そんなに贅沢は望んでいるつもりはなかった。
家族と過ごせればいい。友人と過ごせればいい。平和に過ごせればいい。ただそれだけ。
それすらも許されないのならば僕はどうすればいいのだろうか・・・・・・
目の前に広がるのは灼熱の赤。炎が家を焼き、血が地面を染める。耳に入ってくるのは逃げ惑う人々の叫び声、動かぬ母の骸を必死に揺すり泣き叫ぶ子供。
こんなのは現実ではないと否定したくとも視覚から入ってくる情報が否定を許さない。目を瞑れば先程よりも声が鮮明に聞こえ気が狂いそうになる。耳を塞いでも焼けた人の臭いが呼吸をするたびに肺に満ちる。こらえきれず吐き出す、吐き出すたびに全身に痛みが走る。先程から何度目だろうか、吐き出されたソレには固形物すら見つけることができなかった。
斬られた左腕が痛い。まるで血が沸騰しているのではと思うほどに熱い。腕を斬ったアイツは僕にはもう目を向ける事もせずに次々と生き残りを死体へと変えていく。
潰れた足が痛い。骨が肌から突き抜け動かそうとするたびに激痛を体に響かせる。潰したソイツは鉄球を振りまき逃げ延びる人々を物言わぬ肉塊へと変えていく。
抉れた腹が痛い。脇腹の一部が欠け、そこから壊れた蛇口のように血が溢れている。抉ったソレは生きていた人々を斬新なオブジェとして飾っている。
ズンと、胸に奇妙な感覚が生まれた。痛みではない、なら何?視線を下に落とすと手が生えていた。違う、生えているわけではない、これは魔法だ。そう理解すると同時に何かを掴んでいた手が握りつぶすように力をこめる。そして今度は激しい頭痛に襲われる。脳に直接釘を打たれてるのではないかと思うほどにあり得ない痛み。血を流し過ぎたのかその場に倒れる。意識さえ失ってしまえばこの痛みからも逃れられるのに・・・・・・。
どうやらそんなちっぽけな願いすらも叶えてもらえないようだった。ついには叫び声、泣き声すら聞こえず耳に入るのはゴォゴォと燃え盛る炎の音だけ。倒れてからどれくらい時間が経ったのかわからないがもうあの狂った奴等はいないようだ、だから何だと一人思う。自分もそろそろ死ぬのだと実感してきた。炎はまだ踊り狂っているはずなのに体が寒いという矛盾した感覚に包まれている。そんなことはありえない。そんなことを考えながら僕はようやく意識を手放した