「出会い、そして司令官さん」
「施設見学、そして生活の始まり」
「夕食、そして翠の流れ星」
をまとめた修正版です
更に修正していくかもです
ヒトヨンマルマル。午後2時。
私、駆逐艦
場所はとある僻地の鎮守府の執務室。今日、我が鎮守府に着任する司令官さんを、私はその初期艦として執務室で待っていた。我が鎮守府、と言っても私自身今日到着したばかりなのでどこに何があるかすらまともに把握してないけど。因みに執務室を探しだすのに15分かかった。数百人を優に収容できる程の敷地は流石の広さである。
しかし落ち着かない。仕方がないといえば仕方ない。慣れていないのだ、人間の身体で時間を潰すことに。
私は、第一の生涯として第二次世界大戦を駆逐艦という姿で駆け抜けた。そして今の私……この人間の姿は、
加えて外見は「駆逐艦は軍艦の中では最も小さい」という概念に引かれてか十代初頭であり、自分で言うのも何だが子供そのものだ。つまり何が言いたいかというと精神が幼いのである。駆逐艦として海を駆けていた頃とはワケが違う。感情のコントロールなどそう簡単に出来るものではない。
「どんな司令官さんなのでしょう……」
誰に向けて放ったわけでもない独り言は執務室に溶けて消えた。優しい人だったらいいな、とか。怖い人だったら嫌だな、とか。様々な感情が心の中で渦巻く。悶々として、先程から執務室内をふらふらと歩きまわったり、頭を抱えたり、司令官の椅子に座ってその座り心地にもふもふしたり、落ち着きのない事この上ない。
しばらくして……
トントン、と控えめに執務室の戸が二度叩かれた。
「はひゃいっ」
それに対して私は素っ頓狂な声で返事をした。人並み以上のはずの聴覚は執務室に近づいてくる足音を聞き取れなかった。緊張の極みが故である。扉がノックされるまで全く気がついていなかった。
恥ずかしさに顔を赤くしながら、ぱたぱたと駆けてゆき急いで戸を開ける。私は背が低く、執務室の扉の取っ手は少々高い位置にある。私程度の身長の艦娘は他にもいるはずだが、なんとも不親切な設計だ、などと下らない事を考えた。そしてそのノブに手を伸ばす私は、必然的に
満を持して司令官さんとのご対面。のはずだったのだが、しかし……
「む……」
まだ若い、20代前半か、ともすればそれ以下にも見える、とても顔の整ったその男性は小さく声を上げ、そのまま押し黙ってしまった。服装からは司令官さんであることが明らかだが、その首には真っ黒なチョーカーを付けていた。傍から見ればそれは犬猫に付けるような首輪に見えてしまうのだが、そういうファッションなのだろうか。或いは誰かに飼われているのか……いや、それは無いだろう。無いと思いたい。
しばし、無言の時間が過ぎる。先程まで執務室を歩き回りながら司令官さんへの完璧な初対面での挨拶を考えていたはずだった私は、この状況に動揺し挨拶も自己紹介も、何もかもが頭から抜け落ちていた。
「……すまない、君の親御さんはどこかな」
1秒が10分にも感じられる沈黙の後、司令官さんと思しき男性はそんな失礼なことを宣った。……いや、考えてみれば当たり前である。執務室を開けると(正確には私が開けたのだが)、そこにいたのは年端も行かない子供だ。艦娘としてのアイデンティティである艤装を装備していないので見た目こそただの子供以外の何物でもない。一応、服装で分からなくはないはずなのだが……。
「い、電なのです……あの、その、艦娘の……暁型四番艦の……」
散々考えた挨拶はどこへ行ったのやら、頭の中がぐちゃぐちゃになった私はそんな情けない返答をした。尻すぼみに小さくなる声。最後の方は蚊の鳴くほどの声量でしかなかった。果たして聞き取って貰えただろうか。
「君が……そうか。あ、いや、申し訳ない。てっきり……」
対する司令官さんも慌てたのか、そう口ごもりながら謝る。口にこそ出さなかったが、視線から「てっきり誰かの連れ子かと思った」と言おうとしていたことが容易に想像がついた。
しかし司令官さんはすぐさま表情を和らげ、片膝をついて視線を私に合わせた。容姿も相まってまるでそれは騎士のようで、ちょっとだけどきりとする。この歳(艦だった頃も含めて)で面食いなのか私は。
「ええと、私が、この鎮守府の提督となる者だ。よろしく」
