Fate/Grand Order 第四特異点-死界魔霧都市 ロンドン- 作:やすべえ
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特異点
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生憎の雨であったが、ここロンドンでは珍しくはない。傘を常に持ち歩かないのは間抜けか、観光者だけだろう。傘を差し、急ぎ足で帰路へとついた女であったが、ふいに足を止めた。雨の中で立ち止まる事は余程の事だろう。
見れば、少女が一人。膝を抱えて泣いていた。お世辞にも良いと言えないボロの布を纏い、雨に濡れた姿は捨て犬を彷彿とさせた。涙ではなく、雨の雫が頬を流れているのかもしれないが、女にはそうは思えなかった。
「ねぇ……どうかしたの?」
膝を折り、少女に傘を差し出す。自分が濡れるのも構わずに傘を差し出す行為は、少女の眼にどのように映ったのだろうか。少女は顔を上げ、女を見る。白い肌に白い髪。両頬には切り傷がある。とても良い家庭で育った娘とは思えない。
「――いないの」
ぽつり、少女が呟く。口から零れた震声は、女に少女が泣した事を確信させるのに充分すぎる理由であった。
「いない?お母さんか、お父さんとはぐれちゃったのかな?」
目線を合わせ、少女へと質問する。女が声をかけるまでに、少なくとも一人や二人は少女を見ただろう。だが、助けようとはしなかった。それほどまでに、この少女に関わる事を脳が拒絶する。関わり合いになりたくはない。紳士をもってしてもこの感情を抱かせる風貌をしていたのだ。
では、何故女は声をかけたのか。
「私ね、あなたと同じくらいの年かな、娘がいるの。だから、どうしても見過ごせなくて。別に、怪しい人じゃないのよ?」
少女に、娘を重ね合わせたのだ。もし、この少女が自分の娘だったら。そう考えると、いてもたってもいられなかったのだ。
◇
「……あなたが、――なの?」
「へ?」
どういう意味だろう。尋ねようとしたけど、言葉が出ない。気づいたら、私は倒れてる。急に、眠くなってきた。
“あれ、そんなに私疲れてたのかな”
体に力を入れてみる。でも、体はいう事を聞いてくれない。
“ごめんね”
声が出ないから、心の中で少女に謝った。この子を傘にいれることが出来ない。きっとまた雨に濡らす。目だけは動いたから、少女を見る。
“あぁ……良かった”
角度的に顔を見る事は出来なかったけど、女の人かな。
さっきまで私がいた場所にしゃがみこんで、傘を差してくれてる。私が好んで履く靴が見えた。きっと趣味があう。きっと、この女性はすぐに私を起こしてくれる。そして、一緒にこの子のご両親を探しにいこう。大丈夫。少し休めば、すぐに動けるようになるから。でも、雨の中寝るだなんて私、ちょっと恥ずかしいな。汚いし。
◇
水が降る。落ちた水飛沫が跳ね、辺りに小さな川をつくる。赤く、黒い川。この日を境に、ロンドンは狂っていった。
-死界魔霧都市 ロンドン-