Fate/Grand Order 第四特異点-死界魔霧都市 ロンドン-   作:やすべえ

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聖杯探索、発令2

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「やぁ! 待っていたよ君たち。実にいいタイミングじゃないか」

 満面の笑みでマシュとマスターを出迎えたのは二人の人間。一人は先ほど食堂まで呼びに来た男、ドクター・ロマニ。もう一人は両手を挙げて来客を抱きしめる素振りをした。勿論、あくまでも素振りである。抱きとめるとなれば左手に持った杖が邪魔となるし、そんな()()()なとされたくはない。

 イタリア、ルネサンス期に生まれた芸術家であり、音楽、建築、物理学など、ありとあらゆる分野において天才的な業績を残した英雄。真名をレオナルド・ディ・セル・ピエーロ・ダ・ヴィンチ。現代においては『万能人』という異名で親しまれている。

 豊満な胸を、大げさに揺らしながら()は朝の挨拶を続ける。

「朝食は何だったのかな?私も食堂に行って君達と食事を楽しみたかったんだが、生憎と今日はお弁当だったんだ」

 カルデアスの傍に、弁当と称された物が置いてある。ショッキンググリーンな液体が入ったビンを指差していたが、どう見てもマナプリズムの加工前の姿であった。

 彼――レオナルド・ダ・ヴィンチはカルデアで召喚された第三号の英霊ではあるのだが、その容姿は生前のモノではない。どのようにしてその姿で召喚されたのか、語るのはまた別の機会になるだろう。彼は男である。性別は雄である事だけ理解できたらそれでよいのだ。

 

「ダヴィンチちゃん。僕から説明してもかまわないかい?」

「あぁ。かまわないよロマニ」

「それは良かった。君達に今回レイシフトする特異点の説明をしようと思うんだけど、その前に、オケアノスで得た情報の話からしよう。七十二柱の魔神の事だ」

 七十二柱。古代イスラエル第三代の王であるソロモン王が使役したとされる悪魔である。都の建設の為に用いられ、真鍮製の壷に封印された後に『バビロンの穴』と呼ばれる湖へと沈められた。

「かの魔術師、ソロモン王が使役したとされる悪魔ですね。何か分かったのでしょうか」

「あの化け物についてはまだ何も分かっていないんだ……分かった事は一つ。ソロモン王が統治した時代において、特異点が発生していないという事さ。目を皿のようにして観測したよ」

 やれやれ、言いたそうな顔をしているドクター・ロマニ。その顔を真顔で見つめるダヴィンチ。彼が笑顔を振りまいていない事は珍しい。

 

「特異点が()()()()()()()。つまり、七つの特異点の中にソロモン王の時代が含まれていないという事でしょうか」

「その通り。ソロモン王は未来に使い魔を送ったという痕跡が無いわけだ。彼の時代は正しい人類史のままだよ。だから、あの偽魔神柱を使役しているのはソロモン王とは無関係――」

 

「というわけではないんだなーこれが!」

 くわっ! と目を開いたダヴィンチが杖をドクターに突きつける。宣戦布告であった。

「なんだってー!?」

「ど、どういう事なんだいそれは!彼の時代は正しい人類史のままだった。特異点にはなってなかったじゃないか!だから、ソロモン王は無関係――」

「例えば」

 人差し指をピッと立てる。美しいと感じる指であった。モナリザは全てにおいて黄金比を用いられいる。故に、彼の肉体もまた黄金比が使われている為に美しいと感じるのだろう。

「ソロモン王がサーヴァントとして使役されていた場合ならどうかな?」

「あのソロモン王がそんな悪事に加担するとは思えない。彼は人類の英雄だよ?ありえないね」

 ポニーテールを左右に揺らしながら否定する。まるで『話にならない』とでも言いたげな様子だった。

「お言葉ですがドクター」

 マシュが声を上げる。手を挙げて発言するのは彼女の美徳だろう。彼女にとっては、その行動は当然であった。

「サーヴァントとして呼び出され、令呪で縛られてしまったならば、従うしかないのではないでしょうか」

「マシュ、それはないよ。令呪に抗う事は出来ないかもしれないが、召喚システム(フェイト)はマスターと英霊、双方の合意があって初めて成立するんだ。そして、レフがを使った痕跡は無い。だから――」

「だからソロモンが召喚されたのはカルデアではない事は確かだね」

「ダヴィンチちゃん。カルデアの召喚システムを使わないでサーヴァントを召喚する事はできない」

「どうして?」

「どうしてって……そりゃ、ここ以外は消滅してるからじゃないか」

 この場所以外でサーヴァントを召喚する方法が無いのは当然だ。現時点でここカルデア以外の全てが消失してしまっているのだから。

「ロマニ。君はソロモン王を敵と認定したくないあまりに短絡的な思考をしている。カルデア以外でサーヴァントを召喚する方法なんて、簡単じゃないか」

「……特異点」

「正解だマシュ。特異点で聖杯の力を借りて召喚すればいい。その後は令呪で縛るなり何なりできるだろう。なんてったって聖杯があるんだから」

「なっ……」

「現段階で分かっている情報は『ソロモンの時代に変化が無かった事』『召喚システムがレフに利用されてない事』だ。ソロモンを無関係だと断定するのはあまりにも愚かだと思わないかい?」