そう言って手が差し出された。私もそれに応えおずおずと手を伸ばし、握手をする。大きくて、暖かい手だった。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
不躾にならないようにそっと手を離し、お辞儀をする。顔を上げると、司令官さんがにこりと笑い、お辞儀を返してくれた。
これが、私と司令官さんとの出会いであった。
――― ――― ――― ―――
この鎮守府に来る以前に、横須賀にある大きな鎮守府にて一通りの歴史や基礎知識に関して教育を受けた。
世界は私が約70年眠っている間にまるで変わっていた。人と人との大戦は表面的には終結し、世界は手と手を取り合って前に進もうとしていた。そして日本は戦後素晴らしい発展を遂げ、連合国に食い込まんと成長をし、技術立国として先進国のひとつとなった。日本だけではない。紛争や抗争など小さな戦争こそあれど、広い目で見れば世界に平和が訪れていたように見えたらしい。
そう、
今は、違う。
二年前に突如現れた『
深海棲艦に既存の兵器はほぼ効果がない。艦娘無くして深海棲艦との戦闘は一方的な蹂躙であり、人間だけでは戦う術すら持ち合わせていないと言っても過言ではない。軍部が秘密裏に実戦配備していた『艦娘』(とその建造などを行う妖精さん)の存在がなければ、今こうして人間が存在することすら叶わないとすら推測されていた。
だが、艦娘がいたとしても、その戦力差は歴然であった。鎮守府を増やし艦娘を次々と建造するものの、未だ本拠地の判明しない深海棲艦を破れずにいた。一戦一戦では人間側の勝利の方が圧倒的に多いが、海の底から
私は心配であった。戦いに駆り出される自分の身も心配といえば確かにそうだが、それ以上にこれから先の世界が、である。
仕方ないとはいえ、現状人間側はその戦力の全てを艦娘に頼りきっている状況である。
そしてこのまま戦いを続けても、いつの日か敵の物量に押し潰され敗北する日が来るだけである。現状を打破するためにも艦娘の数を増やさねばならないが、それに必要な資材も既に生産が間に合わず、加えて提督の適正のある人間の発掘にも手間取っていた。最近ではその身分に依らずに適正のある人間なら提督にしているらしい。故にその人材の教育など間に合うはずも無く、無茶な艦娘の運用で鎮守府ごと自滅したり、心身の成熟していない提督が艦娘に手を出して返り討ちにあったり、などといった話も耳に入ってくる。下手すれば人が人の手によって滅ぶ可能性すらあり得る。
そして、この鎮守府はというと。ここは本島、即ち前線からは離れており、比較的平和な場所であると聞いている。つまりそれは大本営からは距離があるということでもあり、何か緊急の問題が起きた時に対処が遅れる可能性は非常に大きい。鎮守府が攻撃されて助けを求めたが応援の到着は鎮守府が更地になった後だった……なんて話があり得ないとも言えない。笑えない冗談だ。
そんなお粗末な最期は勘弁なので、艦娘として精一杯尽力する所存である。
――― ――― ――― ―――
不甲斐ない初対面から数十分後、私は司令官さんを連れて鎮守府を案内していた。
私自身この敷地内にある施設の位置を大して把握していなかったので、私が案内すると言っておきながら実際は二人で鎮守府を散策しているだけに過ぎなかった。
「ここがたぶん
中庭を抜け、ひとつの建物に相対する。ぱっと見は巨大な倉庫にしか見えないが看板を見ると確かに工廠と書いてあった。私はこの鎮守府で建造されたわけではなかったが、建造された鎮守府でその外観を見ていたのでこの建物が工廠であると推測できた。
「工廠というと、もっと機械がそこかしこにあったり人が働いてるものだと思っていたが……」
「艦娘や装備の建造には人は関わってないのです。ですが、妖精さんがいるのです」
話しながら扉を開ける。中には二種類の、やけに丸みを帯びた巨大な装置が鎮座していた。艦娘を建造するものと、装備を建造するものだ。
近づくと、装置の影から数体の小さな生物が姿を表した。肩に乗せられそうなサイズのそれこそが、妖精さんである。見た目は小さな人間であるが、常人では見ることすら出来ないというメルヘンな存在だ。
しゃがんで手を差し出すと一人の妖精さんが手のひらに乗ってきた。殆ど重さを感じないことが、通常の生物ではないことを物語っていた。
「かわいいのです……」
撫でてあげると、気持ちよさそうに目を閉じた。かわいい。
