時計の針はもとに戻せない、   作:椛(いろは)

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超番外編。キャラ出てきません。


ある哀れな婦人の日記帳

〇月✕日

子を授かりにくい体質の私に、ついに待望の子が生まれた。女の子だ。周りはたいそう喜んでくれたが、話の内容は神に捧げる日程ばかりだった。

 

★月△日

もうすぐ長女の3才の誕生日だ。プレゼントは何にしよう。とても正義感の強い子だから、今流行りの悪を倒す魔法使い少女のフィギュアにしようか。長女はなんでも一人でしようとしてなかなか甘えてくれないから、欲しいものを聞き出すことも難しい。そんな長女にもうすぐ妹ができる。

 

〇月✕日

なんと長女の誕生日に、第二子が生まれた。お医者様の言う通り、女の子だった。私はこの奇跡をとても嬉しく感じて手放しで喜んだが、周りからは落胆の声もあった。長女はプレゼントそっちのけで、ひたすら妹を不思議そうに構っていた。

 

☆月▲日

長女は姉らしく妹の面倒をよく見てくれていた。責任感も強く、妹を叱りつける場面もありとても微笑ましい。頑固なところは父親に似たらしく、長女がやるといったら周りの話は聞かず、一生懸命ひとりで頑張っていた。もっと周りを頼ればいいのに。手を差し伸べても取ってくれなくて

少し寂しい。

 

■月♡日

長女が神様とやらに捧げられる日が来た。数週間前からなかなか眠れない夜が続いている。長女は最後まで誰にも頼らずにここを出ていった。その日は声がかれるまで泣いた。

 

△月〇日

周りからのプレッシャーと長女がいなくなった心労で、子がなかなか授からない。不妊治療を始めた。次女は長女とはまるで正反対なおてんば娘に育った。最近姿を見せない長女はどこだと毎日屋敷を探し回る姿が痛ましい。姉はもういないのよと言えば、どうしてと泣きわめいた。

 

✕月□日

最新技術で人工授精というものを試すことになった。男の子の確率を高めることができるそうだ。次女はお姉さまがほしい!とせがった。まだこの子の中で、姉との別れはついていないようだ。弟か妹ができるのよと言えば、姉じゃないといやだと駄々をこねた。

 

☆月♡日

お腹の中の子が女の子だと分かった日、次女はまたもや神に捧げられた。お母さま助けてと泣き叫ぶ次女に何も出来なかった。このお腹の中の子を産んだらまた同じ道を辿ってしまう。周りからの視線が私を責めたて咎めてくるようで、吐き気が止まらなかった。きっとこの子は産んだ私を恨むだろう。

 

□月▲日

最近、何のために子を産むのか分からなくなってきた。自分の子ではなくただの供物を育てているような気がして、次の子に愛情が向けられないように思えたのだ。そのことを最近入った看護師に零せば、彼女はそれはもう綺麗な涙を流してくれた。大丈夫。まだ頑張れる。

 

♡月〇日

三女を出産した。手放しでは喜べなかった。周りからは祝福の言葉を述べられるが、どの方からも落胆の色が伺えた。この子をただ純粋に祝ってくれる人はもう誰もいない。ずっと傍にいてたくさん愛してあげたいのに、今回の出産で体を壊してしまいそれもあまり出来そうにない。

 

✕月△日

三女は周りの大人が求めているものを機敏に察することができる聡明な子のようだ。私の前ではこんなにもわがままで子どもらしいのに。その歳ですでに相手によって顔を使い分けている三女に胸が傷んだ。

 

✕月☆日

この頃は体調も良くなってきて、またもや人工授精をすることとなった。もう自分の体力は限界にきていることは分かっていた。おそらくこれが最後の出産になるだろう。次は確実に男の子を授かるよう研究を進めているそうで、周りは期待に胸膨らませた。

 

▲月□日

時々、三女の瞳に暗い影が差すようになった。最近は私の前でも仮面を被ることがある。人ってあんな風に死ぬのねと意味深な発言をしていたことを看護婦から聞いた。わたしはこの子に何もしてやれないのか。だめもとで彼女の世話係を同じ年くらいの子に変えて欲しいと頼んでみた。少し前に孤児を拾ったそうだ。

 

☆月✕日

お腹も目立つようになってきた頃。三女は嬉々として世話係くんとの話をしてくれる。どうやらわがままも言えているようで安心した。近頃は勉学にも励んでいるらしい。何故だか分からないが、久しぶりに涙が出た。世話係くんが、今後も三女の心の拠り所でいてくれることを願う。

 

△月♡日

三女は笑顔で神のもとへ向かった。いってきます、と。その未来を知っていたろうに。三女ほどの頭があれば、ここから逃げ遂せることは容易かったろう。それをさせないよう、狭い世界に子を閉じ込めていたのは私の業だ。

 

■月☆日

明日、長男を出産する。私の体がそれに耐えられないかもしれないとお医者様は言った。私もそうだろうと思う。あぁ、最後に。あの人は、彼は私のことを愛してくれていたのだろうか。それがひどく気がかりだ。できることならば、最後は彼の愛の言葉であの世へと旅立ちたいものだ。

 

 

 

 

 

ぱたり。

エレナは読んでいた日記を閉じた。その先はもう何も記されていない。

 

するとタイミングよく部屋にノック音が響き渡り、返事をすればアレンが顔を覗かせた。

 

「エレナ、おはようございます。さっきコムイさんがエレナのこと探してましたよ」

「なんだろ?ご飯食べたら行こうかな〜」

 

今行かないんですね、と突っ込むアレンはふとエレナの手元に目がいった。

 

「読書中だったんですね。すみません」

「ううん。ちょうど読み終わったとこだから」

「何読んでたんですか?」

 

そうアレンが問えば、エレナは愛おしそうに水か何かで少しよれている表紙に指先を這わせた。

 

 

「ん〜。一つの愛を求め続けた、ある哀れな婦人の日記帳、かな」




勢いでエレナを長官娘にしたので、今まで全く考えてなかったエレナの設定を練ってたらこんな話ばかり思いついてしまう……。
次はほのぼの回でお会いしましょう!キャラとも絡ませます。
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