Fate/Grand Order 第四特異点-死界魔霧都市 ロンドン- 作:やすべえ
用事が片付くまで忙しく、執筆する暇がございませんでした。
大変失礼いたしました。
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濃霧が揺らぐ。
短剣を手に、渦中から黒影が躍り出る。
限界まで腰を落とした疾走。暗殺者の身長の低さ、加えてこの視界の悪さ。その姿はまるで亡霊のようであった。
黒影が狙い定めたのは足であった。
目の前にいる標的は堅牢な盾を持っている。素早さにおいて遅れを取る事はないと確信しているが、より完全な殺人を行うにはその盾が邪魔になる。正面に構えられた場合、その大きさが何よりも邪魔になる。よって、先ず足を狙う。足の腱を切断し、筋肉の動きを阻害する事で、ふくらはぎの筋肉の動きを完全に停止させる。足を地面につけていられるような超人はいるだろうが、歩く事はまず出来ないだろう。それが人類を超越した者、サーヴァントであっても例外ではない。
盾は右手で構えている。であるならば、まず左側を抜き去り、足を斬る。その後、返す刃で首を刎ねる。標的がサーヴァントであるが故に子宮を抜き取る事は出来ないが、そんな事は最早
音の追随すら許さぬ接近。瞬きをせずとも察知する事の出来ない業。
“霧夜の殺人”
夜でさえあるならば、確実に先手を取る事が出来るスキルである。
今まさに暗殺者の短剣が足を切り裂こうという刹那、標的の目は――
“今は脆き雪花の壁”
「う、っ――――!」
確実に足を捕らえた筈の一閃は、十字架の盾によって防がれた。
必ず先手を取る事が出来るスキルではあるが、例外が唯一存在する。相手がシールダーのサーヴァントであった場合である。
護る事に特化したクラスであり、
◇
『マシュ!? ――攻撃されたのかい!?』
「えぇ! ですが、何とか無事です!」
カルデアからの通信に裏声になりながらも返答する。今の一撃は今までのどの攻撃よりも恐ろしかった。
デミサーヴァントとなった彼女がここまで生き抜いてこれた理由の最たるもの、それは彼女のクラスであった。勿論、彼女の元となった英霊の強さもあったが、それだけではここまで生き抜いてこれなかっただろう。
いかなる攻撃も察知できる。勿論奇襲ですら対応可能な彼女が、今の攻撃を
目で暗殺者の姿が追えたわけではない。悪寒があったのだ。直感で目を向けた先にいた。それだけだった。
『まずい。ダヴィンチちゃん! これ……』
『――霧の魔力が変化している』
『二人とも、聞いてくれ! その霧に込められている魔力の質が変化した! つまり君達が相手をしているサーヴァントが、この霧を生み出している可能性が高い。君達を完全に敵だと認識したのかも』
『マズイね。ただの魔力の霧なら問題はない。私の作った戦闘服なら耐えてくれるはずさ――けれど、それが
『マシュ! 離脱だ!』
悩んでいる時間は無い。撤退か、交戦か。生存確率の高い方法を判断し、実行しなければならない。ドクター・ロマニとダヴィンチは共に撤退を進言している。
「いいえ、交戦します!」
しかし、マシュは交戦をする事に決めた。
『な、なんだって!?』
「ドクター。レイシフトする前に仰いましたよね?この霧は
『無茶だ! マシュ、君のクラスはシールダー。防御には長けているが攻撃は』
「分かっています。ですが、撤退よりも交戦の方が先輩の生存確率が高いと判断しました。難しいとは思いますが、それを成してこそのサーヴァントです!」
盾を握る右手に力を込める。
「行きます、先輩!」
◇
盾を構える。
右手に持った盾を斜め前へと突き出し、左手は十字架の下を持つ。一度だけ息を吸い込み、スキルを発動する。
“時に煙る白亜の壁”
対象は自身ではなく、自らのマスターに。これで霧がどんな宝具であれ、マスターに影響はないはずだと考えた。
先のアサシンの攻撃は全力だったのだろうか。もし全力ではないのだとしたら、一層守りに徹しないと防ぐ事が出来ないだろう。しかし、マシュはその可能性は低いと判断した。
全力でないならば、連続で攻撃を繰り出していただろう。何故そうしなかったのか? それは防がれた事に驚いた為である。
目の前のサーヴァントは今の一撃を防がれると予想をしていなかった。だから防がれた後の反応が遅かったのだ。
マシュ・キリエライト。サーヴァントの力をその身に宿す人間と英霊の融合体である。持ちえる物は堅牢な盾一つではあるが、情報を分析し、常に最適な行動を取るという武器を持っていた。
先ほど見えた武器は
だが、間合いがいかに広かろうと、速度に違いがある。
短剣は扱いが簡単かつ、重さも無い。速さだけで言うならば、剣や槍に勝る。対してマシュは大盾。どう攻めようにもその重さと大きさが足を引っ張る。どうしても相手よりも速く殴る事は不可能であった。ならば、取るべき手段は一つしかない。左足を大きく前へと踏み出す。右腕を引き、盾を自らに引き寄せながら、走る――!
