「遠いどこかの話だ」
鎮守府に戻る途中、
「あるロボットが造られた。人型で人間が直接乗って戦うロボット。それはネクストと呼ばれた」
「そしてそれは、世界を壊すほど危険なものだった。ネクストは敵を滅ぼし、平和を滅ぼし、国を滅ぼした。かつて30にも満たないネクストが、国という形を壊した。俺が赤ん坊だった頃の話だ」
私は迷った。淡々と語る司令官の話す内容が荒唐無稽過ぎて、それを受け入れるべきか、端から信じずにいるべきか。
そもそも、そんな兵器が開発されて実戦投入されれば確実に取り沙汰されている筈であり、国が解体されたなんて話も存在しない。
「それから色々あって、俺は、ネクストに乗ることになった。パイロットとして。
そして、ネクストで、人類衰退の片棒を担いだ。俺は、滅ぼすつもりは無かったんだ。むしろ救おうとしていた。だが……、いや、どうこう言っても言い訳に過ぎないな。やめておこう。
結局のところ、人類を破滅に導いた一人だった。最終的な結末は知らないが……あのまま行けば確実に人類は緩やかに壊死するだろう」
そこまで言って、司令官が溜息を吐いた。しかしその風貌はもふもふ。表情も変化することはない。それがとても無機質なものに見えて、不気味とすら感じた。
「俺は、人殺しなんてものではない。人類という種を殺した人間だ」
驚きはあった。だがそれ以上に理解が追い付かない。しかし、それ以前にもっと身近な疑問を持った。
「……俺?」
そう疑問符を口に出した途端、司令官はきょとんとして、そして笑った。
「ははは。なるほど、姉妹だな」
「?」
「いや、なんでもない。俺が自分を『私』と呼んでたのは格好付けというか、提督なんて役職なんで多少は偉そうに見せようと思ってな……まあ、大した理由はない」
そう言って頬を掻く司令官。顔を覗き込むと目を逸らされた。恥ずかしがっての行動だろうか、いや、この反応は……
「それは嘘です。本当の理由が別にあるのです」
「ぐっ!……何故分かった」
当たった。半ば鎌掛けだったが。しかし何故と聞かれてもなんとなく、としか答えられない。適当に返答しよう。
「女のカンなのです」
フッ、と余裕ぶってそう言うと、
「その歳で何を言ってるんだ」
との返し。子供扱いとは失礼な。
「これでも80歳は超えてるのです」
「そうかい。……まあ、理由を言うと、俺にはかつてパートナーがいてな。パートナーで、親のような人だ。俺はその人を真似て、いや、模倣しようとしていたんだ。……その結果がこんなのだが」
「ほえー……」
司令官は、懐かしむような、思い出を噛みしめるような、暖かい声色で話していた。きっと、それは素晴らしい記憶なのだろう。
「パートナー……」
大人だなぁ、とぼんやり考えた。「パートナー」という響きがとても大人びて聞こえた。
「なんでこんな話までしてるんだ俺は……」
一方で司令官は何故か肩を落としていた。
「それで、先ほどの翠の光は何だったのです?」
中々核心に踏み込まない司令官に代わって私が切り込むと、司令官は顔を引き締めた。見た目上は何も変わってはいないが。
「今からする話は、恐らく誰も知るべきではない事だ。現状では妖精のテクノロジーとして解明されてはいないが、いずれ人類がその存在を見出す時は来るだろう。しかしそれでも、出来る事なら発見されないようにすべき事だ」
「つまり他言無用、なのです?」
「そうだ。まあさっきの話も全て外部に漏らして欲しくないが」
「大丈夫なのです。決して話しはしません」
「ありがとう。では翠の光の事だが……
そうだな。あれは、向こうでは『コジマ粒子』と呼ばれていた。コジマ粒子こそが、ネクストのネクスト足り得るものであり、コジマ技術によりネクストは生まれた。
詳しくはコジマ物質やら何やらと細かい部分があるがそれは省く。要はこのコジマ粒子は魔法の粉でな。おかげで既存の兵器では太刀打ちが出来ない程になった」
なるほど、確かに先ほどの司令官の戦闘を見る限りでは物理法則を無視したとしか思えないような動きであった。あれがコジマ粒子の効果か。……いや、
