃん。チノちゃんはホームセキュリティっていうの、ラビットハウスでやってみる気あるの?」
「いえ、今のところは。うちは喫茶店ですから、そういう見張られている感覚があると、お客さんに落ちついて休んでもらえないと思うんです。倉庫の前に監視カメラを置くくらいならいいとは思いますが」
「そっか、そうだよね。ちゃんとお客さんのことまで考えるなんて、チノちゃん偉い偉い」
「マスターの孫ですから、当然です」
なんて言いながらも、ちょっとだけ嬉しそうだ。私もそんな上機嫌なチノちゃんが見れてちょっと得した気分。
今日こうしてリゼちゃんの家に集まることになっているのは、もちろん、リゼちゃんの家で演劇の練習をするからだ。
練習はどこでするかって話になった時に、うちなら広いから練習できる場所はある、ってリゼちゃんが誘ってくれて。ただ練習するだけなら公園の隅とかでもいいけど、着替えたりもしなきゃいけないから、室内の広いところの方が都合がいい。そういうわけで、リゼちゃんに甘えさせてもらったんだ。
「ココアさん、なんだかもうすでに楽しそうですね」
「えへへ、わかる? 皆と演劇できるって考えるだけで、もう我慢できなくて」
「ココアさんらしいです」
チノちゃんが呆れたように私から視線を外した。
でも私には、そう言うチノちゃんも、どこかわくわくと楽しそうにしているように見えた。
※以下、オリジナル設定です。
・「ココアさんたちの学校では授業の一環で演劇を見に行ったことがあったんですか」
※以下、『ご注文はうさぎですか?? Wonderful party!』から。
・以前コスプレでチラシ配りをしていた時期があったため――。
・私が演劇をやろうと言い出したのは、実はこの前が初めてではない。いつかのコスプレでのチラシ配りをしていた時期にも一度やってみたいと言ってみたことがあった。