「司令官さん、建造をしましょう」
ヒトサンマルマル、私はついに進言する。
今まで資材不足で一切の建造をしていなかったが、今日やっと資材の補給が届いた。ついでに追加の食料も。
考えてみれば毎日戦闘する可能性もあるにも関わらずこの補給頻度はおかしいが、事実今まで深海棲艦は確認すらされていない。平和そのものである。そう考えると上の人間の判断は間違っていないのかも知れないが、かと言って納得もできない。
ともかく建造である。今まで散々渋っていた司令官さんだったが、資材に余裕ができたため断る理由もないはずだ。
「建造か……」
嫌々、という表情を隠そうともしない司令官さん。とは言え流石に駆逐艦ひとりだけでは限界が来る。鎮守府に攻めこまれてはひとたまりもない。建造してもらわなくては困るのは私達二人共である。
「ここまで言われてしまえばもう逃げられないか……折れたよ。工廠へ行こう」
諦めムードな司令官さんと工廠に入ると「やっと出番か」と妖精さんが寄ってくる。今まで放置したことを侘び、装置を操作し投入する資材量を指定する。パネルに出た表示を見ると30:30:30:30となっている。投入できる資材の最低限量だ。
「では、建造開始なのです。妖精さん、お願いします」
妖精さんがそれに応えるように腕に力こぶを作って見せ、装置の中に入ってゆく。パネルを押すと、画面に「20:00」と表示され、カウントダウンが始まった。20分で建造が完了するのだろう。
「……ん?」
司令官さんの声に振り返る。妖精さんが司令官さんの服の裾を引っ張っていた。見ると指をさしている。その先には艦娘建造用とは別の装置。装備開発用のものだ。つまり装備も作れということだろうか。
「まあ、装備なら良いか……」
渋々といった風に司令官さんがパネルを操作する。資材の数値は初期状態のまま。
「何が出るかな……っと」
司令官さん、実は楽しんでる……?
「そ、そんなことはないぞ」
初めて動揺する姿を見た。貴重な光景だ。
チーン
まるでレンジ、というかレンジそのままな音が響いて装備開発装置の蓋が開く。
「……これはなんでしょうか」
「私に聞くな」
出てきたのは、ダンボールに入ったペンギンと謎の白い物体だった。言われなくてもわかる。開発失敗だ。しかしペンギンなら分かるがこの白いのは本当に何だろう。いや、ペンギンが出てくるのも十分意味分からないが。
見ている目の前で白い物体はダンボールから跳ね出て、そのままぴょんぴょんとどこかへ去っていった。一体何だったのだろうか。
装置の妖精さんが出てきて、てへぺろと舌を出し、ごめんちゃいと手を合わせて装置の影に引っ込んだ。謝罪だったのだと分かるまで数秒を要した。
ペンギンは海に逃がしても良かったが、鎮守府で飼うことにした。司令官さんは「頭痛が痛い」と言って頭を抑えていた。危険が危ない?
今度はしっかりとしたアラームが鳴って、建造装置の扉が開いた。中から白い煙が溢れてくる。今度は失敗ではないらしい。
私と司令官さんが中を覗きこもうとした瞬間に、中から艦娘が飛び出してきて
「雷よ!かみなりじゃないわ!そこのとこもよろしく頼むわねっ!」
そう声高々に宣言した。明後日の方向を向きながら。
そしてその姿こそ人間だが名前はもしかして……
「雷ちゃん……雷ちゃんなのですか!?」
「あら、電じゃない!奇遇ね!」
紛れもなく、私の姉の暁型三番艦「雷」ちゃんだった。視界の隅で妖精さんがサムズアップしているのが見えた。
――― ――― ――― ―――
「ふぅん、そんなことになっているのね」
司令官さんから一通りの情報……艦娘や深海棲艦について、そしてこの鎮守府の事を教わった雷ちゃんは深く頷いた。
「でも、私が来たからにはもう安心よ!電も司令官も私にどーんも頼っていいのよ?」
私同様に無い胸をふんすと張る雷ちゃん。頼もしい反面どことなく不安になるのはなぜだろうか。
「他に教えることは……追々でいいか。とりあえず鎮守府の案内をしないとな」
「電が案内をするのです」
「ああ、頼む」
雷ちゃんを連れ歩き出す。
「私は執務室にいるから、何かあったら呼んでくれ」
「はいなのです」
施設を案内しながら、雷ちゃんは私にあれこれと質問をした。今までの事、私の事、司令官さんの事。
「……と、電は何度も言ったのに聞いてくれなかったのです。司令官さんは真面目だけどちょっと頑固さんなのです」
「電も苦労してるわねえ……」
「でもでも、嫌な人ではないのです!良い人なのです!」
「ふぅん……ま、電がそう言うなら安心ね」
今の状況は傍から見れば仲良し姉妹の鎮守府探検なのだろうか。そんな事を考えながら歩く。
「あ、ここがお風呂なのです」
「お風呂!素敵ね、やっぱり日本人はお風呂じゃなくちゃね!」
かつては駆逐艦で今日艦娘として生まれ変わったばかりなのにその発言はどうなのかと思う。悪い意味ではなく、なんとなくだけど雷ちゃんらしいな、と感じた。
雷ちゃんが風呂に駆け込む。転んだら危ないと声をかけようとするが、一足先に雷ちゃんが声を上げる。
「あれ?お風呂使ってないの?」
彼女が入っていったのはまだ一度も使ってない女湯。私は司令官と時間をずらして男湯を使っているため女湯の方は一度も湯を張っていない。
「電と司令官で男湯を使っているのです。女湯は広すぎるので……」
言ってから、しまった、と思った。しかしもう遅い。
「司令官と一緒に入ってるの!?……電、見た目に反して積極的すぎじゃない?」
見た目に反してとは失礼な。……じゃなくて、今は誤解を解かねば。
「違うのです!一緒だけど一緒じゃなくて……」
「あら、恥ずかしがっちゃって。可愛いんだからもー」
「ち、違うのですぅぅ!」
話を聞いてくれない。ああもう面倒くさい事この上ない。
「なになに、どこまで進んだの?ちゅーはもうしたの?キャー」
キャーじゃない。
「妹に先を越されちゃったなー……お姉ちゃん寂しぴぎっ」
無言で近づき両拳で雷ちゃんの頭を挟み込んでぐりぐり。
「いひゃいいひゃいっ!嘘嘘冗談だってばー!」
涙目になったのを見て解放すると雷ちゃんは頭を抑えて蹲った。
「ドメスティックバイオレンスぅ……頭いたいぃ」
子供っぽいというかミーハーというか……困った姉だ。
「電はまだそういうのじゃないのです」
「まだ?……あ、じょ、冗談よ冗談。あは、あはは……」
今までで特大の溜息を吐いた。
「何かあったのか?」
執務室に戻り、何も知らない司令官さんの問いかけに雷ちゃんは頭に手を当てながら目線を反らし、私は乾いた笑いを浮かべるのだった。
その晩、雷ちゃんは当たり前のように司令官さんと一緒に風呂にはいろうとした。
「そう言えばあの時結局訂正してなかったのです……」
以前より賑やかになった鎮守府に私はやれやれと思う。
しかしそれは決して不快ではないのだった。
雷ちゃんの喋り方地味に難しいですね
そうわよ