「ほう、これが妖精か」
横では司令官さんも私と同様に妖精さんと戯れていた。
しばらくほのぼのとした時間を過ごし、満足したのか司令官が立ち上がり装置に目を向けた。
「ここに資材を入れればあとは妖精がやってくれるんだったか」
「はいなのです。造れられるものは妖精さんしか分からないとのことです」
「つまりこちらで選べる訳ではないのか。見た限りでは資材の量は調整できるようだが」
「その調整によってある程度は結果が変わるらしいです。いっぱい入れると強い艦娘さんや強い艤装が建造されやすくなると聞いたのです」
「なるほど」
司令官さんが装置に近付き、手を置く。と、それに呼応するように装置が唸り、電源が入った。それを見た妖精さん達が一斉に装置に向かう。
「いや待て、今は建造するつもりはない」
その声に、装置は不服そうに蒸気を小さく吹き出すと、動きを止めた。機械のはずだが、言葉が通じているのだろうか……いや、妖精さんが操作しただけか。
「必要になったらまた来る。それまでのんびりしていてくれ」
「ではまた、なのです」
バイバイと手を振る妖精さん達に別れを告げ、工廠を後にした。
宿舎や談話室がある側の建物を見て回っていると、明らかに場違いな建物を発見した。
基本的にコンクリか金属で構成される建物が多い中、ここだけ木造。そして入り口は木のフレームの、すりガラスが嵌めこまれた引き戸だ。中に入ってみると靴箱があり、靴を脱いで上がるとその奥には分かれ道。そこにはそれぞれ「男」「女」と書かれた暖簾がかかっていた。
そう、銭湯である。つまりここはこの鎮守府の風呂場だろうか。駆逐艦だった頃にこそあれど今は殆ど残っていないらしい事もあり、懐かしい物かと言われればそうなのだが……実際のところ船であった私が陸に上がれる訳もなく中を見たことも無い。つまり感慨など存在しない訳で。
「中も見てみましょうか?」
そんな風に何気なく言ってから気付く。考えるまでもなく私は女で司令官さんは男性であって。「(一緒に)中も見てみましょうか」とも取れる発言は些か失敗であったと慌てて訂正しようとしたが、それよりも先に司令官さんは
「ほう、男用の風呂もあるのか」
と、さっさと男性用の風呂へ進んでいってしまった。なんとも言えない気分になる。慌て損だ。
すっかり忘れていたが、鎮守府の人員は大抵が一人の提督と複数名の(多くて百人を超す)艦娘で構成されている。つまり女性は何十何百人といる一方で男性はただ一人である。その一人のためにわざわざ風呂を作るのは無駄だと考えられて、提督用の風呂が存在しない可能性も十分にありえた。実際には提督用の男湯もあるのでその点では安心(?)である。
しかし考えてみれば、鎮守府は提督一人でその全ての管理をする必要があるが、それは一人に任せるには少々重すぎる負担ではないだろうか。人員不足とは聞いているが、艦娘だけでなく施設や資材の管理までさせるのは如何なものかと思う。適性の如何を鑑みれば致し方がないが、しかしいずれ艦娘が増えてくると身体が足りなくなるだろう。
いや、そのために秘書艦なるものがある。人が足りない故やむを得ず艦娘に提督補佐をさせているのだ。現時点では私がそれに当たる。責任重大だ。
人員不足と言えばだが、この国で軍に属する人間は何万人と存在する。とても人員不足と思える人数ではないが、しかし私は人手が足りないと教えられた。何故そうなるかというと、提督になるには適正が必要になるのだ。先に述べたとおり艦娘の建造などは妖精さんの力添えあってのもので、
話を戻して、私は浴場を覗いてみる。
「わあ、おっきい……」
時間制で代わる代わる入浴するとしても、一日で計百人以上もの艦娘が入れるように設計された風呂場は驚くほど広かった。優に二十人は同時に入れるだろう。明らかに今の私一人だけで使う状態では持て余すが、ちょっとだけ、この広さなら泳いでも大丈夫かな、などと考えてしまった。
ヒトナナマルマル。
全ての施設をまわっただけで既に日が傾き始めていた。二人並んで執務室に戻ると、司令官さんが
「案内ありがとう。今日はもう特にすべき事は無い。あとは自由にしてていいぞ」
と言い、更に、この鎮守府は新規のもので、引き継ぎではない。故に在籍している艦娘は私一人だけなので面倒な手続きやら書類などは殆ど無いし、必要なことはここに来る前に既に全部済ませてあるのだ、と続けた。
