還らざる宙の海   作:阿月

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幕間 少年少女の戦い

「えっ、今日休みなのか?」

 

 

 

授業に大幅な遅刻をしていくと、珍しく岸波がいない事に気付いた衛宮士郎は事情を知る後藤劾以の話に驚いた。

 

 

 

「なんでも熱を出したらしい。生徒会長が職員室で聞いたらしいからその筋で間違いはないでござるよ」

「…早く良くなるといいな」

「まったくだ」

 

 

 

そうか、いないのか。

 

少しだけ落胆した士郎は、もう一度主人のいない空席を見る。先日の遠坂凛とのやり取りがあるため様子が気になっていたが、どうやら話す事は叶わないらしい。

昨夜キャスター…それから、自分が昨晩アーチャーに威嚇された出来事もあってか、本当に体調が悪いだけなのか心配になるところではあったが、見舞いに行こうにも家の場所を知らないため何も出来ない。士郎はため息をついた。

 

 

 

「…あいつ、休みなのか」

「?」

 

 

 

そう呟く声に振り返る。

間桐慎二が机に向かって一人、頬杖をつきながら何か意を決した表情をしていた。

 

 

 

***

 

 

 

士郎の前には、仁王立ちで慎二へ向けてガンドを構える凛がいた。

 

 

 

「これは一体どういう事なのか説明しなさい、慎二」

「ちょっと待ってくれ!慎二は被害者だ、今は休ませた方が」

「全部話せば良いんだろ」

「えっ?」

「…僕はもう負けたんだろ。ならもう聖杯なんてどうでもいいし、さっさと終わらせて欲しいからね。わざわざ脅さなくたって情報を渡してやろうと思ったんだけど、なに?学園のマドンナって実は随分と物騒な女だったわけ?」

「っ〜…!!」

「と、遠坂…」

 

 

 

肩を竦めた煽り口調の慎二に、凛が凄まじく腹を立てている。慎二の事を小物呼ばわりしていたあの、凛が。その士郎は呆然とする。が、すぐに我に返って今にもガンドをぶっ放してしまいそうな凛を宥めにかかった。

 

昼下がりの学校に突如として発動された、呪刻による外界を完全に遮断する結界。屋上にいた遠坂凛と衛宮士郎は結界を止めるべく起点へ、それから令呪で呼び寄せたセイバーはサーヴァントと交戦させていた。

二人が結界の起点に辿り着くと、そこにいたのは気絶した間桐慎二と壁に磔にされて死んでいるライダー。ライダーの消滅と共に結界が消え、目覚めた慎二を凛が問い詰めようとして今に至っていた。

 

士郎がなんとか凛を落ち着かせている間に、慎二は自分が楽な姿勢で座れるように壁際へ動くと、そこにもたれかかりながら二人へ話し始めた。

 

 

 

「そうだねえ…まず手始めに言えば僕はライダーのマスター代理だった。そしてさっきの結界は僕がライダーに張らせたものだよ」

「マスター、代理?」

 

 

 

魔術師の家系として没落した間桐家。その嫡男であり魔術師ではない慎二がマスターとなるにあたり、偽臣の書によって正規のマスターから権利を委譲したのだという。

 

偽臣の書。令呪を一画消費する事で作る事が可能な、魔術師でなくともマスター権を委譲出来る令呪代わりの魔術道具。魔力は正規のマスターから供給され続けるため、令呪がなくともマスターになる事が出来る。そこで士郎は納得した。だから慎二には令呪がなかったのだ。初めから令呪を持つ事が出来なかったなら、探したとしても無意味、マスターであろうと気付けない。

 

 

「それにしたって間桐にもう魔術師は……!、ねえ慎二、そのマスターって」

「そうだよ遠坂。…戦いを嫌がったんだよあいつは。実子じゃないから一丁前に素質だけは持ってた癖に、絵に描いたような甘ちゃんでさあ」

「…おいまさか、さ」

「名前を出すな。衛宮、お前ホント救いようのない馬鹿だよね。何の為に僕が名前伏せてると思ってんの?」

「慎二、」

「っそんな目で見るなよな!?別に可哀想だから代わってやったとか、家から無理矢理やらされたとか、そういう訳じゃない!…僕は僕の意思で聖杯戦争に参加した。この僕の頭脳を使えばこの程度の戦い、あいつじゃなくても簡単に勝てると思っただけさ」

 

 

 

ま、それでもこうして無様に負けた訳だけど?

 

吐き捨てるように呟いた慎二の顔は、隠す事なく怒りと悔しさに歪んでいた。腹部を押さえる手にも、力がこもっている。ふと目を閉じ、もう一度開いた時にはそれらの感情は搔き消え、余裕めいた普段の慎二の表情へと変わる。

 

 

 

「敗因は、"サーヴァントが前線、マスターは後方支援"っていうテンプレを刷り込まれてたせいだ。チッ…あのクソジジイ、散々僕を馬鹿にしておいて余計な知識ばかり与えやがって」

「どういう事なんだ?」

「はっ、衛宮って本当に頭が回らないねえ」

「…ああそうだよ。回らないから聞いてるんだろ」

「ライダーを殺したのは、サーヴァントじゃなくてマスターだって事だよ」

「マスターが…サーヴァントを!?」

 

 

 

あり得ない。

生身の人間が人知を超えた能力を有するサーヴァントを倒す事など、ほぼ不可能だ。

 

凛と士郎が唖然としていれば、慎二は心底おかしそうに笑った。

 

 

 

「ぷっ…はははっ!良かったじゃないか!僕とライダーっていう実験台(モルモット)のお陰でお前達はテンプレに引っかからなくて済むんだからな!」

「実験台なんて、そんな言い方」

「事実だろ。これさえ分かれば他の経緯なんてどうだって良いだろうけど───」

 

 

 

慎二は今に至るまでの事を二人へ話して聞かせた。

 

あえて雑に結界を張り、士郎と凛の他にも学校にマスターがいると気付いた慎二は、すぐに柳洞一成を疑った。理由は勿論柳洞寺がサーヴァント、キャスターの根城にされていたからである。そこでライダーに一成の偵察をさせているうちに、思いがけず別の人物がマスターだという証拠を掴んだ。

マスターは毎日学校に来ている。ならば学校でマスターを仕留めればいい。

そう考え、確実にマスターを逃さぬよう結界の範囲と強度を上げた。結界の発動と共に生徒や教師達から意識と僅かな魔力を奪い、ライダーに供給されるよう細工をした。

そして今日の日の午後、マスターが職員室に一人になる時間であるのを見計らって結界を発動した。手順は何もかも完璧だったのだ。

 

そこで発生した誤算があった。

キャスターのマスターが戦闘に長けている事。更に言えば、マスターの身体能力をキャスターが強化していた事だった。

結界の発動にいち早く気付き、起点へと現れたマスターは慎二の鳩尾に一撃を与えて吹き飛ばした。薄れる意識の中で慎二が最後に見たのは、マスターを相手に苦戦を強いられるライダーの姿だった。その瞬間に、敗北を確信したのだ。

 

 

 

「あいつはただの人間じゃない。お前達のサーヴァントがどれほどのものか知らないけど、きっと一筋縄じゃあいつは殺せない」

「…誰なの。そのマスターは」

 

 

 

渋面の凛に、慎二は口を開く。

潜めた声で告げられた名前に、息を飲む音がした。

 

 

 

「教師の葛木。あいつが、キャスターのマスターだ」

 

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