首輪付きの提督さんなのです   作:久要平生

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初戦闘、そして片鱗

 鎮守府を出て約十分。

 

 

 ()と雷ちゃんはだいたい速度30ノット……時速55kmで進み続けたため恐らく鎮守府から10km弱程度の位置だろうか。

 

 艦娘というのは便利なもので、艦であった頃の性能を維持しながら、同時にこの小ささである。つまり駆逐艦の速度やパワー、艤装の威力をそのままぎゅっと凝縮したということで。故にこれだけの速度を出せるうえ、加速や減速は今の体に依存するので迅速。つまり数分とかからずにトップスピードになり、旋回半径は小さく、止まるのも容易。夢の様な話だ。今なら他の艦とぶつかる心配もないだろう。

 

 さらに砲は弾の火力は元のままサイズのみが小さくなっているので、そのエネルギー密度は何倍にも跳ね上がっている。それをもってして深海棲艦にダメージを与えることが出来るようになっている。逆に言えば、現代兵器では純粋な火力が足りず、撃破に至っていない訳で。いずれ強力な兵器が開発されれば艦娘に取って代わる可能性もあるのだ。

 

 

「新たな情報だ。敵は依然南東に向かって進んでいる。予想通りだ。もう数分としないうちに見えてくるだろう」

 

 司令官さんから無線が入る。

 

先のやり取りで冷静さを取り戻したようで、その声は落ち着いたものだ。

 

 司令官さんからの話によると、深海棲艦は大回りして鎮守府に近づいてきているようで、私達はその行く手に先回りするように進んでいる。

 

 

「……電、あれ!」

 

 雷ちゃんの指差す先……二時の方向を見ると、水平線上に小さく複数の点が滑っていた。深海棲艦だろう。

 

「司令官さん、発見したのです」

 

『よし、ではまず敵の数と種類を確認するんだ。もし重巡や戦艦がいたらすぐに退避だ。いいな?』

 

「なのです!」

 

「わたしは後方から接近するわ!」

 

 雷ちゃんが右方に進路を変え、敵の視界外……背後へと移動を開始する。

 

 後ろ姿でも敵艦の種類くらいは分かる。もし駆逐艦や軽巡がメインの構成であれば私との挟み撃ちで勝てるかもしれない。

 

 

 

 果たして、敵は軽巡ヘ級、軽巡ヘ級、駆逐ロ級、駆逐ロ級の四体だった。

 

 しかし太刀打ち出来ないほどの相手ではないとはいえ、こちらは駆逐艦二隻である。数、戦力ともに勝てるようには思えない。元に雷ちゃんが逃げようとの通信がきた。が、

 

「電達は司令官の訓練で鍛えられてるのです!腕試しには悪く無いと思います!」

 

 この時の私は初実戦で浮き足立っていたのかもしれない。それでも、勝ちたいと、勝てると、そう思った。状況は悪く無い。勝機はあるはずだ。

 

『……いけるんだな?』

 

 司令官さんから確認の通信が入る。私はそれに(彼からは見えていないけど)頷いて、

 

「いけます!」

 

 そう応えた。

 

『はぁ……しょうがないわね』

 

 雷ちゃんも渋々といった風に返してくれた。

 

『危険になったらまっすぐに逃げること。いいな?』

 

「はいなのです!」

 

 

 戦闘開始だ。

 

 

――― ――― ――― ―――

 

「……撃ちますっ!」

 

 敵の前方に出て、砲撃を開始する。向こうが気付くかどうかの位置からの攻撃は勿論当たりっこない。

 

 隊列から十数メートル離れた位置に着弾。水柱が立ち、深海棲艦がこちらに気付く。

 

 しかしそれはミスではない。簡単な作戦だ。

 

『全員そっちに向かったわ!』

 

「了解なのです!」

 

 私の役割は陽動。その隙を突いて雷ちゃんが、落としやすい駆逐艦から仕留めるというものだ。

 

 

 軽巡が今更のように索敵機を飛ばす。この状況でその行為に意味は無いと思われるが、潜水艦の存在を危惧でもしているのだろうか。

 

「鬼さんこちら、なのです」

 

 後ろに下がりながら今度はしっかりと狙って撃つ。……外れた。

 

 訓練と実戦では雰囲気から何もかもが違う。練習では容易に当てられるようになっても、やはり本番では中々に難しい。

 

『うぐぐ……中々追いつかない!』

 

「焦らなくていいのです。向こうは戦闘としての移動だからそれほど速度は出ないはず。雷ちゃんの全速なら十分追いつけるのです」

 

『わかった、頑張る!』

 

 通信をしている間に敵との距離が詰まる。

 

 そして、撃ってきた。

 

「くっ……!」

 

 精度こそ低いが、何しろあっちは四体。下手な鉄砲も数撃ちゃなんとやらですぐ横に着弾した。間一髪だ。

 

「もう一度なのです!」

 

 砲撃。……そして、命中。

 

