「え、ロム爺が料理してるの?」
「作って欲しいのか?」
「いや、ロム爺が作った料理とか絵的にやばいやつだろ」
「年寄りに優しくない騎士じゃ……」
ロム爺は料理を三人の目の前に並べると、これは祝いの酒だとロム酒を一本置いていった。
「レム、知ってると思うけどあれがロム爺。いつもお酒くれる近所のおっさん?」
「バルス、レムに適当な事を教えないで。あながち間違ってはいないけれど、一応あれでもフェルト様の親族という事になっているわ」
「適当じゃなければ悪意があってもいいって訳では無いよな」
「細かい事を気にしていたら男が廃るわ」
「あれが、ロム爺様なのですね。いつもお酒をくださっている事に対するお礼をしようと思っていたのですが、タイミングを逃してしまいました……」
各々が、一度見たら忘れることはないであろうロム爺に対する感想やらを口にしつつ、目の前の料理に目を向ける。
「スバルくんスバルくん」
「はいはいなんでしょうレムさん」
「なんだかレムの知ってる料理とは全く違います……」
「大丈夫、俺が知ってる料理もこんな感じじゃねぇから」
目の前の皿に広がる光景を一言で表すならば。
『世界』と言えるだろう。
魚介、山菜、肉類、そしてこの世界では数多くない米が、河川を、山脈を、大地を、草原を創り、一つの皿に一つの世界を創造している。
まるで芸術品のようなひと皿にどう手をつけていいものかと固まっていると、三人の側に唐突に一人の男が現れた。
「お客様方、こちら料理の方は召し上がって頂けているでしょうか?」
紅蓮の髪に、涼し気な表情を浮かべて、料理人らしからぬ剣を横に携えた騎士が。
『剣聖』ラインハルト・ヴァン・アストレアが、コック帽片手にそこにいた。
「あれ、もしかしてラインハルトが作ったの?」
「その通りだよ、スバル。料理を作る経験はほとんど無かったんだけどね……沢山加護を使ってしまった」
「あれだな、料理っていうかまんまそのまま製作だなこれは」
「すまない、口に合うかどうかはわからないが、少しでも美味しいと感じてくれたら嬉しいよ」
何処までも謙るラインハルトに、懐かしさを感じながらスバルは皿に視線を戻す。
緑を多く纏った山のようなものにそっとフォークで触れる。
軽く削った山から見えるのはまるで山そのものの様なカラフルな断層。
その断層を複数段まとめて掬うと、断層の隙間に薄くゲル状のソースの層が見え隠れしていることがわかる。
レムとラムは、そんなスバルの様子を見て固まっている。
ラインハルトの隠し切れていない期待の眼差しに押されるようにして、スバルは料理を口に頬張る。
ーー世界が見えた。
ほんのりと肉の油を吸った米の層が、重すぎない旨みを。
葉と混ざった米が、その油を軽く優しく包む。
たったそれだけの事なのに、どうしてこうも感動するのか。
どうしてこうもーー涙が止まらないのか。
「スバルくん!?どうしたんですか?何かいやなことがあったんですか?!言ってくれたらレムが」
「いや、違うんだレム。……ラインハルト、一言言わせてくれ。お前絶対普段料理するだろ!」
「すまないスバル、嘘をついてしまった。ロズワール様から料理の提案があってから、一日一食を練習として作らせて頂いていたんだよ。その成果が少しでも伝わったなら嬉しい限りだよ」
「一日一食でここまで上手くなるとか才能の塊かよ……」
するとそのやり取りを見ていたレムがスバルを見習って山を削り取る。
勢いよくぱくっと口に含むと、瞳が驚きで開かれた。
「ほんのり甘くてすっごいいい香りでいっぱいです!」
ラムも同じ様に口に含むと、こちらはすぐに驚きの声が上がった。
「蒸かし芋!?ラインハルト様、どうして蒸かし芋を」
「あぁ、それは『味覚受信の加護』で、それぞれの好み、食べたい味、その時に食べたい物を知ることが出来たからだよ。お気に召した様で何よりだよ」
もうそれその加護あるだけであとはなんとかなるじゃん、とスバルは思いつつも声に出さない。
そんな暇があれば目の前の皿をもっと貪り食いたいのだ。
「では、僕は失礼するよ。二人は新婚旅行を楽しんで。ラム様は程よく息を抜きながらスバルたちのことをよろしく頼みます」
「『剣聖』たってのお願い、断れる訳もないでしょう。王族直属の騎士として、必ず守ると誓うわ」
ラムの騎士らしいやり取りを微笑ましく感じながら、『剣聖』の料理を堪能して、三人が囲む食事は穏やかな時間を流れていった。