ご注文は演劇ですか?   作:にゃっとう

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ココア「前にあらすじで、このお話は三話構成って言ったよね? 実はあれ嘘なんだ」
チノ「失望しました。ココアさんの妹やめます」
ココア「チノちゃぁあああああん!」

※思っていたより文字数が多くなったため、四話構成に変更しました。申しわけございません。


演劇③

「というわけで、『シンデレラ』の演劇の練習を始めるよー! わーぱちぱちー!」

「ぱちぱちー」

「それ、なんでわざわざ口で言うんだ?」

 

 上から私、千夜ちゃん、リゼちゃんの順である。ちなみに、ぱちぱちーなんて言っている割には私も千夜ちゃんも、誰も本物の拍手はしていない。

 リゼちゃんの家に来てからしばらく。千夜ちゃんとシャロちゃんが到着後、それぞれの役割に合わせた衣装に着替えて、広めの部屋に全員が集合したところだった。

 

「ねぇココア。一応聞くけど、やる劇は『ロミオとジュリエット』じゃなくて、本当に『シンデレラ』でいいのよね」

「うん! シャロちゃんは、やっぱり『赤ずきん』の方がよかった?」

「それだけは勘弁して! あれを演じちゃったら、もう感情移入どころじゃなくなっちゃう!」

 

 頭を抱えてうずくまるシャロちゃん。今回やる劇を決める際に『赤ずきん』が候補が出た時、シャロちゃんは「それだけは嫌ぁ!」って断固反対たりしていた。

 感情移入しちゃうくらい好きなら素直にやりたいって言えばいいのに、好きだからこそなのかな。うーん……。

 

「乙女心は難しいねー」

「ココアちゃんが恋愛物の主役の男の子みたいなこと言ってる……」

「そもそもココアも女だろ」

 

 千夜ちゃんの呟きとリゼちゃんのツッコミ。演劇を始めるって言った時もそうだったけど、うん、私と千夜ちゃんがボケて、リゼちゃんがつっこむこの形はいい。やっぱり私と千夜ちゃんとリゼちゃんの三人の漫才コンビは相性抜群だ!

 

「まぁ、劇が『ロミオとジュリエット』じゃないのは、知らない人が多いのでしかたがありません」

 

 チノちゃんの言う通り、実のところこの五人の中で二人しかその内容を把握していない。言うまでもなくその二人というのはリゼちゃんとシャロちゃんだ。

 私はもちろん、チノちゃんも噂程度にしか聞いたことがない。千夜ちゃんは和風な雰囲気の本を好むから、わざわざ知っているか聞かなくても、彼女の方から知ってると言い出してこない時点で内容を知らないことは明白だ。

 五人中三人が物語をよくわかっていない状況では、さすがにその劇をやるなんて不可能というか、そもそも私は初めから『ロミオとジュリエット』をやる気はなかったというか。劇を決める際にそうぶっちゃけた時の「じゃあなんでいきなりあんな質問してきたのよ」というシャロちゃんの質問には、「一回言ってみたかったんだ」の一言ですべてを表せた。

 そういうわけで皆が知っていて、なおかつ簡単で可愛い童話の演劇をやることになった。

 なんの童話か決める際、なにげにちょっとだけ皆で意見が分かれていたりする。チノちゃんは『長靴をはいた猫』をやりたいと主張し、リゼちゃんは決まったものを全力でやると主張放棄。千夜ちゃんが『赤ずきん』がいいと言うと、直後にシャロちゃんがそれだけは嫌だと叫び出す。『シンデレラ』をやりたいと言い出したのは私――というわけでもなくて、私はもっぱらチノちゃんがやりたいことを尊重するつもりだった。

 そんなこんなで『長靴をはいた猫』に話が傾きかけたところに青山さんがやってきて、「『シンデレラ』なんてどうですか?」と話を持ち出してきたことがきっかけだった。

 元々『長靴をはいた猫』がちょこっと複雑なお話だっただけに、リゼちゃんが初めに「いいんじゃないか」と青山さんの提案に食いついて。いくら今はあまり忙しくないと言っても喫茶店の仕事もあるので、最終的には比較的簡単に済ませられそうな『シンデレラ』をやるということで話がまとまった。

 チノちゃんがやりたかったお話にさせてあげられなかったのは残念だけど、今の私は今日この演劇の練習の時間において、チノちゃんを思い切り楽しませて、残念だったぶんを取り返してあげたいという情熱で心が燃えている。

 今日の私は一味違うのだ! 今ならトマトジュースだって三杯は……いや、二杯……うん、一杯の半分くらいならきっと余裕で飲めるかな! たぶん!

