ご注文は演劇ですか?   作:にゃっとう

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※演劇④と連続投稿気味なので、前の話を読了済みか確認してから読み始めていただけると幸いです。


演劇⑤

 このシーンからリゼちゃんが登場するが、初めはチノちゃんがお城に向かうところからだ。

 私の掛け声が終わると、チノちゃんが駆け足で辺りを駆け回る。ここで一旦ナレーションだ。

 

「魔女に助け、後押ししてもらったシンデレラは、その足でお城へと向かいました。姉たちに任されたお仕事をしている間、ずっと自分がお城へ行く夢を見ていたので、たとえ慣れない道であろうと足が途中で止まることはありませんでした」

 

 脚本をもとに私がそう告げると、チノちゃんは走る速度を緩めて、やがて止まる。そうして、目の前にお城を幻視しているかのように感慨深く顔を上げた。

 うんうん、さすがは私の妹! 本当にシンデレラになり切ってるみたいだ!

 シンデレラは意を決したように足を踏み出し、舞台は城の中へ。

 ここで次は、はい。私は持っていた脚本を千夜ちゃんに渡した。

 

「お城に入ったシンデレラは、あちこちでダンスをしている貴人(きじん)がたを目に留めました」

「あ、それ『きじん』って読むんだね」

「ココア、あんたもしかしなくてもそれわかんなかったから千夜に渡しただけでしょ」

「でへへ、ばれた?」

 

 私の文系の成績は壊滅的だ。理系は得意なんだけど。特に数学。

 意外だってよく言われるけど、なんでなんだろ?

 千夜ちゃんは私たちのやり取りにくすくすと微笑むと、「シャロちゃん、続きお願い」と脚本を千夜ちゃんに手渡した。どうせなら三人とも言ってしまおう、っていうことみたい。

 

「えっと……そこでシンデレラは躊躇(ちゅうちょ)をしてしまいました。お城のパーティに参加することを夢見てはいましたが、そこでなにをするのか、具体的には考えることができていなかったからです。こんなパーティに参加することも初めてなので、どうすればいいのかわからず、一緒に踊る相手も見つけられずに右往左往(うおうさおう)としてしまいます」

 

 えっと、『ちゅうちょ』に『うおうさおう』かー……危なかったー。もしもここ私が読んでたら、躊躇はそもそもわかんないから当てずっぽうだし、右往左往は『うじゅうさじゅう』とか『みぎすみひだりすみ』とか言っちゃってたかも。

 さて、ここでやっとリゼちゃんの出番だ。

 リゼちゃんは少し離れたところから、少し戸惑っている風なチノちゃんに近づいていった。

 

「美しいお嬢さん。初めて見るお顔ですね。もしよければお名前をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか」

 

 いつもより声音を低くして、爽やかに。表情も優しく微笑みかけるような、いつものリゼちゃんとは違った本当の王子さまがそこにはいた。

 

(す、すごい……! まるで本当の王子さまだよ! 言い方もなんていうか紳士な感じでイケメンオーラが漂ってる気がする!  (メン)は女の子なんだけど!)

(さすがリゼちゃんね。私も負けてられないわ)

(ほわぁ、脳が溶けるぅ……うぅ、リゼ先輩にあんなこと言ってもらえるなら、私もちょっとシンデレラ役やってみたかったなぁ……)

 

「えっと、あなたは……」

「あぁ、これは失礼しました。私としたことが、あなたのあまりの美しさのせいか、気が急いてしまったようです。私はこの国の王子、オウジです。以後お見知り置きを」

 

(……脚本見た時から思ってたんだが、この名前、もっとどうにかならなかったのか?)

