首輪付きの提督さんなのです   作:久要平生

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もふもふ、そして変身

 

 もふもふがいた。

 

 

 もこもこではない。

 

 扉の開け放たれた執務室で、私、電は固まる。

 

 この鎮守府にまた不思議生物が増えてしまった。

 

 ペンギンは雷ちゃん専用になっているので、この子は私専用に抱枕に出来るのだろうか。

 

 ……じゃなくて。

 

 司令官さんのペットだろう。犬とも猫とも付かない真っ白なもふもふ生物である。耳はあるがしっぽはない。

 

 そして「首輪」が付けられている。

 

 しかし司令官さんがこの可愛い生き物を飼っている素振りはなかったが……。

 

 と、

 

「ペンギンがどこに行ったか、分かるか」

 

 もふもふが喋った。

 

 喋ったのである。それも……司令官さんの声で。

 

 今になって気がついたが、もふもふの隣に司令官さんの服が一式床に散乱している。つまりそういうことなのだろう。ファンタジーもこう目の前に突き付けられると否が応でも受け入れざるを得ない。諦めともいう。自分の存在自体がファンタジーそのものだと言われてしまえばそれまでだが。

 

「見付けたら、至急連れて来てくれ」

 

 げっそりした声音でもふもふがそう言う。

 

 一瞬気が遠くなったが、なんとか

 

「分かったのです……」

 

 とだけ、返事をした。

 

 

――― ――― ――― ―――

 

 話は数分前に遡る。

 

 

「またペン助がどこか行っちゃったわ!」

 

 私(と雷ちゃん)の自室に飛び込んできた雷ちゃんがそう取り乱しながら叫ぶ。

 

 ぺんすけ、とは例のペンギンもどきの名前である。雷ちゃん命名だ。

 

 ペン助がいなくなるのもこれで何度目だろうか。彼女は日に二度は「いなくなった!」と騒いでいる気がする。最早恒例になっている。

 

「またなのですか……今回もどこかのダンボールに入っていると思いますけど」

 

 そう、あのペンギンもどきはダンボールを好む。今まで見つけた時はいずれもダンボールの中である。今回も鎮守府に置いてある空のダンボールのどれかに入っているだろう。

 

 というか、この部屋に空ダンボールを置いておけばそれを巣にするのではなかろうか。恐らくそうだ、適当に見繕って置くことにしよう。

 

 ひとまず今回は今までどおり探しに行こう。

 

「雷ちゃんは工廠とかあっちの方を探してください。私はこっちを探してみるのです」

 

 廊下に出て左右を指差しながらそう指示する。

 

「ありがとう!探してくるね!」

 

 駆け出す雷ちゃん。私も溜息を吐きつつ廊下を歩き出した。

 

 

――― ――― ――― ―――

 

 そして話は冒頭に繋がる。

 

 何がどうなってこうなったのか気になるところではあるが、恐らく聞いても理解は出来ないだろうと初めから高を括っている。

 

 目の前のもふもふ……司令官さんを放置していくわけにも行かないし、司令官さん曰くペン助が何か鍵となることが分かるので、司令官さんを連れて行く事にする。

 

「ちょっと失礼するのです」

 

「ん?おいっ……」

 

 歩いて行くにも足が短く歩行速度に難がありそうなので抱きかかえる。

 

「もふもふ……」

 

 いや、決してもふもふを胸に抱きたいからではない。決して。

 

「……」

 

 私は今、恍惚の表情をしているのだろう。司令官さんの冷めた視線が刺さる。

 

 繰り返すが、もふもふしたいがために抱きかかえたわけではない。

 

 ……たぶん。きっと。

 

 

 

「……あのペンギンに触れたらこうなった」

 

 廊下を歩いていると、ぽつりと司令官さんがそう言った。

 

「また触れたら元に戻るだろうか……」

 

 不安そうな言葉。無理もない、私が同じ状況になったらもっと取り乱しているはずだ。 

 

「きっと、大丈夫なのです」

 

 根拠も何もなかったが、そう励ます。いつもは見た目以上に大人に見える司令官さんも、今は子供のように感じた。抱える腕に少しだけ力を込める。

 

