首輪付きの提督さんなのです   作:久要平生

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基礎訓練、そしてアクロバット

 朝食はパンとソーセージにレタス、そして牛乳の簡素なものだった。

 

 パンは食パンの上にマヨネーズで四角く堤防を作ってその中に玉子を落とし、オーブンで焼いたもの。司令官さん曰く「簡単に高タンパクで良い」らしい。おいしかった。

 

 

 食後の休憩と称して、堤防脇の広場で基礎的な訓練をすることになった。訓練と言っても砲撃の際の姿勢などの動きの少ないものをするらしい。

 

「まず、先ほどの君の動きを見ていて分かったことだが」

 

 司令官さん自ら教えてくれている。

 

「砲撃の時もそうだったが、基本的に重心が高い」

 

「重心……ですか?」

 

「そうだ。わかりやすい方法がある。その場で足を肩幅に広げて立ってみてくれ」

 

「はい」

 

 「安め」の姿勢を取る。と、司令官さんが近づいて、

 

「いきなりですまないが」

 

 私をどん、と突き飛ばした。

 

「ふにゃあっ!?」

 

 押された力こそ軽いものだったが、私はそのまま後ろへ倒れそうになる。

 

 しかし司令官さんが私の背に手を回し、受け止めてくれた。

 

「はわわ……」

 

「驚かせてすまなかった」

 

「だ、大丈夫なのです」

 

 倒れそうになったことよりも背に回されたおおきな手に、恥ずかしいのか何なのかよく分からないが、心がもにょもにょする。

 

「では、次にさっきの姿勢から膝を曲げてまっすぐ腰を落として」

 

 私を再び立たせた司令官さんが指示をする。言われた通りにすると、

 

「今度は不意打ちとはいかないが」

 

 と言いながらまた私を、今度はさっきよりも強く押した。警戒していたとはいえ倒れないように踏ん張る。一歩後ろに下がりながら、しかし耐えることができた。

 

「これが重心を下げるということだ。低ければ低いほど良い……といっても限度はある」

 

 なるほど。確かに朝の私は腰を落としたりせずにそのまま撃っていた。それで衝撃に耐えられずに転んでしまったのだろう。

 

「衝撃に耐えるというのもそうだが、重心が低いほうが砲撃も安定するだろうな」

 

「すごいのです!」

 

「よし、では続いて……」

 

 司令官さんの講義は続く。

 

 

――― ――― ――― ―――

 

 一時間ほど様々な事を教わった後、艤装を付けた。しかし場所は海ではなく先ほどの広場だ。

 

「資料で読んだが、艤装というものは神経リンクされているらしいな」

 

「なのです。操作は心の中で思い浮かべるだけなのです」

 

 艦娘の艤装は手元で何か操作する訳ではない。頭の中で命じることで敵を狙ったり撃ったりする。空母の人は飛ばした艦載機とも繋がっていて、艦載機から見える光景を見ることができるらしい。

 

「なら話は早い」

 

 と何か納得した様子で司令官さんが私に何かを差し出す。受け取るとそれはライトとビニールテープだった。

 

「それを主砲の上にくっつけてくれ。できるだけ砲と向きがずれないようにな」

 

 言われたままに主砲の先にテープでとめる。スイッチを入れると赤いレーザーライトが十数メートル先の建物の壁に赤い点を映し出した。

 

「ではそれを私に当てて」

 

 司令官さんに主砲を向けるのは少々気が引けるが、言われた通りに方の向きを変え司令官さんにライトを当てる。目に当てると危ないかもしれないと胸のあたりに留める。

 

「今から私は動き回る。その場で私から外れないように砲を動かしてそのライトを当て続けるんだ」

 

 なるほど砲のコントロールの訓練をするのだということが分かった。しかし司令官さん自ら的になるとは……。

 

 そんな事を考えていた私は、次の瞬間驚きの声を上げることになる。

 

「いくぞ」

 

 の言葉と同時に司令官さんがすさまじい速度で駆け出した。明らかにアスリート顔負けの速さである。

 

 慌てて砲を操作するが、司令官さんを補足し続けるのは難しい。右を向き過ぎたり、あるいは左にずれたり。

 

 ある程度行ったところで、司令官さんが切り返して再び走る。

 

「縦方向の動きも加えるぞ!」

 

 そう言って司令官さんは広場の垣根を跳び越す。更には壁を蹴って跳ね上がったり、街灯を掴んで宙返りしたりと細身の体型からは考えられない動きを繰り返す。

 

 砲を動かして狙い続けるだけなのに、ここまで難しいのか。意識を集中しているうちに、私はじっとりと汗をかいていた。

 

 しばらくして、司令官さんが戻ってくる。だが息は上がっておらず、汗一つない。まるで今まで椅子に座っていただけとでもいうかの如くである。

 

「どうだ、意外と難しいだろう」

 

「はい、難しいのです……」

 

 司令官さんの身体能力は驚愕以外の何物でもなかったが、目下の問題は私である。

 

「聞くが、狙うときに『もっと右、いや左だ』みたいに考えていただろう?」

 

「そ、その通りなのです。なんで分かったのですか?」

 

「私が昔そうだったからな」

 

「昔……?」

 

「いや、そうだな。同じような経験があるだけだ」

 

 司令官さんは過去に艦娘だったことでもあるのだろうか。

 

「答えは単純だ。電、私を目で追えたか?」

 

「はい、目で追うことなら出来たのですが……」

 

 流石に目で追えないほどの動きではない。そんな動きをされたら司令官さんが人間であることを疑う。

 

「なら、簡単な話だ。目も艤装も神経で脳とつながっているんだ」

 

「あっ……なるほど」

 

「そうだ。やることは同じ。目で追うように艤装でもすればいい」

 

 厳格に言えば艤装に目はついていないがな、と続ける司令官さん。

 

「でも、そのポインターが目の代わりだ。と考えれば……」

 

「同じように出来そうなのです!」

 

「ああ、それには時間はかかるだろうがな。毎日繰り返せばその内無意識に出来るようになる」

 

 にっこりと笑う司令官さんだが、その目はどこか遠く……まるで昔の記憶を思い起こしているようだった。

 




ノーロックモード縛りでのスミちゃんとの訓練の賜物である

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