首輪付きの提督さんなのです   作:久要平生

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記憶、そして私の中の他人

『沈んだ敵も、出来れば助けたいのです…』

 

 誰の言葉だ。

 

『戦争には勝ちたいけど、命は助けたいって…おかしいですか?』

 

 ……なんだ、()じゃないか。

 

 確かに、そんな考え方をしていたような気がする。だがそれは、いつの話だ?

 

 

 

<お前、(ぬる)すぎる>

 

 ……これは、誰だ。

 

<結局は殺すしかないのさ>

 

 記憶にない。覚えがない。

 

<オレは、お前だ>

 

 違う。私じゃない。

 

<直に判る。いや……既に判っているだろう?>

 

 違う!

 

<ま、信じたくなければそれでいい。現実は非情だがな>

 

 私は……誰だ?

 

 

 

 フラッシュバックする。

 

 深海棲艦()が自分の手によってモノになる瞬間。

 

 心にどろりと流れこむどす黒い衝動。暗い快感。

 

「私は……何だ」

 

 答えは、無い。

 

 

 誰も、答えない。

 

 

 

――― ――― ――― ―――

 

 目を覚ます。

 

 心地良い、温もり。

 

 ここは……あぁ、入渠ドックか。傷を直していたのだろう。

 

 腹部を見る。怪我は既に直っている。傷跡すら残っていない。

 

「……」

 

 体を動かすと、水面に波紋が広がる。

 

 さっきのは、夢だったのだろうか。

 

 私の中の誰か。

 

 暗緑色の誰か。

 

 

 

「クソっ……」

 

 声がした。司令官だ。

 

「司令官さん……そこにいるのですか?」

 

 壁一枚隔てて、声をかける。

 

 私は、いつも通りの声を出せていただろうか。

 

「おはよう。具合はどうだ」

 

「問題ないのです」

 

「そうか、良かった」

 

 良かった、と言う声は言葉に反して酷く沈んでいた。

 

「では、私は戻る。今日はもう休め。新しい服はここに置いてある」

 

「分かりました」

 

 司令官がドックを出てゆく扉の音。

 

 立ち上がる。痛みは残っていない。

 

 水を滴らせながら、しかし拭くのも億劫で。

 

 しばらく、その場で呆けていた。

 

 

――― ――― ――― ―――

 

 自室に戻る。

 

 戸を開けると、ベッドで蹲っていた雷がびくっと体を震わせた。

 

 声をかけず、自分のベッドに横になる。

 

 静寂。しかしそれは心地の良いものではない。

 

 全てを忘れて眠りたかった。しかし、先程まで寝ていたので、眠気もない。

 

 

 

 しばらくそうしていると、雷が起き上がった。

 

 寝たふりをする。

 

 と、彼女は私のベッドの脇に立った。

 

「……起きてる?」

 

 無視する。今の私は寝ているということにしておく。

 

 少しして、雷が私のベッドに腰掛けた。ベッドが沈み、小さく軋む。

 

「わたし、どうすればいいんだろう……」

 

「ねえ、電……」

 

「あなたは……どうしたい?」

 

 ぽつり、ぽつりと紡がれる言葉。

 

「怖いの、あなたが。おかしいわよね、自分の妹なのに……」

 

「でも、あの時のあなたの目は、わたしの知らない人みたいだった」

 

「あなたは、電……よね?」

 

「ねえ……電だと言ってよ」

 

「じゃないとわたし、あなたとどう接すればいいか分からなくなりそうで……」

 

「……怖いの」

 

 次第に、彼女の言葉に嗚咽が混じり始める。

 

「わたしが、弱いからだめなのかな……」

 

「強くなれば、それでいいのかな……」

 

「分からないの……」

 

 それきり、彼女は何も発さない。

 

 啜り泣く声だけが聞こえる。

 

 

 静かに、体を起こす。

 

「電、起きてたの……」

 

 返事はしない。

 

 ただ、そっと、彼女を抱きしめた。

 

「電……」

 

 ぎゅっと、抱きしめ返されて。

 

 雷が、声を上げて泣き出す。

 

 彼女は泣き虫だ。

 

 

 でも私も……泣き虫だ。

 

 

 

 二人でわんわん泣きながら、抱き合った。

 

 この場には、歳相応の少女だけがあった。

 

 ダンボールに入ったペン助が不思議そうにこちらを見ていた。

 

 

 

 

 

 しばらくして、涙も枯れて、雷は私の手の中で眠った。

 

 彼女をベッドに横たえて、私も一緒に眠った。

 

 無かった事には出来ない。

 

 でも、その場に立ち止まっていては先に進めない。

 

 

 首輪を付けねばならない。私の中のケモノに。

 




話を急ぎすぎている感は否めないですね。どうにも難しいものです。
しばらくこんな暗い雰囲気が続く……かも。日常に戻れるのはいつになることやら。

そしてコメント等ありがとうございます。
気に入っていただける物語になるかはわかりませんが、精一杯努力していきます。
あー語彙力欲しい
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