「待って欲しいのです。では今の司令官が空を飛んだり武器を出して攻撃したりしているのはそのネクストという物とは関係があるのですか?」
「……それについては俺が聞きたいくらいだ。何故この姿になったのかも何故戦えているのかも何もかもが不明だ。それこそ今飛んでいる事自体が不思議でしかない」
「えぇ……」
「まあともかくだ。そのコジマ粒子が凄いって話だ。さらに、この粒子は艦娘にとって高速修復材と同じ効果があるようだ」
そのことに関しては先程目の前で見せてもらった通りだろう。
「では高速修復材は……」
「あぁ、形状こそ違えどコジマ粒子が含まれている」
「知っていたのですか?その事を……」
「いや、知らなかった。あー……知らないというよりかは、確証が無かったと言うべきか、試したことがなかったと言うべきか……。ともかく、実際に使ったのはあれが初めてだ」
「そうなのですか……」
考えてみれば素晴らしい話である。無茶苦茶な動きが出来るようになる上に傷も修復されるのだ。つまりその魔法の粉は本当に魔法のような粉で。艦娘にその技術を応用すれば擬似的に不死の戦士が誕生するのだ。
「それは駄目だ」
しかしその意見は一蹴された。
「コジマ粒子には致命的な副作用がある。これは核と同等かそれ以上の危険性があるんだ。液体に溶解することで失活化し危険性がある程度失われるが、それでもゼロにはならん上、万が一にでも陸上でばら撒かれた際にはその一帯が死の砂漠と化す」
なるほど、それでネクストは『世界を壊すほど危険な』兵器なのだろう。
そして
「ところで、司令官さんはそのロボットを今でも所持しているのですか?」
「それなんだが……先日紛失した。紛失というにはでかすぎるが」
「なくしたのですか!?」
「なくしたというか、なくなったというか……」
なくなったって、まさか盗まれたんじゃ……。
「かも知れんな。上が勝手に持って行った可能性もあるし、或いは深海棲艦に鹵獲された可能性もある。だがその形跡が全く無くてな……誰の仕業かすら掴めないんじゃ追うことも出来ず手詰まりになってる」
証拠を一切残さずに人が乗り込めるサイズの物を盗み出す事は可能なのだろうか。ともかく深海棲艦にそれが渡れば現状押されている戦況が一気に取り返しの付かないことになる。だが人間側に持って行かれたのだとしてもそれは世界の終末のきっかけになってしまう。
「盗んだのがどちらでも面倒な事になりそうなのです。司令官さん、なくなった日に、何かおかしな事はありませんでしたか?鍵が空いてたとか、物音がしたとかなんでもいいので」
「あぁ、あの日は……そうだな、
……ん?
「どうした、変な顔をして」
レディに向かって変な顔とは失礼な。しかし今はそんな些末な事に突っ込んでいる時ではない。
「……たぶん、それ、盗まれてないのです」
「は?何故そう思う」
「だって今、司令官さん、そのロボットと同じ武器を使って、同じ粒子を出して、同じように飛んでいるのです」
「……あっ」
つまり、司令官のそのロボット……ネクスト、ではなく、
なんだそのファンタジーは。
しかし考えるまでもなく元々ファンタジーだらけだった。
なら問題ないか。
……問題ないか?
――― ――― ――― ―――
「司令官さんは、
鎮守府に無事帰り着いて、出撃ドック。雷を横たえ、その艤装を解除しながら司令官にそう問うた。
「どう、とは?」
「人類はこのままでは滅ぶのです。それを受け入れるのか、或いは抗うのか……どちらを選びますか?」
質問に司令官は一瞬目を見開き、すぐに破顔し言った。少しだけ寂しそうな声で。
「君達を守るのが今の俺の役目だ。世界は、そうだな……この腕が届くなら救いたい、かな」
そう伸ばされたその腕は、私の手のひら2つ分程度でしかなかった。
大層遅れましたすいません
あれも書かなきゃこれも書かなきゃとしているうちに最初の方に考えてた事を忘れる鳥頭
メモだいじですねウン
一段落です次から二章みたいな感じで、はい