加えて
「電、君がいればここを守る程度なら十分だろう。現時点では慌てて艦娘を揃えても無為に資材を減らすだけだ」
とは司令官の弁である。いや待て、と思う。駆逐艦一隻で防衛は流石に難しいだろうし、もう一隻軽量の艦娘を増やす程度なら資材は十分にあったが、どうやらこの人は貯蓄が好きなようだ。或いは資材を貯めて大型艦を建造するつもりだろうか。それまでの間の防衛でも、私だけでは荷が重すぎる話だが……。
と、そのままを考えを伝えたが、司令官さんは柔和な笑みを浮かべるだけで否定も肯定もしなかった。次に資材が送られてきたら流石に建造して貰いたいな、さらに言えばもし建造されるのが
――― ――― ――― ―――
日が完全に落ちて、私は自室で司令官さんに関する書類を読んでいた。
私に関する書類も同様に司令官さんに渡されているはずだけど、読んでくれただろうか。いや、真面目そうな司令官さんなら読んだはずだ。私のベースとなっている駆逐艦「電」のデータだ。私は何度も味方とぶつかって、そう、物理的にごっつんこしてばかりで、もしかしたら司令官さんに笑われてしまったかもしれない。それはちょっと恥ずかしいけど、でも私の駆逐艦としての一生に誇りはあっても恥はない。そう考えている。日本のために必死に頑張ったのだ。
閑話休題。私が今見ているのは司令官さんのデータ。年齢は21歳、身長173cm、体重が……ちょっと軽いかな、なんて。軍人さんと言うともっと筋肉質でごつごつしてるイメージだったが、司令官さんはそれこそ筋肉があるのか心配になるほど細い。言ってしまえば華奢だけど、ちんちくりんな私が言えることではない。更には21歳という点。やはり彼は軍人ではないのだろう。一般人から選定された適性持ちに違いない。言葉遣いも然りである。
そして、司令官さんは白い透き通るような髪と猫のような金色の目をしている。どう見ても日本人ではない。しかしこの書類では生まれも育ちも親も、名前まで全てが日本人となっていた。他の人のデータと間違えているのかとも思ったが、貼られている顔写真は司令官さんのものだった。
さらに見ていって、経歴。そこにはごくごくありがちなことしか書いていなかった。どこで生まれてどのように育ってうんぬんかんぬん。そして提督の適正が見付かって(恐らく半強制的に適正調査を受けさせられたのだと思うけど)提督に任命、と書いてあり従軍経験は無いに等しい。まあ予想通りである。
結局、かかった時間に対して得る情報は特になかった。ただの一般人を紙に書いたような内容に拍子抜けする。と同時に司令官さんが私の服装に気付かなかったことに納得した。知らなければ気付くことも出来ない。
と、ふと鼻が良い匂いに反応する。時計を見る。フタマルマルマル、夜8時をまわっていた。おなかがきゅう、と鳴る。漂ってくる匂いから肉を焼いたのだと推測する。料理しているのは司令官さんだろう。そういえば夕食の事は毛頭考えもしていなかった。手伝うべきだっただろうか。
因みに他の鎮守府では、料理をしてくれたり、甘味を作ってくれる艦娘がいるらしい。勿論うちにはいないので、これから先自分達で用意せねばならないようだ。妖精さんがしてくれると言う話は聞いていない。
「お手伝いしなきゃ……」
書類を机に置いて自室を出る。今回は司令官さんが作ってくれたが、いずれ私も作らなければいけない。しかし、つい先日生まれたばかりの私には包丁を持ったことすらない。料理もできるようにならなければ。洗濯物も自分達でやるのだろうし、掃除も同様。僻地の鎮守府では仕事以外のやることが多いと気付かされた。
食堂の戸を開けると、食欲を刺激する良い匂いが全身を包み込んだ。またおなかが鳴いた。
「今作ってるから、ちょっとだけ待っててくれ」
そう言いながらフライパンを振るう司令官さんは料理人のよう。しかし、よくよく見ると司令官さんの周りを世話しなく走り回る姿がある。妖精さんだった。
「料理始めたらどこからか出てきて手伝ってくれてるんだ」
ぽかんとする私を横目で見ながら司令官さんはそう言った。その手もとでは妖精さんが焼いている肉に塩胡椒を振りかけたり、デザート用のスプーンで味噌汁の味見をしたりしている。ご飯はというと、便利なもので炊飯器が自動で炊いてくれていた。
「何かお手伝いすることありますか?」
