鬼と鬼がかった新婚生活   作:そーだー

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水中の世界

暗い。冷たい。怖い。

 

ただひとつの温もりは繋いだこの手だけ。

 

ダイビングを始めたスバルの目の前に広がる世界はーーひたすらに暗闇だった。

 

 

 

 

 

「なんで湖の中が真っ暗なんだよ……」

 

「なんだか想像していた光景じゃなかったですね」

 

文句を言いながら陸に上がってくる二人にレムは苦笑する。

 

どんな世界が広がっているのだろうと期待して潜ったスバルとレムを迎えたのは一面真っ黒の世界だった。

 

自分の身体すらうっすらとしか見えない暗闇に撤退を余儀なくされたのだ。

 

 

「二人に伝え忘れていたのだけれど、プリステラの湖はそのほとんどが光を通さない水で、陽の光に弱い生物達の逃げ場になっている事が多いわ。特にこの島周辺はそうね」

 

後にロズワールから説明されたのだが、プリステラで湖の中を利用した産業が発展していないどころか誰も手を出していないのは、水中で動く為には視界確保の為のコストが馬鹿にならないからだと言うことだった。

 

 

「それダイビングを希望した時点で言おうな!?」

 

「ロズワール様が、それぐらいのハプニングがあった方が面白いじゃあなーいのって仰ってたから」

 

「ロズっちの嫌がらせがどんどん幼稚になっていく気がするぜ……」

 

すると、スバルのがら空きの背中につんつんという感触が生まれた。

 

スバルが後ろを振り向くと、陸に上がったことで恥ずかしさが帰ってきたのか、顔が先程に比べて一層赤いレムが隠れていない肌を隠しながら口を開いた。

 

 

「着替えて来て、いいですか?」

 

「あ、あぁ、もちろん」

 

スバルの新妻は思いの外恥ずかしがり屋だったらしい。

 

王都の時、レムがスバルに言い放った言葉の数々からは想像出来ない姿で、この旅行でこんな風にまだ見たことのない色々なレムを見る事が出来るんだと想像してスバルはニヤケが抑えられない。

 

 

「ここが比較的隔離された島じゃなかったら女の子が身の危険を感じて通報するような顔をしてるわ、バルス」

 

「一緒に居るのがラムだから気を許した顔をしてるんだよ」

 

「不快だわ」

 

「バッサリだな!」

 

ラムとたわいも無い言葉を交わしていると、水着に着替える前とは違う服を身につけたレムがやってきた。

 

困惑を隠せていないレムははてなマークを浮かべながらこちらへやってくる。

 

 

「あの更衣室、シャワーもタオルも完備されてて、何故か脱いだはずの服まで新しいのに取替えられてたんですけど……そういうものなんですか?」

 

「いやおかしいだろ。ラム、何か聴いてたりするか?」

 

「私が替えておいたのよ」

 

「お前かよ!」

 

今日は朝からレムもスバルも普段来ている服装とは大きく異なり、レムは薄い桃色のワンピース、スバルは新しく縫ってもらったジャージもどきを身につけていた。

 

だが、更衣室から出てきたレムは先程からは印象ががらっと変わって黒のゴスロリと言われる物を身にまとっていた。

 

魔女っ子、という単語を連想したスバルだが、口には出さない。元の世界とこの世界の価値観の違い。

 

「魔女」という単語がどれだけ忌み嫌われているのか。

 

それをスバルはこの三年、身に染みて理解している。

 

 

「なんだかふりふりとモコモコがちょっと恥ずかしいです」

 

「ゴスロリっていうかほぼドレスみたいな感じだな。やっぱりレムは黒と白の服が良く似合う」

 

「そうですか?スバルくんがいいならいいんですけど……」

 

「大丈夫、ラムの衣装選択に間違いはないわ」

 

「それ聞いたら反論したくなるけど、素材が良いから何着ても似合うんだよと言っておこうか」

 

「レムの服のことはもういいので、次どうします?確か宿屋までダイビングの予定でしたよね?」

 

レムが自分の服から話題を逸らすためか声を上げる。

 

確かにスバルたちはダイビングを楽しんでから宿屋に向かう予定を立てていたのだが、流石にこのまま帰ったのでは宿屋での時間が長過ぎるだろう。

 

 

「せっかくの水着だしなぁ……砂浜で出来ること……あぁ、スイカ割りはーースイカなんてねぇか。となると砂浜での定番は……」

 

スバルがブツブツと考えていると、ラムが手を腰に当ててドヤ顔で言い放った。

 

「こんな事もあろうかとロズワール様が、ぷーると言うものを作っておいたそうよ」

 

「だから先に言えよ!まぁでもグッジョブだなロズっち!」

 

ラムの一言でやる気を漲らせているスバルの隣で、レムがきょとんとしている。

 

 

「ぷーるってなんですか?」

 

「あぁ、プールってのはーー」

 

 

 

 

 

水の遊び場、という理解をレムにしてもらったところで三人はプールへ向かう事にした。

 

道案内はラム、スバルは水着姿のまま、レムはラムの用意したゴスロリ服のまま手に水着の入った手さげをもって歩いている。

 

 

「プールはいいけど、正直この世界にあるものじゃプールで出来ることなんて限られてるぞ?」

 

「それに関しては問題ないはずよ。バルスが言っていたすらいだーとやらもロズワール様自らの力も使ってつくられたそうだから」

 

プールを作ることについてはロズワールに提案はしていた。

 

だがそれは今回の旅行に関してでは無く、ロズワールが買い取った後の観光地にする予定のこの島で、あれば顧客が増えるだろうと考えたが故の提案だった。

 

わざわざこの旅行に間に合わせたというのだから、その老呂とその労力を生み出したロズワールの資産は余程のものだろう。

 

「着いたわ」

 

「ほらレム、これがプール……なんだこれ」

 

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