マルロクマルマル
私、電はのどかな小鳥のさえずりに目を覚ます。うーんと背伸びをしてからベッドから降り、窓を開ける。どこまでも青く広がる空と海が一日の始まりを告げていた。
服を着替えて、髪を整える。背中までかかるほど長い後ろ髪を持ち上げ、頭の後ろでとめる。左利きの私は右手で髪を掴むのだが、手が小さいのかどんくさいのか、いつも一度に後ろ髪を全て掴むことができない。その結果、左半分の髪をとめることが出来ずアシンメトリーな髪型になってしまっていた。
5人横並びになっても余裕があるような幅広い廊下を歩いて行く。コツコツと無機質な音が靴から響く。数分もしないうちに執務室に着き、戸を叩く。
「おはようございます、司令官さん」
「おはよう。入ってきてくれ」
背伸びしながら戸を開ける。司令官さんは執務机で何かの書類に書き込んでいた。
「ん、まだ六時か……電、明日から起床時間は八時で良い」
軍の人間はマルロクマルマルに起きるように決められている。はずだが、司令官さんはこう言った。
「艦娘とはいえ、君の歳格好を考える限りでは六時起床は早すぎる。九時起床にしてもいいが、どちらが良いかな」
私はむっとした。子供扱いされていることに。
「六時起床で大丈夫なのです」
私の表情に気付いたのか、司令官さんが「しくったな……」と小さく呟く。
「言い方が悪かった、すまない。では……そうだな、七時で良いだろうか」
七時なら……と、首肯し、明日からの起床時間が決定された。
――― ――― ――― ―――
「朝食前に少々訓練をしよう」
最後の書類に判を捺して脇にどけ、司令官さんがそう告げる。
「ここに来る前にどの程度の訓練を受けたんだ?」
私は司令官さんが着任する以前に「初期艦養成所」なる場所である程度の知識を得ていた。講義をしてくれたのは空母の艦娘さんだった。
「座学は受けたのです。あと基礎的な動きも教えてもらいました」
「実戦は?」
「いえ、まだなのです」
「じゃあ、的当てからやるか」
「はい!」
埠頭に設けられた出撃ドックで艤装を装着する。無骨な金属の塊を背に固定すると、体の奥の方で何かが繋がった感覚がして、艤装の砲塔が動かせるようになる。
「ふわぁ……」
全身に力が漲る。肉体強化の効果があるらしく、体重の何倍もあるはずの艤装に振り回されず、軽やかに動ける。水に足をつけると、沈むことなく水面で反発された。頭の中で水面を滑る様をイメージすると、足元から推力が生まれ前に進み始める。
ドックを出て訓練場へ向かう。水面を進む程度なら訓練を受けていたので問題はない。陸を見ると堤防から司令官さんが見ていた。
『ではまず、目標に当ててみてくれ』
胸に付けた無線機から司令官さんの声が聞こえる。
約50m先の水面に浮くブイに立てられた的を見る。
「はい!命中させちゃいます!」
威勢よく返事をして、左脚を引いて右肩を突き出し、砲撃体勢を取る。私の神経や意識にリンクして右肩の12.7cm連装砲(訓練用)が向きを変える。
一秒、二秒……大きく息を吸って体に力を入れる。
「発射なのです!」
空気を震わせる爆音とともに弾丸が撃ち出された。
衝撃で僅かに後ろに滑る。耳にびりびり響く轟音で一瞬視界がホワイトアウトする。
しかし発射された弾丸は的の横1mの位置を通り過ぎ、数百メートル沖に水柱が立った。外れだ。
「当たらなかったのです……」
悔しさに思わずため息が出る。
『いきなり当てろとは言ってないさ。その内当てられるようになれば良い』
司令官さんから慰めの言葉がかかる。
『もう一度だ』
「はい!今度こそ!」
的をキッと睨み、再度砲撃体勢を取った。
「主砲、発射なのです!」
――― ――― ――― ―――
『いい時間だな。ここらで切り上げよう』
私は肩で息をしながら、脱力する。
あの後10発以上撃ったが、一度しか命中しなかった。しかしそれも的の端をかする程度。発射の衝撃でひっくり返ってしまうこともあった。
『誰だって初めから百発百中するはずがない。とりあえず朝食にしよう』
私はうなだれながら、出撃ドックへ向かった。
ドックを出ると、司令官さんが待ってくれていた。
「悔しいのは分かる。俺だってそういう時期があったさ」
「司令官さんも同じ経験が……?」
「まあ、な。撃っても撃っても避けられてかすりもしない。向こうのは一方的に当たるのにな」
軍の頃の話だろうか。模擬弾での訓練での話かな。
「朝食が終わったらまた訓練をしよう。私も手伝う」
そう言うと食堂に向かい歩き始める司令官さん。
「はい……」
私は力なく返事をして、司令官さんの後に続いた。
今回は短くてすいません
砲やらの知識が無いもので調べながら書いてたらめちゃ時間かかりました
出撃ドックって表現で大丈夫かしら……