首輪付きの提督さんなのです   作:久要平生

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刺客?

 

「司令官、監査の要請が来ているのです」

 

 

 先の戦闘から数日後、そう電から告げられた。

 監査、と言うと今までのこの鎮守府での資産運用についに目を付けられたのだろうか。もふもふ状態になってからは特別資材を使う必要は無くなった為浪費はされておらず、現状電と雷の消費する分を除いて完全に溜め込んでいる現状である故、怪しまれるとすればそれ以前の事だろうか。

 

「いや、それよりも駆逐艦二隻しか保有していない事ではないのですか?」

 

 あ、そっちか。

 

「つい先日、お隣の本島近くの鎮守府が戦艦空母と数々の艦娘を保有していたのに壊滅したので、駆逐艦しか持ってないとかいう巫山戯(ふざけ)た戦力のここが睨まれない筈もないのです」

 

「つっても、俺はこれ以上増やす気はないぞ? 前に言った通り」

 

「『手が届く範囲』ですか? 文字通り腕が二本しかないから二隻まで、ってのは流石に安直といいますか……まあいいのですが」

 

 ……言うようになったな此奴め。

 

「取り敢えず、承知の連絡を入れといてくれ。言い訳は俺が考える」

 

「了解なのです」

 

 はぁ、と溜め息を吐きつつペンを弄ぶ。

 

 

 基本的に鎮守府の運営はその場の提督に放任されている。と言うのも全て人手不足で、規則で縛り付けて提督が辞めるのを恐れての事であり、余程の事がなければ好き放題が許されているのが実情である。

 辺境と言うことでこの鎮守府は言ってしまえば本島に向く敵戦力を分散させるための弾除けに過ぎず、寧ろ過剰な戦力を持てぬように送られてくる資材も鎮守府防衛が出来る最低限である。故に駆逐艦だけでも文句は言われないだろうと高を括っていたのだが……それも対深海棲艦戦争以来初の鎮守府壊滅によって話が変わったのだろう。

 

「いや、二隻では弾除けにもならないのです」

 

 ……言ってくれるな。

 

 

 兎も角、現状やることはひとつである。

 

 

 

「鎮守府大掃除だ!」

 

 

 

 

――― ――― ――― ―――

 

 

 更に数日。Xデーが来た。

 

「本日は宜しくお願いするであります!」

 

 ドドドドと地響きを立てる大型バイクに跨って来た査察官は、小柄で色白な女性であった。正門で待っていた俺はそのギャップに一瞬たじろいだが、ちらと横を見ると雷は目を輝かせていた。

 

「雷ちゃんは大人な女性に憧れているのです。まあ確かにあれはハードボイルド感あって少々かっこいいかもなのですね」

 

「電は憧れないのか?」

 

「私は陸を走るより空を飛びたい願望の方が幾分か強いのです」

 

「俺みたいに?」

 

「……そうですね」

 

 なんだその間は。姿はどうであれ飛んでるんだぞ。姿はどうであれ。

 

 

「……あの、自分はどうすれば」

 

「おっと失礼。とりあえず中へどうぞ」

 

 

 

 

 まるで使ったことのない応接間へ通そうとしたところ「執務室で大丈夫であります」とのことで、壁までピカピカの執務室へ案内する。

 

「おぉ、綺麗に使ってるのでありますな」

 

「はは、そうですね」

 

 実際は違うが適当に相槌を打っておく。しかし、

 

「三人で隅々まで掃除したから新品同様よ!」

 

「そ、そうでありますか……」

 

 うーん、雷ちゃんは少々天然な部分があるようだ。

 この鎮守府を使っているのは我々三人(と妖精)のみ。殆どの部屋が使っていない為掃除する範囲はたかが知れていた訳で、ここ執務室の掃除には特に気合が入ってしまった。雷はその頑張りを評価して欲しかったようだが、まあ結果はお察しである。

 

「さて、今更になりましたが私がこの鎮守府の提督です。階級は三等海佐、宜しくお願いします」

 

「失礼、自分も名乗り忘れていたであります。自分は三等海尉であります。以後よろしくお願いする」

 

「私は暁型駆逐艦四番艦、電です」

 

「暁型駆逐艦三番艦、雷よ!かみなりじゃなくていかずち、よろしく頼むわね」

 

「お二方は存じているであります。横須賀の鎮守府にも暁型は揃っていたでありますからね」

 

 そう、艦娘はこの世に唯一無二ではない。同一の艦娘が複数存在する。更に言えば鎮守府毎に一人ずつどころか、ひとつの鎮守府に同じ艦娘が複数建造されることもある。やはり人間と違うということだろうか、生まれ方が独特故の現象かと思う。

 

 

 

「早速本題に入らせて頂くでありますが」

 

 備え付けのソファに座った査察官が口火を切る。いや口を開くと掛けた冗談ではなくて。

 

「冗談にしてはわかりにくいのです」

 

 悪かったな。

 

「早速本題に入らせて頂くでありますが……」

 

「これは失礼、どうも監査などというものは初めてで緊張していまして」

 

「そうは見えないのであります……兎も角、自分が派遣された理由はもうお察しのことでありましょうが、この鎮守府での艦娘運用状態の件であります」

 

 まあ、そうだろうな。予想通りすぎて反応に困る。

 

「それについては特に言い訳を持ちません。本鎮守府の戦力は今この部屋に揃っているだけで全てです」

 

「話が早くて助かる。それでは戦力の増強を……」

 

「ですが」

 

