首輪付きの提督さんなのです   作:久要平生

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警報、そして飴玉

 ヒトゴマルマル

 

 私、電が司令官さんと執務室で事務仕事をしていると、執務机の上のアラートが鳴った。

 

 10km程沖に浮かべてあるブイのセンサーが移動する物体を感知したらしい。

 

 この鎮守府は僻地にありあまり深海棲艦との戦闘は無いらしかったが、とはいえゼロではない。海が続く限り深海棲艦が出現する可能性はある。早いか遅いかの違いでしかない。

 

「も、もう実戦なのですか……」

 

 緊張する私を他所に司令官さんは涼しい顔で

 

「大丈夫だ。慌てるのは仕方ないが出来る限り平常心を保て」

 

 と諭した。確かに無駄に体に力が入っていると思わぬミスをするかもしれない。私はその場で大きく深呼吸をする。

 

「とりあえず電は出撃ドックで艤装のチェックをしていてくれ。私はセンサーの情報を確認してくる」

 

 そう言って司令官さんが執務室から出て行く。私もそれに続いて執務室を後にした。

 

 

――― ――― ――― ―――

 

 出撃ドックで艤装に問題がないか確認する。主砲よし、魚雷よし。

 

 装備してみても訓練用と同じ感触だが、しかし込められているのは実弾である。思わず手が震えそうになるのをなんとか抑えこむ。

 

 と、小さく何かの駆動音が外から聞こえた。次いで何か別の音がして、その音は遠ざかってゆくように小さくなり、消える。再び無音が訪れる。聞こえるのは波の音だけ。

 

 一瞬の出来事に驚きながら、ドックから顔を出し海を見る。しかし何もない。

 

「何だったのでしょうか……」

 

 疑問に思いながらも、艤装の点検を再開した。

 

 

 数分して、司令官さんが来た。その表情はやはり落ち着いている。私とは大違いである。

 

「準備はいいか?」

 

「問題ないのです」

 

「よし。状況は逐一無線してくれ」

 

「はいなのです!駆逐艦電、出撃します!」

 

 

――― ――― ――― ―――

 

 結論から言うと、該当位置には空のドラム缶が浮いているだけであった。それがレーダーに写っていたのだと思われた。拍子抜けである。私の覚悟や意気込みは無駄になってしまった。

 

「ドラム缶と深海棲艦を間違えるなんて……」

 

 艤装を外しながら愚痴る。

 

「レーダーも万能ではない。こんなこともあるさ」

 

 飄々と言ってのける司令官さんはまるで初めから全て分かっていたようにすら見えた。本当にこれを予想していたのだとしたらとんでもない人である。

 

「まだ実戦をするには力不足であることは否めない。むしろ敵じゃなくて良かったよ」

 

 その通りだった。やる気こそあったが、私にはそれに匹敵する力量がまだないのだ。戦ったとして勝てるとは限らない。

 

「では、引き続き執務室でお仕事だ。先に行ってる」

 

「はいなのです」

 

 いつか勝てるようになりたい。いや、勝てるようにならねばいけない。深海棲艦に勝って、平和を取り戻すのだ。

 

 意気込みと決意を胸に、取り敢えずは事務仕事を処理するために執務室へと足を向けた。

 

 

――― ――― ――― ―――

 

 フタヒトマルマル

 

 ベッドを整えていると、部屋がノックされた。返事をすると、司令官さんから

 

「星を見に行かないか」

 

 扉越しにお誘いを受けた。

 

 断る理由もないので司令官さんに連れられて中庭に出る。見上げると空いっぱいに星が輝いていた。

 

「わぁ、綺麗なのです」

 

 海辺の道には街灯があるが、中庭は星を邪魔する明かりは特にない。今にも落ちてきそうな星々は手を伸ばせば届くかも知れないと錯覚させるほどで。

 

 無意識に、手を伸ばしていた。

 

 もちろん、届かないことなど分かっている。それでも……。

 

 隣の司令官さんが笑ったような気がした。優しく、慈しむように。

 

 挙げた手に何かが触れた。咄嗟に握り込む。一瞬、ほんの一瞬だけ、星をつかめたかと思った。手を広げてみるとそこには小さな飴があった。司令官さんの仕業だろう。

 

 袋から取り出して口に頬張る。あまい。

 

「昔話をしよう」

 

 不意に司令官さんが切り出した。そちらに顔を向けるが、背の低い私からでは司令官さんの表情は見えない。

 

「ある青年がいた。名をダン……いや、何かのヒーローから名前を借りていると言っていた。彼はヒーローになろうとしていた。あの世界のヒーローに。

 

 しかし彼は不器用な男でな、こう言ってはなんだが、頭も良くはなかった。よく相談されたよ。「俺には向いてないのかな」と。彼は心こそヒーローだったが、何分若くてな。実力も不足していたし気も弱かった。

 

 しかしまあ……彼はそれで良かったんだ」

 

 そこで一区切りをつけ、星を見上げる司令官さん。

 

「気負うのもわかる。大きな目標も大事だ。だが、それが大きすぎた時、人は小さなものが見えなくなる。電、君は強くなる、まだ先の話だが……。しかし早いうちに言っておこうと思ってな。それだけだ」

 

 静かな時間が過ぎてゆく。私は司令官さんの言った事の真意を掴みかねていた。焦る私を諌めてくれたのだろうか、それとも力の及ばない私を叱責したのだろうか。

 

 結局答えは出ないまま、

 

「時間をとってすまなかった。明日は七時起床だ。おやすみ」

 

 司令官さんは戻っていってしまった。

 

「ヒーロー……かぁ」

 

 そう独り呟いて、口の中で飴玉を転がした。

 




モロさんて公式で何歳か判明してましたっけ?
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