(ここまでキザに口が回ると、もはや王子というよりナンパ師ですね。リゼさんにはあとでもうちょっと言い方を控えめにしてもらうように意見してみましょう)

 

「お、王子さまですか? なんで王子さまが私なんか……あ、すみません。申し遅れました。私はシンデレラと言います。その、どうかよろしくお願いします」

「シンデレラ……可愛らしいあなたによく似合う、素敵な名前ですね」

「……ありがとうございます。亡き母につけてもらった大切な名前なので、とても嬉しいです」

 

 チノちゃんは胸に手を当てて、心を落ち着かせるように一度大きく呼吸をした。

 

「それで、えっと、この国の王子さまが私みたいな小娘にどのようなご用でしょうか」

「この場はパーティの催しの最中です。こんな中で異性に声をかけてすることと言えば、一つしかないでしょう」

「それは……」

 

 リゼちゃんは片膝をつくと、割れ物を扱うように大切にチノちゃんの手を取った。

 

「マドモアゼルシンデレラ。どうか、私と一緒に踊っていただけませんか?」

「わ、私とですか? その、他にもっといい人がいるのでは……」

「そう自分を卑下することはありません。あなたは他の貴婦人がたと比べても変わらず、いえそれ以上にお美しい」

「ですが……」

「……私は確かにこの国の王子ですが、そのことで萎縮する必要はありません。ここはパーティの催しの場ですし、私はただ、あなたを一目見て、あなたと踊りたいとこの心で思っただけなのですから……どうでしょう」

 

 元々シンデレラはパーティに参加したいがためにここまでやってきた。たとえ相手が誰であろうと、こんな自分を誘ってくれると言うのなら、受けないわけにもいかないだろう――みたいに、シンデレラの心境の参考が脚本には書いてある。

 この他にもいろんな場面で、どの人物がどんなことを考えているかとか、セリフや状況以外にもいろいろと参考程度に添えられていた。さすがは現役作家の青山さんと言える。

 チノちゃんはリゼちゃんの懇願に、やがておそるおそると言った具合にこくりと小さく頷いた。

 

「私で、よければ」

「本当ですかっ? ありがとうございます! あ……すみません、私としたことが。ついはしゃぎすぎてしまいました」

「……ふふ、オウジさまは変わった人ですね」

「オウジで結構です。その代わり、私もあなたのことをシンデレラと、そう呼ばせていただいても」

「はい、大丈夫です」

 

 ここで簡単なダンスのシーンが入るのだけど、ここは大道具を使わないこの劇の見どころの一つだ。

 以前チノちゃんは学校で創作ダンス発表会をやるためにバレエの練習をしていたことがあるし、リゼちゃんも運動全般は抜群に得意だ。そんな二人のダンスは私たちの視線を釘付けにして離さない。

 思わず見入ってしまっていた私たちに、ふいとリゼちゃんから意味深な視線を向けられる。

 どうしたんだろう? なにかあったのかな……って、あ!

 

「シャロちゃん、シャロちゃんっ」

「ふにゃぁー、リゼせんぱーい……」

「シャーローちゃーんっ、戻ってきて、戻ってきてーっ!」

 

 どこか恍惚とした表情を浮かべていたシャロちゃんの肩を揺すると、途端にはっとしたようにシャロちゃんが目を見開いた。

 

「ど、どどどどうしたのココア。べ、べべ別にリゼ先輩に見惚れてたってわけじゃ」

「そんなことよりシャロちゃん! 私たちセリフはないけど、ここでちょっとした役割があるよっ。ほらここ……シンデレラと王子さまのダンスは人目を惹きつけていて、そこには悔しそうにするシンデレラの姉たちの姿がって」

「あ……あーっ、リゼ先輩に夢中になっててすっかり忘れてたっ。早く準備しないと……!」

 

 シャロちゃんと一緒に少しだけチノちゃんたちに近づくと、二人してできるだけ悔しそうな顔を意識して踊る二人を眺めるようにした。

 

(チノちゃん可愛いなぁ。うぅー、やっぱり王子さまもやってみたかったかも……私もチノちゃんと踊ってみたかったぁ)

(さっきより踊ってるリゼ先輩が近くて……あわぁ、幸せぇー。やっぱりシンデレラやってみたかったなぁ……)

 

(……あの二人、あれじゃ悔しそうっていうより、物欲しそうというかなんというか……餌をおあずけされてる犬みたいだぞ)

(シャロさんはリゼさんと踊ってみたかったみたいですね。私はそこまで主役をやりたかったわけじゃないから、ちょっと申しわけないかも……ココアさんは、まぁ、平常運転です)

 

 あくまでメインは劇だから、ダンスはまもなく終わった。

 王子さまとシンデレラは互いに少し離れ、礼をしようとする。このタイミングで、確か……。

 

「午前〇時ー、午前〇時よー!」

 