先ほどの構えは防御の構えではない。左手を添えたのは盾を持ち上げる為だ。相手の攻撃が速いならば、攻撃されるよりも先に行動する事で先手を取るしかない。
攻撃は最大の防御である。
距離にして二メートル。この地点で足を止め、踏みしめた左足を軸に右腕を後方へ回転させる。
腕の力には限界がある。尋常ならざる筋力を持ってすれば見えぬ攻撃すら可能にするだろうが、マシュはそんな筋力を持っていない。それは目の前の少女も同じであろう。先の一撃を防いだ時、強大な腕力を感じる事はなかった。
それでも、彼女の短剣は速い。マシュが盾を突き出す間に、短剣を三度は振るう事が可能だろう。しかし、それはあくまで腕の力のみの話。
「ヤァッ!」
足りない物は外から補う。これはオルガマリーという魔術師が昔にマシュに語って聞かせた事だ。遠心力。運動エネルギーを乗せた一撃ならば話は違う。魔力放出してブーストをかけられるサーヴァントであるならば別だが、マシュは魔力放出のスキルを持たない。よって、このように遠心力などの運動エネルギーが乗った攻撃をするしか突破する方法はない!
加速する盾で、アサシンの足を狙う。
防ぐ事は可能か? 不可能である。アサシンはこの盾を真っ向から防ぐ手段は持たない。遠心力によって力を増した盾を短剣で受けた後、その両腕はへし折られる。短剣も刃が潰れ、使い物にならなくなるだろう。
では躱す事は? 極めて難しい。間合いがある武器に対して半端な回避では、腹を抉られるだけだろう。後方へと飛びのくしかない。しかし、この回転という攻撃はそんな回避を許さない。当らなければ、もう一周し更に速度を増し、威力を増して襲い掛かるだろう。
この攻撃に対し、アサシンが出した答えは不動であった。足元に迫る盾に対して、アサシンは右から迫る盾をただ見つめているだけで何もしない。
“取った――!”
当ると確信した刹那、マシュは驚愕の光景を目にする。アサシンは右足を上げて盾に乗り、そのまま宙を回る。神業という他ないだろう。あろう事か、暴風のような攻撃に乗ったのだ! アサシンは敗北を受け入れたのではない。ただ、盾に乗るタイミングを図っていただけにすぎない。
「くっ!」
マズイ。こちらの動きに対して、あちらの取った行動は最小限。あまりにもこちらの隙が大きすぎる。攻撃のチャンスを与えてはならない!
空振りに終わった盾の勢いを殺さずもう一度まわす。今度は右足を踏みしめ、左上から右下へと斜めに盾を振り下ろす。これで事で盾の上に乗るなどといった、ふざけた回避方法を許さない。アサシンは着地した瞬間であり、回避行動は筋肉が許さない。全ての行動には必ず硬直が存在する。それと同時に襲い掛かる攻撃を躱す事は不可能であった。
しかし、その不可能を可能にするのが
人類を超越した者に、人類の常識は通用しない。アサシンは着地と同時に上半身を極限まで反らす事で回避した。あろう事か、体が地面と平行になるように体を倒したのだ。
盾が地面を削る。同時にアサシンは左手を地面につけて、体を回転させ、右足で盾の内側を蹴る。その衝撃につられ、盾は右へと倒れる――――当然その盾を持っているマシュも、その動きにつられて前のめりの姿勢を取ってしまう。
無防備にも、アサシンの前に首を晒した形になった。
“しまっ――”
アサシンは盾を蹴った反動のみを利用して側転する。腰についたホルダーから左手で短剣を抜き、無防備なマシュの首を切断する為に上へと振り上げる。勝敗は決まった。サーヴァント同士の戦いはアサシンの勝利である。
恐怖に血は凍結し、驚愕に息が止まる。小さな体でありながら、卓越した身体能力を保有するサーヴァント。自らの敗北確信したマシュが最後に思う事は、カルデアの皆とマスターへの謝罪であった。
「ガンド!」
サーヴァント同士の戦いであるならば、マシュの敗北は揺るがない。しかし、アサシンが持ち得ない力が一つあった。刹那に迫る死を救ったのは、マシュのマスターであった。
“ガンド”
北欧に伝わる呪いが起源であり、対象を人差し指で呪う事で、病いを与える魔術である。威力が弱い物であるならば、体調を一時的に崩させるだけであるが、カルデアの粋を集めた魔術礼装がその程度で終わる事はない。
このガンドは、相手の行動を阻害する呪いにまで発展していた。一瞬ではあるが、対象の動きを
「あ、ありがとうございます! 助かりました先輩!」
振り返る事なく礼を言う。その刹那、アサシンを蹴飛ばし距離を取る。無理な体勢で繰り出した蹴りだった為か、ダメージは皆無であった。