首輪付きの提督さんなのです   作:久要平生

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肉体言語、そしてスト

 晴れた午後、私は司令官さんと中庭にいた。

 

「今日は肉弾戦の訓練をする」

 

 そう告げる司令官さんに私は疑問で返す。

 

「艦娘で肉弾戦なのですか?」

 

 当たり前の質問だ。砲を撃ちあう艦娘に殴りあいの機会はほぼないはずだ。そう伝えると

 

「逆に聞くが、弾が切れた時や砲に被弾して撃てなくなった時どうする?」

 

 その時は素直に逃げ帰るしか無いだろう。拳を武器に突っ込んでゆく気概など流石に持ちあわせてはいない。

 

「確かに逃げることは大事だ。無茶はいけない。ただ、敵が後一体だけだった時はどうだろうか。あるいは引くことも出来ないような状況にあったら」

 

「確かにその時は必要になるかもしれませんが……」

 

「それにさっき「ほぼない」と君は言った。可能性がゼロではないことは君自身分かっている」

 

 そう言われると痛い。戦場に絶対が存在しないことくらいは理解しているつもりだ。

 

「なら訓練だけでもして損はない」

 

 既に私の気持ちは揺らいでしまった。なら訓練すべきだと腹をくくる。

 

「分かりました。お願いします」

 

「よし、じゃあ……」

 

 

 

 私は今、艤装に括りつけられた錨を取り外し手に持っている。幸いなのか災いなのか、私は肉弾戦に向いている武器を所持していたのだった。

 

 そして対峙するは生身の司令官さん。如何に身体能力の優れた司令官さんとはいえこれはいかがなものかと思う。間違って錨が当たってしまえはその瞬間私は一生消えることのない後悔と共に余生を過ごすことになる。たまったものではない。

 

「さあ、いつでも来い」

 

 両手を広げて私に微笑みかける司令官さん。私の心情などお構いなしである。

 

「どうした、艦娘様は貧弱な人間ごときに手を挙げる必要もないとでも言うのか?」

 

 安い挑発だ。頭では分かっていても少しムッとする。本当に攻撃しても良いのだろうか、いや、司令官さん自らやれと言っているのだ。少しばかり痛い目を見ればいまやろうとしていることがどれほど馬鹿げているか分かるはずだ。絶対に怪我の無い程の軽い力で一発当ててしまえば終わり。いつもの射撃訓練に戻れる。

 

 そう、思っていた私の目利き力の無さを数秒後理解することになる。

 

「じゃあ……気乗りはしませんが……いくのです!」

 

 一歩踏み込んで下段に構えた錨を振り上げる。勿論精一杯加減して。

 

「やっ!」

 

 しかし錨は空を切る。司令官さんが一歩下がったのだ。

 

 勢いのままに錨を振り上げ、前に出ながら振り下ろす。今度は避けられないように肉薄しながらだ。

 

 

「まあ、分かっていたことだが……」

 

 小さく司令官さんが呟いたのを聞いた次の瞬間、私は地面に大の字に寝転がっていた。

 

「えっ……」

 

 理由は簡単で、私の錨を司令官さんが上から押して無理やり速度を付け、更に錨に振り回された私の無防備な足を払っただけだった。完全に姿勢を崩した私はそのまま倒れたのだ。

 

 

「言っておくが、手加減はするな」

 

 司令官さんが私を見下ろして言う。

 

「といっても、君は優しいからな……どうしたものか」

 

 私の手を掴んで引き起こしてくれる。今の私は艤装の重さもあって100kgは下回らないはずだが……。

 

「もう一度だ。私が十分だと思うまでこの訓練は続くと思え」

 

 

 溜息が出た。この人は本気だ。

 

「分かったのです……ではこれなら!」

 

 今度は左手一本で錨を振るう。普通の人では両手ですら持つことも叶わぬだろうが、私は艦娘だ。

 

 急な攻撃でも司令官さんは予期していたかの如き動きでそれを避ける。

 

 しかしそれは予想の範疇にすぎない。錨の攻撃の隙を補うように右手で掌底を繰り出す。

 

「まだだ、まだ遅い」

 

 その右手首を捕まれ、司令官さんの拳が打ち出され私の顔数mmで寸止めされる。今回も私の負け。

 

 

「今度こそ!」

 

 司令官さんが私の手首を放した瞬間に右肘を突き出す。

 

 それを手でいなされたがその場で回転し後ろに回していた錨で殴りかかる。

 

「動きは良いが後ろに目はついていないぞ」

 

 と再び足を払われた。見えない位置からの攻撃に対応できず倒れこむ私が地面にぶつかる前に、そっと抱きとめてくれる。悔しさからか顔が赤くなるのを感じる。

 

「もう一度。もっと相手をよく見るんだ」

 

 姿勢を立て直した息を整えた私が再度跳びかかる。

 

 

 

 艦娘にあるまじき訓練は日が傾くまで続いた。

 

 

――― ――― ――― ―――

 

「司令官さんはあのような訓練をいつもしていたのですか?」

 

 夕食の席で尋ねると、司令官さんは懐かしむように頷いた。

 

「自分の肉体もマトモに扱えぬ奴にネク……戦いが出来るか、といつも言われていた」

 

 何か言いかけたに聞こえたのが気になったが、要はスパルタな教官だったのだろうか。

 

「まあ、それも必要なくなってしまったがな……」

 

 言いながら自分の手首を掴む司令官さん。確かに鎮守府で提督にその機会はない。戦うのは艦娘だ。

 

「そう、戦うのは君達艦娘だ。だから、何が何でも生き延びるために力が必要なんだ」

 

 その目はとても力強かった。そして同時に優しいものであった。

 

 

 

 食事を終え、二人で皿を洗う。司令官さんが洗い、私が拭いて棚に戻す。

 

 拭き終わった平皿を戻そうとして、腹筋に痛みが走り皿を取り落としてしまった。

 

「おっと」

 

 しかしそれが床に落ちることはなく、司令官さんが空中で掴む。流れるようでいて無駄のない素早い動きに驚く。私なら確実に掴めずに割っていた。

 

「筋肉痛か?若いと早いな」

 

 笑いながら司令官さんが皿をシンクに入れる。洗剤の付いている手で掴んだからすすぎ直すのだろう。

 

「ありがとう、なのです」

 

「問題ない。拭くのも私がやっておく。先に風呂に入るといい」

 

 艦娘は風呂に入ると怪我が治る。艦娘が筋肉痛になるのかは不明だが……これも恐らく怪我同様良くなるだろう。

 

 感謝を込めて頭を下げ、食堂を後にした。

 




次の話あたりで艦娘が増える予定です
それ以降増やすつもりは今のところありませんが……気分次第で変わるかも

コメントありがとうございます とても励みになります
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