「ありがとう」

 

 温かい気持ちが胸に溢れて、もふもふに顔を埋めた。司令官さんのいい匂いがした。

 

 

 

 入渠ドックに入る。

 

 戦闘をまだしてないので、一度も使ったことがない。

 

 戸を開けた瞬間に、ここにペン助が居ることを確信する。

 

 洗剤のボトルが床に大量に転がっていたからだ。これは風呂やドックの洗浄用で、ダンボールに詰められて置いてあった覚えがある。つまりそのダンボールに入っているのだろう。

 

 入渠ドックは一人ずつ入れる風呂のような形状になっていてそれぞれ個室で四部屋ある。そこに特殊な専用の液体を用いた湯を溜めてそのまま風呂のように使う。高速修復剤は翠色の液体で、その湯に加える事で効果を発揮する。まるで入浴剤である。

 

 そしてこのこ室のどれかにペン助が居るのだろう。

 

 片手で司令官さんを抱きながら、空いた手で手前から開けてゆく。ひとつめ、はずれ。ふたつめ、はずれ。みっつめも、はずれ。

 

 そしてよっつめ。開けると、やはり居た。いつもの様にダンボールに入って、いつもの無表情で、そこに鎮座している。

 

「はぁ、これでやっと……」

 

 ため息をつく司令官さんをペン助に近づける。司令官さんのもふもふした短い手がペン助に触れた。

 

「……」

 

「……」

 

 しかし、何も起きない。

 

「おいおい……」

 

 司令官さんが勘弁してくれよ、と言わんばかりの呆れ声を上げる。私としては正直今のままでももふもふ可愛いので良いのだが……などと無責任なことを考える。当人にとってはたまったものではない。

 

「どうすればいいのでしょう」

 

「私が聞きたいよ」

 

 二人でペン助を前に立ち尽くす。答えを出すにもヒントが少なすぎやしないか。

 

 

「……ん?」

 

 と、そこで司令官さんが何かに気付く。

 

「これ、私が入るのに丁度いいサイズじゃないか?」

 

 何を言い出すのかと思えば、と呆れかけた瞬間に、脳に電撃が走る。

 

 ダンボール、ペンギン、白いもふもふ。

 

 そう、ペン助が生まれた瞬間の状態を再現できそうなのである。サイズもピッタリだ。

 

「まさか……」

 

 疑い半分に司令官さんをダンボールに入れる。

 

 

 

「ペェェェェン!!」

 

 ペン助が一鳴きしたと思ったら、司令官さんが輝きだした。どうでもいいけど、ペン助はその鳴き声で良いのか、もっとクェーとかそんなんじゃないのか。

 

 輝きは激しさを増し、みるみるうちに司令官さんが大きくなり、人の形になる。入りきれなくなったダンボールが破れた。

 

「ふぅ……なんとか戻れた」

 

 光が収まると、そこには見慣れた顔。

 

 なぜ顔と限定したのかというと、先ほど執務室には司令官さんの服が落ちていて、今この場には持ってきていなくて……。

 

「わっ!わわわっ……!」

 

「ん?……うわっ、す、すまん!」

 

 司令官さんが慌てて前を隠す。

 

 顔が熱い。真っ赤になっているだろう事が鏡を見なくても分かる。

 

 意外と筋肉ついてるのです、でもやっぱりすらっとしてて格好良……じゃない!なにぼーっと眺めてるんだ私は。変態か。

 

「すまないが、着るものを持ってきてはくれないか……?」

 

「ひゃいっ!ただ今持ってくるのです!」

 

 人の裸をジロジロ見て、痴女だと思われてなければ良いが……。

 

 

 顔の火照りを誤魔化すために、私は必死に執務室に駆けた。

 

 

 

その後、戻ってきた雷ちゃんが、私と司令官さんの間の空気が若干おかしくなっていた事に首を傾げるのだった。

 




妖精「質量を無視した変身とかおとぎ話かよ」

(提督の)サービス回です
R-15ってどこまでセーフなんだろう
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