首輪付きの提督さんなのです   作:久要平生

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後悔

『応急処置完了したわ。……このまま帰投するね』

 

 雷との通信が切れ、俺は大きく息を吐いた。

 

 確かに彼女たちは怪我こそしたが沈みはせずに深海棲艦を倒した。

 

 それは喜ばしいことだ。

 

 事実として、訓練したかいがあった。もし鍛えなければ今頃沈んでいただろう。それは間違いじゃなかったはずだ。

 

 

 

 しかし、彼女たちを海に出した事は間違いであった。

 

 

 

『いけます……電になら』

 

 

 彼女は命令を無視した。

 

 だがそれは勝てると思ったからではない。

 

 

『……ふふ』

 

 

 それは、死と生の狭間に置かれた快感に思わず漏れた笑い。

 

 憶測が確信へと変わる。

 

「彼女は危険だ……」

 

 

 駆逐艦、電。彼女は……

 

「分裂した少女、か……」

 

 普段の心優しい電と、戦いに飢え死に生を見出す電。

 

 前者が表で、後者が裏。そのどちらも偽であり、と同時に両方共が真である。

 

 

 

 幼い彼女はその狭間で揺れ、いずれ壊れるだろう。

 

 そしてその裏表のどちらかが崩れ……残るのは表か、裏か。

 

 

 

―――今更、どうにもならん……遅すぎたんだ、私も、お前も。そして何もかもが―――

 

 

 それはかつてどこかで聞いた諦めの言葉。

 

 

―――それがお前の決断なら、私は付いていこう。だが、最早叶うものではないんだ―――

 

 

 それはかつてどこかで堕ちた男とそのオペレーターの最後。

 

 

―――答えはどこにあるんだろうな……まあ、今となっては過ぎた話か―――

 

 

 それはかつてどこかで朽ちた世界。

 

 

―――お前と共にいられて、良かったよ……―――

 

 

 それは……

 

 

 

 

「っ!」

 

 意識が覚醒する。

 

 手に残る鈍い痛み。

 

 ここは、司令室。そうだ、俺は二人の帰りを待っていて、それで……

 

 

 目の焦点が合う。手を見ると、無線機が砕け、破片が手に突き刺さっていた。

 

 握り潰したのだろう。

 

「クソっ……」

 

 溜息を吐きながら手から金属片を取り除く。

 

 数十秒もしない内に血が止まり、傷が塞がった。

 

「備品に換えの無線機あったかな……」

 

 残骸を放る。血だまりに落ち、びちゃりと嫌な音を立てた。

 

 迎えに行くか……。

 

 

――― ――― ――― ―――

 

 出撃ドックで待っていると、電を抱えた雷が帰ってきた。

 

「帰投したわ」

 

「おかえり。二人に万一の事がなくて良かった」

 

 雷から、未だ意識の戻らない電を受け取る。

 

 と、電を渡した雷が二歩下がった。

 

 ……雷も気付いたか。

 

 彼女は電の怪我を怖がって下がったのではない。《電を》怖がって下がった。

 

 見たのだろう。電が戦う様を。笑みを零しながら敵を倒す(殺す)姿を。

 

「怪我はないか」

 

「うん……わたしは被弾は無いわ」

 

「そうか、ではゆっくり休むと良い。風呂を使えるようにしてあるから入ってもいいぞ」

 

「わかったわ」

 

 二人の艤装を外し、雷と別れ、俺は電を抱えて入渠ドックへ向かった。

 

 

――― ――― ――― ―――

 

 電の服を脱がせ入渠ドックに横たえる。

 

 薄い翠の湯に浸かった傷口がゆっくりと治癒していく。

 

 戸を閉め、外へ出る。

 

 

 

 今回、彼女達が出撃することになった原因は、俺だ。

 

 話は数日前に遡る。

 

 

 毎晩出撃していた俺は、ある問題に直面していた。

 

 それは、所持武装の残弾である。

 

 機体そのものは、今まで一切の被弾がなかったため大したダメージはない。だが、武装の弾は有限である。ある程度節約しつつ戦ってはいたが、限界が来ていた。

 

 遂にその日の出撃で、とうとう全ての弾が尽きた。

 

 そして、肉弾戦で無理矢理敵を倒し帰還した俺を待っていたのは……妖精だった。

 

 ドックへ戻り機体から降りた俺の前に妖精が姿を表したのだ。どこから入りこんだのか分からなかったが、次の瞬間そんなことはどうでもよくなった。

 

 妖精が、どうやったのか、ドックのクレーンを稼働させた。

 

 それだけなら驚きはしない。問題はそのクレーンが運んでいたものだ。

 

 

 クレーンに吊られて現れたのは、武装だった。それも、ネクスト用の。俺が装備していない武装。

 

 マシンガン(03-MOTORCOBRA)散弾バズーカ(GAN02-NSS-WBS)ミサイル(VERMILLION01)レーザーキャノン(EC-O300)

 

 次々と運ばれてくる武装は俺がかつて愛用していたもの。どこでそれを知ったのかも不明。どうやって作ったのかも不明。全てが分からなかった。

 

 しかし、手のひらの上でサムズアップする妖精は「俺に任せろ」とでも言っているようで、何故かそれを信頼していいと思った。彼らは純粋に俺の役に立とうとしているだけだと感じた。

 

 礼を言って、愛機に積み込んだ。俺の誰にも知られることのない危機が去ったのだった。

 

 因みに翌日、殆どすっからかんになった資材を見てひっくり返る事になる。電から隠し通すのに苦労した。

 

 

 

 これだけなら、何も問題はなかった。問題は昨日の晩のこと。

 

 

 いつものように、深夜二人が寝静まってからドックに向かうと、そこはもぬけの殻だった。

 

 機体もない。武装もない。弾薬も、何もかもが無くなっていた。

 

 遂に大本営にばれたか、とハッチの稼働ログを見たが、何の痕跡もない。ということは、ドックから持ち出されてはいないはずだ。管理システムはこの世界の技術ではない。容易にハッキングは出来ない。

 

 とすると妖精の仕業か、と工廠へ行くも、妖精は首を横に振るだけ。

 

 最早、手詰まりだった。

 

 10mを超す巨体はそう簡単に無くしようもない。昼間にも特に異常はなかったはずだ。

 

 はず、というのは、その日ペンギンに触れてよく分からない生物になってドタバタしていたから注意が逸れていたため、確証がないのだ。しかしネクストを運び出そうとすれば流石に気付く。

 

 

 結局、その晩は海に出ることが出来ず、今日に至る。

 

 毎晩何体もの……時に二桁の深海棲艦が生まれている。それらが昼に侵攻してくることは容易に想像がついた。

 

 

 

 そして今日。俺の今までの苦労は水の泡と消え、二人が出撃することになったのだった。

 

 今でもネクストは行方不明のままだ。

 

 恐らく明日も、早くて今晩にでも敵が来てしまう。その時俺は、二人を守り切れる自信がない。

 

「どうすりゃいいんだ……」

 

 新しい人員を増やそうにも、資材が足りない。八方塞がりだ。

 

 頭痛がする。

 

「クソっ……」

 

 何度目かも分からない悪態を吐き、壁にもたれ掛かっていると

 

 

 

「司令官さん……そこにいるのですか?」

 

 電が目を覚まし、声をかけてきた。

 




闇堕ち電ちゃんは巷でプラズマなんて呼ばれてたりしますね
それはともかく、提督さんはどのルートの首輪付きなんでしょうね
なお、詳しくは言いませんが彼はacfaのストーリー終了後すぐに艦これ世界に来たわけではありません
そこのところをご了承ください
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