首輪付きの提督さんなのです   作:久要平生

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飛翔、そして確認飛行物体

 ()は、必死に海上を滑っていた。

 

 頭が真っ白になって、心がぐちゃぐちゃになって。

 

 泣きながら、それでも我武者羅に進んでいた。

 

 

 また、失うのだろうか。

 

 また、離れ離れになるのだろうか。

 

 嫌だ。

 

 ……嫌だ!

 

 でも、私は今、急ぐことしか出来ない。

 

 もどかしさで、気が狂いそうになる。

 

 

 戦場に神様なんて居ないけど、今は何にでも縋りたい。

 

「誰か、助けて……」

 

「雷ちゃんを、助けて……!」

 

 

 

 声は届かない。

 

 返事は無い。

 

 聞こえるのは、波の音と艤装の駆動音、そして後方から迫る甲高い音だけ。

 

 

 ……甲高い音?

 

 

 

 振り返る。しかし、そこには何も……

 

 

 いや、遠くに小さな光の点がある。その光が動いて……近づいてくる!

 

「何なのです!?」

 

 

 光はものすごい勢いで迫り、

 

 そして、一瞬で私を追い抜いて行った。

 

 遅れて、衝撃波のような風と轟音。

 

 思わず耳を塞ぐ。風圧で転びそうになるのを踏ん張って耐えた。

 

 

「今のは、いったい……」

 

 

 呆けている場合ではない。急がねば……!

 

 

 前を向き直す。今は雷ちゃんを助けることだけを考えるんだ。

 

 

 

――― ――― ――― ―――

 

 

 その後、数分としないで、煙の上がる場所の近くまでたどり着いた。

 

 

 水面に広がる黒い染みとあちこちから立ち昇る煙が、戦闘の激しさを物語っている。

 

 炎と煙で視界が悪く、状況がよく分からない。

 

 

 近づいてゆくと、深海棲艦が何かと戦っているのが見えた。

 

 見た限りでは、敵は三体だけのようだった。

 

 ということは、他の三体は戦っている相手が既に倒したのだろうか。

 

 

 まだ生きている敵は、空中に向かって砲撃を繰り返している。目を凝らすと空を何かが飛び回っていた。艦載機だろうか。しかし、それは凄まじい速さとあり得ない挙動で目で捉えきれない程の動きをしている。

 

 他の鎮守府から援軍が来たのか?にしては、敵以外の人影はない。

 

 

「……雷ちゃん!」

 

 少し離れた位置に、雷を発見した。

 

 仰向けで、水面に浮かんでいる。まだ沈んではない。

 

「雷ちゃん!」

 

 戦闘は一先ず置いておいて、雷に滑り寄る。

 

「っ、酷い……」

 

 ボロ雑巾でも、もっと綺麗だろう。そう思えるほどの有様だった。

 

 辛うじて息こそあるが、全身傷だらけで、腹には穴が開いていた。波で洗い流しきれない程に血が溢れて、真っ赤だ。人間ならとっくに死んでいるに違いない。

 

「ど、どうしよう……」

 

 高速修復剤を持ってくれば良かったと後悔した。この怪我では布で縛ったところで血は止まりはしない。

 

 

 

「電、後ろだ!」

 

 その叫びに、咄嗟に体が動いた。

 

 雷ちゃんを抱えて横に動く。

 

 爆音と水飛沫。間一髪だった。

 

 

 生き残っていた軽巡が撃ってきたのだ。

 

 慌てて主砲を構えるが、私が撃つより先に、目の前のそれが蜂の巣になった。

 

 言葉の通り、穴だらけになったのだ。

 

 そして、声もなく沈んでゆく。

 

 

 見上げると、おもちゃのような銃を構えた、首輪付きのもふもふが宙に浮いていた。

 

 艦載機でも、ましてや艦娘ですらない。

 

「まさか、司令官さん……!?」

 

「そのまさかだ。最後の一体を倒す。流れ弾が行かないか見張っていてくれ」

 

「は、はいなのです!」

 

 敵を見ると、確かに残りは一体だけだった。雷を見ている間に一体倒していたのだろう。

 

 そして、ここに着いた時に三体になっていたということは、他の三体を倒したのも恐らく司令官。

 

 

「あなたは、何者なのですか……?」

 

 目で追うのがやっとの速度で空を駆ける姿をみて、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 十秒程で、勝負が付いた。

 

 最後まで残っていた重巡が海面に倒れ、司令官が戻ってくる。

 

 

「雷の様子はどうだ」

 

「この怪我では、鎮守府までもつか分かりません……」

 

「……そうか」

 

 今もなお、雷ちゃんの腹部から血が流れ続けている。

 

 

「電、ちょっと下がっていろ」

 

 そう、司令官が言った。

 

「えっ、何なのです?」

 

「近くにいると危ないかもしれん。距離を取れ」

 

「はっ、はい」

 

 何をするつもりなのか、とりあえず言われた通りに離れる。

 

 

 

 と、司令官が翠に輝き始めた……いや、司令官が翠に光る何かを纏ったようにも見える。

 

「これは勘だが……」

 

「何をするのですか?」

 

「高速修復剤だ」

 

「……えっ」

 

 確かに、色は高速修復剤のそれだ。だが、これは……。

 

 

 司令官が雷に近づき、そっと傷に触れる。

 

 すると、司令官の翠の光に反応するように雷の傷がぼんやりと光り始めた。

 

 腹部の傷とそれ以外の数多の傷と、全てが光っている。

 

 数秒とせずに、変化に気付く。

 

 それらの傷が、治ってゆくのだ。

 

 この位置からではよく見えないが、明らかに傷が癒えているのが分かる。

 

 あの光は本当に高速修復剤なのだろうか。信じられないが、目の前でそれが起きている以上受け入れざるを得ない。

 

 

 しばらくして、司令官が雷の元を離れた。

 

 近寄って見ると、雷の出血は止まっていた。

 

「……やはりというか何というか」

 

 何か独り言を言う司令官。

 

「今、何を……?」

 

「戻りながら話す。とりあえず雷を担いでくれ。帰るぞ」

 

 

 

 言われたとおり、雷を抱き上げ鎮守府に向けて滑りだす。

 

 すぐ上を司令官が着いて来る。

 

 その周りに、翠の光は無くなっていた。

 

 

 そして司令官が語り始める。

 

 私の知らない世界の話を。

 




高速修復剤が翠ってのはかなり前の話で一言だけ出してたんですが
まあ覚えてる人は居ないわな 伏線にすらなってない伏線でしたとさ

次回「昔話をしてあげる」
司令官の過去に一体何が?……って話はまた今度ですかね
要は未定です またみてね
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