「お風呂に行きましょう、スバルくん」
「そうだな、飯も食べたし風呂に……え、二人で?」
「嫌、ですか?」
不安げに上目遣いで尋ねるレムに、心臓が正しくない脈動を伝えてくる。
夫婦という関係になった今でも、今だからこそ、レムの一挙一動が狂おしい。
「いや、本音は一緒に入りたい」
「じゃあ一緒に入りましょう!恥ずかしがる必要は無いですよ、だって夫婦ですから!」
レムの誘いもあり、二人は混浴する運びとなった。
この世界にある多くの風呂は浸かるという文化が少なく、ロズワール邸はお金持ちゆえのお金の使い道としてひたすら広い風呂場を作り、そのスペースを活かすために湯船を作ったと聞いている。
今回の旅行に際して、スバルが望んだ最後の希望はこうだ。
『温泉』に浸かりたい。
当然温泉とか何かという所からの説明だったのだが、スバルの知識では自然寄りの浸かる事の出来るお風呂としか伝える事が出来ず、どんなものが仕上がるのか戦々恐々としていた。
正しく伝えたはずのプールですらあれなのだ。
スバルの心配は当然の結果だったのだが、その心配はいい意味で裏切られる。
「温泉だ……」
石で囲まれた空間に一定のスピードで注がれ続ける湯は、もくもくとその周りを曇らせて熱い事がしっかり伝わってくる。
それに加えて、温泉部分は屋根がなく、夜風が柔らかく吹いている。
ただひとつ、スバルの記憶の温泉と違うところがあるとすれば、溜まっている湯が無色透明という所か。
スバルの思い込みで、そういう温泉もあったはずだと心の中でその違和感も消してしまう。
目の前には、元の世界にあった温泉そのものが出来上がっていた。
「スバルくん、洗ってあげましょう」
はい、座って座ってとレムの勢いに押されるように湯から少し離れた所に並んでいる洗い場の一つに座る。
シャカシャカと音がして、元の世界でシャンプーに相当するものをレムが泡立てる。
スバルは後ろからほんのり感じる人の熱にむず痒さを感じながらも、レムが泡立て終わるのを待つ。
熱が、密着するのを背中に感じた。
「頭を洗いますね」
レムは、恐る恐るというべきなのか、そっとスバルの頭に触れた。
優しく、撫でるように、しかし、しっかりと洗う。
「うん、レム、気持ちいい」
「そうですか?えっと……痒いところはないですか、スバルくん」
世界を超えてもその台詞は共通なんだな、と頭の中で考えながら、スバルは他人に、心を許している人にこうして頭を洗ってもらうことがこうも気持ちいいものなのかと、うつらうつらし始める。
「痒いところは……あぁ、そこ、その辺。ありがとうレム」
「いえ、レムもスバルくんの頭を洗っているとなんだか幸せな気分になるので」
しばらくレムの好きな様に頭をガシガシと洗われていると、不意にその手が止まった。
「流しますね」
「おお」
スバルの髪を優しく、だが力強く洗い流すレムの手つきは、どこまでも柔らかい。
「流し終わりましたよ、スバルくん。えっと……背中も洗いましょうか?」
「いや、頭だけで十分だ。そっちこそ、頭洗ってやろうか?正直レムほど上手く洗えないと思うけど」
「じゃあ、スバルくんにお願いします!」
立ち位置は入れ替わり、座るのはレムでその背後はスバルという構図が出来上がる。
スバルがシャカシャカと泡立て始めると、レムが前を向いたまま話し始めた。
「何がか、これからスバルくんに好き勝手に触られるって考えたらドキドキしてきましたっ」
「っ……そ、そうか。痛かったらすぐに言っていいからな?」
レムの無意識な言葉の一つ一つに反応を隠しきれないスバルだが、好き勝手にぐしゃぐしゃとレムの頭を洗うわけにもいかないので、レムがスバルの頭を洗った時を見習ってゆっくり撫でるように洗っていく。
「ん……んん……なんだかスバルくんの手つき、されたことは無いけど、お父さんみたいです」
「ちょっと荒すぎたか?」
「いえ、優しすぎるくらい優しいですよ。その……レムが愛されてるんだなぁってわかります」
「レム、結婚してからやけにオープンになったよな」
「だって、スバルくんと喋ることが出来ることがこんなにも嬉しいんです」
目の前でスバルに撫でられるレムからは後ろからでもその笑顔が伝わってくる。
「……ふう」
「あぁ、やっぱり温泉はいいな!」
レムにかかり湯やらをレクチャーして二人して湯に浸かる。
湯に浸かる事で、隣に居るレムの鎖骨から胸元にかけてが目に入り、スバルは目を逸らす。
レムは許してくれるのだろうが、それではダメなのだと心に言い聞かせて。
「スバルくん、なんだかぽかぽかしてきました」
数分も経たないうちに、温泉慣れしていないのか、ほんのり肌を紅く染めたレムが表情から固さが完全に抜けたふわふわした様子でスバルに声をかけてきた。
「キツかったら上がるか?それか半身浴とかでもいいと思うけど」
「半身浴?」
「体を半分ぐらい湯につけるって言葉だ。それか足湯だな。足だけ湯につけるっていう温泉の楽しみ方。たぶん全身浸かってるよりはのぼせないようになると思う」
「足湯……」
レムが身体を一度湯から引き上げて、適当な石に座って足を湯につける。
申し訳程度にタオルで前を隠しているが、タオルで隠さずに浸かっている時よりもレムの肌が映えて写る。
「なんだか夜風が涼しいです」
「あんまり風に吹かれすぎると風邪ひくから気をつけろよ?」
「はい……なんだか今日のスバルくんはいつもよりも頼り甲斐があって大人みたいです」
「もう大人のつもりなんだけどなぁ」
隣で足湯を満喫するレムと、湯に浸かって上を見上げるスバルは、共に同じ夜空を見る。
無音の時間が、二人をゆっくりと包んで、過ぎていく。
みなさんが少しでも幸せにリゼロアニメを視聴できることを願って。