スバルが旅行するのに危険に遭遇しない、そんなことあるんでしょうか。
レムと二人きりで行動を共にするのはこれで何回目だろうか、とスバルはぼんやり考える。
ロズワール邸で村へ行く時、王都で心が折れたスバルを励ましてくれた時。
他にも二人きりの状況は幾つもあったが、危険な事、生きる為に必要な行動に固着せずに行動を共にするのは、今回が初めてだ。
二人はユリウスに見送られて、プリステラの孤島の一つ、 に上陸した。
島の名前は決まっていないらしく、ロズワール曰く二人で好きな名前をつけていいそうだ。
「孤島って言う割には整地されてるし建物もあって綺麗だよな」
「プリステラは観光に重きを置く都市ですし、この島も元々は観光目的で開発されてたんじゃないですか?たぶんそれをロズワール様が買い取ったんだと思います」
「時々思うけどロズっちってお金とコネが大半で出来てるよな……」
「じゃあ、レムは何で出来てると思いますか?」
「忠誠心と奉仕の心?」
「思いがけない真面目な解答で期待したレムが悪い気がしてきました……」
チラチラと望む答えを聴きたがるレムに、スバルは目をそらしながら答える。
「鬼と……鬼を好きな俺の事とか」
「鬼が、好きなスバルくんの事ですよ!」
えへへ、と言ったそばから恥ずかしそうな照れ隠しの笑いをするレムに、スバルは翻弄され続けだ。
「これ、突っ込む人間が居ないと恥ずかしくて仕方ないな」
「でもレムは幸せです!」
スバルとレムはぎこちない手つきでお互いの手を握りながら、島に整備された歩道を歩く。
この孤島は今回の旅行の為に、適当な人手を集めてスバルとレムの希望が叶えられている。
島というよりは島一つを使ったアミューズメント施設とでも言うべきか。
島に入る際に通った橋からそのまま伸びている歩道を歩いていくと、小さな建物が見えてくる。
「入りますか?」
「そうだな、入るか」
どちらがどちらの手を引くでもなく、自然と二人で歩幅を合わせて建物に入る。
その一歩一歩を大切にしながら。
建物に入ると、中はこじんまりとした雰囲気だが、ワンルームのその建物の真ん中には一つの台が置かれている。
小さなネットが台を半分に分けていて、四分割する様に線が引かれた台だ。
「お、これがナツキ・スバルプレゼンツ第一弾、卓球だな!」
そう、スバルの世界で子供から老人までが二人で楽しめるポピュラーなスポーツ、卓球の設備が作られていた。
スバルが口頭で伝えただけのイメージで、ロズワールの雇った製作班が作ったものだ。
「もしかしてこれがスバルくんの希望なんですか?」
「まぁ希望の一つ、だな。レムが俺の故郷の事に興味があるのは知ってるし、この機会だからロズっちの金にモノを言わせて出来ることはやろうと思ってな」
「レムの希望、スバルくんの故郷のものを一緒にしたいってロズワール様に言っちゃいました」
「もろ被りだな!?まぁ、一日そこらじゃ飽きないぐらいの設備は希望したつもりだし、三日は楽しめると思うぜ」
今回の旅行、用意された期間は今日を含め三日だ。
曲がりなりにも王国の騎士である二人が王国を不在でいられる時間は短い。
スバルのいた世界ならブラックと言われそうな就業形態である。
「早速やりましょう!どうやればいいんですか?」
「簡単にルールを説明すると、相手のコートに打ち込むゲームだ。コートっていうのはーー」
スバルの説明が一通り終わった所で、とりあえずはラリーをしてみようという事になった。
「らりー?」
「点数を数えずに打ち合うのを続ける練習だ。初心者はまずここから始めるんだ」
「わかりました!」
ロズワール製作班の製作したピンポン球は流石と言うべきか、魔法の力で重く硬いのに簡単に跳ねる為に、投げる時以外はほとんどピンポン球である。
「ていっ」
「おっ、うまいうまい」
かこん、かこんという音は鳴らないが、変わりにゴン、ゴンという音が続く。
やっぱり卓球はかこんという音が一番合うなと思いつつ、思いの外卓球が上手い自身の嫁に感心していたスバルだが、ラリーが途切れない事に段々焦りを感じ始める。
「もしかしてレム、こんな感じのスポーツやった事ある?」
黄色い球を打ち合いながら、共に会話のボールを投げてみる。
するとレムは打ち合いの手を止めず、会話のボールを受け取り、投げ返した。
「こんなスポーツは初めてです!でも、マナで一部を作られた球なので動きがよく視えるんです!」
「流石鬼と言うか、なんというか、この世界じゃ純粋な無機物以外を使った時点で俺が不利なんだな!」
「たぶんスバルくんもベアトリス様と一緒に居ればマナの動きは見えますよ!……あっ」
レムが驚きの声を上げて会話が途切れる。
時同じくしてラリーも止まった。
スバルの、凡ミスで。
「悪い、レムに見蕩れててミスした」
「なんだかいいように使われてるみたいで素直に喜べないです」
ほらスバルくん、やり直しますよとレムが初めての筈なのに慣れた手つきで球を打つ。
スバルのプランでは初心者同然のレムに少しは卓球が出来るところを見せて、レムを教える、もといかっこつけたかったスバルなのだが、流石万能メイドと言うべきなのか、それなりに打てるようになるまでに一回のラリーで済んでいる。
嫁の意外な特技の可能性に誇らしさと、かっこいいところを見せられない虚しさを覚えながら、スバルはレムとこの世界で初めてであろう卓球を続けた。