 

「それじゃ早速始めよっか。えーっと……」

 

 持ってきていた脚本――青山さんが自分から提案して、作ってくれた――を取り出して、改めて配役を確認する。

 私たち全員の意見やタイプを考えて振り分けてくれた、皆が満足できる采配だ。

 

「当日は青山さんがナレーションしてくれるみたいだけど、今日はいないから、自分の役がない人で代わりばんこにやろっか」

「わかりました」

「確か初めに役目があるのは、ココアとチノとシャロだったか。一応は年長者だからな、最初のナレーションは私が担当しよう」

「お願いするわ。それじゃあリゼちゃん、私たちはちょっと下がっていましょう?」

 

 リゼちゃんと千夜ちゃんが壁際に寄って、私を含めた三人が開けた場所に残る。

 

「チノちゃんがシンデレラの役で、私とシャロちゃんがお姉ちゃん! の役割だよねっ?」

「わざわざ姉を強調しなくてもいいの。それから、チノちゃん。役の都合でちょっと心にもないことを言っちゃうと思うけど……その、先に謝っておくわね」

「気にしないでください。シャロさんが本心で人を貶すような人ではないことは初めからわかっていますから」

「チーノちゃん、私はー?」

 

 一瞬、訪れる沈黙。

 

「……なにか言ってよぉー!」

「ゆ、ゆすらないでください。今のはちょっとした冗談です。もちろんココアさんのことも信頼していますから、安心してください」

「ほんと? えへへー、よかったぁ」

 

 私とシャロちゃんはバレンタインをかたどった、まさしく童話の住人と言った服装をしている。対してチノちゃんはラビットハウスの制服から、ベストを脱いだ状態――つまりはワイシャツにスカートという軽装だ。

 シンデレラの童話だと、物語当初まで、シンデレラは継母――血の繋がっていない母親――とその娘こと義理の姉たちから冷遇されていたという。本当はチノちゃんとお揃いの衣装を着たかったけど、設定的に服は分ける必要があるから、泣く泣くお揃いは諦めた。

 それに、別にチノちゃんがこの演劇の中で可愛らしい衣装を纏わないというわけじゃない。チノちゃんの晴れ姿が見られるだけでも妥協する価値はある。

 

「ほら、そろそろ始めるぞー」

「あ、うん! それじゃあチノちゃんシャロちゃん、頑張ろうね!」

 

 深呼吸をして、すぅ、と心を落ちつかせる。

 チノちゃんのお姉ちゃん役ができるのは素直に嬉しい。けど、『シンデレラ』の設定的に、シンデレラの姉たちはシンデレラを冷たくあしらう必要がある。

 我慢して、どうにか役になりきらなきゃ!

 

「昔々、あるところに、シンデレラという――――」

 

 リゼちゃんのナレーションが始まる。

 昔々、あるところにシンデレラという少女がいた。継母とその娘たちの一緒に暮らしているシンデレラは、唯一血が繋がっていないせいでいじめられていたこと。それでも育ててくれているのだからと逆らえないこと。

 そこまで説明して、リゼちゃんは口を閉じた。そしてちらりとこちらに視線を送ってくる。一度いじめているシーンを見せろ、というわけだ。

 

「シンデレラ! あなたなにをのろのろとしているの? 早くさっき私が言ったものを市場まで走って買ってきなさい!」

 

 シャロちゃんがきつい口調でチノちゃんに怒鳴りだす。

 す、すごい……役になりきってる。しかもチノちゃんが怖がらないように、声の大きさはちょっと控えめで、怒りだってぎりぎり現実味を帯びないくらいに整えてる……割と本気だ! 本気と書いてマジだ!

 

「タイムセールまであと一五分だから、それまでにもやしと玉ねぎ三玉にキャベツ半分に……あと魚が割引のはずだから魚も! 急がないと一五〇〇円以内に収まらないから早く走って買って来るのよ!」

「庶民的っ!」

 

 千夜ちゃんが思わずと言った具合に叫ぶ。むむむ、シャロちゃんがここまで役になり切ってるとなると、私も負けてられないね!

