マルキュウマルマル
今日の訓練はいつもとは違った。
「雷、もっと周りを見るんだ!相手の手元だけ見てるんじゃない!」
今はいつもの広場で雷ちゃんが司令官さんと組み手をしている。
しかし、司令官さんの指導が平時より何倍も厳しい。眉間にしわを寄せ、目付きも鋭くなっていて、整った顔を歪めている。語気も強く、気圧された雷ちゃんは既に半泣きだ。
先程までは私が訓練を受けていたのだが、雷ちゃん同様に片っ端から動きの悪いところを指摘された。
それでも体罰や叩きのめしたりしていない事が彼の優しさを物語っていた。
「急にどうしちゃったのよ司令官っ!」
「訓練に集中しろ!実戦が近……くそっ」
悪態を吐き、組手を中断し数歩離れる司令官さんの背を雷ちゃんが不安げに目で追う。
実戦が近い。そう、彼は口を滑らせた。
「……雷ちゃん」
「電……」
どうすればいいか分からずおろおろする雷ちゃんの手を握る。
先の司令官さんの言葉、そして今日の異様な雰囲気。
恐らくだが、司令官さんは深海棲艦が近場に現れたという情報を掴み、私達がその相手をしなければいけなくなると予期したのだろう。その為には私達の能力では不足していて、それを焦ってのこの訓練なのだと思う。
しかし、疑問があった。
ひとつ、何故私達で足りていないと分かっていながら新たな艦娘の建造をしていなかったのか。
ひとつ、何故今までの訓練は遠い先での実戦を見越したようなもので、いつ現れるか分からない深海棲艦に備えていなかったのか。
ひとつ、何故司令官さんはそれらの事が分かっていたはずなのに今ここまで焦っているのか
司令官さんが遠い存在に感じた。司令官さんの考えがわからない。彼は何を思い、どうしようとしているのか。
「連絡があるまで自室で待機。英気を養っておくように」
重苦しい言葉だった。まるで別人のような。
私は呆然とする雷ちゃんの手を引き、自室へ向かうのだった。
――― ――― ――― ―――
ヒトヒトマルマル
はたして、その時が来た。
鳴り響くアラートに、体が強張る。
司令官さんの声がスピーカーから発せられ、出撃の命令がくだされる。
「行きましょう……」
「……うん」
先ほどのように雷ちゃんの手を取ると、震えていた。私まで震えそうになって、それを抑えこむように強く握った。
出撃ドックで、司令官さんが待っていた。
「すまなかった」
開口一番、司令官さんは頭を下げた。
「今から出撃する君達よりも私が動揺していたのでは提督失格だ。許してくれ。心を入れ替えてしっかりとサポートすることを約束する」
「司令官さん……」
私は元より怒ってなどいなかった。心配だったのだ。
「頭を上げてください。私達なら大丈夫ですよ。……ね、雷ちゃん」
「……そう、ね。わたし達にかかれば深海棲艦なんて何も怖くはないわ!」
彼女の言葉が虚勢であることは考えるまでもなかった。しかし、その目には確かな強い意志が宿っていた。
「……強いんだな。君達は」
「強くなんてないのです。でも」
「強くなることは出来るわ」
「はは……私はとんだ思い違いをしていたようだ」
そう笑って顔を上げた司令官さんの目にも、暖かな、それでいて揺るぎない意志を感じた。
聞きたいことは山程あった。しかしそれは目の前の脅威を跳ね除けた後のこと。今は余所見をしている時ではない。
「これだけは約束してくれ……生きて帰ってくること」
「もちろん!」
「分かっているのです!」
そして司令官さんが遠距離用通信機器のある執務室に戻り、私達は艤装を装着し海へ出る。
広い、全てを包み込む大海原に。
俺達の戦いはこれからだ!end
ではなく、次回戦闘です。時間かかりそう
コメントありがとうございます 初霜は出ませんが代わりに翠に輝くもふもふをどうぞ