 弾は真っ直ぐに飛び、軽巡ヘ級の胸部に直撃した。倒すことは叶わなかったが、装甲がえぐれ真っ黒のオイル()が飛び散る。

 

 ダメージを負ったヘ級が大きく速度を落とす。他の三体は依然こちらへ向かってきている。

 

『やったわね!』

 

「なのです!雷ちゃんは追撃をお願いします!」

 

『まかせて!』

 

 一体減ったがそれでも一対三。不利であることは変わらない。

 

 しかし私はこの勝負に勝てると確信した。

 

「当てるのです!」

 

 駆逐ロ級を狙い主砲を撃つ。しかし躱された。流石に駆逐艦は速い。加えて小さいので被断面積もまた然り。

 

 やはりロ級を狙っては当てるのは至難の業か。狙いを未だ健在のヘ級に変更する。

 

『硬いわね……!』

 

 雷ちゃんの苦々しい呟きが聞こえる。あっちも戦闘を始めたようだ。

 

 司令官さんからの通信はない。こちらの通信は聞こえているはずなので、戦闘の邪魔にならないようにあえて黙っているのだろう。

 

 

 へ級を狙って打ち続けている刹那、ロ級の砲身がこちらを捉えている事に気づき、横へ素早く動く。直後に数瞬前までいた位置を砲弾が通過した。

 

 敵の主砲の向きまで分かる距離になっていたとは。遂に追いつかれたようだ。

 

 ここからは下がりながらでは戦えない。下がったらただの的だ。

 

「軽巡だけでも落としたかったのですが……仕方ないのです!」

 

 後退から一転、急な前進。敵の照準が一瞬外れるのが分かった。

 

「ここ!」

 

 砲撃。

 

 爆音とともにヘ級の顔面が吹き飛ぶ。装甲が無い部位だからか、一撃で撃ち抜いた。へ級がその場で動きを止め、ゆっくりと沈んでゆく。

 

 これで二対一。

 

『はぁはぁ……よし、倒したわっ……』

 

 雷ちゃんの方も一段落ついたようだ。彼女が合流するまでなんとか対処せねば。

 

「くっ……!」

 

 敵の弾を左右に避け続ける。幸いにして向こうの武装は5inch連装砲のみ。避けられないものではない。

 

 しかし、気を張り続けていたのもあってか、疲れを感じ始めていた。右へ左へ180°逆に動くというのも簡単ではなく、足腰への負担も激しい。

 

「っ、ぐぅっ!!」

 

 敵の砲弾が脇腹を掠めた。直撃ではないが激しい痛みが襲う。傷を見ていなくとも血が溢れてくるのが分かる。

 

 無線から司令官さんと雷ちゃんの心配する声が響く。

 

「まだ……なのです!」

 

 痛みからくの字に曲げた体勢をそのままに、砲撃した。

 

 ロ級のかぱりと開けた口内の砲に当たり、内部から爆散する。

 

「やっと……残り一体なのです……!」

 

 景色がぐにゃりと歪んだ。痛みに慣れてない体が意識をシャットダウンしようとしている。

 

 このまま気絶したら死は免れない。

 

 死が、目の前まで迫っているのを感じた。

 

『退け、電!聞こえないのか!』

 

 司令官さんが叫んでいる。

 

「……ふふ」

 

 思わず、笑いが出た。自分でも何故かは分からない。死の危機に心が壊れたのか、それとも……。

 

「いけます……電になら」

 

 雷ちゃんが追いついてきたのが見えた。しかしまだ、遠い。

 

 なら、私がやるしかない。

 

「うあああああああああああああああっ!!!」

 

 雄叫びを上げ、全速で前進。砲は撃たずに回避に専念する。

 

 敵が慌てているのが分かった。手負いの相手が逃げずに迫ってきたのだから仕方のないことだ。

 

 そう、その隙を突く。

 

「はあぁっ!!!」

 

 敵に接近し、()()()()()()肉薄し、その勢いのまま

 

 

 

 錨を叩き付けた。

 

 

 

 撃たれると思っただろうか。或いはその砲撃を躱せば倒せると思っただろうか。

 

 しかし、悲しいまでにその予想は外れ。

 

 

 敵を捉える衝撃が手に伝わる。装甲がひしゃげ、えぐれ、柔らかい内部(なかみ)に錨が埋まってゆく感触。

 

 錨を振り抜く。錨の()()が内側から装甲を引き剥がし、生暖かい内部組織()オイル()が体に振りかかる。

 

 敵が崩れ落ち、沈んでゆく。

 

 

 

「……やったのです」

 

 

 勝った。

 

 そう頭が理解した途端に全身から力が抜け、視界が霞んだ。

 

 意識を手放す寸前に、雷ちゃんが近寄ってくる。

 

 

 

 しかしその顔に安堵の色はなく、恐怖に歪んでいたように見えた。

 




遅れてすいません
この程度のグロなら大丈夫かな?
戦闘描写難しいですねやっぱ
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