「君だって分かっていたはずだ。特異点で召喚された可能性をね。なのにそれをあり得ないと断定した――何故か?」

「君はソロモン王のファンだからだろう。だから敵だと認めたくない。だから人類の味方だと決め付けている。その決め付けは危険だよロマニ」

 

 思わず、マシュはつばきを飲み込む。ダヴィンチが()()()()()事を感じたからだ。ドクターがあまりにも軽率であり、確定した情報以外を伝えようとした事に対して。

「私達は人類史を救うべく、ここカルデアで戦っている。たった一度の失敗すら許されない聖杯探索だ。魔神柱がもし本当にソロモンの使役するモノだった場合、君はどう責任を取ってくれるんだい? 悪いけど、君一人の首じゃあまるで足らない。過去から未来の全ての人類史は焼却されてしまうんだからね」

「私達が下す判断には、文字通り全てが掛かっている。くだらない私情で、考えられる可能性を狭めるのはやめてもらえないか」

 ドクターの甘さを指摘する。彼にとってのソロモン王の像を捨てろと、そう言い切った。

 

「冬木のアーサー王を見ただろう。いいかい? 我々が思う英雄と、実際の英雄は違うんだ。アーサー王は男とばかり思っていた。しかし、かの王は女性だった。だとすれば、ソロモン王が人類の英雄である事も疑ってかからないといけない」

「……すまない。確かに私情だった」

「分かってくれればいいんだ」

そこでようやく、ダヴィンチはドクターに笑顔を向ける。彼が反省した事に満足したのだろう。

「それじゃあ話は終わったから、レイシフトの準備だロマニ!」

「あ、あぁ。じゃあ今回のオーダーの詳細を説明しよう。第四の特異点は十九世紀――七つの特異点の中では最も現代に近い特異点さ。決定的な人類にとってのターニングポイントなんだけど分かるかい?」

「十九世紀で人類にとってのターニングポイント。それは……」

「そう、産業革命さ。文明の発展と隆盛。この次期から飛躍的に人類は進化し始める」

「具体的な転移先は大英都市、首都ロンドン――なんだけれど」

「ドクター?どうかされましたか」

「異常なんだ。僕達が知っているロンドンとはまるで別物だ。これを見て欲しい」

「……これは、煙でしょうか。それとも霧?」

 ドクターがモニタに映し出した特異点の風景は一目で分かる程異常だった。モニタ全体に広がる白いモヤ。町並みを全く見る事が出来ない程に、モヤが広がっていたのだ。

「驚くべき所はここだけじゃないんだ。これには魔力が込められている。それも夥しい量のね。こんな量の魔力を帯びたら……いくら魔術師でもひとたまりもない。明らかに何者かの介入をうけている。尋常じゃないよ」

「そ、それじゃあどうしたら」

「そこで、ダヴィンチちゃんに開発してもらったものがある」

「これだ!」

 待ってました、とばかりにカバンを突き出す。皮貼りのカバンの四隅には金であしらわれた装飾品。この皮には見覚えがあるような

「おお、よく気づいたね! これはワイバーンの皮さ。ちょっと手の開いているドラゴンスレイヤー達に取ってきてもらった至極の一品だよ」

「私的な利用はやめて欲しいんだけど、ダヴィンチちゃん」

「ロマニ、これは職権乱用じゃない。必要な物だったんだ。さぁ! 開けてごらん。君の為の新しい礼装だ!」

「……これは、なんというか。とても近代的といいますか」

 体のラインが出るようなピッタリとした、ライダースーツのような物がカバンに納められていた。

「カルデア戦闘服と名づけた。主な機能は体温の調整、防護だ。さらに戦闘服に備えられた通信機によってかなり魔力の密度が高い場所でも通信が可能になった。無いとは思うけど、瞬間最大四百度程度なら一分は耐えられる。氷点下だとマイナス三百度程度なら大丈夫だ! 宇宙服みたいなものだと思ったらいいよ」

「今回も例によって、君達二人をレイシフトさせる。召喚サークルを設置したら本格的な支援が可能になるから、君達の要望に応じてサーヴァントをレイシフトさせる。現段階のカルデアの魔力貯蔵量から言うと……そちらに追加で送れるサーヴァントは三人ってところだ」

「早速着替えてきてくれ。ここで着替えるのは止めてね? マシュの情操教育によろしくないから」

 

 

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