 

「チノちゃ……じゃなかった、シンデレラっ! 今日の夕飯の時も昨日と同じように、私のぶんの夕焼け色の物体と、赤い液体を飲みなさい! この、ニンジンとトマトジュースをっ!」

「それお前が嫌いなだけだろ!」

「ついでにアスパラも!」

 

 私のセリフの合間に、リゼちゃんが思わずと言った具合に叫んでいた。ふっ、私もシャロちゃんに負けず劣らずの名演技みたいだったね……!

 最後はチノちゃんの番だ。

 ドキドキしながらチノちゃんに向き直ると、チノちゃんはまさしく戦々恐々と言った表情で、私たちから一歩後ずさっていた。

 

「い、いつもの二倍もあの苦い野菜を……ココアさん、なんて恐ろしいことをっ……!」

「チノのあの表情……まさか本気で怖かったのか!?」

「ココアさんじゃありません! 今の私はココアお姉ちゃん、だよ! ほら、ココアお姉ちゃん、だよっ!?」

「ココアちゃんがドサクサにお姉ちゃんって呼ばれたがってる……!」

「ああもう、やっぱりシンデレラには任せてられないわ! タイムセールはいわば戦争なのよ! 一分一秒の油断が命取り……シンデレラになんて到底任せてられないっ!」

「シャロに至っては進んでシンデレラの仕事を引き受けた!?」

 

 リゼちゃん、千夜ちゃん、またリゼちゃんと、交互に外野から声が上がる。

 これでは練習にならないので、私はぱんぱんと手を叩いて皆を落ちつかせると、ぷんぷんとリゼちゃんと千夜ちゃんに向き直った。

 

「もーっ、二人とも! そんなに大声出されたらこっちも集中できないよ!」

「え、これ私たちのせいなのか!?」

 

 一旦五人でもう一度集まる。そうすると冷静になったらしいシャロちゃんが、真っ先にリゼちゃんに頭を下げた。

 

「すみません先輩、自分にとって苦しいことってなんだろうって思ったら、あんなことくらいしか思いつかなくて……」

「それは世知辛いな……」

 

 とりあえず皆で話し合って、ある程度どういう方向で行くか話をまとめる。

 青山さんが書いた脚本は割と適当で、必要なこと以外はその場その場で想いのままにやった方が私たちらしくなる、って書いてあったからそのとおりにしてみたけど……リゼちゃんいわく、さすがに今の状態で演劇と言い張るのは無理があるというため、多少整えることになった。

 話が終わると、もう一度同じシーンの練習を始める。チノちゃんことシンデレラを冷遇するところから、城で舞踏会が開かれることを知って。私とシャロちゃんはシンデレラに多くの仕事を押しつけて彼女を行けないようにした上で、自分たちだけはそれに参加しに行く。

 途中で何度も「チノちゃーん!」と私の方が涙目になって突撃しかけたが、そのたびにリゼちゃんのカットが入ってやり直し。いい加減チノちゃんの方から呆れた目線を送られてから、どうにか私は泣き出したり飛び出したりしないように耐えて、ようやくそのシーンを終えた。

 今度はちゃんとリゼちゃんがある程度満足できる仕上がりになったらしく、次のシーンへ映る。

 

「舞踏会に行けなかったシンデレラが魔女と出会うシーンだな。ココアとシャロは一旦退場して……魔女役は千夜か」

「ふふ。チノちゃん、よろしくね?」

「はい、よろしくお願いします」

 

 千夜ちゃんが着ているのはハロウィン仕様の衣装で、帽子にカボチャのマークがついていたりしている。

 この衣装はいかにも魔女や魔法使いと言った見た目をしているから、まさしく今回の役にお似合いと言えた。

 

「それじゃあ行くわよ。んん、ん! ……あら、そこのお嬢さん。いったいこんな寂れた井戸の前でどうしたのかしら?」

 

 千夜ちゃんは形から入るタイプだ。魔女の見た目をしている今の彼女は、気持ちはもはや完全に魔女になり切っていると言っても過言ではない。

 

「あ、えっと……失礼ですが、あなたは?」

「私はウサギの魔女。いずれ世界をもふもふの深淵へと導く者……いえ、今はそんなことは重要なことではないわ。それよりあなた……そう、名前はシンデレラというのね」

「な、なぜそれを? あなたと会ったことはないはず……」

「言ったでしょう? 私は魔女なの。それくらいのことを知るのなんて造作もない……あなたが舞踏会に行きたがっている、ということもね」

 