 話を遮る。と、査察官の眼がすっと鋭くなる。今まで会話していた時のような人懐っこい印象から一変、研磨されたナイフの切先を思わせる表情に雷が息を呑む。

 

「……大本営からの要請を拒否する、と?」

 

「えぇ」

 

 急に剣呑になった場に雷がおどおどする一方で、電はどこ吹く風でにこやかな表情を崩さない。それは俺も同様で、初めからこうなることは分かっていた以上驚きもせねば物怖じもしない。

 

「その自信はどこから? 既に知っているのでありましょうが、つい数日前にここからそう遠くない鎮守府が深海棲艦の襲撃によって壊滅したばかりであります。昨今は深海棲艦も知能を付け統率が取れてきているらしく、舐めてかかると身を滅ぼすでありますよ」

 

「全て承知の上です。私にはこの二人が居れば十分ですので」

 

 今の言葉は事実の上では嘘だ。この鎮守府での戦闘力のメインは俺自身で、二人はそのサポートに過ぎない。

 一方で、気持ち的には嘘ではないと言える。俺は二人を信頼しているし、更に研鑽を積むことで二人だけでも十分な戦力足り得ると信じている。

 

「では、僭越ながら条件を出させて頂くであります」

 

 今度は電が表情を険しくする。小声で「緊張しなくていい。予想通りだ」と伝えるがこちらを訝しげに見てきた。

 

「そんなに身構えなくても大丈夫でありますよ。ちょっとだけ、実力を確認させて頂くだけでありますから」

 

「……実力、なのです?」

 

「えぇ。条件は簡単なものでありますから。自分と……」

 

 

 そこまで言うと査察官は立ち上がり、次の瞬間淡い碧色の光の渦に包まれた。

 

 

 

「特殊船丙型、あきつ丸と戦って頂くであります」

 

 光が消えたそこには、全身を艤装で包まれた一人の艦娘が居た。

 

「艦娘……!?」

 

 雷が驚愕に思わず声を漏らす。それを聞いた査察官、改めあきつ丸はにんまりと嬉しそうに笑い、声高々に告げる。

 

「えぇ、自分は実は艦娘だったのでありますよ!」

 

「そんな……!」

 

「ふははは、驚き慄くが良いであります!」

 

 楽しげなあきつ丸と心底驚いた様子の雷との会話を聞き流しつつ、俺は電に顔を寄せ小声で話しかける。

 

「……電、お前あれ気付かなかったか?」

 

「いえ、来た瞬間から分かっていたのです」

 

「だよな……」

 

 寧ろ、来る前から派遣されるのは艦娘であろうと考えていたくらいであって、今更艦娘だと告げられた所で何も驚きはしない。

 

「そんなことよりも、寧ろ懸念は別のことなのです」

 

「あ、あぁ。そうだったな……」

 

 雷の良いリアクションに気を取られてしまったが、問題はそこではない。

 

「今の艤装の展開……あんな物が出来るようになったのか」

 

 当たり前だがあきつ丸は嵩張る艤装をえっちらおっちら運んできていた訳ではなかったし、そもそもそんな重量のあるものは艤装展開状態でなければ持ち運べる筈もない。

 

「……ん? 重量?」

 

 何か引っかかるものがある、と不意にそう零したが、俺より先に電が気付く。

 

 

「……! あきつ丸さん! 床が抜けるのです!」

 

 

 

「……あっ、であります」

 

 

 時既に遅し。派手な音を立ててあきつ丸の姿が消えた。

 

 

 

 

 

――― ――― ――― ―――

 

 

「申し訳ないのであります!」

 

 十数分後、執務室には艤装を解いて土下座するあきつ丸の姿があった。

 ブチ抜けた床には応急的に資材庫にあった板をあてがっている。

 

「誠に申し訳ないのであります! 本当に本当に……」

 

 放って置いたら一日中謝っていそうな様子のあきつ丸の顔を上げさせ、気にしないようにと告げる。しかしそんな気遣いは気休めに過ぎず、先程までの凛々しい雰囲気が嘘であるように縮こまってしまっていて何とも不憫だ。

 これには憧れに目をらんらんと輝かせていた雷も思うところがあったらしく、今は言葉では表現しにくい表情をしている。それがまたあきつ丸の惨めさを加速させているようで、彼女は今にも泣きそうである。

 

「ま、まぁ、床板の修復程度なら大した問題ではないので……気にしないで欲しいのです」

 

「しっ、しかし……」

 

 確かに、床の修繕は面倒ではあるが仕方ないと割り切れる。深刻なのはそこではない。

 今から彼女と模擬戦をする訳だが、彼女にその精神力が微塵も残っていないことの方が大問題である。まあ、上手い具合に「自分の不手際で迷惑をかけたのでこの鎮守府は不問にするであります」とでもなってくれれば楽なのだが。

 

 しかし現実はそうは問屋が卸さない。厄介事はさらなる厄介事をもたらすことになるのである。

 

 

「……決めたのであります」

 

 

 瞳の奥に闘志を燃やし、顔を上げたあきつ丸は告げる。

 

 

「自分は、この鎮守府で罪滅ぼしをするのであります!!」

 

 

 

 勘弁してくれ。

 

 そんな言葉は口には出せる筈もなく。降って湧いた面倒事がどろどろと胃で消化不良を起こすのだった。

 




 提督が三等海佐(少佐)だという設定は完全に後付です
 現実の、現在の海上自衛官の階級一覧とにらめっこし、そちらに詳しい友人の助力を得て決めさせて頂きました
 おかしい点がございましたら感想にお願いします
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