 千夜ちゃんがそう叫びながら、その手に持つのはフライパンとおたま。かんっかんっ、とおたまでフライパンを打ち鳴らして、鐘の音が鳴ったことを表現している。ちなみに、あんこはその足元に置かれていた。

 使い魔役のあんこと言い、フライパンとおたまと言い、千夜ちゃんは準備がいいなぁ。私ももっと役に立つものとかいろいろ考えて、持ってきておけばよかったかも。

 

「あっ……すみません! 私、もう行かなくちゃ!」

「え、し、シンデレラっ!? お待ちください!」

 

 王子さまの引き止める声にも振り返らず、シンデレラは走り去っていく。途中までは追いかけることはできても、主役の王子さまが途中でパーティを抜け出すわけにもいかない。

 シンデレラが去った後には王子さまだけが呆然と残された。しばらくして大きく肩を落とし、しかたなくお城の中へ戻っていって、このシーンは終了だ。

 

「二人ともお疲れさまー! 見惚れちゃうくらい華麗なダンスだったよー」

「り、リゼ先輩、お疲れさまですっ。その、すごくかっこよかったです!」

 

 戻ってきたチノちゃんとリゼちゃんに、シャロちゃんと二人して興奮気味に詰め寄る。すぐに千夜ちゃんもそばに寄ってきて、いつも通り五人で話し合い始めた。

 

「あはは、まぁ、ちょくちょく演劇部の手伝いをさせてもらってるからな。こういう役もそこそこやらせてもらってるし、割と慣れてるんだ。チノもお疲れ。いい演技だったよ」

「ありがとうございます。でも、まだまだリゼさんには及びません。私はその、作り笑顔とかそういうのが苦手で、どうしても無表情に近くなってしまうので……私よりも、シャロさんならもっとうまくできたんじゃないかと思います」

「そんな、謙遜することなんてないわよ。チノちゃんはよくやってるわ。チノちゃんは私だったらって言うけど、その……もし私がシンデレラだったら、王子さま役のリゼ先輩が魅力的すぎて演技なんてできてなかっただろうし……」

 

 シャロちゃんはどんどんごにょごにょと言葉が濁っていくような感じだったので、途中から聞き取れずにチノちゃんは首を傾けていた。それでも自分を卑下する必要はない、というシャロちゃんの意思は伝わったのだろう。こくり、とチノちゃんは頷いていた。

 

「……で、千夜はなんで落ち込んでるんだ?」

 

 一言も発さず、どんよりと手元のフライパンとおたまを見下ろしている千夜ちゃんを見かねて、リゼちゃんが声をかける。

 

「だって……誰もこれにつっこんでくれなかったから……」

「そんなことでへこんでたのか……まぁ、本当はツッコミをいれてやりたかったんだけど、ほら。一応千夜以外は演技中だろ? さすがに言うタイミングがなかったんだよ」

「じゃあ、今からでもつっこんでくれる? はい、午前〇時、午前〇時よー!」

「今はもう鳴らさなくていい! ていうか鳴らすな! 急すぎてチノもシャロもココアもびっくりしてるだろ!」

「うふふ、ごめんなさーい」

 

 リゼちゃんとのやり取りで千夜ちゃんはじゅうぶん満足したらしい。いつも通りの調子に戻っていた。

 

「次が最後のシーンだね。最後だけあって全員が登場するよ!」

 

 シンデレラがパーティから帰ってきて、翌日の話だ。脚本によると、シンデレラは魔女が貸した魔法の対価として魂を奪われ……あれ? 今更だけどシンデレラってこんな話だったっけ?

 

「うーん……まぁ、いっか! 細かいことは気にしない気にしない! みんなー、早速始めるよー!」

 

 一通り通してやった後は皆でどこがよかったのか、どこを改善するべきとかを話し合って、個別に練習し直すつもりだ。とりあえず今は全体の流れを掴むために最後までやることが重要、ってリゼちゃんが練習を始める前に言ってた!

 今度は誰が観客に回るでもなく、皆で配置につく。やっぱり最後は皆でやるのが一番だ。脚本がなんだかちょっと違うような気がしたのも、きっと最後は皆でやれるようにという青山さんの気遣いに違いない。

 

「開始三秒前ー。さーん、にーぃ、いーちっ、はじめっ!」

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