(千夜とは思えないほど真面目に演じてるわね……)

 

 幼なじみが地味に失礼なことを考えていることもつゆ知らず、チノちゃんと千夜ちゃんは物語を進めていく。

 

「……はい、その通りです。でもこの通り、私は姉たちから多くの仕事を授かっているのです。明日までに終わらせるには、舞踏会に参加している暇は到底ない……」

「ならば私の使い魔を貸してあげましょう」

「使い魔?」

「そう、我が最強のしもべ……出て来なさい、白き魂に眠る純黒の希望、あんこ!」

「にぎぇ!?」

 

 と、勢いよく千夜ちゃんが帽子を投げ捨てると、千夜ちゃんの頭の上には王冠をかぶった黒いウサギことあんこの姿が。

 ちなみに「にぎぇ!?」はチノちゃんのセリフじゃなくて、私の隣にいるシャロちゃんの言葉だ。

 

「千夜、来る時にもいつもはしてない被り物をしてるからなにかと思ったら、まさかあいつを連れてきてたなんて……!」

 

 シャロちゃんは兎恐怖症みたいでウサギを見るといつもこんな感じで後ずさってしまう。少しずつ克服しようと頑張ってはいるみたいだけど、やっぱりまだ苦手なことは変わらないみたい。

 千夜ちゃんと一緒に来たシャロちゃんが知らなかったほどだ。チノちゃんも、こればかりは演技ではなく、いきなりのあんこの登場に純粋に驚いているみたいだった。

 

「このあんこがあなたの仕事をすべて肩代わりしてくれる。だからお仕事に関してなら心配はいらないわ」

「この子が……ありがとうございます。でも……私は、舞踏会に行けるほどの服も持ってなくて」

「ならば私が魔法を授けて上げましょう。はい、うさぎうさぎぴょん!」

 

 千夜ちゃんがくるりと指を回して――そこで一旦、リゼちゃんが中断をかけた。

 

「よし、上出来だ! あとはチノが着替えて再開だな」

「ふぅー……お疲れさま、チノちゃん。すごくいい演技だったわ」

「千夜さんこそ。というか、あんこを連れて来ていたんですね。まるで気がつきませんでした」

「本当? ちょっとしたサプライズのつもりだったんだけど、成功したみたいでよかったわ」

 

 リゼちゃんの近くでチノちゃんと千夜ちゃんが互いにいたわり合う。その横で、私は「うーん」と目を瞑って難しい顔をしていた。

 

「どうしたのよ、ココア」

 

 あんこがいるせいで若干千夜ちゃんたちに近づきづらいシャロちゃんが、そんな私の変化に目ざとく気づいて話しかけてくる。

 

「えっとね。演技はよかったし、動画にすれば着替えも一瞬だとは思うんだけど……実際に演劇を見てくれる側だと、ここってちょっと間が空いちゃうよね。どうにかならないかなーって」

「確かにそうね……じゃあ、むしろラビットハウスの制服を着るのはやめて、初めからチノちゃんには魔法の衣装の方を着てもらっておくのはどう? 魔法がかかってない時はその上から古かったりボロかったりするカーテンみたいなものを羽織っておいて、魔法がかかったと同時にそれを取れば結構な変化になると思うけど。解けたらまた羽織り直せばいいし」

「あ、それいいね! さすがシャロちゃん! 早速チノちゃんたちに相談してみよう!」

「ちょ、ちょっと引っ張らないで! 慎重に行かないとあいつに気づかれ――にゃぁあああああっ!?」

 

 シャロちゃんが近づいてきたことを察したあんこが、ものすごい勢いで千夜ちゃんの頭の上から飛び出していく。それを目にしたシャロちゃんも、一目散に部屋の出入り口の向こうへと駆け抜けて行った。

 

「あらあら、あんこもシャロちゃんも……どうしましょうか」

「しかたない、いったん休憩にしよう。チノも今からまた着替えないといけないしな。三人ともそれでいいか?」

「もちろんいいわよ」

「私も構いません」

「私もいいよ! あとね、シャロちゃんが言ってたんだけど――」

 

 もうすぐリゼちゃんの出番だ。心なしか、私にはリゼちゃんがまだかまだかとうずうずしているように見えた。

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