「じゃあ、その棚にお皿があるからそれを出してくれ」
頼まれて見てみると、執務室の扉とは違って低い位置に食器棚があった。こちらは駆逐艦のことも考えてくれているらしい。茶碗と汁椀と平皿を二人分出してシンクに入れる。水道やガスなどのライフラインはしっかり通っているようで、蛇口を捻ると透き通った水が流れる。初めて使うであろう皿は念のため水洗いしておく。
「ありがとう、助かる」
司令官さんのその言葉に、心がふわりと暖かくなるのを感じた。これではまるで親の手伝いをして誉められた子供だ。出来上がった料理をさらに盛り付け、卓に並べる。
「「いただきます」」
手を合わせ声を揃える。卓の上では手伝ってくれた妖精さんたちも真似して手を合わせていた。
食べながら、目の前の司令官さんを見る。まるで日本人には見えない司令官さんが当たり前のように日本食を作り、箸を使いこなして食べていることが少しだけ不思議に思えた。すると、私の視線に気づいたのか、
「私は日本人に育てられてね。日本の食事には慣れているんだ」
とだけ話してくれた。書類にあった日本人の親は、司令官さんの育ての親なのだろうと推測された。孤児だろうか。疑問はあったがプライベートな事だ。それ以上踏み込むことはしなかった。
ちなみに妖精さんたちは小さな小さなおにぎりと、繊維状になるまで細かくした肉を頬張って食べていた。
――― ――― ――― ―――
食事の後、風呂に入ろうと思って、そこではたと気づく。私一人しか使わないのに、あの大きな浴場を使うべきなのだろうか、と。要は無駄が多すぎるのだ。水然り、それを沸かすための燃料然り。大戦の頃と違って資源が豊富にあるとはいえ、勿体無いものは勿体無い。無駄遣いはすべきではない。
しかし代替案が浮かばない。部屋にシャワー等は付いていない。結局私だけでは答えは出ず、司令官さんに聞いてみることにした。
「なら男湯を使えば良い」
ちょっとした、例えば「箸が使いにくいです」と聞いたときに「ならスプーンを使えば良い」と答えるような軽さで司令官さんは返事をした。人によっては怒るような返答である。あるいは私が子供だから、一人の女として見られていないのだろうか。……いや、むしろ女として見られていた方が問題か。
ともかく、司令官さんは私を何だと思っているのか。ぷんすこ、と憤慨していると
「言い方が悪かったな、すまない。ここ執務室のみ、忙しい提督用に簡易的なシャワーが付いているんだ。私はそれを使うから君は男湯を使って欲しい。男湯ならひとりふたりが入るのに十分な広さだから問題ないはずだ」
まあ私は忙しくないがな、と笑う司令官さん。確かにそれなら……と受け入れても良かったが、
「そうすると今度は司令官さんがシャワーだけの生活になってしまうのです。それはダメなのです」
司令官さんに負担を強いるために提案したのではない。それでは意味がないのだ。
「いや、問題ない。シャワーだけの生活には慣れている」
せっかくが風呂があるのに入らないのは勿体無いというものだ。しかしそのままを伝えても
ああ、そうか。使うのは男湯であっても、時間をずらして順番に使えばいいのではないか。簡単なことじゃないか。では早速それを提案しよう。
「シャワーじゃなくて、私も一緒に男湯が良いのです」
それを聞いた司令官さんは一瞬目を丸くし、しばらく沈黙した後に何か合点がいったように頷いて、
「分かった。じゃあ行くか……」
と私を連れて風呂に行こうと……
「ちがーうのです!」
先ほどの私の言い方では圧倒的に致命的に言葉が足りなかった。司令官さんは「一人では心細いので二人で一緒に入りたい」と言う何とも子供らしいと言えば子供らしい意味で受け取ったようだ。そうじゃない。
その後私は顔を真っ赤にしながら訂正をし、ようやく事なきを得たのだった。
そんなこんなで、波乱の第一日が終わった。
――― ――― ――― ―――
深夜
トイレへ行きたくなり目を覚ました。部屋を出て、刀のように鋭い三日月の明かりがうっすらと差し込む廊下を歩く。暗いのは若干怖かったが尿意には逆らえないのでおっかなびっくり壁伝いに進む。
と、窓の外から別の光が目に入り、そちらに視線を向けた。海面を一筋の薄く
「流れ星……?」
寝ぼけていた私はぼんやりをそれを見つめるが、それは数秒で地の向こうへ消え去ったので、欠伸を一つしてトイレに向かったのであった。